83話 門を死守する乙女達
ああ・・・終わってしまう・・・盆休みが・・・いや!まだ終わらんよ!今日入れて2日ある!!
急いで帰ったがまだテリアちゃんは寝ていたので心配は杞憂に済んだので、朝食には時間がまだある私達は宿の方に顔が洗える場所を確認して身支度をするために教えて貰った井戸の場所へと向かった。
最近、睡眠が不規則で肌の心配をしてたりする。これで荒れたらトオル君に直訴して責任を取って貰おうと決めるがきっと怖くて想像の中だけで終わる事は自分でも分かっており苦笑が漏れる。
部屋へと戻るとテリアちゃんが戻ってきた音で気付いたのか丁度起きたところだった。私達を見ると慌てて外を見て時間帯を確認したようで、もう一度私達を見ると言ってくる。
「ルナが起きてるから昼まで寝てたのかと勘違いしちゃったっ」
「失礼なの!私はいつもちゃんと起きれるの」
そうルナさんは主張するが嘘であると私は知っている。いつもトオル君に起こして貰っているのを知っていた。
でも、ルナさんの気持ちを知った今だから思うが、もしかしてトオル君に起こして欲しくていつも寝坊していた?という私の浅ましい考えが過る。ルナさん、侮れません。なら私も・・・と思いましたが寝顔を見られるのは恥ずかしすぎるので諦める。
「2人ともそれぐらいにして朝食に行きますよ。テリアちゃんは先に顔を洗ってきたらどうですか?」
テリアちゃんはハーイと返事すると部屋を飛び出して行くのを見て微笑ましさに笑みが零れる。決着が着いてないとテリアちゃんを追いかけていくルナさんを見つめ、溜息が洩れる。先程までの乙女なルナさんが幻だったかのように見えてくる。でもそれがルナさんらしくて苦笑してしまった。
私達は宿で出された朝食を食べるとトオル君達の朝食を買って鍛冶ギルドへと向かう。
ガンツさんの作業場に近づくが槌を打ち付ける音がしないのを気付いて、ルナさんと顔を見合わせる。
近づいて中を覗くと2人はその作業場で大の字になって寝ていて、ガンツさんの高いびきをしているのが煩いのか、鞘に収まったカラスとアオツキを抱きしめているトオル君がガンツさんの顔を蹴って遠ざけようとしてるのか押し付けている状態で涎を垂らしながら寝ていた。
「うわぁーこれは100年の恋も冷めるってやつねっ!」
テリアちゃんがトオル君の様子を見て残念そうに言う。
確かにそうよく聞くが、私はそんなトオル君を見て単純に可愛いとしか思わない。ルナさんの様子を窺うが、そういう冷めた雰囲気など一切ない。
「いつも私に涎垂らして寝るなんてって言う癖に自分もなのに棚に上げてるって後で言ってやるの」
とても嬉しそうにトオル君を見ている。
これぐらいで冷める恋など惚れ方が足りてないとしか言えないだろうと私は思う。むしろこれぐらいで冷めるなら早い段階で冷めて良かったねっとそう嘆く人に出会った時に言おうと決めた。
「さて、困りました。ここまで気持ち良さそうに寝られると起こし辛いですね」
「うーん、しばらくほっといてたらいいのじゃないの?よく考えたら徹は昨日の夜だけじゃなく前の晩から寝てないんじゃなかったっけ?ガンツさんも酒浸りになってたみたいだから碌に休養取ってなかったと思うし」
ほっといても風邪をひいたりしないのっと私に言ってくる。
確かにいつ寝たかは知らないがまだ寝てからたいした時間は経ってないだろう。ここはルナさんの意見に従うのがいいようだ。私は買ってきた食事をトオル君の頭の上辺りの地面に置くと作業場を出て行く。
出てきたはいいが特に目的がある訳ではないのでどうしようかと思い悩む。
「ここはドワーフの首都だけあって、細工物も沢山あるから見て回るのはどうかなっ?」
悩んでる私達にテリアちゃんが助け舟を出してくれる。
「それはいいの。美紅、見に行こうよ」
「そうですね、行きましょう」
私達は大通りを目指して歩いていった。
今日の早朝にルナさんと話をしてた噴水前辺りに差し掛かった時に言い合いするドワーフ達を見かけて近寄る。
「だから言っとるだろ!山の麓にある洞窟の辺りからモンスターの群れがこっちにやってきとると言っとるのに誰も信用せんのだっ!」
「今までに洞窟からモンスターが出てきた事などないじゃろ?」
必死に訴えるドワーフとうんざりしているドワーフがそこにいた。
私はルナさんを見ると同じようにヤバいという感じに顔を強張らせている。
「至急、そのモンスターに対応する為に戦えない者の避難と戦える者の準備をしてください!」
私はその言い合いしている人の間に入って廻りで野次馬してた人達に訴える。
「だから、今まで出てきた事もないモンスターに何を対応したらいいんじゃ?」
「何故、その1回目が今じゃないと言い切れるのですか?現状を判断できずに前例だけで語る貴方の頭は飾りですか?同胞の言葉も信じれない愚か者としてモンスターに殺された人として語られたいのですか?どこぞの誰かに馬鹿な人の前例として?」
私は必死に訴えるが、ドワーフ達の反応は芳しくない。悔しい、これがトオル君ならこの人達を動かす事ができただろうと思うと情けなさで泣きたくなってくる。
すると、後ろで爆音が響き渡る。
ルナさんが傍にある噴水を魔法を併用して粉砕する。
「グダグダ言わないで言う通りにしたらいいのっ!何事もなかったらそこのドワーフと一緒に好きなだけ罵ったらいいから、いいから、動くのっ!!」
ルナさんの迫力に飲まれたらしくゆっくり廻りに広がっていき、慌ただしく準備をしだす。
「すまんな、嬢ちゃん。ワシがみんなを説得できてれば良かったんじゃが。」
「そんなことはいいんです。この街の出入り口はいくつですか?」
「山側から入れるのは正面の門からのみじゃ、他の場所から出入りできるのは地下道を利用して山の外からになる」
それを聞いて私はそのドワーフに頼む。
「人を使って、その地下道の道の出入り口をすぐに封鎖してください。正面の門は封鎖できますか?」
「地下道のほうは問題ないが、正面の門の封鎖は時間がかかる。おそらく間に合わんじゃろ」
「その時間は私達が稼ぎます。すぐに門を閉じる手筈を手配してください。後、鍛冶ギルドにいるガンツさんと一緒にいる人間の男の子にこの事を知らせてください」
分かったっと頷くドワーフは廻りにいたドワーフに伝令として彼方此方に走らせる。
私はルナさんと頷き合うとテリアちゃんに確認する。
「私達はそのモンスターの群れに挑むからテリアちゃんは避難したほうがいいと思うんだけどどうする?」
「役に立てるか分からないけどっ、私もいくっ!自分の身ぐらい守って見せるっ」
「本当にいいの?多分、私達の予想だと10とか20のモンスターの数じゃないと思うの。」
ルナさんの言葉を聞いて、一瞬怯んだようだが、それでもっ!と言って答えを変える気はないようだ。
私達は3人で頷き合う。
「テリアちゃん、着いて来れなかったら門で待ち合わせでね」
私とルナさんは走りだす。後ろで、え?っと驚いた声が聞こえる。
加速する私達の後ろで必死着いてくるテリアちゃんがいるが少しづつ離されていくが、余力がある私達の走りだとはいえ、着いて来れるだけでも褒められる脚力だ。
私達がいた場所から門が正反対だった事もあり、やっと着くと待つ事、2分ぐらいすると後方にテリアちゃんの姿が見えた。
追い付いたテリアちゃんは息切れが酷く、膝に手をついて息を整えていた。
「行き先は分かってたんだから、自分のペースでこれば良かったの」
頑張ったテリアちゃんが微笑ましいと言う顔をしながらもそういうルナさん。
門の外に出ると来た時には意識しなかったがこの首都は天然の要塞のようになっていて、空を飛べる者じゃないとこの城門を抜けないと中には入れなさそうである。つまり、ここを死守すれば中の人達の安全度は跳ね上がると言える。
「ルナさん、やっぱり魔剣を持ったガンツさんの甥が先導してると見た方が良いと思いますか?」
「むしろ、それ以外の可能性を語る言葉ないというのがモノを語ってると思うの」
「となると、そのモンスターの群れは命なき者のアンデットということになりそうですね。」
ルナさんは黙って頷く。
やっかいな話である。生きているものであれば、生命活動を停止させれば止まるが、極端な話、粉々にするか物理的に動けなくしないかぎり止める事はできない。
後ろを見ると10名ほどのドワーフが必死に扉を閉じようとしていて、ようやく扉が少しづつ閉じ始める。
そして、前方では地響きがこちらに伝わってくる。目を凝らすと土煙と共に数えれないぐらいのモンスターの行進が見えた。
「美紅、魔法が届く距離にきたら、ど真ん中を狙ってインフェルノを打ってほしいの。」
ルナさんが自信に溢れた顔で私に言ってくる。きっと何か考えがあってだと思い、私は頷く。
「でも、トオル君はエルフ国でこれを1人でやったんですね。しかも勝てるとも分かってなかったのに。私達は死なないどころか勝てる自信があるにも関わらず、震えてしまいそうなのに」
ルナさんは指抜きグローブをしっかりつけ直しながら、嘆息して言う。
「徹はお馬鹿さんなだけなの。いつもできるできないで考えず突っ込んでいくからあんな目にあうの」
まったく、馬鹿な徹に付き合わされていつも迷惑なのっとブツブツ言いつつも嬉しそうな表情をするルナさんを見て私はちょっと意地悪になる。
視線を明後日の方向に向けてボソっと呟く。
「あれれ?確か、「徹が、徹がいなくなちゃった・・・」と泣いてた方がいたような気がしましたが?」
「美紅!意地悪が過ぎるのっ!美紅だって唇噛み締めてたの」
私は泣いてませんよ?と言うとルナさんが、ぐぬぬっと唸る。
「どうでもいいけどっ、2人共余裕だねっ。モンスターだいぶ見えるとこまで来てるよっ!」
前方を見ると確かにだいぶ先程より近づいてきている。後ろを見るが門が締まるまでもう少し時間がかかる。
私は体を解すように伸びや捻ったりする。
「今度こそ、トオル君に体を張らなくていいようにしてみせます」
「うーん、なんとなく、絶対にトラブルに巻き込まれる気がするの・・・」
私が考えないようにしてた事をあっさり言ってしまうルナさん・・・お願いだから言葉にしないで・・・
「でも、ここで私達が止めたら間違いなく徹の負担は減るはずなの!」
拳を掌に打ちつける。
私は前方を睨みつけ、魔法の射程に入ったモンスターに掌を向けてルナさんに伝える。
「いきますっ!インフェルノ!!」
私が放ったインフェルノが中央を目指し飛ぶ。
「後は私にお任せなのっ!合成魔法、ファイアーストーム!!」
ルナさんが放ったストームがインフェルノを巻き込んで炎の竜巻を生み出した。その炎の竜巻はそのままモンスターの群れに直撃する。
「違う人の魔法を吸収して違う魔法にしちゃうなんてできるって聞いた事ないっ!」
テリアちゃんが驚き過ぎて目を剥き出しにしていた。私も驚いたが落ち着いて考えれば、ルナさんは女神である人間に難しい事でもできて不思議じゃない。トオル君もよく言うが時々、ルナさんが女神である事を忘れてしまう。
「これを何発か打てば楽勝じゃっ?」
テリアちゃんが興奮気味に言ってくるがファイアーストームを眺めているルナさんが首を横に振る。
「美紅と私の魔法の威力だと次、打ったら完全に道が防がれて出られなくなると思うの。勿論、最終手段としてはありだとは思うけど・・・」
後ろを見るとルナさんの魔法に驚いてドワーフの手が止まっていた。
「何をしてるのですか!急いで門を閉めなさい!!」
私はドワーフ達に怒鳴る。私の声で硬直が融けたのか、慌てて締めだす。
それを確認した私は前方を見つめる。正直減った気がしません。
私達が門の前でモンスターと向き合ってる死角になってる空から鍛冶ギルドに向かう、剣を携えたドワーフがグリフォンに乗って向かっているのに気付いてなかった。
「だから、言っとるだろうが、モンスターの群れが首都を目指してやってきてると、ワシはもう広場でのやり取りの繰り返しに付き合う時間はないんじゃ、とりあえずガンツさんと一緒にいる人間の男に会わせろ!」
受付のドワーフを押し退けて進もうとするドワーフを廻りの者も止める。
「訳も分からん理由でホイホイとガンツさんに会わせる訳にはいかん!」
「この一大事に馬鹿の事言ってるんじゃない!ワシはとんでもなく強いオナゴにその男に知らせてくれと頼まれたんじゃ!!」
必死に前に進もうとするドワーフに声をかける者が現れる。
「その話、詳しく聞かせてくれないか?」
黒一式の服装に2本の変わった剣を下げている少年がガンツさんを携えて、ワシに話しかけてきた。
感想などありましたらよろしくお願いします。




