第15話 守衛巨人ウオール 2 神経衰弱 前編
クオールは神経衰弱の説明をする。
「ルールは簡単さー。そこに置かれているカード達から、2枚選んで表面を開く。数字と絵柄が同じならそのカード達は君らのポイントさー。先に3つ絵柄と数字をそろえたら勝ちだよー」
いきなりの勝負ほど、心臓の鼓動が早くなっている感覚を覚える事はない。ジャックはそう感じながら、近くの地面に座り、切株のテーブルに置かれたトランプを見つめている。
対面側にいる巨人はとてもうれしそうに過ぎ行く時間を楽しんでいた。
裏面になったトランプをどれにしようかと迷いながら、ジャックは左端のカードを手に取り表面を開く。表面の絵柄と数字は、ダイヤの5。
ジャックはダイヤの5を目で確認しながら、手は別方向のカードに向けて動かし始めた。
彼は真ん中から少し右に置かれているカードを選ぶ。右手の親指と人差し指がプラスチック製のカードに触れる。
2つの指が力を合わせて、裏面から表面にひっくり返すとカードの絵柄が見えた。絵柄はクローバー。そして大きく、男性の絵が記されている。それは、奇遇な事に自分同じ名前の絵柄だった。
「クローバーのJか……。はずれだ」
隣で2人のプレーを見ているハスラーも少し深いため息をついている。
「残念ですねー」
ジャックは少し、ため息をつき表面に開いていたカードを裏面にして戻す。
「あらー残念だったねー。次は僕の番だねー。楽しいよねー。神経衰弱ー」
神経衰弱。
およそ4メートルはあるであろう巨人の口から出た言葉としてはなかなかのギャップがあるとジャックは思いながら、ウオールが取ろうとするしぐさを見つめている。
大きな手がテーブルを潰しそうにならないかハスラーは感じていた。
テーブルに巨人の手によって生じた影が、カードを置かれた机を黒に染めようとしている。
ジャックは、ウオールの動きをよく観察している。
「ああー。しまったー。これを使わないとー」
巨人は一旦、手を引いて、自分の大きなベルトポシェットから細長い棒を2つ取る。
「これがーないと始まらないんだよねー」
「それは……」
ジャックはあまり見た事がない、細い棒。
「カードを取る時に重宝するんだー」
ウオールは細い棒を人間が使う箸と同じ感覚で手に持ち、ゆっくりとカードをめくっていく。開かれたカードの表面はハートの7。
「さて、次は、これにしようー」
楽しそうにウオールは、もう1枚のカードをめくる。めくられたカードは、スペードの6。
はずれだ。
「まぁ、最初はそんなもんかー。これは中盤から終盤が期待だからねー」
巨人は細い棒をうまく使いこなしながら、カードを元に戻した。
ジャックは彼がカードを元に戻しているのを見ながら、頷く。
「ああ、そうだな」
カードを戻したウオールは楽しそうな表情で2人を見つめた。
「君のターンだー。そういや名前を聞いてなかったねー」
「ジャックだ。で隣は、ハスラー」
ハスラーも軽い笑顔で巨人に挨拶した。
「どうも」
ウオールは細い棒を自分の隣に置く。
「いい名前だねー。覚えておくよー。さて、ジャック君の番だよ」
ジャックは、切り株のテーブルに置かれたカードを選ぶ。今度は、さっきとは違って真ん中にある無数のカードから、選び開く事にした。
「これにしよう」
ジャックの指が、一枚に触れ裏面から表面に変える。絵柄はカードはハートのK。
「これだ」
続けて勢いよく、Kの右隣のカードを開いた。表面は風格のある厳つい王様の絵柄をしている。
スペードのK。
「おっ! やった! 揃ったぞ」
「おめでとうございます! まずは1つ目揃いましたね!」
隣でハスラーも喜んだ。
ウオールもジャックが選んだカードが揃い、軽めに祝福をしている。
「おー。おめでとー。後、2つ揃えば勝ちだねー。さぁ、続けてどうぞー」
彼は、自分が揃えたカードを自分の手に持った。
「ああ。勿論だ。続けるぞ」
ジャックの指が動く。今度は、ウオールの近くに置かれているカードを見つめていく。置かれているのは無造作に並べられている9枚のカード。そこからまずは1枚を選ぶ。
「これだな」
ジャックは、真ん中を選び、裏面から表面へと変える。
カードの絵はダイヤが3つ。
「ダイヤの3だねー」
ハスラーは隣で息を呑み、2つ目が揃う事を切に願った。しかし現実は、そう簡単に揃うわけでもなく。
ジャックが次に引いたカードは、ハートの4。
はずれ。
「残念。流石に、2度目は難しいさー。さて、僕の番だねー」
ウオールは再び細い棒を持ち、カードを選択し始めた。次は誰も引いてないエリアのカードに触れていく。
ジャックにとって現在は余裕もあるが、不安も隠せなかった。巨人は、細い棒で、カードを取り、裏面から表面に変える。
「どうだー!?」
開かれたカードの絵柄は見た事のある絵柄。
「あれー? これはジャックだー。見た事あるねー」
ダイヤのJ。
「さぁ、どうだったかな?」
ジャックは、目をそらして、巨人にそう告げた。
ウオールの笑顔と優しさは次第に不敵な様にジャックは見えてくる。
「知らんぷりは良くないねー。おおーこれだよー」
そう言いながら巨人は、ジャックが先ほど開いたカードを開き、クローバーのJを登場させた。
「そろったねー。まずは1つ目だー」
ジャックは巨人の追いつきに対して、顎の髭を触りながら、考えていた。
第15話です。話は続きます!