第5話 時計塔の街 ベルマン 3 ~ 武器屋老人 アフェアー ~
ジャックとハスラーは親子の協力もあってベルマンの武器製造屋に来ていた。武器製造屋の老人、アフェアーはハスラーとジャックに武器の説明を始める。
「この武器の名はツイスト。普通の剣でもあるが、見た目が違うじゃろ?」
その剣の形は、フェンシングでも使われそうないわゆるレイピアに似ているが刃先の作りが違っている。
刃先がドリルの様に回っているのだ。
「確かに見た目が違いますね」
「ああ。そうだろう? この刃先を刺し込めば、より相手を苦痛に至らしめれる事が出来るだろう」
ジャックは、告げる。
「確かに素晴らしい武器だが、でも俺達には合わないな」
ジャックの合わないと判断された事に対して、アフェアーは残念そうに反応した。
「そうか……じゃあ次じゃの」
彼は持っていた武器を設置していた棚に片づけて、次の武器の説明に入る。
「ならば、この武器はいかがかの?」
アフェアーが取り出した物は、1つの槍。
「槍か?」
「ああ、綺麗な作りの槍だが、このボタンを押すと……」
アフェアーは、槍の先端を的に向けて、持ち手にある赤いボタンを押す。ボタンを押した途端、槍の先端勢いよく飛び出して、的の真ん中にヒットする。
「すごいだろう? これは槍の先端がボウガンみたい発射する奴での。先端と持ち手がチェーンとつながっているだろう? 勿論振り回す事も可能じゃよ。で、この白いボタンがあるじゃろ? 今度はこの白いボタンを押せば……」
武器屋の老人は楽しそうに白いボタンを押した。
すると的に刺さった槍が、チェーンによって引っ張られて、持ち手の方に戻った。
「なるほどね。便利だな。遠距離もお手の物ってわけだ」
「そういうこと。いかがかの? この武器は特別で170フォンダじゃが……」
ハスラーは告げる。
「うーん。どの武器も素晴らしい。ジャックさんはどうします?」
ジャックは淡々と無表情で言った。
「俺は、拳銃が欲しいな」
アフェアーはぼけたような反応で返す。
「拳銃? なんじゃ? そりゃ?」
「いいや。気にしないでくれ」
アフェアーの言葉に対してジャックは、納得していた。ここは自分がいた世界じゃない。別の世界なのだ。
ハスラーはジャックの言葉を聞きながら、自分の持っている斧を見つめた。
若干刃こぼれもしている。錆も見えてきていた。それを尻目にアフェアーは武器の説明を2人に畳み掛けていく。
「ちなみにこの槍は折り畳みで収納も可能。先端から自分の手を守る革のカバーバッグもあるから安全安心じゃぞ」
ハスラーは決心し、アフェアーに言った。
「その槍をください。買います!」
武器老人が必死に繰り広げる営業トークが実ったの事に、彼はハスラーの言葉に喜んだ。
「おお、さすが旅人さんじゃ……お目が高い! では、さっそく売買の取引じゃ」
「あ、後、新しい斧を買いたいんです」
ワニ顔の顔はいつにまして真剣である。それはジャックも納得できる。
自分の身を守るために使うものとなれば、真剣に考えなければ後々が命取りになる可能性もある。
ハスラーの表情をくみ取ってか知らないが、アフェアーの営業トークはより磨きと技術が光って見える事になった。
「ならばいいのがある。お見せしよう」
するとアフェアーは奥の戸棚から、1つの斧を持ってくる。
「この斧はいかがかな?」
刃が綺麗な銀をしている。持ち手は熟成された年月の頑丈な木材を使っており、折れる可能性は少ないように見える。
「これは綺麗な色をしていますね」
「ああ、そうじゃろう? なんせ、ガンダタ鉱石を使っているからな。頑丈な作りになっておる。刃こぼれの心配はせんでいいし、手入れを少しするだけでまた切れ味は鋭いからおすすめじゃ」
ハスラーは斧を持って、重さ、使いやすさを手に取って感じた後で、納得する。
「これでお願いします」
アフェアーの視線はジャックに向いている。
「よし、次はジャック殿のご要望にお応えせんとのー。ご希望は銃という飛び道具系列かな?」
「あんたのとこで言うこういうのとかかな?」
ジャックは商品棚に立てかけられているボウガンをアフェアーに見せた。
ハスラーはジャックに訊く。
「弓は得意なんですか?」
ジャックは棚に置かれている弓やボウガンを手に取り自分の肌に合うかどうかを見極めながら答える。
「昔、弓競技をかじる程度さ。腕前は保証できない」
「へぇ。ジャックさんは剣の方が得意かと思ってましたよ」
「あの時は剣しか持っていなかったからな」
アフェアーは商品棚に近づいて、一つの弓を取り、ジャックに持たせてみる。
「この弓はどうかの?」
ジャックは、アフェアーが持ってきた弓を持ち、実際に構えてみるがしっくりこなかった。
「駄目だな」
「ならばこれじゃの……」
「いや、次」
「ならば……」
「駄目だ」
「じゃあ、これは……」
「合わない……」
あれから30分ぐらい、ボウガンや弓を見て回るが、ジャックの手に合うものがなかった。これまで饒舌だったアフェアーも若干諦めが入り混じってきている。
「うむ……おぬしには、弓やボウガンは合わんようじゃが……」
ジャックも諦めが脳裏に浮かんできていた。
「そうじゃ! あ、待てよ……」
老人はある事を思い出したが、迷っている。
「でも、あれを出すにはのぉ……」
アフェアーが迷っている姿を2人は見て、ジャックは不思議に思い訊いた。
「どうした? あれって?」
老人はジャックに答える。
「いや、実は、5年ぐらい前にジャック殿とよく似た人種の男が武器を売りに来てな。それが摩訶不思議での、ほとんど売りもんにならんかったんじゃ……」
アフェアーの言葉に対して気になる事がジャックはあった。俺と同じ人種。
どうやら俺やハスラーが持っていた映写機の持ち主とは別に同じ人間がこの世界に存在している事を理解した。ジャックはすぐ興味を示しアフェアーに告げる。
「俺と同じ人種か? ちょっと見せてくれないか?」
アフェアーは怪訝そうに、答え、奥の倉庫に入っていく。
「ああ、構わんが……」
奥の倉庫からアフェアーの声が聞こえる。ちょっとの間、時間をおいていたのか探すのに手間がかかっているらしい。
「何処じゃったかの? これは違う。これも違う。これは……違う」
ハスラーも気になって声を掛ける。
「大丈夫ですか? 手伝いましょうか?」
アフェアーはハスラーの問いかけに返す。
「大丈夫じゃっ。気にせんでくれ。おお! あった! あったぞ!! こいつじゃ」
老人が奥の倉庫から取り出したのは、両手で抱える大きさの木箱で、その木箱をカウンターの台まで運び、置く。
「これじゃ」
木箱の蓋を力強く彼は開けた。蓋が開けられた木箱の中には武器とそれに使う弾みたいなものが入っている。
「なんですか? これ」
これについてハスラーは今まで見た事もない物だが、ジャックは見た事ある物だった。木箱に入った武器それは、グロッグ式拳銃。
「これは……」
ジャックはそれを手に取り、構える。重さも本物。舞台役者だって分かる。拳銃は役作りで本物を握ったことだってある。
構えながら、的に銃口を向けた。
ジャックは、現実の物に再会でき、ちょっと興奮している。
「爺さん。これだよ! 俺が言ってた奴!」
アフェアーはジャックの喜びように、目が丸くなってしまっているが、武器の説明は続く。
「そいつはグロッグというらしいが、使い方は……分かるな……お会計に移ろうかの」
「お願いします」
どうやらジャックは興奮と自分がいた世界の物に興奮しているせいかアフェアーの言っている説明が耳に響いてこないらしい。
老人はカウンターに向かいお会計の準備をする。ハスラーもそれについていく。
会計を済ませた2人は、武器を装備した。
興奮が冷め、ジャックの装備にショルダーホルスターが備わったが、戦士装備にこのホルスターは似合わない。
仕方がない。
武器を装備している時に、アフェアーは2人に訊く。
「ゴルグ退治なのじゃろう?」
ジャックは答える。
「まぁ、遠からず近からずってところかな? 俺達は時計塔の歯車を取り返しに行くだけさ」
「ならば、これを持っていきなされ」
差し出したのは、ティッシュ箱の大きさの木箱1つ。
「それは?」
ジャックが木箱の蓋を開けてみるとそこにはグロッグに装填する弾が入っていた。
「実はの。そのグロッグの弾について研究をしてな。模造ではあるが、弾を作ってみたのじゃ。良ければ使ってみてくれんかの?」
「あ、ありがとう。実験はしたのか?」
アフェアーは口ごもった。
「いや、してない」
「してないのか……いいだろう。試してみる」
ジャックは、木箱を鞄に入れ、あらかじめ弾を装填していたマガジンをリロード。
いい音が鳴った。
「気を付けての」
「ありがとう爺さん。じゃあ行くか」
「ええ、行きましょう」
2人は老人に見送られながら、店を後にする。
ジャックとハスラーの背中がたくましく見える。アフェアーは若かりし頃の自分と照らしながらそう感じていた。
第5話です。話は続くのです。