第4話 時計塔の街 ベルマン 2
どの生き物も必ず朝はやってくる。起き方もそれぞれ別々。多種多様である。
「起きてくれ!! 頼む! 起きてくれ!!」
大きな叫び声でジャックの睡眠は終わりを迎える。
「なんだよ……ったく」
この起き方は、人間界では機嫌が悪くなる起こし方の上位に入ってもおかしくはない。起こしてきたのは、ハスラーではなく、店主だった。
ジャックはあくびをし、店主を寝ぼけ眼で見つめる。視界は良好とはいえない。ぼやけて見える。
「うーん? どうした? 何かあったか? 朝食が失敗したとか?」
熊顔にしては珍しく、血色がいいとは思えず、どこか慌てているようにも見えた。
「そんな事を言っている場合じゃないんだ。急いで外に来てくれ。早く!」
ジャックは目をこすり、店主の慌てぶりに対して、彼は逆に、ゆっくりとベッドから起きあがる。
「分かった。分かったから……ちょっと待ってくれ」
「先に行ってるぞ!」
店主は急いで部屋を出た。階段を足早に降りるのをジャックは音で確認。
ハスラーから借りた寝間着から自分の装備へ着替え、あくびをしながら部屋を出て、一階に降り、宿屋の出入り口のドアを開いた。
「何が起きたっていうんだ?」
外には街の住人達がどよめきを生んでいる。
遠くにはハスラーが立っており、どうやらジャックの方を見て、気が付いた様だ。彼は、ジャックに向けて大声で呼ぶ。
「ここです!」
ハスラーの元まで人ごみを、ゆっくりとかき分けて、歩きながらハスラーの元まで向かう。どうやらハスラーも少し慌てている。
「大変です! 時計塔を見てください!」
「何? 時計塔?」
ジャックの首と顔と目は、ハスラーの言われた通りの方向へと向いていく。
向いた先の時計塔は、異様な光景だった。
時計塔の長針が動いていない。ましてや5時間前から止まっているらしいと外に出ていた街の住人が話しているのを耳にした。
ここで皆が困惑していたり、焦っていたりする理由をジャックは理解した。
「針が止まっている? 故障か?」
「分かりません。行ってみましょう!」
「ああ」
2人は時計塔の入口へと向かい、入り口前で、宿屋の店主が立っていた。店主は近づいてくる2人の存在に気づいたらしく大声で呼びかける。
「おーい! 2人ともこっちだ」
入り口のドアは破壊されており、ぼろぼろになった状態で地面に倒れていた。ジャックはあまりの不審な状態に疑問を持った。
「いったい何があったんだ?」
店主は時計塔の入口の中を指で示し、2人は示した場所の中へと入っていく。時計塔の中は、薄暗く、高い所に歯車が摩擦音を立てて回っている。
2人は、木製の階段を昇っていき、時計を操作している部屋まで移動していく。そこには、1人の若いベムーの民の青年がいた。
「大変だ。このままだと、まずい事になる……」
ジャックは若い青年に聞いた。
「時計が動いてないが何があったんだ!?」
すると青年は、ジャックとハスラーに答えた。
「時計を動かす歯車がゴルグに奪われたんだ! あんたも見たろう? 地面の足跡」
「ああ、確かに……」
ハスラーは地面の足跡をあまり見ていなかったせいか驚いている。
「ゴルグに!? そんな……奴らは明るい所に出ないはずでは!?」
ハスラーの言葉と同様に青年も困惑している。
「奴らどうやって、ここに侵入したんだ? 明かりはしっかり灯っていたから、大丈夫だったはずなのに……」
「それよりあんた達は誰なんだ!?」
青年はいきなり入ってきた2人に対して街のものではないと理解しており、ジャックとハスラーについて分からなかった。
ジャックは冗談の様だが、おふざけが混じった本当の答えを言う。
「ただの観光客だ」
「はぁ?」
その後でハスラーは、恐る恐る青年に分かりやすい様に説明する。
「ぼ、僕たちはそこのベルナーレっていう宿屋に泊ってる旅人です。店主さんに訊いていただければ、本当だと分かっていただけます」
その答えと同時に店主が操作部屋に入り、付け足す。
「その人達の言ってる事はほんとだ! バリー」
「バリー?」
ジャックは店主が言った名前に疑問を持ったが、青年が反応した言葉を耳にして数秒で解決した
「父さんが言うなら本当だな。……僕はこの時計塔の技師のバリーだよ。苗字はスクラム。宜しく」
青年の顔と父さんという立ち位置の店主の顔を見てみると確かにどこか似ている雰囲気はある。目の色や鼻の形は同じ。ただ違うのは尻尾の大きさぐらいだろうか。
ハスラーも勿論この親子関係の事は知らない。
「お父さんだったんですね? 店主さん」
店主は、自分の紹介を2人にしていなかった事を思い出した。
「言ってなかったな。名はグレン。それより、どうだバリー?」
ジャックは青年の話を聞きながら、部屋の床を見た。地面は何かの生き物の足跡が残っている、それもあの森で見た足跡だった。
「起動する為に必要な歯車を奪われた。だから動く事もないし、鐘を鳴らす事もできない」
バリーは近くに置かれている作業用の木工椅子に座り、頭を抱えている。それもそのはず、時計塔が動かない事は、街にとって致命的な出来事なのだから。
「どうするべきか。これでは、森に行った仲間にゴルグを知らせる事が出来なくなってしまう」
ジャックは、やっと目が覚めたのか、自分なりの解釈を部屋にいる3人に向けて言った。
「誰かが、歯車を取り返しに行くしかないな」
ハスラーは何を思ったのかジャックの言葉を聞いた後で、決断をした。
「僕達が行きましょう!」
「何っ!?」
一番驚いているのが、バリーやグレンを差し置いてジャックだった。それもそのはず眠気も吹き飛ぶ一言だから。
グレンはハスラー言葉を聞いて、期待が上がった。バリーも席を立って期待している。
「ほんとかっ!?」
ハスラーは誇ったような笑顔で2人の親子に告げた。
「ええ。僕達に任せてください! 必ず取り返しますから! 絶対に! ねっ、ジャックさん」
ジャックさんは顔をそらし、少し考えた。ニコニコと笑顔でいるワニ顔の男のまなざしが不安をより増長させているが、言ったものはしょうがない。ジャックの心は妥協で終了した。
「……分かった。ハスラーが言うなら一緒に行く。ただ……」
「ただ……」
ジャックは3人に告げる。
「歯車を取り返しに行くなら、武器がいるな」
第4話です。話は続きます!