82話 女神と勇者の同盟、そして
皆さん、お盆でどこかに出かけてらっしゃるのでしょうか?羨ましいです。バイブルもせめて美味しいモノだけでも食べに行くとします(;一_一)
私は2人が寝静まった時、起き上がりベットを抜けだして部屋から抜け出す。もう深夜になる時間だというのに所々ではドワーフの楽しそうな喧騒が聞こえてくる。今日も飲んで騒いでるのだろう。
特に行く宛などないのにふらつく。たまたま、鍛冶ギルドへやってくる。ギルド内に入ると未だに槌を握り叩く者もいれば、その場で寝ている者もいた。そんな中を通り抜ける私に一切の視線も興味も向けずひたすらに鍛冶に向き合うドワーフは本当にその道の馬鹿ばかりである。
その先の抜けた場所は今までより澄んだ槌の叩きつける音がしていた。中を覗くと徹とガンツが楽しそうに作業をしていた。
普段は意識しないようにしているのに今日は徹とバラバラに行動して少し寂しかったところにテリアのあの選定基準を聞かされて揺れてしまって私はここに来てしまった。
そこで見た徹は子供のように何をやっても楽しいという気持ちが溢れ、それを目の前で見てるガンツが触発されて昇華されたものがカラスとアオツキに打ちこまれ、徹に巡る。その美しい循環を見て私は溜息が洩れる。
まだ形にはなってないが徹の通る道の先の縮図を今、目の前で見せられているような気がする。そうなのだ、徹が来るまでのアローラは濁っていた。そのせいかアローラの住民達は先を見ない生き方を選び、滅びに突き進んでたのではないかと思う。
今なら分かる。私が神託で危険を呼び掛けるのではなく、停滞した世界を進む道標になることだった、いや、私にはきっとそんな大きな流れを変える事はできなかっただろうが、すべき事はそっちだったと分かる。
楽しそうにガンツと視線で会話しながら鍛冶をする徹から視線を切ると私は宿へと戻るべく歩き始めた。
宿へと戻る道を進む途中にある噴水のある広場に見覚えがある人物がいた。
「ルナさん、偶然ですね。良かったらちょっと一緒しませんか?」
自分が座ってる噴水の淵の隣を手で叩く。
こんな偶然なんてないの、きっと美紅は私が来るのを待ってた。
「待ってた、と思われるますよね。半分は正解ですよ。でも半分は、私もトオル君に会いたくなったから行こうと思ったらルナさんが先に動いちゃったので今回は遠慮しました」
「美紅も会いたくなったの?」
美紅は、ええ、と頷くと星空を眺めながらポツリと言う。
「本当にトオル君は色んな人に期待されますよね。あの話を聞いて私はティテレーネ王女の話を思い出しました」
「どんな話を思い出したの?」
それは、こんな話ですと美紅は語る。
「はい、確かにそうだとは思いますが、私は、何かに悩み、苦しみながらも前に進み、そして、ある時は誰かの思いを背負い歩いて行ける人だと思います。そして、そんな人を見て他の人は着いて行きたい、背中を追いかけたい、守りたいと思わせる存在こそ英雄というのではありませんか?少なくとも私はユグドラシルの使者とはそういう存在だと思ってます」
「と言ってたのを思い出しました。あの時も当て嵌まる所が多いとは思いましたが今改めて思うとトオル君を名指しで言ってませんか?って言うぐらいそのままな気がしてきました」
ティテレーネ王女は幼いのに凄い存在ですよねっと羨ましげに語る。
「現時点で私はティテレーネ王女よりトオル君を信じ切れてなかったと気付かされました。だから私は逃げるのを止める事にします」
美紅は私をジッと見つめて微笑む。
「私こと、美紅はトオル君を心の底から愛してます」
私は美紅の言葉に衝撃を受ける。確かに美紅の気持ちは薄々、いや、誤魔化すのは止めよう。徹の事を好きなのは気付いていた。というより気付いてなかったのは本人の徹のみであろう。
「逃げるのを止めると言いつつもまだトオル君に告げる勇気はないのですけどね」
美紅は頬を染めながら語る姿は同じ同性から見ても魅力的だった。
「どうしてそれを私に言うの?」
「どうしてって、フェアじゃないでしょ?ルナさんの気持ちは知られているのに私だけ隠したままというのは」
私に微笑む美紅は月明かりだけのせいでなく、いつもに増して女を意識させる美紅を見て私は思わず唇を噛み締める。
「待って、それじゃ、フェアじゃないの!」
美紅は私を優しげに見つめ、私の次の言葉を待つ。
「私こと、ルナは徹にあの世界で手を差し出されたその時から心から愛しています」
「私もですよ。10年前に召喚される前にトオル君に助けられた時に差し出された手を握った時から初恋したままです。」
10年前からとか卑怯と思わず唸ってしまう。でも前に美紅が暴走した時に3度目という言葉の意味がやっと分かった。召喚される前にも美紅を助けていたのだ。徹は5歳の時からそういう人物だと知って更に惹かれる自分に気付く。
そして、2人で徹の事を話す。私は徹がアローラにきてから美紅に会うまでの話を美紅は召喚される前にあった徹とのエピソードを。
私達は自分の知らない徹を補完できて嬉しかった。
「ルナさん、私達は停戦協定を結びましょう。そして同盟を組むのです」
美紅は突然、力説してくる。
「どういう事なの?美紅と停戦協定結ぶのはいいのだけど、同盟って?」
「はい、私も認めるのは大変業腹なのですが、私達は残念ながらトオル君に対して決戦兵器を持ち合わせてません」
美紅は悲しそうに両手で胸を押さえる。もうその仕草だけで全ての謎は解けましたってとこなの。
「しかも、段々、トオル君の魅力に気付く人が増え始めて、好意を持ち始めてる方が出てきてます。その中には大変強力な決戦兵器をお持ちな方が出てきてます」
うんうん、増えてきてる。今、筆頭候補は間違いなくシーナだ。将来性を考えればティテレーネ王女も危険なの。ルルの姉を見た事があるのだけど、あの遺伝子を継いでるルルも将来性は舐められないの。あ、そういえばクリミア王女もいたの。
「ルナさん、名前がダダ漏れで喋ってますよ。そこにあえて今、足すとしたらテリアちゃんも注意レベルでしょうか?警報になるまでは静観したほうが良さそうですが」
改めて考えると前途多難な予感しかしないの!
「と言う訳で同盟となるのです」
「今、ここで同盟結成なの!」
私達は握手をしてお互いの友情を確認した。
そこで私達は何も話さず空を眺めていた。そして空から暁を知らせる光が漏れる頃、私はある決意をして美紅に話す。
「美紅、私は決めたの。今回のエクレシアンの鍵の件が片が付いてクラウドに戻ったら、もう一度あの元いた世界に戻ろうと思うの」
「どうしたというのですか?今更戻っても何もないでしょうに。まさか戻ってこないとかではないですよね!」
私は真剣に心配してくれる友達の美紅に頬笑みながら首を横に振る。
「違うの。好きな男に着いて行く為に私はもう躊躇しない。自分で禁忌とし、封印しているものを取りに行くの」
私達の未来の為なの、と私は美紅に笑いかける。
それでも心配そうにする美紅を見つめて続ける。
「正直、美紅が封印されてた時の魔神の欠片と戦ってる時も持ってきてない事を後悔してたの。なのに、そこでも踏み止まってしまって、2代目勇者の時も力及ばずどころか遊ばれてしまう始末。全力を出せる状況があれば勝てたかもなんて負けてから言えないの。大事なモノを守る為に私が出来る事をしに行くの」
登り始めた太陽を睨みつけて私は言う。
「私がその世界に行って帰ってくるまで徹を頼める?」
「はい、でもあんまり遅いとトオル君を貰いますよ?」
「ちょ、それは同盟違反なのっ!」
私達は顔を見合わせて笑い合う。
テリアが起きた時に私達がいないと騒いでるかもしれないからと急いで帰る事にした。
徹、私達を本気にさせた責任は取って貰うの、徹に取って貰うと勝手に決めた責任が本人がいないところでどんどん増えて行く現状と考えた自分の変化を嬉しくなってクスっと笑うと横を走る美紅も同じように笑うのを見てお互いの考えてる事が同じだと知る。あの馬鹿面を下げている男の隣にいる為に出来る事を1つづつしていこうと自分に誓いを立てた。
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