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第10話 エドゥ鉱山内 4 - 騎馬戦 後編 -

「見てろよ……」


 そう呟いたジャックは車をUターンさせて、反対方向に車体を向ける。シフトレバーをDへ。我慢していたタイヤとエンジンが唸りを上げて大きく前進し、砂煙を巻き起こしていく。愛車は轟音を上げて走り始めた。

 スピードメーターの針は、0から一気に50へ。


『馬鹿め! 自殺行為だな!』


 ボスは、反対方向から近づいてくる彼に対して嘲笑し、正面から迫ってくる車に向けて再び機関銃の引き金を引いた。

 弾丸は、ジャックが乗る車に悲鳴を更にあげさせた。ボンネットからは、白い煙から黒い煙へと変わり、ジャックの視界を遮ろうとする。だが、彼の視線は煙に邪魔をされても変わる事はない。ゴルグ達が乗るジープを標的として合わせていった。


「くそっ……」


 ハンドルを使い、微調整をしながら、車を走行させていく。眼帯のゴルグはジャックが何を企んでいるのか理解できない。

 ジャックとゴルグの車がお互いどんどん近づいていく。ジャックの車が悲鳴を上げているが、彼は更にアクセルを踏んだ。

 スピードメーターの針は、90から120に示している。

 ジープとジャックの愛車は、約60センチの隙間を作りながらすれ違い、走り抜けた。


『何をする気だ?』


 ジャックは奴らが乗るジープを止める方法を1つだけ知っている。

しかし、それは危険を伴う事。ジャックは覚悟した。

 ジャックは悲鳴を上げるエンジンにさらに拍車をかけていく。アクセルを踏み、更にスピードを上げた。

 前の世界でもあまり出した事のない速度領域。


「さぁ、近づいてこい……」


 お互いの車が向かい合い、走行する。

 ボスゴルグは機関銃から放たれる雨を更にジャックの愛車に向けて撃ち込んだ。


「ジャックさん!! 危ない!!」


 ハスラーの叫び声が聞こえたような気がしたが、ジャックは気にもできない。彼は、シートベルトを外して、ドアを開ける。それと同時にゴルグが撃ち込んだ弾を座席の下に身を寄せて避けていく。


『これで終わりだな!』


 眼帯のボスゴルグは、まだジャックが考えた行動について気づいていなかった。気付く事が出来なかったのだ。

 ジャックは、弾の雨を避けきり、ボスゴルグの車に、人差し指と中指で作った拳銃のジェスチャーで示す。


「俺の勝ちだ」


 彼は、車から身を投げる。


『何だ!?』


 ボスゴルグはジャックの行動に理解できずにいた。

 身を投げたジャックの体は、闘技場の柔らかい砂に直撃し、スピードの勢いにより、体は回転しながら砂を纏っていく。

 ところどころすり傷や打撲ができそうな痛みがジャックに襲い掛かるがどうでも良かった。


「うっ……」


「ジャックさん!!?」


 彼の行動を目にしたハスラーは急いで、彼の元へ走る。

 ハスラーの目にはジャックが闘技場の砂に寝転がり、飛び降りた事でできた苦痛でもがき続けているのが駆けつけているまでに目に写っていた。


『馬鹿め! 身を乗り出して、自ら飛び降りたか!』


 その間に愛車は、ボスゴルグのジープへとまっしぐら。速度も出ている。

 ジャックの方に視線を向いていたボスゴルグが視線を、彼の愛車に向けた時、すでに遅かった。


『えっ?』



 正面衝突。



 ボスゴルグの悲鳴はなく、ジープと愛車の衝突音が闘技場に大きく響いた。

 2台は共にボンネットをひしゃげあい、ジープの車体は、衝突により、真上に飛び上がり空を一回転してから、闘技場の砂に直撃させる。

 車体はぐちゃぐちゃになり、車として使える事も騎馬車として使える事も一生なくなった。

 愛車も同じ様にジープとは反対に右に横回転し、速度が出ていた分、遠心力の影響によって、大きく宙を舞って、砂に直撃していく。

 何回転も人間が側転をする様に愛車も砂に向けて、車体を直撃させていき、最後に止まったのは、闘技場の壁に激突した時だった。

 ハスラーは自分のいた世界では絶対ありえない衝突事故を目にして足を止めながらも倒れているジャックの事をすぐに思い出し、駆け寄っていく。

 彼は倒れたままのジャックに大きな口から発せられる声で気づかせようと奮闘した。


「ジャックさん!! ジャックさん!!」

 ハスラーの声を耳にして目を開けると、そこには大きなワニの口が見えた。


「ああ!! 良かった。大丈夫ですか!?」


「……んああ? 声が大きい」


 気づいたジャックは彼にそう言って仰向けから体を起こす。

 ハスラーの顔から次に目の映像が写すのは、愛車とゴルグが乗るジープが起こした事故現場。自分で起こした事故だが、焦りも怖さもジャックには感じなかった。

 


 むしろ後悔だけが残っている。

 愛車との再会と別れまでに30分も使わなかったのだから。



「派手にやっちまった……」


 反応の大きさが少ないジャックを見て、ハスラーは今の思いを軽くぶつけた。


「あなたの世界では、こういう事よく起こるんですか?」


 ジャックは即答した。


「日常茶飯事。分かる?」


「いえ」


「だよな」


 立ち込める砂煙が晴れていき、それによって少し隠れていたゴルグのジープを2人の旅人の目に焼き付けさせた。

 後部座席に眼帯のゴルグはおらず、闘技場の壁に体を寄せて倒れていた。

 ジャックはゆっくりと痛みを気にしながら立ち上がり、ゆっくりとゴルグの元へと歩いていく。眼帯のゴルグの体は全身を強打したらしく、ところどころ紫の血液が流れ、砂に染み始めていた。


「騎馬戦の勝敗は引き分けの様だな」


 体力の限界か少し、遅れながらゴルグは答える。


『……そ、それはち、違う』


「え?」


『あ、あんたは勇敢だ。な、名前を……』


 ジャックはゆっくりと自分の名前を告げた。


「ジャック・レム」


 ボスゴルグはジャックの名前を耳にして軽く笑顔で答え、呟く。 


『い、良い名前だな……お、俺達と違って』


「よく言われるよ」


 ゴルグは血を吐き、自分自身が助からない事を悟ったのか彼に向けてある事を告げた。


『ゲーム、は、お、俺達の、負けだ。は、歯車を……もも、持って行け。お、俺達ゴルグは、ゆう、勇敢な、お、男に、けけ、け、敬意を表す……』


 眼帯のゴルグは、片目を閉じ、息をしなかった。土に紫の液体が染みわたっていく。


「お、おい」


 ボスの死を目にしたジャックは、顔を別の方向に背け、それまで心にたまっていた言葉を静かに忘れ去った。

 ハスラーはゴルグの姿を見て、両目を閉じて祈りを小さく奉げる。

 数分間、沈黙し、祈りを終えたハスラーは、ジャックに言った。


「い、行きましょう。歯車を取りに……」


 ジャックは心苦しく感じたせいか、ボスゴルグの遺体から完全に目をそむけ、闘技場の壁の絵に目を向けたまま告げる。


「ああ」


第10話です。 話は続きます!

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