第2話 脱出
日が暮れると危険が増していく。特に、ヴェルヴェラの森という場所は危ない。
暗くなれば、先が見えなくなるし、ハスラーの言葉曰く、ゴルグという小人が動き始め、襲いかかってくる。
彼はある木を見て、反応した。
「この木は、フレア杉か。ジャックさん。森の出口はすぐです」
「本当か? もう似たようなとこを歩き回ってるが……」
ジャックは疑心暗鬼になりながらも辺りが暗くなり、ジャック達の影が同化し始めようとしている中、進んで歩く。
ジャックの耳に何か聞こえた。
金属音。
「おい、ハスラー! 何か鳴っているぞ」
答えは彼の口からすぐに出てきた。
「もうすぐです。今のは、時計塔からです。おそらく今の時間で日が沈んだ事を教えてくれたんです。……ってなると、まずいな。急ぎましょう!」
ハスラーの言葉で、ジャックもそれを言った自身も不安がよぎる。
「ああ!」
2人は足を急がせて森に出ようとしているが、ジャックの耳は次の音に反応する。
「悲鳴が聞こえるぞ」
その悲鳴は若い人間女性の声色に近い。しかも甲高い為、ジャックの耳にはきついものがあるタイプ。
「しっ。行っちゃダメです。奴ら(ゴルグ)の罠だ。奴らは悲鳴を上げて、私たちをおびき寄せようとしているんですよ」
悲鳴はどんどん近づいてくる。
「近づいてないか?」
「やむを得ませんね」
ハスラーはバッグを地面に置き、ベルトに着けていた、斧を取り出した。
「構えて!」
ジャックも、ソードホルダーに入れている剣を抜き、構える。
そこは舞台役者らしく、見事に戦士っぽい。勇ましい構えをしている。
悲鳴は近づいている。
ハスラーは、フレア杉の近くに置かれた大き目の岩に向けて、大きく振りかぶり、火花を発生させた。
火花は、杉に降りかかり、杉から大きな火が生み出される。ハスラーは大きめの枝を折って火がついているところに枝の先端につける。
火は音を鳴らしながら、先端に燃え移る。
枝を近くの地面に刺し、簡易外灯として、利用。
「これで明るくなります」
しかし奴らは、悲鳴の発生源が勢いよく走って近づいてくる。集団で2人の方に走ってくる。
ジャックはハスラーに言った。
「おい、明かりつけても近づいてくるぞ!」
「おそらく僕たち獲物を優先したんでしょう! ちょっと失礼!」
「お! おい!」
ジャックの制止を無視して、ハスラーは何を思ったのか、悲鳴の発生源に向けて走り始める。突発だった。ジャックもハスラーの後を追いかけ始める。悲鳴の発生源と衝突するまであと数秒。先手を打つのはワニ顔の男。
彼はまず悲鳴を黙らせるために。1体のゴルグにめがけて、持っている斧を投げる。集団は6体。ぼんやりとだが、後ろから明るく照らす杉が、数と奴らの姿を教えてくれた。
空中に円の弧を描きながら飛ぶ斧が一体のゴルグの首に当たり、悲鳴が静かになる。体と首が2つに分かれ、1体は沈黙。
ゴルグは負け時と集団で2人に飛び掛かってきた。
「くそっ! なんでこんな目に……」
ジャックは、昔演じた演劇の騎士役の殺陣の振りを思い出し、その当時のスタント・コーディネーターや演出家の言葉を生かしながら、ゴルグに対して奮闘する。
『切る時は、必ず下腹部をねらって』
『2人いる時は必ず、間を開けて、1対1の環境を作るのです』
「無理だ! こんなの!」
ジャックはそう言いながらも、体が勝手に動き、ゴルグを切り捌いていく。腕の力によって剣は綺麗に舞い、ゴルグから、紫の液体が流れていく。
ハスラーも彼の状況から安心をしたのか、斧とゴルグを挟んだ木から斧を抜き取り、ジャックの助太刀に入る。
ジャックは左から飛び掛かってきたゴルグにすかさずしゃがみ、避けて左手に持つ剣でゴルグを刺し、遠くからくる奴へめがけて、紫の液体で濡れた剣を投げ、命中させた。
悲鳴が途中で止まる。
「よし!」
剣を投げたジャックの右から、もう一体のゴルグが彼の体に乗ろうとした所をハスラーが蹴りがゴルグに命中し、吹き飛ばされ近くの木に激突した。
気づけば、ゴルグの悲鳴がなくなっているのをジャックは息を荒げながら、気付く。辺りは暗いが、近くに銀の剣がゴルグの顔面に刺さったまま落ちているのが分かり、抜き取った。周りはあまり見えないが紫の液体が地面や辺りの木に飛び散っているのが理解できる。
ジャックは剣に付着したゴルグの血液を見て、気分が悪くなっていった。
「うえ。きたねぇ」
彼は近くの木に液体を擦り付けて、刃を綺麗にする。
ハスラーは地面に置いていたバッグから袋を取出し、ゴルグの死体から物を取っている。
ある程度取り終えた後でバックに物を入れて、背負い直し、燃えているフレア杉の枝を取り、ジャックに告げる。
「ふぅー。……何とか、集団を倒す事はできましたけど、ゴルグは再びやってきます。奴らは数が多い。今も潜んでいる奴もいます。さぁ、街までももうすぐです。急ぎましょう」
ジャックのしんどさは頂点に到達しそうだが、もう少しの辛抱、2人は、急いだ。
『もうすぐ』という言葉は、今後使わない方がいい。ジャックはそう感じた。あれから2時間歩き回ったのだから。
森の出口を告げるのは、奥にある2つのさびれた鉄の塊だった。
「あ、出口だ!」
ハスラーは喜び足を急がせて、鉄の塊へと向かった。
「ほんとか!」
ジャックもハスラーの後を追って鉄の塊へと向かう。
そこには、ジャックの見た事のない文字で『ヴェルヴェラの森』と看板が立てかけられている。
「読める。字が」
「えっ? なにか言いましたか?」
「いや、なんでもない」
2人は森を出た。
ジャックにとって1年を過ごしたような感覚でいた。
「助かった」
「ええ。出られて良かった」
ワニ顔の彼もどこか安堵したような表情をしている。不安から脱した状況で次に生み出されるのは空腹。ジャックのお腹から食料を求める音が鳴り響いた。
「腹すいたな」
「そういや、そうですね」
ハスラーも同感だった。
「あそこの時計塔の街に行きましょう。あそこで夕食を……」
「そうだな。賛成だ」
2人は時計塔が見える街へと歩き、始める。
歩きながら2人はそれぞれの話をし始めた。
「ハスラーは、なぜ旅をしているんだ?」
少々の沈黙が走るが、彼は答える。
「……物を探しています」
ジャックはまだ車に対しての執着があるらしく冗談交じりに返した。
「物? 俺と同じだな」
「ええ。実はこういうのを探しているんです」
ハスラーは、鞄の中から一つの物を取出し、ジャックに見せる。
「これは……」
それは、ジャックの世界でも見た事ある物。映画や映像作品を観客に提供する時に使われる映写機。
前職が舞台役者の戦士もそれは理解していた。
「映写機?」
「プロジェクターって教わりました。あなたと同じ人種の方が教えてくれたんです」
「何!?」
ジャックは彼の言葉に衝撃を受けた。自分と同じ、人間がこの世界にいる事を。
「僕はその人に、この映写機のフィルムを探してほしいって言われて。で、今、旅をしているわけです」
「その人は?」
ハスラーはどこか悲しそうに答えていく。
「分かりません。映写機を狙ってきた奴が、その人の家に押しかけてきて……僕は映写機を託されて、全速力で逃げた。奴らを振り切って……」
ジャックは何とも言えず、心に苦い芽ができた。沈黙が流れる。数秒してからそれからちょっとしてジャックは決めた。
「そうだ。一緒に旅する事になったんだ。俺もその映写機のフィルムを探そう」
「いいんですか?」
彼は続けて返す。
「俺もあてはないし、あんたについていくよ」
ハスラーは大きく喜んだ。ワニ顔がはにかむと若干、怖いが、ジャックはどこかその恐怖も吹き飛んでいた。
「ありがとうございます!! やった!」
「宜しくな」
「はい!」
2人は時計塔の街へと歩き向かう。
探し続ける旅が始まったのだ。
第2話です。2人の旅がはじめていきますね。