80話 魔剣
俺とガンツのおっさんは仲良く、ルナと美紅の正義の怒りによる説教を1時間ほど受けて解放された。
解放された俺はおっさんの悩みを聞く事にする。
「で、ガンツは何に悩んでいたんだ?」
「むぅ、恥ずかしい話なのだが、甥の事で頭が痛い事になりつつあるんじゃ」
頭をガシガシ掻きながら言い辛そうに言うガンツを見て、これは頭が痛い程度で済まなさそうな気がした。
俺は先を促す。
「ワシとデンガルグは史上最高の2大鍛冶師とドワーフ国では言われておる。ドワーフは多少の差異はあれど鍛冶師になるものが多い。どうしても現存するワシやデンガルグの背中を追う者がどうしても出てくる。そして、ワシの甥のザバダックはワシのようにワシ以上の鍛冶師になるべく夢を持ち進み始めた。そこまでは良かったんじゃ」
ガンツは遠い目をして溜息を吐く。
「甥のザバダックは鍛冶師として、程よくは成功を収めた。普通ならそれで今後に期待されて終わったのだろうが、ワシの存在がザバダックの重しになってしもーた。常にワシと比べられ、少なくない声にアイツはどんどん追い詰められていったんじゃ。ワシもなんとかしたかったが何かすればアイツの立つ瀬がなくなると身動きが取れないまま時間だけ過ぎ去っていった」
苦虫を噛み締めたような顔をしつつ、語るガンツを見て胸が締め付けられる思いだった。
これはガンツが悪い訳ではない。勿論、ザバダックもその周りで期待した人達も誰も悪くはない。それが原因で鍛冶を止めたぐらいぐらいならきっとガンツもあそこまで苦しんだりはしないだろう。
「アイツは死に物狂いで鍛冶に打ちこんだ、いくつ満足いくものを創り出しても、ワシと比べられ、劣ると言われ続け、そして、アイツは触れてはいけないとされる領域に手を出したんじゃ」
自分の握り拳を握り潰そうとしているのかと思うぐらいに力を入れながら捻りだすように言う。
「ガンツの甥は何に手を出したんだ?」
「魔剣、その中でも性質の悪い魂食い、ソウルイーターじゃ。魂をその剣に食わせればどんどん強くなっていく。それも強い魂であればあるほど強くなれると伝えられておる」
俺達はガンツの言葉を聞いて戦慄を感じる。つまり、ガンツの甥であるザバダックは既に・・・
「もしかして、既にソウルイーターは使われてしまったの?」
やはりルナも同じ結論に達していたらしく聞く。
黙ってガンツは頷く。その表情を見るとその先がありそうである。
「最初の犠牲者はワシの兄夫婦、つまりアイツの親じゃ。ここからはワシの想像になるが、ワシの兄はアイツが魔剣を作っているというのに感づいて、止めようとしたんだと思う。じゃが、完成間際までできていた魔剣で抵抗して殺してしまったんじゃと思っとる。ワシがアイツを追いかけて挑んだ時の様子が既に正気を失ってるというより魔剣に取り込まれていると言った風じゃった」
取り込まれていると言う事は今、甥のザバダックの体を使っているのは魔剣ということになるのか?しかも、今、ガンツは挑んだと言っているのにまだ解決してないというのにガンツが無事な理由は何なんだ。その先にある事実がガンツが苦しんでる最大の要因な気がする。
「ガンツ、挑んだ結果はどうなったんだ?止める事はできなかったのは分かるがそれだけじゃないだろう?」
グッと体を硬直させたかと思えば、脱力させるガンツは一気に歳を取ったかのように錯覚させる。
「ワシはアイツを追い詰め、首を刎ねた。すると、魔剣から黒い霧のようなものが噴き出したと思ったらワシを取り込んだ。そこでワシの思い出したくない事の数々の思い出を突きつけられた。最後は自分のせいで追い詰めてしまった甥のザバダックから目を反らしていた自分を見た時、ワシは膝を折ってしまった。すると黒い霧が晴れた。目の前には首を刎ねたはずのザバダックが魔剣を構えて立つ姿じゃった」
「待ってくれ。魔剣というは持ち主を不死身にするのか?もしそうなら不死身の魔剣持ちがもっといてもおかしくないだろっ!」
俺、ガンツにそういいつつもルナにどうなんだ?と聞く。
「首が刎ねられたら、どんな魔法を使っても生き返らせる事はできないの。つまり、その人は・・・」
ルナはガンツを見て、その先を言い難いのか黙ってしまう。俺もそこまで聞けばルナが何を言おうとしたか想像できてしまった。
「取り込まれて意識がないと思ってたら既に死んでいたって言う事なのか?ソールイーターは持ち主を生ける屍にして、不死身のように体が復元させる魔剣なのか?」
「どうやらそうらしいな。じゃが、ソールイーターと言う魔剣はそういうものじゃないはずなんじゃ!ワシも調べ直したが本来は吸収した魂を媒介にして強い力を振るえるもののはずじゃ。じゃが、おそらくは未完成から生まれた亜種というべき魔剣だとワシは思っとる」
ここまで聞いていて、別件ではあるが気になる事が生まれるが先にガンツの話を進める。
「復活したザバダックはどうしたんだ?」
「逃げて行きよった。実力じゃワシに届かないのは分かるがずっとやり続けてたら、スタミナが切れた時にワシは負けたはずなのにの。」
復活できるのも無限ではないのであろう。おそらくは吸収した魂に関係があるのではと俺は思う。となると逃げたザバダックが取る行動は・・・
俺はガンツを見ると頷いてくる。
「おそらくは魂の補給をしとるのだろうな、逃げた先で思い付く場所は鉱山跡のモンスターの巣窟になってる場所じゃ」
俺も魂集めに行ったと思っていた。そいつが満足するまでがどれくらいか分からないがそれより問題はあの不死身にどうやって対抗するかである。
「後は問題はあの不死身なのをどうにかするか、完全に封印するかだが、正直、ここで決着付けときたい。封印解けたら面倒なだけだしな」
「待て、ワシは話を聞いてくれるだけで構わないと思っとったのに関わる気か?お前には関係ないじゃろ」
俺はガンツの胸を軽く殴る。顰め面だったガンツが素の顔に戻る。
「水臭い事言うなよ。それに俺は言ったぜ?力になるって」
ガンツを見て俺は笑いながら言った。
そして、俺はガンツが戦った時の事を細かいところまで気になった事を聞く。そうすると俺は気になる箇所があることに気付いた。
「首を刎ねる前に切り離した腕は戦ってる最中には治る気配もなかったんだな?」
「うむ、じゃが、首を刎ねて霧に包まれた後、見た時は五体満足じゃった。」
となると黒い霧が復活のキーらしいな。ガンツの話じゃ自分の伏せたい過去を心をへし折りにくるとこから想像するに後悔の念に押し潰された時に生まれる思念を種火に発動するのではないだろうかと思う。それが復活の仕組みなら打てる手はある。
「ガンツ、黒い霧は相手の心を折った時に生まれる思念を引き出す為のモノかもしれないと俺は思うんだ。その思念が魂にくべる事で体の欠損を直してると思う」
ガンツはむむむっと唸って考え込む。鍛冶師としてからの考えが纏まるまでそっとしておこうと思う。
その間に先程気になった事を聞く事にした。
(カラス、今いいか?)
ーなんだ、主ー
(聞きにくい事なんだが・・・お前は魔剣なのか?)
ーふむ、そうとも言えるし違うとも言えるなー
(それはどういう事だ?)
ー我の元の形は女神によって作られた両手剣だ。それを打ち直したというか作り変えられたのが私とアオツキだ。魔剣とはその女神の武器に近づこうとした者達が生み出したもの。つまり我も作り変えられたものだから魔剣ともいえるし、女神の武器ともいえるという意味だー
なるほどっと思っているとガンツの考えが纏まったようで、話しかけてきた。
「確かにその可能性は高いじゃろう。となると黒い霧に包まれても心を強く持って折れなければいいといいと言う事なんじゃろうが、難しいの」
まあ、確かに作戦のたてようもない。お互い顔を見合わせて苦笑していると今度はカラスから話しかけてきた。
ー主よ、目の前のドワーフに我とアオツキを見せてくれないか?-
(いきなりどうしたんだ?」
ー我らは鍛冶師と違う者に造られたせいか、剣としてはナマクラなのだよ。元とはいえ女神の武器だから下手な鍛冶師には任せられないが、目の前のドワーフなら整えるぐらいは簡単にやるだろう。腕が足らないという訳ではなく、本格的にやる気なら道具が足りてないだけだー
(分かった、頼んでみる)
「ガンツ、俺の剣を見てくれるか?」
ガンツは、ん?っといった顔をしてカラスとアオツキを手に取ると顰め面をする。
「なんじゃ、このナマクラは?何やら力を感じるから名刀かと思ったんじゃが。」
「その武器は元は女神が作った両手剣だよ。それを科学者が打ち直して生まれたのが今、ガンツが持ってる武器って訳だ。そのナマクラといった剣を打ち直してくれないか?」
ガンツはガハハッっと笑いだす。
「トール、お前は最高じゃ。よし、ワシで良ければやらせてもらおう」
瞳を輝かしたガンツは作業場・・・いや、ギルドに向かって歩き出した。俺もそんなドワーフらしいガンツを見つめながら後を追った。
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