第3話 時計塔の街 ベルマン 1
2人は街の出入口にたどり着き、出入り口の隣には看板が立てられている。ジャックは看板を見た。
看板にはあまり見た事ない文体で綺麗に描かれている。だが、年季が入っているのか、ちょっと色があせてて、文字もあまり読めない。
《ようこそ! ベルマンへ!》
ジャックは看板に書かれた文字をそのまま読んだ。
「ようこそ! ベルマンへ! か」
「ジャックさん行きましょう!」
「ああ」
2人は街へ足を踏みいれた。
街はレンガや精製された石壁と木でできたカントリー調。奥にはビルで5階ぐらいの大きさはあるだろう時計塔が時間を知らせる鐘の音を響かせていく。
時計塔を見つめると大きな分針が重い起動音を立てながら、ゆっくりと動いている。1分、1分を刻むごとにガチッと歯車と歯車が軋むような摩擦音を発生させた。
「いい街だな。どことなくヨーロッパの山間の街に似ている気がする」
ハスラーはジャックが言う言葉に疑問を持った。
「ヨーロッパ? どこです?」
ジャックは、首を横に振り、言う。
「いいや。なんでもない。それより飯屋に行くのはいいんだが、持ち合わせがないんだよな」
ハスラーは淡々と答えた。
「えっ? それは必要ないですよ?」
「なんで?」
ハスラーは背中のバッグを持ちやすい所までおろし、中身から灰色の袋を取り出して、封を開けてみせる。
そこには、大量の金と銅と銀の硬貨が入っている。
「ゴルグから奪った財産です。約1000フォンダぐらいあります」
「いつの間に!?」
ジャックの反応にハスラーは勝ち誇ったような素振りを見せる。
「弱肉強食です。ゴルグは森に入った戦士達を襲って物を奪っている。だから僕達もゴルグから物を奪い、生活に生かす。そういう事ですよ」
ジャックはハスラーが言う言葉に対して、少々、委縮した感覚になっていた。
「そうなのか……」
「さぁ、そんな事言ってないで。見てくださいよ! ここみたいですね。飯屋」
ハスラーが指した指が2階建ての一軒家に向いている。綺麗な石造りの壁の家。屋根には風見鶏の様な物が飾られている。
窓の隣に看板が立てかけられている。
《宿 ベルナーレ》
「入りましょう」
ハスラーはノックして、店の中に入る。その後ろをジャックが追って入る。
店の中は、意外と静かで、パーティーを組んでいそうな集団の戦士が4人奥のテーブルに座って、楽しそうに話しながら食事をしている。
「いらっしゃい。お客さん」
低い男性の声が2人を出迎えた。
どうやら奥のキッチンで調理をしている様で、忙しそうな雰囲気は出ている。
「ようこそ、ベルナーレへ。食事にするかね? それとも泊まっていくかね? 泊まる場合は、お1人、40フォンダだよ」
ジャックは、店主に向けて、返す。
「両方をお願いするよ」
ハスラーはジャックの答えに付け足すように答えた。
「部屋は2部屋でお願いします」
店主は大きな声で2人の注文に応える。
「ハイよ。かしこまり!」
2人は、チェックインして、2階の部屋にそれぞれ入る。
ジャックは部屋を確認し、自分がいた世界と同じ部屋作りでベッドもあることを確認し、安堵した。
「これで寝れるな」
自分の宿泊部屋を出て、1階に降りる。すると人間と似た姿の奴らがテーブル席で酒を呑み、たのしんでいる様で、だいぶ盛り上がっている。
ジャックは少々、苦い顔をしながら、別のテーブルに座る事にした。
ちょっとの間席に座ってじっと待つが、それも今は苦しい。早くハスラーが自分のところに来るのを待つ事にした。
それから3.4分してから、ハスラーが階段を下りてくるのが見え、ジャックは席を立って、彼を呼んだ。
「おお! こっちだ! ハスラー」
「お待たせしました!」
彼もジャックがいる事を確認して、ジャックの対面側に座ったと同時に、奥から店主が出てきた。店主は人間に近いが、ジャックと根本的な違いが外見から見て取れた。
彼の後ろには尻尾がついている。そして熊耳がついている。
ジャックは、もうそんな事気にしなかった。コップ2つと食器が置かれたお盆を運びながら、ジャックの所までやってきた。
「ここいらでは見かけんタイプの人達だね。旅人かい?」
ジャックは口ごもる。それに対してハスラーははにかんで答える。
「ええ。そうです」
店主はジャックを見つめ、首を傾げながら返す。
「おたくは俺達、ベムーの民みたいではなさそうだしな。尻尾もないし」
ジャックは、軽くうなずいた。
「ああ、そうらしい」
「この街は静かですね」
店主は少し落ち着いたような口調で返す。
「あの森の近くだと、来てくれていた奴もいなくなる」
ジャックとハスラーの2人は店主の言葉を聞いて、静かな理由を察した。
さっき体験した事を考えれば、なおさらよく理解できる。
「な、なるほど」
「まぁ、いい街だろ? 静かで」
店主は開き直ったように言った。それに対してジャックは、フォローをする様に返す。
「俺は好きだよ。この街」
ハスラーは、話を変えようと判断し、店主に訊いた。
「ところでおすすめの料理とかありますか?」
「ああ、それなら、これだよ。この地おすすめのベルマンディッシュだ」
「じゃあそれを。あとロブはありますか?」
「勿論」
店主は紙に、料理注文のメモ書きをする。
「じゃあそれもお願いします」
「ああ、あとこのフレータ酒って奴も頼む」
店主はメモ書きと同時に勘定分の計算をやってから告げた。
「しめて37フォンダだな。それでは料理を持ってくる」
ハスラーは笑顔で店主に返す。
「お願いします」
店主は奥のキッチンへと消える。ジャックは店主の背中を見た後で、今後の旅についてハスラーに訊いてみる。
「さてと、次はどこを目指すんだ?」
ハスラーは、ポケットから古ぼけた地図を取出し、ジャックに見えるよう机に広げた。
「僕たちがいるのは、ここ。ベルマンという名の街ですね。ここから南に進んで、山を2つ、街を1つ越えた所に、遺跡があるそうなんです。そこに行ってみようかと」
ハスラーの指が地図の矢印変わりだ。説明は意外と分かりやすい。
「なるほどな。でも今の状態だと、そこまで行けるかどうか……」
ジャックは不安を抱えているが、ハスラーは気にしていなかった。
「大丈夫ですよ。ゴルグとの戦いしっかりできていたじゃないですか。今日はしっかり休んだ後で、明日は旅の準備をしましょう」
「ただ、1つだけ。あんたに言っておきたい事があるんだ」
ハスラーは、ジャックの言葉を神妙な表情になって聞いている。
「なんでしょう?」
ジャックは彼に、思い切って前までいた世界での自分を
「俺は戦士じゃない。ただの舞台役者なんだ」
彼による事実の告白を耳にして、ハスラーは笑った。
「はっはははは。戦い方を見て、ある程度、分かっていました戦士じゃない事は。だけど……」
「だけど?」
ハスラーは笑うのをやめて真剣なまなざしで返す。
「そんなのどうだって良い事です。実際に戦えていましたし、充分です」
ジャックは微妙な感覚になった。自分の告白はあんまり意味がなかったという事かもしれない。
「そ、そうなのか?」
ハスラーはそれに対してフォローした。
「大丈夫ですよ。あなたの身が危なかったら、僕が助けますから!」
「……そうだな。その時はよろしく頼むよ」
ハスラーは、テーブルの地図を片付けてポケットに入れた。
「はい。お待ちどう! フレータ酒とつまみのボアの燻製な。つまみはサービスだ。どうぞ楽しんでくれ!」
店主はお酒と木製のジョッキ、ハムの様なおつまみが盛られた皿を2人のテーブルに置いた。
「どうも」
「さて、乾杯するか」
「乾杯?」
ハスラーの世界とジャックの世界での文化は当たり前だが違う。だから乾杯についても知らなくて当然。ジャックは、乾杯について独自の意味も交えながら、説明した。
「俺の世界ではよくやっていたんだ。互いのコップを軽く当てて、お互いの労をねぎらって酒を呑む」
「へぇー。それは興味深いですね。やってみましょう」
ハスラーは興味深そうにジャックの文化を取り入れる事にした。
ジョッキの中にフレータ酒を注ぎ込む。淡いオレンジ色が微量の気泡を発しながらジョッキの中に入っていく。
2人はジョッキを持ち、ジャックが声を掛けた。
「では、乾杯!」
ハスラーもそれに応える。
「乾杯!」
ジョッキの音はグラスよりもいい音はしなかったが、それもいいだろう。2人はジョッキに入れたフレータ酒を口に流し込む。
「ふぅー。いいお酒ですね。おいしい」
味は柑橘系? 甘味とアルコールの苦みその後でいい酸味が程よく疲れを癒してくれる。今までビールをたしなんでいたが、こういうお酒も悪くないとジャックは飲みながら感じた。
「ああ、確かに。悪くない」
酒を楽しんでいる間に店主は、サンドイッチの様な料理を持ち運んでくる。
「ハイよ。ロブお待ちどう!」
ジャックは、店主が料理をテーブルに置いた時に、彼に告げた。
「そういや、あの時計塔珍しいよな。日が沈むと同時に鐘が鳴るなんて」
店主はジャックの言葉に対して、理由を答える。
「ああ、あれはゴルグが森に現れるのを知らせるものさ。出ないとゴルグに襲われてしまう者が出ちまうしな。」
「だからあのタイミングで鐘がなるわけですね」
ハスラーはロブをほおばりながら、話を聞いて納得している。
「そんなところだな。あ、ディッシュはちょっと待ってくれ。もうすぐできるからな」
2人は、ベルナーレの料理を楽しんだ。ジャックは、不思議に感じていた。この世界も案外悪くないかもしれないと。ちょっとだけ。ちょっとだけ。感じていた。
第3話です。話は続きます!