幕間 徹の過去 前編
長くなりそうなのでわけます。次は後篇になるように努力します・・・
ガンツが首都でやらかしてると知らない呑気な俺達は山の麓にある村で馬車を捜そうという話になり、捜すと縁と言うモノなんだろうか?手放した馬車がそのまま提供されるという苦笑いしか出ない状況だが、使い勝手が分かっているものなので拒絶する理由は皆無だった。
馬車に買い足した食糧などを積むと俺達は出発した。のんびりした帰路にするつもりはないが2~3日あれば帰れる距離だから慌てるリスクを考えると短縮する時間のメリットが少ない為、急ぎたい気持ちを押さえてクラウドへの道を進む事になった。
俺が御者をしていると、後ろからテリアが思い出したかのように聞いてきた。
「そう言えば、アンタ、鍵を取りに行った時の話がまだだけど何があったのっ?」
正直、どう話したらいいものやら未だに纏まってないのだがどうしようかと思ったところ、ルナが助け舟を出してくれる。
「自分の中で纏め切れない事は1人で考えるだけ無駄なの。とりあえず、最初から終わりまであった事をそのまま話すのがいいの」
確かにそうだなっと思う。俺はあったままの話を3人にする事にする。
全部、話し終えるとテリアが食い付いてくるように言ってくる。
「アンタって異世界人だったのっ?」
ああ、そういえば、テリアに説明した覚えがないな・・・というかルナが女神で美紅が勇者である事も言ってない。
俺がなんて言ったらいいものかと思っていると美紅が変わりに答えてくれる。
「ええ、その通りです。そして、私もトオル君と同じ世界から召喚された者です。テリアちゃんには召喚された勇者と言えば分かり易いかもしれませんね」
どうやら、美紅の正体だけ伝えて、ルナの正体は伏せるつもりのようだ。美紅の正体はほっといてもバレる恐れがあるがルナはほぼないだろう。話すメリットはほぼ皆無だし、デメリットのほうが多い。それはテリア側にも言える事であったが。
そして、美紅がエルフ国で会ったユグドラシルの話を簡単に説明してくれて、俺が自分とは違う経路でアローラにやってきたと説明してくれた。
「2人の女神に・・・やっぱり、アンタが・・・」
テリアはブツブツと呟き、自分の世界に突入したようだ。
「しかし、また女神ですか・・・しかも、トオル君のお婆様とは、どう反応したらいいか悩みますね。聞いてる話だとトオル君の扱いがかなり微妙な感じに聞こえますし・・・」
「アローラに女神は私だけだと思ってたのにそんなにいたとか・・・私の存在価値が・・・」
2人もブツブツ言いだすが特にルナのセリフが危険だったがテリアは自分の世界にいる為か会話を拾ってなかった。
「2人?も言ってたけど、この世界の女神じゃないって言ってたからこの世界の正式な女神はルナだけで間違ってないと思うぞ?」
俺はルナにだけ聞こえる声で伝えると頭をポンポンと叩いてやる。
そんな俺の雑な対応だったがルナは、にへらといった子供のような笑顔を見せる。久しぶりに見たような気がするな。
「何をともあれ、トオル君が元の世界に帰ろうとしたのを思い留まってくれて本当に嬉しいです。ですが、その思い出話を聞いて気になったのですが、私は小さい時の話しかありませんが、集団から距離を置かれる中その後の生活は大変なものだったのではないのですか?」
美紅は辛い思い出を思い出してしまったようで目を伏せる。確かに美紅と初めて出会った時の事を思い出すと辛い気持ちが少しは分かる。
俺は美紅の頭を撫でながら、隆との屋上での話の続きを語り始める。ルナやテリアには時折出てくる科学的な部分は分かり易い例を挙げて話を進めた。
夜の屋上で隆と男の友情を深めて、めでたしめでたし・・・とはいかなかった。俺達は今、当直の先生と警備会社の人達に状況説明と説教を受けている真っ最中である。落ち着いて考えれば、昨今の奇行に及ぶ者などが枚挙にいとまがない。警備会社などの監視装置があって然るべきである。
隆は元から屋上にいた事もあり装置に引っかからなかったのと当直の先生が屋上を調べなかった為、バレなかったのだが俺は入るどこかしらでセンサーに引っかかり警備会社に連絡が行き、発見されたと言う事らしい。
それにしても隆とのやり取りもそれなりの時間がかかっていたはずだが、到着する時間が遅い警備会社だが、大丈夫なのだろうか?思っていると俺達の説明を聞いて、先生も遅いと感じたようで不信感を露わにしている為、警備会社の人は居辛くなったのか、
「何事もなくて良かったです。では、それでは失礼します」
と言うとそそくさと帰っていった。
先生はこの事は職員会議で挙げる必要があるとブツブツ言うと俺達には明日にも改めて話を聞くから今日は帰れと言われ解放される。
「サンキューな、出家」
門を出たところで隆に礼を言う俺を見て、あらかさまな溜息をしてみせる。
「おいおい、俺達はダチだぜ?隆と呼べよ、なぁ、徹!」
サムズアップして腫れ上がった顔で笑う隆を見て、俺も笑う。
「そうだな・・・じゃ、また明日な、住職」
「ちょ・・・空気読めよな!この阿呆が!!」
照れ臭い俺は叫ぶ隆に背を向けてそそくさと帰る。少し追いかけてきてた隆を振り切ると俺は喜びで緩んでた顔を引き締める。
隆のおかげで俺は前に歩き出す事を決意させて貰ったが、今まで俺がしてきた事がなかった事になる訳じゃない。自分の甘えから廻りに当たり散らしていた過去の清算をしない事には隆の思いに応えた事にはならない。きっとアイツなら「気に済んなよ」っと笑いそうな気がするが俺が納得できない。
アイツが体を張った男はくだらないヤツと思われない為にも俺は前に進むと決める。
俺の一歩目を見つめ、目を細めた。
朝になり登校すると俺と隆は職員室に呼ばれ、取り調べというより説教をたっぷり受けさせられて、反省文を書かされる。お互い3度の駄目出しを食らい、4度目で許され、解放される。
絶対、どんな反省文書いても3度は駄目出しされて再提出させる気だったと俺は確信していたが文句言える立場ではないので泣き寝入りした。
解放されて教室に戻ると騒がしかった教室が俺達を見ると一気に静かになる。どうやら耳聡い者が既に情報を拡散させた後のようだ。
「おはよう」
俺がそうクラスメイト達にそう言うと、条件反射で挨拶する者と戸惑いながら挨拶する少数のクラスメイトがいるだけで、大半の者は伺うようにしながら反応を示さない。
この状況に俺は腹を立てたりしない。むしろ少数とはいえ、返事があっただけでも良かったと思っているぐらいだ。何せ、今まで俺は挨拶どころか目礼もしてこなかったヤツが突然、昨日、隆との夜の学校で何かやってて隆の腫れた顔を見て警戒するのは当然の事であった。
しかし、俺は過去の清算をする為にはまずクラスメイト達に歩み寄る必要がある考えた。挨拶しただけの反応から見ても分かるようにいきなり会話を試みようとしても逃げられたり、脅迫してるような絵になってしまう。
だから好奇な視線に晒される事になるだろうが、こまめに挨拶をするとこから始めようと思う。勿論、俺もじれったいと思うがこういう事には特効薬はない。
そんな俺の気持ちを汲んだのか、隆は俺の肩を叩くとニカっという擬音が聞えそうな笑顔を俺に向ける。その隆の様子を見てクラスメイトが想定してた状況と違うといった混乱した風であった。
クラスメイトからすると昨日の出来事はいつも通り、俺のマイナス評価対象だったのだろうだが、隆の様子を見て、分からなくなったのであろう。この馬鹿がそれを狙ったとはとても思わないが隆のナイスアシストに感謝した。
それから、月日は経ち、俺が挨拶すると普通に答えてくれるクラスメイトが増えてきた。あの後、隆はあの夜の事を質問攻めにあったらしいが、俺と徹はダチだ、アイツは本当に良いヤツだの一点張りで通した事により、俺の風通りが良くなり、自分が思ってたより歩み寄りは上手くいっているかのように思えた。
しかし、俺の変化を面白くないと感じる者も存在していたのを気付いたのは少し気が緩んだそんな時であった。
朝、いつものように登校し、教室に入ると習慣になりつつある挨拶をするがいつもなら答えてくれてた者すら挨拶を返してくれない事に戸惑いを感じると隆が近づいてくる。
「徹、お前が佐藤の大事にしてたペンダントを昨日の放課後にあのドブ池に投げ込んだって話になってるんだ」
佐藤と言えば、いつも朝早く来て花の水替えなどをしてる家庭的な子のあの子だろうか?確か、大事そうにしてるペンダントを付けているのを見た事がある気がする。
それが昨日の放課後?昨日は隆とそのまますぐに帰ってコイツの家で遊んでいた。そんな事ができる訳がない。
「昨日は徹と遊んでたからそんな事できる訳がないって言ったんだが、アイツらが徹が投げるところを見たと聞かないんだ」
俺をニヤニヤと見つめる集団がいる。加賀山を代表にした俗に言う不良だ。しかし、無駄に知恵が働くらしく、なかなか尻尾を捕まらせないらしく被害者が泣き寝入りさせられるという陰険な集団だ。
「俺達は立石が投げるとこしか見てないが、佐藤はペンダントを外して顔とかを拭いてるところを奪って行ったのは2人いたらしいが、お前じゃないよな?出家?」
く、上手い聞き方だ。誰だって自分に嫌疑がかかるのは気持ちいいものじゃない。否定したらあっさり引き下がるというスタンスを見せ、引くと俺がやったのを認めたように扱う事で容疑を固めるという言い回しをすると逃げ道は塞がれ、元々、擁護する人物などいない俺は犯人にされてしまう。
「馬鹿じゃねぇか?散々いったろ。昨日、徹と俺はすぐに帰って家で一緒に遊んでたって」
隆の答えに、なっ!と叫ぶ。想定していた答えと違い、この後の予定が狂ったのであろう。
この馬鹿はそんな駆け引きを食い破って言い放つ。コイツが友達で良かったと改めて思う。隆が男を見せたのに俺がケツを捲るなんてできる訳がない。
相手を脅かさないように佐藤に近づく。
「悪い、少し話を聞かせてくれ。今の話で確認したいのだが、誰が取ったとか誰が投げたは聞く気はない。間違いなく、佐藤のペンダントがドブ池に投げ込まれたのか?」
「え、えっと、うん。建物で死角になってて誰とは分からないけど、放物線を描いて落ちていく自分のペンダントは見たよ」
目を白黒させて話す佐藤に申し訳ないと思いつつも聞きたい事を聞いた俺はありがとうと告げると教室を出ていく。
出て行く俺を追いかけて隆がやってくる。
「どうする気なんだよ?このままだと無実の罪を被せられるぞ?」
そうだなっと俺は答えるとオイっと俺の肩を掴んでくる。
「分かっているよ。でも、今は犯人は誰かじゃないと思うんだ」
隆は頭にクエッションマークを乱立させた顔をするとショートしたのか黙ってついてくる。
そして俺は目的地に着く。
「なるほど、ここで自分が犯人じゃないという証拠を捜すのか?」
そう、ここは投げ込まれたというドブ池。池といっても自然物じゃなく、何代か前の校長が鯉を飼っていた名残で残っているが腐食した水がドブのようになっているからそう呼ばれている場所だ。
「いや、そんな不毛な事はしないさ」
「じゃ、どうするんだよ?」
俺は黙って腕まくり、足まくりをすると裸足になるとドブ池に入って手を突っ込んで弄り出す。
その様子を見て、得心して呆れるというウルトラCをカマす隆は言ってくる。
「お前、やっぱりとことこん馬鹿だな。最高だ」
俺の格好の真似をすると隆も躊躇なく入ってくる。同じように弄り出す。
「お前まで付き合う必要ないんだぞ?」
「馬鹿言え、こんな楽しそうな事、一人占めさせないぜ!」
本気にそう思って言ってそうな顔で俺を見る。馬鹿な友達は馬鹿ってことか。類友ってやつだなっと笑うと違いねぇっと笑ってくる。
朝からやってて太陽が茜色になる頃、
「あ、あった。獲ったどーー!」
どっかの芸能人みたいなノリで俺はペンダントを掴み、天に翳す。
それを見た隆が笑みを全開にすると俺に寄ってこようと曲げてた腰を真っ直ぐにしようとしたら固まり気味になっていたようでふらついて俺に突進してくる。
俺も体が凝りまくっていた為、逃げようとしたが間に合わずぶつかり2人してドブ池に尻もちを着く。
そして、お互いの様を見て笑い合う俺達を見ていた人物がいた事をその時は気付いていなかった。
俺達はただ、明日、佐藤が喜んでくれる顔を思い浮かべて自分達がやったことを誇りあった。
感想などありましたらよろしくお願いします。




