85話 伝えれば良かった言葉
盆休み最後の日は2話更新っと・・・え?長期休みなのに遊びにもいけない寂しい人?いえいえ、そんな事ないですよ?ないといいな~、ありませんよね?(;一_一)
ザバダックを見つめる先の後ろではワシを友と呼ぶ小僧がアオツキが生み出した結界で隔離したモンスターをワシと共に打ち直したカラスの試し斬りをするかのようにモンスターの中へと斬り込んで行っている。
トールという名の少年を最初見た時に感じたのは頼りなさが前面に出ていた為、当初、歯牙にもかける相手ですらないと思っていた。しかし、デンガルグの槌を見た時の動揺を悟られた時から印象が一変した。
鍛冶師は熱した鉄の一番いい時を狙い、槌を打って形を成せるかが勝負の分け目である。トールはワシの冷え固まってた心に熱が帯びた瞬間を逃さず、叩いてきた。自分の頭をワシの頭に叩きつける事、そして、ワシの奥に響かせる言葉と共に。
確かに、トールは狙ってやったものではないだろう。しかし、狙おうが狙うまいがやったという事実が一番の重要である。どんなに理屈を捏ねられても、最善の一品が1つできるのとできないが全てである。そしてトールは成した。
トールがやってきて立ち直ったタイミングに合わせるかのようにザバダックはやってきた。そして、今、何も気にせずに自分で始末を付けれる状況がある。
ワシはここではっきりと認識した。ギリギリの土壇場で迷わず動ける状況を作ったトールは何かの使いではないかと思わせる。そんな男に友と呼ばれる栄誉を誇りとし、ワシはその期待に応えないで何が史上最高の2大鍛冶師だ、いや、それ以前に男として表を歩けなくなる。
さあ、始めよう。甥の不始末は叔父であるワシが折檻して・・・安らかに眠らせてやる。
ー主よ、思うように斬れていると思うがどうだ?-
珍しく、どことなく自慢げに語るカラスが褒められるのを待っている子供のように言ってくる。そんな様子に俺は笑みを浮かべる。
(ああ、確かによく斬れてるな)
俺もガンツを手伝って打ち直しに協力したので、この手応えに嬉しさは隠せない。
そう言いつつ、最後に残ったやつを睨みつける。
ーさあ、後はあのデカブツのグリフォンだけだ。さっさと倒してしまって、我を見事に打ち直した男の戦いを見守ろうかー
(賛成だ。脇役はさっさと退場させて俺達は観客になるとしよう)
身体強化で強化した俺はグリフォン目掛けて駆ける。それに合わせるように後ろに飛ぶように空を駆けようとするがアオツキのせいでそれほど高くは飛べないがジャンプして届く高さでもなかった。だが、俺は生活魔法の風を使い、駆け寄った勢いのまま、空から俺を見下ろしていたグリフォンに肉薄する。
グリフォンは慌てて離れようとしたがアオツキの結界により跳ね返されて俺の近くにきてしまう。俺はカラスを二振りする。グリフォンの翼を切り離す事に成功し、墜落させた。
ー主よ、あのグリフォンはアンデットではないようだぞー
どうやら、グリフォンは戦わずに魔剣に恐れをなして恭順したのであろう。王と名乗っていても所詮は獣ってことか。
地面では斬られた痛みからかグリフォンは暴れ、叫んでいた。
俺が降り立つとグリフォンは恐れるかのようにして後ずさりして俺から離れようとするが、またもやアオツキの結界に逃げ場を防がれる。
「もう魔剣に恭順したお前が見逃される可能性はない。最後ぐらい獣の王としてかかってこい!」
俺の啖呵を理解したのか、グリフォンは俺へ目掛けて走りだす。俺とグリフォンは交差する。カラスによってグリフォンは胴を真っ二つにされた。
「次、生まれ変わる時は誇り高いグリフォンとして生まれてこいよ」
アローラの王種は輪廻するという考えが常識として語られている。何故なら生まれた時から既に高い知能を持っているのが前世の記憶をいくらか引き継いでいるのではという考えがあるからである。
さて、ガンツの観戦をする為に振り向くと俺は目を剥いてしまった。ガンツが膝をついていたからである。
膝を着いているガンツをよく見ると出血こそたいしたことはないがいくらか斬られた跡があった。ザバダックなんて左肩から斬られて、首も半分斬られているのに膝を着いて劣勢に追い込まれているのがガンツであるとか笑えない状態になっていた。
思わず助けようと動きかけるが、その動きを感じたのかガンツの視線が俺に飛んでくる。
来るな、1人でやらせてくれっと俺に言ってきてる。打ち直しを一緒にやっている時に言葉を交わさず視線だけで数々の会話をした俺達だからそれで伝わる。俺は奥歯を噛み締めて、耐えた。
俺との会話が済んだガンツがザバダックと向き合った時に鍛冶ギルドのメンバーの一部が戻ってきた。おそらく、俺達の戦闘音に釣られてやってきたのであろう。
ガンツとザバダックを見て騒ぎ出すギルドの面子。
「アレはザバダックじゃないか?首が切れかかっても動いてるぞ?」
「ザバダックかどうかよりガンツさんが危ない助けるぞ!」
ガンツを助けようとギルドメンバーは走りだそうとしたが彼らの前に衝撃波が走る。そう、俺がカラスでやった事だ。
「人間、何をする。ガンツさんを助けないと取り返しがつかない事になったらどうする」
「違う!今、助けに入ると取り返しがつかなくなるんだ!例え、ここで助けに入って命を拾っても死んでしまうモノがあるんだ。鍛冶師として槌を握れなくなるだけなら俺はどんなに鍛冶師としての腕があろうとも助けに入っただろう。だが、最後の肉親として助ける事を1度、いや、何度となく失敗してきたガンツのラストチャンスが今なんだ。それを他人が止める理由なんか認めない。それは俺のエゴかもしれない。でも、それでも俺は助けようとする奴の前に立ちはだかって止めてみせる!」
俺の気迫に押されて1歩後ろに下がるギルドメンバー。
「みんな、トールの言う通りだ。頼む。ワシの我儘を通してくれ」
片手斧を杖のようにして立ち上がるガンツ。
そのガンツの背中に俺は声をかける。
「ガンツ、俺は悔いの残る結末は納得してやらないからな」
「お前は強欲だな?だが、嫌いじゃないぞ。期待に添おう。黙って見ておれ」
ワシはチラっとトールのほうを見ると口の端を上げて余裕そうにしているが腕を組んでる腕を掴む指の爪が食い込んで腕から血が流れている。必死にやせ我慢してるのが分かる。
友にそんな思いをさせているのを申し訳ないと思う気持ちとそんな存在がいるという喜びが体から抜けて行った生命力が戻る、いや、元より強く燃え上がるような感覚に襲われて、ザバダックに1歩踏み出す。
ワシはこの魔剣ソウルイーター亜種の攻略法は既に2つあると気付いている。1つ目はおそらくトールも気付いている。消滅に至る時に漏れ出る黒い霧に包まれた時に精神力で打ち勝ち、復活させない。もう1つは・・・
踏み出したワシに触発されたらしいザバダックは剣を振り上げて襲いかかってくる。片手斧の腹の部分を利用して上段からくる剣戟を流す。
地面に叩きつけられるソウルイーターを見て、今がチャンスと片手斧を振り上げ、叩きつけるようにソウルイーターの刃と刃を合わせる。
すると、ワシの自信作の片手斧とソウルイーターは共に粉砕されるのを見て、目を見開く。
ソウルイーターを持っていたザバダックを見ると急激に力を失っていく甥の姿があった。ついには立ってられなくなったのか仰向けに倒れる。
「とうとう、叔父貴には勝てないままか・・・」
近くに寄って顔を見ると、甥と叔父の立場が入れ替わったかのような老け方をしたザバダックがいた。
「いや、最後の最後でお前の打った武器はワシの武器を超えていったぞ」
「いらん、慰めされてもみじめになるだけだ」
ワシは首を横に振る。
「最後の刃を合わせた時、お前のソウルイーターは地面で力の逃げ場のない状態で上から叩きつける重量も大きい片手斧とやったんじゃ。同格の武器同士なら間違いなくワシの片手斧が無事で残ったはずじゃ。しかし、両方粉砕という結果というのはお前の打ったソウルイーターのほうが優秀だったという証明になる」
ワシはザバダックの頭を撫でながら言ってやる。
「お前はとても優秀な鍛冶師じゃったよ。ただ、最後に大きな間違いをしてしまったのが悔やまれるがな」
ワシがそういうと一滴の涙を流したザバダックは憑き物が落ちたかのような表情で目を瞑るの眠るように息を引き取った。
ザバダックが廻りの評価に苦しんでいる時に何かをしてやらなければと必死に頭を捻っていたが、何かを特別する必要はなかったと今なら分かる。ただ、アイツの作ったモノを見て、よく頑張ったなっと言ってやるだけで良かった。それだけで作り手は満足できる。例え、誰かと比べられて、劣ると言われようと自分の頑張りを理解してくれる者が存在するという事がどれだけ心強いか。
眠るように逝ったザバダックを見つめるワシに近づいてくるトールが突然、殴ってくる。
「その方法に気付いてたんなら追い込まれる前にやっとけよ!しかもいつまで泣いているんだ」
「お前に殴られた頬が思ったより痛くて涙目になっとるだけじゃ」
ワシはトールに殴り返す。
「お前こそ何を泣いておるんじゃ!」
「ガンツの拳が鼻に入ってさすがに痛いから泣くぐらいするだろ!」
「お前は馬鹿じゃろ?」
お互い様だっと鼻を啜りながら言ってくる歳の離れた友。
ワシ達は泣きながら、そして笑いながら空を眺めた。
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