91話 ただいま
新章6章に入ります。よろしくお願いします。
ドワーフ国を出てから3日目の昼前にようやくクラウドの東門が見えてくる。門に到着して門兵にカードを提出して身分証明をするがなんだか反応が芳しくない様子に俺達は顔を見合わせ、今回もどうやら冒険ギルドに一度顔を出してからのほうが良さそうだという結論に至り、冒険ギルドに直行する事にした。
冒険ギルドに到着すると、馬車は預り所で預かって貰って中に入ると見覚えがある人がいたので確認する意味も込めて挨拶してみる事にした。
「お久しぶりです。ザックさん」
「お、生きてたのか?しぶといな。お、ルナちゃんと美紅ちゃんは元気そうで良かった。うちのやつらも心配してたから時間ができたら是非、顔を出しにきてくれや。見覚えのない顔も増えてるな。これもまた可愛い子だ、一緒に遊びに来てくれたら歓迎するぞ。後、トール、お前は一回死んどけ」
あれ?おかしい、出だしと締めに俺の事を言ってるんだが、ヘイトが凄い事になってませんか?
ルナと美紅は嬉しそうに頷いているし、テリアに至っては名前を言うのが精一杯な感じに照れている。そして、俺は涙目だ。
気を取り直して、ザックさんに聞いてみる。
「先日、王都の人間絡みで俺達が追いかけられてたのはご存知だと思いますが、もう落ち着きましたか?」
「ああ、クラウドじゃ結構な大きな話になってるぜ。エルフ国が正式にエコ帝国に遺憾の意を示して黙らせてる間にお前らをAランクにする準備を完了させたらしい。ギルドの駆け出しでルナちゃんの最初の仕事が俺のとこってのはちょっとした自慢だ」
ルナが照れて美紅に笑いかけている、それに2人の女の子は良かったですねっと微笑ましい絵が生まれていて、ザックさんの表情も柔らかくなる。今なら一発殴っていいですかって聞いたら、オウっと言って貰えるかもしれないとちょっと思ったが怖いから言いませんけど?
「じゃ、今回は素直に受付に行っても良さそうだな。行こうか?」
俺は3人に声をかけると3人ともザックさんに近いうちに時間取れたら挨拶に伺いますねっと笑顔で送り出すと4人揃ってシーナさんがいる受付へと向かった。
俺達が受付に近づくとシーナさんがこちらに気付いて手を振って招いてくれる。招かれるまま、手をシーナさんに差し出すが手を叩かれてしまう。
「簡単に触らせてあげませんよ?」
「今の流れならあっさり騙されてくれるかと思ったのですが」
シーナさんの微笑みに苦笑いで対応してなかった事にしようとしたが左右の女の子は騙されてくれなかった。
左右からタイミングを合わせたかのように脇腹を拳で抉ってくる。
尋常じゃない痛みに俺は膝を折り、お前ら鬼かと言おうと2人の顔を見る。
「本当に学習しないお馬鹿さんなの」
「ええ、トオル君は何度、・・・したら、お利口さんになってくれるのでしょう」
2人の視線の冷たさに震える俺は、ごめんなさい、許してくださいとしか言えなかった。
後、美紅、敢えて聞こえないように呟いた部分はなんて言ったの?ワザと聞こえないように言ったよね?あ、やっぱりいいです、知らないほうが幸せな予感がするっと自己完結した。
「本当にアンタは馬鹿なのねっ!でも、私達にはしないよね?・・・ま、まさかっ!」
テリアは自分の胸に触れて怒りからか震え出す。そして、目の前の戦乙女に目を向けると息が合ってる2人はテリアに頷いてみせる。
「アンタにもいいところがあると思ってたのに私達の胸は触る価値がないって事だったのねっ!私は小さいんじゃないっ!これからが成長期で大きくなるのっ!!」
そう言いながら半泣きになりながら俺を蹴る。
「そうなの、これからが勝負なの!」
「成長期の可能性を舐めないでください!」
そう主張してくる2人に言わなければいいものを思わず言ってしまう。
「あ、2人は無理。試合終了、テリアレベルも無理じゃね?」
俺の一言から祭が開催された。
いつも通りに俺はルナの蘇生魔法で蘇る。川の近くで会った爺ちゃんにお前って実は不死身じゃね?と言われて笑われてきた。
「トールのあの血祭りがないと、しっくりこなかったんだよな~」
「ああ、やっとクラウドの冒険者ギルドも通常営業だな」
廻りにいる冒険者達がそう話すのを聞いて、見世物になってたのかっとやっと気付く。そういえば、クラウドの勇者と言ってたのも冒険者だと言ってたのを思い出した。
視界に端で動くモノに釣られて見るとそこにいた人物が俺にサムズアップしていた。
あ、貴方はツンデレさん!
きっと、あれはよく言ったっと言いたいのだろうが、サムズアップするだけで照れている貴方はいつも通りで安心しました。
「さて、トールさんも良い感じに血が抜けて落ち着いたところでギルド長に会ってください。Aランクの事務処理などがありますので」
まったく動じないこの受付嬢は笑顔で言ってくる。でもそんな貴方のオッパイは今日も素晴らしいです。
引き伸ばしてもいい事はまったくないので素直に話を進めて貰い、できれば会いたくないハゲマッチョとの面談にシーナさんのお尻を追いかけて向かう事にした。
お尻、いや、シーナさんに案内されて俺達はギルド長の部屋へ案内され、シーナさんがノックすると入れっと返事を聞いてから扉を開けると俺達を部屋へと誘う。
中に入ると今回は威圧をかけられる事もなく、気軽によぉっと挨拶された。
「えらくフレンドリーなギルド長もいたもんだな」
「だろ?お前さえその気ならいつでも、あそこに案内する気があるぐらいフレンドリーだぞ?」
エアーオッパイをしてみせる。あの円の描き方・・・できる!俺は男との約束にちょっと憧れる15歳。今日やってみようかと思う。
俺は男前な顔になり、頷こうとした時、俺の視界を防ぐようにルナが俺の顔を鷲掴みにしてくる。所謂、アイアンクローだ。
「もう徹は同じ失敗が大好きだから困るの」
「オルバさん、遺言は書きましたか?」
俺とギルド長は生命の危機に陥っている。俺は痛みから、もがきながらルナをべた褒めにする。チョロい事で定評のあるルナは作戦にハマり、もうちょっとで外してくれるぐらいになった時に美紅が言ってくる。
「ルナさん、お仕置き中です」
ハッっとしたルナは慌てて力を入れてくるが慌てたせいか最初より強くなって更に酷い目にあう。
「トール、まだお前、尻に敷かれてたのか?」
「うおぉぉ、星を砕く力を手に入れない限り覆せる気がしねぇーよ!」
先程から黙ってたシーナさんだったがよく見るとコメカミに血管が浮き上がっていた。
「ギルド長、この事は奥様にご報告しておきます。是非、トールさんに尻に敷かれない方法をレクチャーして上げてください」
ギルド長はさっき美紅に脅された時以上に恐怖に顔を歪ます。
「シーナ様、どうかそれだけは本当に不味いのでお願いします。内密でよろしくお願いします」
地面に叩きつけるようにして土下座するギルド長。どんなけ怖いんだよ、ってか言ってた本人が一番尻に敷かれているという事実に呆れる。
ヤレヤレっと呆れる俺もまだアイアンクローから解放して貰ってないのは秘密である。
「さて、本題にはいろうか」
「そうだな、で、俺達がAランクになるって話だったよな?」
顔に手形が付いた俺と半泣きのギルド長が軌道修正すべく話を始める。4つの視線が冷たい中、俺達は奮闘した。
「あー、まずはエルフ国の協力が凄まじく前向きというか、ちょっと引いてくださいとお願いしたぐらいに協力的だった。あそこの姫様とエコ帝国の宰相とのやり取りを思い出すと笑えるな。姫様が見た目がアレだから、舐めてかかった宰相がコテンパンにされたのは胸がスッとした。まあ役者が違いすぎたわな」
ティティ、何をやったの?お兄ちゃんはとっても不安で堪らないよ?いつ俺に矛先が向くかとビクビクですよ?
ルナと美紅は苦笑して、元気そうですねっと美紅がコメントする。
シーナさんは噂とその場を見たようでおかしそうに笑っているが1人置いてきぼりになっているテリアが美紅の服を引っ張って説明を求めていた。
「勿論、Aランク推薦状を貰おうとして訪れると既に用意されていて言う前に渡してきたぞ?あの姫様は」
どこまで先を見通しているの?次会う時が本当に怖いので優しくお願いします。
美紅は目を細め、さすがですっと呟きつつ、何故か握った拳が震えている。何かに戦々恐々してるように見えるけど何に慄いてるの?
「という訳でトントン拍子を超えてトーン1拍子でAランク認定だ。多分、今後、お前達より早い認定期間で済むヤツはいないんじゃないか?」
さあ、ガシガシとサインしてAランクになっちまえっと書類を渡される。書類を見ると連名のところにエルフ王とティティの名前が書かれている。なんとなく頬が緩む。
内容を一読すると俺はサインをする。俺がサインをするのを見るとルナ達も書類にサインし出す。
書類をギルド長に提出するとニカっと笑う。
「クラウドに新しいAランクの誕生をワシは歓迎する。今後の活躍に期待をしておるからな!」
拳を突き出す、ギルド長に俺はその拳に拳を合わせる。
「おう、迷惑も沢山かけるから、よろしくなっ!」
ギルド長は苦笑いしながら程々で頼むっと言ってくる。俺は努力するよっと笑い返した。
「本当ならここで祝いで騒ぎたいところではあるんだが・・・」
チラっとシーナさんを見るギルド長に笑顔で頷いて続きを言ってくる。
「トールさん達の帰りを首を長くして待ってる方がいるでしょ?だから明日の夜は時間空けておいてくださいね」
勿論、誰?とは聞く気は俺にはない。了解しましたっと照れる気持ちを隠す為におちゃらけてみる。
が、どうやら、この場にいるメンバーには筒抜けのようで隠し切れてなかったようで笑われる。
「じゃ、行くわ」
逃げるが勝ちと言わんばかりに俺はお暇する事にする。
若干、早足になりながら俺はギルドの受付付近までやってきて、いつも通りのペースに戻す。
さっさと出てきた俺に追い付いてきた3人はそれぞれの反応を見せる。ルナは久しぶりなのっと喜び、美紅は照れる俺を見て微笑ましそうに見ている。テリアは状況は飲み込めないが俺が困ってると分かってるらしく面白そうにしていた。
冒険ギルドを出て、俺達はお昼時で賑わう店外で立ち止まる。
「あっ、ここの匂いはとてもいい料理が出そうだから、お昼はここにしようっ!」
「ああ、昼も夜も朝もここにしよう」
俺がそういうとテリアが不思議そうな顔をする。
ルナと美紅が俺の背中を押して中に入ろうとするのに抵抗もせず扉を開ける。
黙って、数日、家を空けた時のなんと言ったらいいか分からない身の置き場のない気持ちに包まれながら俺は言った。
「ただいま」
スキンヘッドのマッチョの店主に俺は言った。
ゆっくり振り返った店主は嬉しそうに俺に言ってくる。
「おかえり、トール」
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