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第12話 旅人達の帰還 2

 それからベルマンに戻った2人はそこの住人達に、英雄の扱いを受けた。

ジャック達の泊まっているグレンの宿屋、ベルナーレ内では、歯車が取り戻された事によっておまつり状態。

 盛り上がっている住人達を横目にジャックとハスラーは傷の手当てを受けながら、グレンの宿屋でハスラーと木のジョッキで一杯交わしていた。


「派手にやったな」


 グレンがジャックの体に包帯を巻き、手当てを施しながら2人に言う。


「大変でしたよね」


 ハスラーは溜め息をこぼして、奥で踊っているベムーの女性を見つめていた。

 その隣でジャックは一杯を口に流してグレンのきつく締める包帯に少し苦痛を感じながらもワニ顔の男に返した。


「いてて。確かに……色々あったな」


 ジャックにとっては色々あった。自分のいた世界とは違う生き物と出会い。30分足らずの愛車との再会。

 そして自らの手で愛車を弔った。あれはしょうがないと彼はそう胸に手を当てた。その思い出と共に今でもあのゴルグが残した言葉が思い浮かぶ。

 その言葉は改めて自分が、違う世界にいる事を身に染みて感じる物だった。

 ジャックはジョッキに入ったフレータ酒をゆっくりと味わう。柑橘系の香りが体にいい刺激と癒しを与えてくれる。


「動くなよ。よし。これでできた」


「ありがとうな。旦那」


 グレンは、盛り上がっている住人の様子を見ながら告げる。


「良いって事よ。そういや、おたくらの名前聞いてなかったな」


 彼はジョッキを置いて、答える。


「ジャックだ」


 ハスラーも同じように答えた。


「ハスラーです」


「英雄の名だな。覚えておくよ。料理を持ってくる。ちょっと待っててくれ」


 グレンは、笑顔を2人に返して、奥のキッチンへと向かっていった。

 木のジョッキに入っていた酒が切れ、ボトルの酒もない事を知り、新しいボトルの酒を取り出して封を開ける。その後で自分のジョッキに酒を注いでいった。

 次はハスラーのジョッキに酒を注ぐ。


「ほれ。ハスラー」


「ありがとうございます!」


 ジョッキに注がれていく酒の色が美しく見えた。


「乾杯だ」


「はい」


「乾杯」


 2人はグラスを当てて、口に酒をゆっくり流し込んだ。やはり木のジョッキはいい音を鳴らさないが、味はある。


「ふぅ」


 ジャックはジョッキに入った酒を半分、残してテーブルに置き、隣に置いていたバッグを手に取る。

 ハスラーは酔いが出てきたのか、少々、顔が赤い。そんな彼をおいてジャックはバックの封をしているジッパーを下げて、中から一冊の冊子を取り出した。


「それは、あのゴルグが持っていた本じゃないですか?」


 そう言って、ワニ顔の男はジョッキの酒を口に流し込み、空にする。今度は自分でボトルを手に取ってジョッキに注ぎ始めた。

 そんな様子を横目で見ながら、ジャックは表紙を見つめながら答える。


「歯車のついでに取り返した。いつかは役に立つかもしれないからな」

 

 ジャックは1ページ、1ページ確認して、自分がいた世界について思い始め、独り言を呟いた。


「この世界もいいが。自分がいた世界も悪くなかったんだな」


 それをハスラーは聞いていたのか、若干、呂律ろれつが回っていないながらも彼に言う。


「あんな騎馬戦が毎日、起こる様な世界がですら? 僕はジャックさんのいた世界にあまり行きたくはないれすね」


「ああ、そうだな」


 彼はそう頷いて、冊子を閉じて鞄に戻し、ジョッキに入った残り酒を呑みほした。

 ジョッキを置き、彼は一息ついてから席を立つ。


「ジャックさん、どこに行くんです?」


 彼は酔いで顔が赤いワニ顔に軽い微笑をして答えた。


「時計塔を見に行く。そろそろ鐘が鳴る時間だからな……」


 ハスラーは椅子の背もたれに崩れてジャックを見送る。


「ああ、行ってらっしゃいませ」


「だらしないぞ。ハスラー」


「良いんれすよー」


 ハスラーは背もたれに崩れた体勢のまま、奥で踊っているベムーの女性に笑顔を振りまいている。

 女性もそれを見ていたのか、投げキッスでハスラーに応えた。


「可愛いなぁ」

 

 ジャックはそのハスラーを見つめて深い溜め息をこぼして、店の外へ出た。

 外へ出るととても良い夜風が吹いている。酒を呑んでいたせいか体温と風の冷たさがいい調和を生み出してくれている。

 時計塔の鐘が鳴るまで2分。近くの広場の木のベンチに座って、見つめた。


「いい夜じゃの」


 後ろから聞き覚えのある老人の声が聞こえジャックは振り向くと、アフェアーがゆっくりと近づいてきていた。


「あんたには感謝している。あの武器があったから俺達は助かった」


 それを聞いた老人は、笑って反応する。


「はっはっは。礼ならいらんぞ。これからもうちの店を贔屓してくれるだけでいい」


 笑うアフェアーにジャックは、表情を見る事もなく、時計塔の長針がゆっくりと動くのを見ながら淡々と返した。


「ああ、そうするよ」


 老人もジャックの隣のベンチに座って、時計塔を見つめ始める。

 時計塔の長針が12で止まり、大きな鐘の音が聞こえた。


「いい音じゃの」


 アフェアーの反応にジャックも同感だった。


「ああ、いい音だ」


 鐘は、音の波を町中に響かせていく。それは低い様で高い音の様で。ジャックの耳と脳にちょっとした刺激を与えていく。

 あの鐘の音を取り戻す為に得た経験はとても大きいとジャックは感じていた。


第12話です。 話は続きます!!

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