81話 女神達が見つめる先
後書き話、第4弾?本人も怪しくなりつつありますが24話の覚悟と使命とちょっと青春にアップしました。今回の話は確証のない話が盛り込まれてますので、ご了承ください。
トールがガンツというドワーフと作業場に籠ってそろそろ5時間ぐらい経ち、今、ルナと美紅がトールを食事に行こうと誘いに行ったっと言ってたら丁度帰ってきた。
困った顔をした2人が言ってくる。
「徹は食事はいらないから3人で食べてこいって言うの」
「あの真剣な様子だと何を言っても無駄な気がしますから何か買って持ってきましょう」
美紅はトールがから預かったと思われる財布を懐にしまうと行きましょうと言って私達を連れて大通りを目指して歩き始めた。
私達は昨日に入った店にまたやってきた。
徹を呼びに行く前までお腹が減ったと煩かったルナはおとなしくというか、つまらなさそうにしながらメニューと睨めっこしている。
美紅もいつものように落ち着いているように見えるが私は気付いている。いつもより歩き方が乱暴になっている。勿論、注意を払ってて気付ける人は気付けるといった些細なレベルではあるが間違いない。
この2人にとってトールという人物はどういう存在なのだろう。この2人は明らかに只者ではない。まさに一騎当千の人物、いや、それ以上の可能性もある2人がどうしてトールと行動を共にし、トールに付いて行く立場にいるのだろうと私はまだ3日目ではあるが不思議に思っていた。
私は確かにトールに頼み事がある。あくまで私が思ってる通りの人物だった場合ではあるが、今のところ、その該当人物筆頭であるのは間違いない。
だが、この3日間見てる限り、私の思い過ごしじゃないかという気持ちにもされ始めている。
巷じゃ、エルフ国の救国の使者とか言われてる人物なのに普段のトールにその片鱗を感じないのだ。爪を隠してるようには見えない普通の男の子にしか見えない。不器用でちょっと抜けている、とても暖かい優しい人というのが3日間で感じたトールの人となりである。そんな人物が自分が求める人物なのだろうかという気持ちとそんな人物を巻き込んでいいのかという気持ちに挟まれる。
このメンバーと旅を楽しんで適当なタイミングでさようならすればいい、そう思っていた。トールが違った場合、手がかりがない状態だから行く宛はなかったから。
しかし、そう諦めかけた直後だ。
「テリアちゃん、そろそろ出ましょうか?」
考え事していたらいつの間にか適当に注文して食事をしていたらしい。美紅は勘定を済ませたら、私達を連れて、屋台が固まってる辺りで片手でも食べ易いものを選んで、飲み物と一緒に買う。それを持って私達はまた鍛冶ギルドへと戻っていった。
鍛冶ギルドに着くと寄り道なしにトールがいる作業場にやってくる。美紅が食事を取るようにと渡そうとするがトールは上の空で、ああっと答えるだけでこっちを見ない。ひたすらガンツの打つトールの剣、カラスに夢中だ。
「もう、力づくで食べさせるの!」
そういうとルナはトールとガンツの頭を連続で拳骨を入れて行く。
やっとこっちを見た2人にさっさと食べるように言いながら握り拳を見せつける。2人は慌てて飲むように食べると再び作業に戻る。
ガンツに火を、水を、と言われる度にトールは走る。そして呼ばれない限り、じっと作業を見ている。この姿を見ているとあの時に感じたものは気のせいではないかと自分でも疑ってしまう。
しかし、確かにあの時、感じた。トールがガンツに切れて挑むように頭突きをしながら叫んでいた時に、なんといったらいいのか大自然の猛威と言ったらいいのだろうか?普段のトールは日向ぼっこするのが気持ちいい太陽のような感じなのにあの時の激変したようなトールには正直驚いた。大自然の猛威の前に人が出来る事などどれくらいあると思わず思ってしまうほど、トールの存在が大きくなった。おそらくそれが原因でガンツというドワーフはトールの言葉に耳を傾けたのではと思う。
でも、どうかあれは気のせいと信じたい。トールはいつもの日向ぼっこが気持ち良い春の太陽な存在でいて欲しいと切に願いながら、本能のどこかでそれは叶わない願いなのだろうと分かってしまっていた。
夜になっても動かない2人に痺れを切らしたルナが再び拳骨をする事で食事を取らせると美紅が食事は取らせられるけど宿までは無理だから帰ろうと言ってくる。
帰り道で口数の少ない食事を済ませると宿を捜して3人で泊る。
宿に入ると美紅が私を見つめて話をしてきた。
「よく考えるとトオル君と一緒に行動しない機会はそうありませんから今の内に聞いておきたい事があるのですが良いですか?」
できれば整理がしきれないものが一杯あるからよろしくはなかったけど、美紅の視線が明らかにNOと言わせませんと言ってるので仕方がなく頷く。
「答えられないところもあるでしょうからそこは素直に言ってください。臨機応変に対応しますので」
それってつまり絶対に聞き出すと言われてる気がするんですがっ?と口から漏れそうになったのを必死に止める。
「まず、トオル君を捜してたのがエルフ国でトオル君が為した事を知ったからというのは疑ってませんが、それなら、すぐにトオル君に協力を求めず、見極めようとしてるのは別の人物の可能性があると取れます。何を基準に捜されてるのかという事とその基準となってる情報源を教えて頂けませんか?」
うっ、いきなり答えにくい事を聞いてくる。でも、美紅の様子を見る限り、簡単に引いてくれるとは思えない。諦め半分ヤケ半分で開き直る事にする。
「見極めをする以上、最低限、本人、トールには知られる訳には行かないので秘密にしておいてくださいねっ?」
美紅は黙って頷き、ルナはベットに寝そべりながら、分かったの~と軽い感じで返事をしてくる。ルナは約束を破るようには見えないがウッカリをやらかしそうで怖いが今は信じる事にした。
「どこから話したらいいのでしょうっ?まずはトールでない可能性はないとは言えませんという事でしょうか?しかし、まだ3日目ですが根拠はありませんがトールが捜してる本人ではないかと思っています」
「トオル君に何をさせようとしているのですか?」
くだらない事だったら許さないと美紅の視線が言ってるがビンビンに伝わる。私は心でヒェーと情けない声を出しながら続きを話す。
「私の部族に迫る危機から救って欲しいのですっ」
「危機とは何なのですか?」
私は首を横に振り、分からないし、予想も話す訳にはいかないと伝えるとしょうがありません、と諦めてくれる。
「では、人物を特定したり、危機を知らせた情報源を教えてください」
言い方からして、どっちも同じ情報源とばれてるぽいですよっ。
「詳しく言えませんが私の部族にはある場所が光に包まれるとそこに予言を示す光の文字が生まれると言われていましたっ。そこに描かれた内容に沿って動いてますっ」
「疑うようで申し訳ないのですが、その予言に信憑性はあるのですか?」
かなり、ぼかしながら語ってる以上、疑われるよねっ。自分の言ってる事は本当と信じてるから胸を張って言う。
「はいっ、何度もその予言により我らの部族は存続してこれました。古い話になると魔神が現れるタイミングと初代勇者によって封印されることも予言があったと記録にありますっ。しかし、今までは余波で被害が被るという形だったので避ける事で難を逃れてきましたが今回は私達の部族が標的になっているようなのですっ」
美紅は頬に手を添え、はぁっと溜息を吐く。ルナは徹は相変わらず大変なのっと苦笑いをしている。
まだ選定基準を伝えてないのに2人はトールがその人物だと疑ってないように見える。
「それは何時と予言されているのですか?」
「私がその予言の人物と一緒にいれば、知らせがやってくると予言されてますっ」
だから一緒に旅をするという事に繋がるのかと美紅は呟く。
うーんと悩む美紅を見ながら冷や汗が背中に伝わる。ここで美紅に駄目だしされると一緒に旅をする事も叶わなくなる。
「まあいいでしょう。最初はあんなの事言いましたが、私に決定権はありませんし、私が駄目といってもトオル君が良いといえばそうなりますしね」
正直、意外だった。美紅がこの仲間をまとめ役かと思ってたっ・・・でも、あれ?そうなのかなって思う自分に気付く。
「意外だと思ってます?でも昨日の昼間に言ったトオル君の言葉じゃありませんけど、一緒に旅をしていれば分かりますよ。ですが、もう薄々理解されてるようですけど?」
私は自分の顔が真っ赤になるのを自覚する。美紅はそれを見て上品に笑う。
「もう聞く必要なない気がしますが、選定基準を教えてくれますか?」
私はヤケクソ気味にもうどうにでもなれとばかりに話す事にした。
「ユグドラシルを魅了し祝福を得て、他の女神達に見初めさせ、好意を一心に受け、特にアローラに現存する最後の女神に心の底から愛されている男だとっ」
ボスンっと大きな音をしたのでそちらを見るとルナがベットに顔を叩きつけた音のようだ。顔をこっちに見せないようにベットの中に入り込む。
「もう眠いから寝るの!」
何があったのか分からない私は、美紅の顔を見つめる。
「聞く必要がない?いえいえ、ここ最近、いえ、今まで生きてきた中で一番のとっても有意義な質問と答えだったですよ。有難うございます」
私の疑問を完全に封殺する完璧な笑顔で美紅は見つめた。
感想などありましたらよろしくお願いします。




