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第16話 守衛巨人ウオール 3  神経衰弱 中編

 

 ジャックとウオール。両者のカードは共に1ペアの互角の勝負になっている。

 だが、少なからずして有利なのは、ウオール。先ほどジャックの絵柄のペアを揃え、続けて引くのは巨人。

 ある程度カードは引かれていき、自分の記憶に、しっかりと留めておけば、一度引いたカードの絵柄と位置は分かる状態だった。

 彼の頭がどういう事を考えているかは、ジャックにもハスラーにも分からない。


「じゃあ、2つ目をとりにいくよー」


 ウオールが駆使する細い棒がゆっくりとカードに近づいていく。次は、ジャックの右近くに置かれているカードを選択する事にした。

 ハスラーは2人の対戦を興味津々で見つめ、今、2人が漂わせている空気が、どこか緊迫と興奮を張りつめさせた様なものだと彼は感じている。


「どう来ますかね」


 ジャックは無言のまま動く細い棒を見つめていた。

 自分の位置からして左には6枚のカードが無造作の状態で置かれている。


「じゃーまずは、これー」


 巨人は細い棒がカードの端を掴み、裏面から表面の絵柄へと変化させた。

 カードの絵柄は、スペードの4。


「4だー。さっきも引いてたねー」


 4は先ほど、ジャックが引いたカードの中にあったのをウオールは覚えている。

 ジャックは目を巨人の方からそらし、相変わらず髭をいじっている。


「さて、どうだったかね?」

 

 ウオールは、棒を心当たりのあるカードの位置へと動かしていく。

 依然として巨人の表情は笑顔であり、不敵な笑みを2人の旅人に返している。どこかとても不気味だ。


「だいじょーぶー。本当は、分かってるからねー」


 巨人の笑みがやけに、ハスラーには黒く見えた。その隣でジャックは軽く眉間にしわを寄せた。

 細い棒が選んだカードの絵柄は、2人の旅人も理解していた。裏面から表面に変わり、絵柄にはハートに隅っこに4と記されている。

 


 ペアが揃った。



「やったー!! 2つ目のペアが揃ったよー。これであと1つで僕の勝ちだねー」

 

 ウオールが大きく万歳の素振りをしながら喜ぶ。ハスラーはジャックに言う。


「このままだと負けちゃいますよ!」


 ジャックの表情は少し怪訝そうだが、返答はいたって冷静だった。


「そうだな」


「じゃあー。3つ目を狙っていくよー」

 

 ウオールは自信に満ち溢れている。現時点で自分に有利な状態が続いているからだ。

 しかし、変な自信を持ってカードを選ぶのは危ない。いつか神経衰弱における安易なミスをするから。

 ジャックは巨人の動向を見つめている。

 どの位置のカードを選択するかを考えていた。それを知る事もなくウオールは、細い棒を駆使して考えながら棒を動かす。


「これにしよう!」


 ウオールは忘れていた。その選んだカードが、1度、旅人が引いていたダイヤの3だと。裏面から表面に絵柄を変えた時に、ウオールの笑顔はひきつり、困惑し始める。

 ダイヤの3。


「あ。これ、ジャックさんが引いたカードですね」


 ハスラーの言葉が思わず漏れる。


「みすったな。巨人」


 ジャックは今、起きた事柄に心の中で笑っていた。これが俗にいう神経衰弱における安易なミスだ。

 1枚目に引くカードが過去に誰かが選択して、絵柄の内容が良く分かっているカードだった事。



 神経衰弱あるある。



 ウオールは頭を自分の小指で掻き毟った。


「まいったなー。これー、1度、ジャックが引いたカードだよねー?」


 ジャックの首は縦に振り、ウオールの質問の答えを肯定している。


「ああ。そうだよ。さぁ、2枚目をどうぞ?」


 ウオールは困惑している。残り約40枚のカードがある中で、3は残り3つ。引いて当たるには難しい。

 半分、諦めが混じっているのか、自分の有利な状態が続いているから余裕があるのか、先ほどの笑顔から少し困惑した表情に変わりながらも適当にカードを選んで、巨人は引く事にした。

 細い棒が選んだのは、自分の位置から左にあるカードで、その裏面を表面に絵柄を変える。絵柄は、ハートのクイーン


クイーンだな。初めての絵柄だな?」


 ジャックがそう呟くと、それを耳にした巨人は少し残念そうな表情で棒をポケットにしまう。


「はぁー。間違えたなー。まぁ、次のターンでペアを揃えばいいかなー」


 ウオールの口から出た言葉に対してジャックはいら立ちを含んだ口調で返す。


「あんたはそうだろうな」


 次の番はジャック。だが、一度カードを選ぶ前に手を止めた。


「ん? どうしたのー?」


 ジャックは、自身とそ勝負相手との対戦を興味津々に見つめているハスラーを見てから巨人に告げる。


「なぁ、プレイヤー交代してもいいか?」


 隣でプレーを見ながら聞いていたハスラーは一瞬、戸惑った。


「え?」


 ウオールはさっきの表情から笑顔に変え、ジャックの頼みに答える。


「いいよー。さぁ、ハスラー。君の番だよー」


「え? 僕ですか?」


 ジャックは立ち上がり、ハスラーにバトンを託す。


「ああ、お前が引いてくれ」


 ハスラーは不安と戸惑いの表情を隠す事ができずにいるが口から出るのは、了承とも取れる言葉だった。


「わ、分かりました」


 バトンを託され、今度は、ハスラーがカードの置かれた切り株のテーブル前に座った。

 不安がこみ上げてくる。だが、口は勝気だ。


「任されたからには負ける訳にはいきませんよね!」


 ウオールは現時点の試合状況をハスラーに告げる。


「あと2つ揃えば、勝ちだよー」


「やるしかない。やるしかないんだ……。フォンダの為に……」


 そう言い聞かせながら、ハスラーは服の袖をまくり、腕の所に留めて、両手をがっしりと合わせて、音を鳴らした。


第16話です。話は続きます。

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