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第1話 出会い

「どうするべきか……」


 ジャックは、困惑している。今いる世界に。

 何があったかなんて覚えていない。それ以前の記憶はある。車を運転して……急カーブを曲がりきれず、気づけば、RPGゲームでしか見た事ないような恰好をしている。

 ジャックはコスプレ趣味ではない。

 両手には黒い革のグローブ。それをつけたまま自分の顔を左手で自分の目にも見える様に右頬をつねってみる。

 頬は少々、横へと皮膚がずれる。ある程度の弾力と反発が現実である証拠だとジャックに告げた。

 体を守る、黒と灰が混じった様な甲冑に、背中を覆うマントには自分でも不恰好だと思った。その上何より、重く感じる。

 腰には、ソードホルダーが付き、左右の両隣についている。ホルダーのボタンを取ると、剣の取手が見え、ジャックはゆっくりとホルダーから抜き取った。

これも映像の世界でしか見た事ない様な立派な剣。自分の姿が写るぐらい透き通った銀。

 自分にはもったいないくらいだった。

 ジャックは、とにかく車を探す為に、あたりを探り始めていく。しかし自分の目に写る景色は、樹海と呼ばれるぐらいがふさわしいうっそうと草木が生い茂った森の中、この中に車があるとなれば、不思議なくらいだった。


「俺の車はどこに行ったんだ!?」


 ジャックの叫びは、繰り返されて響き渡っていく。

 近くの大きな切り株に座り、足を組み、腕まくりをして考えてみる。

 これからどうするか? 車が見つかる事もないし。 かといって一日中探すのもあまり良いとされないだろうと。数分考えてジャックは、決めた。


「とにかく森からでよう」


 椅子代わりにしていた切り株とも別れを告げ、歩き始めるが、ずっと同じような光景が続いていた。


「一向に森から抜け出せないな……どうなっているんだ……これ……」


 日はまだある。屋根代わりになってしまっている森の葉の隙間から、暖かい光が、葉を明るく示している。

 かれこれ何分歩いたのかもわからない。立ち止まってしまった。


「なんなんだ!?」


 ジャックの叫びは何かを引き寄せられたのか、背後から礼儀正しそうな口調で声を掛けられる。


「あのー。大丈夫ですか?」


 その声に対して、少しいらだったような口調で彼は言葉を返そうとした。


「全然、大丈夫なわけが……」


 ジャックは、背筋から何か気が抜けたような気がした。

 声のする方へ眼を向けると、そこには、緑の皮膚で堅そうな鱗がつき、人間とは大きくかけ離れた大きな眼と今からでも火を噴きだしそうな大きな口。尻尾が見える。緑だ。

175センチのジャックが上目使いになるぐらいになってしまう大きさから、190はあるだろうと推定できた。

姿からトカゲかワニにそっくりな気がするが、ジャックよりも体格が大きい。だが、服装は人間的だ。おまけにアーミーブーツの様な頑丈な靴まではいている。

 衝撃が強かったのか、ジャックはそのまま、後ろに勢いよく倒れ、目を開けたまま気絶した。

 この出会いは吉か……凶か……それはまだ分からない。ジャックは、意識を元の世界へ。気づけば、背中は大きな大木があり、ジャックの体をやさしく支えていた。


「気づきましたか? 申し訳ない。怖がらせてしまいましたね」


 目の前には、あの緑色で鱗によって体をコーティングされたワニに似た顔の男性、だが口調は至って人間的。

 男性は木でできたコップをジャックに手渡す。

 コップには透き通った茶色い液体。


「これを……。味はお気に召すかわかりませんが、元気になります」


 ジャックは不安になりながらも恐る恐る、コップを受け取り、少しだけ口に流してみた。

 味はコーヒーの様な、とてもおいしい。


「いける味だな……」


 男性は期待していたかの様に誇らしげに言った。


「でしょう! 僕がブレンドしたんですよ。おいしいでしょう。それにしても不思議だ。あなたはここで何をしていたんですか?」


「俺は……、ちょっと探し物を。車を探してるんだ」


「車? なんですか? それ……」


 ここまで来ると衝撃はない。驚きもない。それ以前に大きな衝撃や驚きが来て過ぎたからである。


「ああ、いいんだ。気にしないでくれ。それよりすまなかったな。驚いて」


「いえいえ、お気になさらず。何時もの事です。あっ、自己紹介がまだでしたね。私はハスラーです。ワンド・ハスラー。ハスラーとお呼びください」


「ジャック・レム。普通にジャックでいい。これありがとう。中々おいしいよ」


「いえいえ。それよりあなたはこれからどうするんですか?」


 コップをこぼれないように、木の固まりに置き、ハスラーに言う。正直言えば、ジャックは困っていた。


「分からない。とにかく今は森から出ようと思う」


「迷ったんですか? ならば、僕と一緒に行きませんか? 森から出る道を知っていますので……」


「本当か!!」


「ええ。一緒に行きましょう。ただし、条件が……」


「え? 条件?」


 ジャックは、ワンドの言葉に不安がよぎった。


「一緒に旅をしてくれませんか? お持ちの剣から見て、戦士の方とお見受けしましたが……」


「あ、ああ」


 冷たい水滴が額から流れている。戦士? 恰好は確かにそうだが、ジャック自身は戦士でもなければこの恰好をする前はただの三流舞台役者。殺陣もやった事はあるが、事前打ち合わせの元で行われるアクションに過ぎない。

 自分の過去や事実を言うのは今の現状では不釣り合いという考えが出ている。いつかは言わないといけないが、今は森から出る為に、黙っていようとジャックは決めて、彼に返答した。


「森から出れるならば……」


「そうこないと! 宜しくです!」


 ハスラーは左手をジャックに差し伸べる。彼は反射的に、左手でそれにこたえる。


 握手。


 ハスラーの手は、優しく程よい力強さでジャックの右手を握る。対してジャックの左手から伝わる感触が彼の脳裏に直接伝えてくる。鱗が心地よい。


「よ、宜しく。これ、ありがとう」


 握手をやめて、ジャックはコップをハスラーに返した。

 ハスラーは嬉しそうにコップをバッグに括り付けて、背負う。


「いえいえ。では、行きましょうか」


 ジャックはハスラーに訊いた。


「なぁ、ここで質問なんだが、この森はなんだ?」


「えっ? この森は、ヴェルヴェラの森です」


 ジャックは、ハスラーの大きな口から出る答えに、脳裏では、クエスチョンマークが組体操をし始めている。


「ヴェルヴェ……ラ?」


「ヴェルヴェラです。ゴルグが出る有名な森ですよ」


 ハスラーの言葉で、ジャックは2つ確信できたことがある。1つは、車はもう見つからない事。そしてもう1つは、自分がいた世界とは全く別の世界にいる事。この事実を確信した。そしてもう1つのジャックには聞いたことがない言葉が出てきた。


「とんでもないところに来てしまったなぁ。で、ゴルグってなんだ?」


 ハスラーは、純粋に訊いてきたジャックのギャップに驚いている。


「ゴルグを知らないんですか!?」


 ワニ顔の彼は驚いている。『えっ!? 戦士なのに知らないの?』と言わんばかりの驚きようだった。

だが、ジャックは気にせず、ハスラーに訊いた。


「ああ、何だ?」


「ゴルグは、旅人や戦士を集団で襲って八つ裂き、身ぐるみや金品を奪っていく醜い小人です。絵、見ます?」


 ハスラーはそう言って、バッグから一冊の本を取り出して特定のページを開いてジャックに見せた。

 ジャックはページにでかでかと描かれているゴルグの絵を見つめた。

 確かに小人だ。鼻が曲がり、頬が膨らんでいる。皮膚の色は紫。気味が悪いという印象だけが生み出されている。


「確かに、気味が悪いな。こんな奴がこの森に出てくるのか……」


「ええ、日が沈み、暗くなった森に出てきます。厄介な奴ですが、水か液体を持っていれば大丈夫です。奴らは光が苦手なんですよ。明かりがあれば大丈夫ですよ。さぁ、そんな感じに説明を終えて、行きましょう。日が暮れちゃいますから」


「そうだな」


 本をハスラーに返し、2人は歩き始める。

 ジャックはこれから起きる出来事に不安はあったが、今は森から出ようと自分に強く心にぶつけながら、足を進ませていった。


初めて、ファンタジーを書いてみました。至らない点がほとんどですが最後までお付き合いいただけたら幸いでございます。

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