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第11話 旅人達の帰還 1

 

 グレンとバリー、武器屋老人アフェアーは時計塔の展望台から森を見つめていた。

 2人の旅人がゴルグから歯車を取り返し戻ってくる事を祈って、日は暮れ、森に闇が訪れようとしている瞬間が近づいていた。


「遅いな」


 グレンは、腕を組みながら彼らの帰りを待つ。諦めたのかバリーは奥の部屋に戻って椅子に腰かけ頭を抱えている。

 老人だけが望遠鏡で、2人の姿がないか森をくまなく探す。


「ん? あれは?」


 森の奥から光の弾が真上の空に向けて放たれた。

 アフェアー自身、それがどういう物なのかを確認して、理解した。


「あれは!?」


 光は、空に向かった後で大きく弾けた。弾けた影響で黒い森が一瞬だけ白と黒のモノクロ状になっている。

 その光景を見たバリーは奥の部屋から飛び出て、森をよく眺めてみた。


「さっきの光はどこから?」


「あそこじゃよ!」


 アフェアーは細い右人差し指で光が上がった所を示した。

 望遠鏡を老人から渡してもらい、目を通して光が放たれた場所近辺を望遠鏡越しに見渡すと、2人分の人の様な姿が見えた。だが、姿は小さい上に、モノクロ状は白いフラッシュが無くなったのと同時に再び黒一式になって戻っていき、人影も見えなくなった。

 

「また戻ったか……」


 バリーは、望遠鏡から目を離すと、再び光が森から出現し、真上の空に向かって飛んで弾けた。

 再び人影が見える。今度は少し大きい。ベルマンの街へと近づいているのが分かった。


「あれは……」


 1人は、何かを抱えている。

 グレンはその何かを見て、判断した。抱えている物が見え、それを見る為によく目を凝らすと、それは、凹凸のある物で、金属製。


 グレンはそれが何なのか理解した。 


「歯車だ!」


 よく見るとハスラーが歯車を抱え、ジャックと歩いているのが見える。2人はベルマンの街に向けて帰還中だと3人は判断する。


「あの2人、歯車を取り戻したのじゃな。流石、儂が見込んだ通りじゃ」


「まさかやってくれるとは思ってなかったが、本当にやってくれるとは……」


「こうしてはいられない。準備しなきゃ!」


 バリー時計塔の針の位置を設定し直す作業に取り掛かる。


「出迎えてやらねぇといけねぇな!」


 自分の息子が動き出した後でグレンは展望台を出て、時計塔を急いで降りて、2人の元へと向かった。

 ジャックは、真上で撃ちあげたグロッグの弾丸を見て呟く。


「あの爺さん。火薬の量が強すぎなんだって……」


 グロッグをホルスターにしまい、明るくなった森の中を2人は歩き始める。

 真上に放たれた弾丸から発せられた独特な硝煙のにおいがハスラーの鼻に入り込んだ。


「この匂いはフレア杉を大量に詰め込んだみたいですね。杉の良い香りがします」


「そうか……あっ。イテテ」


 騎馬戦で生じた怪我を我慢しながら、歩き、その隣でハスラーが歯車を抱えて歩く。


「大丈夫ですか? でも、まぁ、何とか取り戻せましたね」


 ジャックは溜め息をついて、ハスラーに答える。


「ああ。何か、一杯飲みたい気分だな」


「いいですね」


 2人はゆっくりと歩き、遠くにそびえている時計塔を見て、深い息が漏れた。


「おーい!!」


 近くで聞いたことのある声が、2人の耳を響かせる。


「あの声は?」


「グレンの旦那か。ここだー」


 疲れがたまっていたのか、ジャックの声は少し小さかった。


「ここです!」


 ハスラーもあまり返事は大きくなかったが、グレンが立ち止って手を振ってきた事から、2人の居場所を把握したらしく走って、こっちに向かってきた。


「おお! 取り返したのか!? あんた達、最高の人だ。ありがとう!」


「それよりともかくこれを時計塔に……。日が完全に暮れかかっています」


「俺達の事はいいから、今は時計塔を直そう」


「ああ、そうだったな! 歯車を貸せ! すぐに手当てさせてやるからな!」


 ハスラーが抱えていた歯車を軽々と持ち上げて、さっそうと時計塔に向かって走っていく。

 その姿を後ろから旅人達は見ていた。


「早いですね」


「ああ、そうだな」


 再び2人は歩き始め、ベルマンの入口である門の姿が見えた。


「帰ってこれたな」


「はい」


 2人は門に向かって歩いてい行った。

 その間にグレンは、大きな巨体を揺らしながら軽々担いだ歯車を持って時計塔へ上る。


「これだ! バリー頼むぞ!」


「分かった父さん。任せてくれ」


 グレンは歯車を元の位置に設置しなおし、しっかりとはめる。歯車が固定されたのを確認したバリーは、時計塔の操作を行い始めた。


「もうすぐで鐘を鳴らせれる!」


 バリーは時計塔のレバーやボタンを押したり引いたりして調節し、時計塔がしっかり起動するかを試す。


「これでどうだ!」


 彼がレバーを引くと、歯車の連鎖が始まり、回転。かみ合っている凹凸の歯車が生き生きしている。金属の摩擦が音を発生した。


「やったか!?」


 バリーは、時計塔を出て、針が動いているかを確認する。

 長針がゆっくりと1分を刻んだ。


「動き出した!」


 バリーは喜び、ガッツポーズを自分に向けてやった。

 アフェアーは、バリーに微笑みながら言う。


「やったな。バリーよ……」


「ああ。でも取り返してくれた。あの2人のおかげだよ。元通りになったのは」


 彼は、動く歯車を見つめながらそう呟いた。

 時計塔の針が再び動き出し、日が暮れた事を告げる鐘が鳴った。鐘の音色が2人の旅人の耳に小さく波の様に響かせる。


「いい音だな」


「そうですね」


 聞いた事のある鐘の音だが、今回は特別に違った感覚をしていた。

 街の入口で、ジャックとハスラーは住人達の歓喜と歓迎につかまり、少々困惑しているのが遠くで見えた。

 グレンは何処か2人に誇りを感じ、バリーの隣で呟く。


「あの2人はただの旅人じゃないかもしれんな」


「うん」


 息子も同感だったらしく、小さくうなずいた。


第11話です。話は続きます!! 

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