92話 再び会う為のさようなら
「ただいま」
俺は照れ臭さを隠し切れずにややぶっきら棒に明後日の方向を見て言うと、視界の端に捉えてたミランダが姿を消す。
慌てて、前を見るとどうやって移動してるか不明だが少しづつ移動してくる。これでは分からないよな?2,3歩ほどの距離の移動方法が分からない形で近づいてくるんだ。それこそ縮地とかテレポテーションように移動してくる。そこまでなら単純な話、ミランダが超人だった、そういう誤魔化す技があるで凄いなって話になるんだが・・・だが、ある意味、凄い事をしながらやってきている。
姿が現れる度に服が1枚づつ減る、そして何故かポージング。服が消えるのは瞬間移動の代償なのだろうか?いや、よく見るとさっきいた場所に綺麗に畳まれて置かれている。
ポージングはあの能力を使う為に必要なポーズなのだろうか?これもまた、毎回ポーズが違う・・・
俺のカン、いや、生存本能がヒシヒシと伝えてきている、『逃げろ』と。
思わず、カラスに手をかける。
ー主、気持ちは分かるがアレはモンスターじゃない!・・・多分?-
カラスの言葉でギリギリで思い留まってカラスから手を離す。
そうこうしている間にミランダはどんどん近づいてくる。な、なんだと!靴下片方が1枚カウントしてる!
そして、ミランダが真っ赤なモッコリのパンイチになった瞬間、俺の警報はこれ以上ないほど鳴り響いて硬直してた体が動く。なりふり構わず、後ろに飛ぶが気付いた時にはミランダは眼前にいた。
「おかえり、トール!!!」
ミランダはパンイチの状態で俺に抱きつき、もうこれでもかと頬ずりをする。
「ぎゃぁぁぁーーーー!!!」
まさに今、生誕した赤子のように高らかに叫ぶ俺。厨房で汗を掻いているようで気持ち悪さは酷い状態。しかも、俺はマッチョにトラウマ持ち。
『肉体言語、キ・ン・ニ・クしないか?』
忘れていたいセリフが蘇る。意識が遠くなる。思い出してはいけない記憶の扉が開きそうになった時、俺の意識はブラックアウトした。
意識を失う直前に俺は思った。前回の終わりとだいぶちがわねぇ?
気絶した俺をテリアが起こしてくれた。よく時代劇とかで気絶した人の背中をエイってするヤツで起こして貰ったが、今までなんで起きてるんだろ?って思ってたけどされて分かった。これかなり痛い・・・痛みで起きてるんだなっと俺はちょっと悲しくなった。
薄情なルナ達は3人で談笑して再会を喜び合っていた。その中、俺を心配してくれたテリアに感謝を告げ、頭を撫で撫でしてあげた。
「俺の心配してくれるのは、お前だけだよ・・・」
「というかっ、あの動きするミランダ?を見て客ですら不思議思わないこの場所はなんなのっ?もしかして、ここだけ異世界って話じゃないよねっ?」
撫でられて照れながら俺に質問してくるテリアは、アンタも今まで見た事あるのっ?と問われて初見だと伝えるがミランダならなんでもありな気がするとも伝える。
何をともあれ、俺達も談笑する3人がいるカウンター席に座る。
「あれ?徹、もう起きたの?」
「もう少し寝かせて置いたら、悪い病気も改善されたかもしれませんのに、テリアちゃん、駄目じゃないですか?」
その言葉を聞いて、
「いつまでも、お前らの蹂躙に黙ってる俺じゃないぜっ!!」
と、叫んだ・・・らカッコイイな心の中だけで思う俺はチキンハート。
それから俺達は、昼飯にオムライスを作って貰い、芸の細かいミランダはルナのにはネコ、美紅にはイヌを、そして、テリアには魚が描かれていた。最後に俺のにはハートマーク。きっと違うモノを書こうとして失敗したんだろうと決めて俺は証拠隠滅と卵に満遍なくケチャップを塗りたくった。
昼は忙しく、ゆっくり話をしてる時間がないので俺達に空けておいてくれた部屋で夜までゆっくりする事にした。元々、4人部屋であった事とドワーフ国でも一緒だったからテリアも抵抗もなく一緒の部屋で落ち着いた。というより、普通は3対1になると俺のほうが居辛くなると心配する相手が違うと苦笑する。
そして、夕食を食べて、店を締めた後、俺達はクラウドを出てエルフ国に行ってからの話を報告がてらミランダに話しながら夜は更けていった。
次の日、夜の宴会がマッチョの集い亭で開かれるらしいので、夜まで俺達は自由行動をする事になった。
ルナは少し1人になって考えたい事があると朝食を済ませると出ていった。美紅は武具の調整や武器の相談の為、グルガンデ武具店のデンガルグのおっちゃんに会いに行くらしい。
「私はクラウドに来るのは初めてだから、観光してくるっ!」
とテリア談である。そういうと飛び出していった。
俺は少女趣味全開の綺麗な庭園のある貴族街にある、とある人物を訪ねる事にした。そう、コルシアンだ。
「旦那様はただ今、王都へ向かわれたばかりでございます。しばらくは戻らないとおっしゃっていたので、お急ぎであれば王都に向かって頂くしかありません」
あの無駄に綺麗なメイド(♂)がお辞儀まで綺麗に決めて言ってくる。
「進捗状況を聞こうと思ってきただけなんで、急いでませんので」
俺がそういうとメイドは手を口に当てて、オスと知らなければトキメキを感じたであろう仕草を完璧に決めてくる。
「申し訳ありません、トールさんに伝言を預かっていたのを失念しておりました。旦那様は、「思ったより、解析が進まないのだよ。ただ気になるキーワードを発見したよ。記憶違いじゃなければ王都で見た覚えがあるから調べてくるからもうしばらく待って欲しい」っとおっしゃってました」
頭を下げながら言ってくるのを気にしないでくださいと伝えると俺も伝言を頼む。
「次、いつ来れるか分かりませんが、コルシアンさんの吉報を待っています。そうお伝えください」
承りましたとお辞儀をされる。
俺は失礼しますっと伝え、コルシアンの屋敷を後にした。
予定の無くなった俺は広場にある憩いの場になっている木の下で寝転びながら今日の夜に2人に告げるつもりの事を考える。
俺は初代勇者にまともに戦えるようになる為の訓練のようなものを受けに行くが、しかし、今回はルナと美紅には来て貰いたくないと考えている。俺が乗り越えるべき問題であるし、何より、抱えてる問題があるのは俺だけではない。あの2人にもクリアしなければならない問題があるように思うし、本人達も気付いているようだ。ルナなど、分かり易いぐらいに悩んでいるし、美紅も気付くと自分の武器を見つめている時間が増えたように思う。
俺達は、今、動き出す為のキッカケを欲している。魔神復活までの時間は沢山あるとは言い難い、何せ、美紅が結界を出てから1年しか猶予がないのだから。それでも俺達は躊躇している。やるべき事を理解している、でもしない、情けないかもしれないが、俺達はきっと、今まで一緒にいて辛い事、悲しい事を沢山体験してきた。でもそれ以上の楽しい、嬉しいといった喜びを共にしてきたのだ。それを一時離れた事が理由で戻ってこないモノになるかもしれない未来を恐れている。
俺はルナ達にどうするべきで、俺はどうするべきかと悩み続けた。
そして、夜になりマッチョの集い亭では宴会が開催されていた。
見覚えがあるヤツからないヤツまで様々な奴らが俺達がAランクになった祝いにやってきてくれた。
ミランダは汗だくになりながら料理を必死に供給し、その料理や酒を必死に運ぶルルの姿もあった。
始まってしばらくするとギルド長が現れ、店内と店外の段差を利用して喋り出す。
「野郎ども、飲んでるか!今日は、クラウドに生まれたエルフ国救国の使者こと、クラウドの勇者を代表に3名がAランク冒険者として歩き出す祝いの日だ!野郎ども今日は無礼講だ、飲んで騒げ、今日のケツは俺が持つ!」
ギルド長の言葉を聞いて宴の場のテンションは最高潮になる。俺はその様子を苦笑いで見ている。ルナはよく理解してないようだが、廻りのテンションに引きつられて騒ぎに便乗してザックさん一味と騒いで遊んでいる。テリアは我関せずといった感じで食事に舌鼓に忙しい。美紅はと思って捜すとミランダと一緒に料理を作る姿を発見する。祝われる立場が何やってるんだかっと思うが美紅の楽しそうな笑顔を見る限りそれでいいように思う。
それから、ちょっと時間が経った頃、シーナさんが俺に声をかけにやってきた。
「トールさん、Aランクおめでとうございます」
「ありがとうございます」
さっきから色んな人におめでとうっと言われているがノリで言われてる感があってなんとも思わなかったがシーナさんのは感情がしっかり籠っていた為、少し照れてしまった。
「いきなり、こんな事言うのもどうかと思うのですが、トールさん、すぐにどこかに行こうと思われてませんか?ちょっと出かけるという意味ではなく」
俺に敢えて視線を向けないシーナさんは呟くように言っているが俺にしっかり届いた。
「あははっ、そんなに分かり易いですかね?」
「さあ?どうなんでしょう。でも私はBランクの「至る頂き」との揉め事以降、トールさんの事をよく見てるつもりなんで気付けたのかもしれませんね」
それに受付嬢やってると色んな人を見て、その結末や行動を見てきてますからねっと経験の差だと遠回しに言われる。
「行かれると決意されているのですか?」
「ええ、決めています」
「となると、悩まれているのはルナさん達の事ってことですか」
飲みかけてたモノがむせて気管に入り更にむせるという悪循環が生まれる。その様子を見てシーナさんにフフフっと笑われる。
「なんでもお見通しですか・・・」
「言ったでしょ?よく見てるって?」
そういうとシーナさんは背を向けて聞いてくる。
「帰って来てくれるのですよね?」
「勿論です。必ず、帰ったら挨拶に行きますよ」
俺がそういうとシーナさんは去っていった。
シーナさんが俺のケツを叩きに来てくれたと気付いている俺はもう逃げれないなっと苦笑いして、その場から離れた。
マッチョの集い亭の屋根の上でまだしぶとく騒いでいる少数の酔っ払いをなんとなく眺めていた。
「徹、ここで何をしてるの?」
「うーん、しいて言うならルナ達を待っていたかな?」
そういうと振り返るとルナと美紅がそこにいた。
「俺さ、初代勇者が俺にどうやってかは分からないけど修行というか訓練してくれるらしいから行ってくるよ」
「なら、私達も一緒に・・・」
俺は掌を美紅達に向けて喋るのを止める。
「これは俺が乗り越えなければならない問題だ。ルナや美紅もやるべき事を見つけてるんじゃないのか?」
俺がそういうと俯く2人に呼び掛ける。顔を挙げた2人に笑顔を向けて伝える。
「俺も2人と別行動は寂しい。もしかしたらっと言う気持ちもないとは言わない。でも、俺達の時間は終わらない、終わらせない為にやるべき事をやろう」
俺は2人に近づいて、両手を広げて2人を抱き締める。
「再び会う為にさようならだ。ルナ、美紅」
夜の帳に包まれた中で遠くから聞こえる宴の喧騒がルナ達の泣き声を俺以外に届かないようにしてくれていた。
5章のキャラクター紹介は休みに時間を見つけてやるつもりなので少々お待ちください。
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