78話 名前の分からない首都
新たな試みをしております。セリフの最初にスペースを入れてたのを止めてみました。今までのほうと今回のほうどっちのほうが見やすいですか?今回のが見やすいようでしたら盆休みに全部直しておきますので感想よろしくお願いします。
なにやら珍妙な出会いから生まれた同行人と一晩過ごした俺達は、早朝、改めてドワーフ国の首都を目指して出発した。
今して思えばあの村で食糧だけ調達して野宿したほうが良かったかもっと思ったがまさに今更の事であった。
その同行人のテリアは道というにはあんまりな獣道を軽快に進む。時折ある岩肌すらも忍者か?と言わんばかりにスルスルと登っていく。格好も白のTシャツのようなモノを着て、捲りあげてタンクトップのように着こなし、茶色の短パンの涼しげな格好である。得物はナイフのようで腰にあるポシェットと共に納められているようだ。おそらく、美紅と対極の軽戦士系かシーフ系なのではと思う。
テリアの同行を認めた後、ルナ達は俺が起きる前から同行を認めていたようだから聞いてみた。
すると、実力はそれなりにあるらしく、俺がカラスを封印して戦ったらおそらく負けるだろうと言われた。格好と見こなしから盗賊の可能性も疑ったらしいのだが、必死に訴える姿に嘘はないと信じたかったそうである。
こういうとあれだがルナ達は結構抜けてて騙され易い。俺も考え過ぎかもとは思うが、このお人好しがお人好しのままでいれるように俺が注意しとくつもりである。
その話題の人物は楽しそうに先行して、時折、後ろを見てノンビリやってくる俺達をまだかまだかと待っている姿に近所にいた犬を彷彿させて笑みが漏れる。ルナ達の判断が間違ってないといいなと俺は切実に思った。
テリアに急かされるように進んだおかげか昼前にドワーフ国の首都に到着した。
門に門兵のようなものはなく、いかにもドワーフぽく入りたければ入れって言っているように感じて、デンガルグのおっちゃんの事を思い出して笑ってしまう。突然笑い出した俺を怪訝な顔で見つめる。
「アンタ、昨日ボコボコにされて頭おかしくなってないっ?」
ただ、笑っただけで酷い言い様である。いや、待ってくれ。もしかして、俺が気を失ってからも行われた暴行はそんなに想像を絶してたのか?
「なぁ、テリア。昨日のお前と出会った時の件であいつらにボコボコにされた時ってそんなに酷かったのか?」
「そりゃ、初めはざまぁみろっ、って思って見てたけど、あ、あれ?あれ死ぬんじゃうんじゃっ?と思って慌てて止めたらルナが慌てて蘇生魔法使って、ギリギ・・・」
後ろから現れたルナが口を手で塞ぎ、片手で拘束する。美紅がテリアの足を抱えてる。
「テリアちゃん、ちょっとお話をしましょう。トオル君はそこでしばらくお待ちください」
美紅の人を殺しかねない視線で俺に有無を言わせず言ってくる。勿論逆らう事などできずにガクガクと頷く。
テリアが俺を睨んで、ウゥーーーっと叫んでいるが、俺はスマンっ!と呟くと裏切られたっといった顔を目を見開いてた。
人通りが少ないとはいえ、門から近い場所でポツンと立たされる。移動したいが何やら今、嫌疑をかけられたら命にかかわる気がするのだ。
しばらくすると3人は歩いて俺の所へと戻ってくる。
「お待たせしました。では行きましょうか?」
可愛らしい笑顔で言ってくる美紅。でも今日が素直にそう見えない俺は心が汚れているのだろうか。
横を見るとテリアが虚ろな視線でどこを見てるか分からない顔して呟く。
「よけいなことはいいません。ふたりにはさからいません・・・」
俺はウルっときて嗚咽が漏れないように自分の口を塞ぐ。今日、また俺と同じ被害者が現れる。どうやら教育は完了らしい。
今日は特にテリアに優しくなろうと俺は胸に刻んだ。
なんやかんやあって、お昼の時間になった事だから食事にしようと言う事になるが珍しくルナが難色を示す。
「お腹は減ったけど、あの味の濃いのは勘弁なの・・・」
「薄味が好きな人には辛いかもねっ。ちょっと待ってねっ」
廻りを見渡すように見ている。よく見ると鼻も微妙に動いているように見えた。
グルグル見渡してたテリアがピタっと止まったと思ったら俺達にこっちっ、と言って道を先導する。
俺達は顔を見合わせると、とりあえずテリアの後を追った。
追った先にあったのはこじまりとした食堂で何やら良い匂いをさせている。
ルナは鼻をヒクヒクさせるとパァ~といった明るい表情になったと思ったら食堂に駆け込む。
「あれって、俺達の事を忘れてる勢いで飛び込んだよな?そこまで飢えてたのか」
「中でルナさんが焦れてると思いますが私達も行きましょう」
苦笑する美紅が俺の手を引いて入るのを勧める。抵抗する気など最初からない俺は素直に店内に入っていった。
中に入るとルナがすでにテーブルを押さえており、俺達を見つけると手を振って、こっちなのっと呼ぶ。
俺達がそのテーブルに着くとルナは既にナイフとフォークを握り締めている。
「今日のお昼はお魚って決めてたの!」
凄い入れ込み具合だ。競馬だったら絶対に買ってはいけない馬券である。もうムフンっと鼻息が聞こえるようだ。しかも、目で早くお前らも決めろっときっと伝えようとしていると俺は感じるがきっと大差ない事を考えているだろう。
「そうだ、テリア、遠慮せずに満足するだけ食えよ?」
こう言う事は早めに言っとかないと後になれば、言い辛くなるからな。
「本当にいいのっ?」
テリアは挑むような視線で俺に言う。
「ん?ああ、だけど食べれるだけにしろよ?無駄にあれこれ注文して食べれませんでしたじゃ駄目だからな?」
そんな俺の余裕が腹が立ったのか、フンっと拗ねるように横を向く。
何やら俺には素直じゃないテリアに苦笑して、各自注文伝えていった。
いつも通りに最初入れ込んでたルナ号は満足したようで出だしで失速して落ち着いた。今ある食べかけをいかに俺に食わせてデザートを食べようかと考えているのが分かるぐらいにはルナとの付き合いはあるというか、こいつの食い物に関する思考回路が分かり易い。
俺も甘いなっとは思いつつ、ルナの皿を引き取ってデザート食べてもいいぞっと伝えると嬉しそうに何にしようかなって目移りしていた。
「美紅とテリアもどうだ?」
「有難うございます。私も頂きますね」
「私はもうムリっ!私みたいな子が3人前食べてもまだデザート食べられるとか思うアンタはおかしいっ!」
俺の態度に不満があるらしく、テリアは噛みついてくる。
「なんで、私がこれだけ食べて変とか思わないの?今まで店の人ですら食べれるのか?と聞かれて食べたら驚かれてたのにっ!」
だってなっとルナと視線を交わすと同時に美紅を見る。美紅は素知らぬ顔して紅茶を飲んでいる。テリアより小柄な美紅のあの健啖家ぶりを見てるからせめて美紅を超えてくれないと俺達を驚かす事は無理である。
俺は隣にいるテリアの肩を叩いて言う。
「俺達と旅を続ける限り、いつか知る事になるから・・・」
えっ?固まるテリアにうんうんと頷いて腕を組むルナ。
2人がデザートを注文して食べる姿をテリアと2人で紅茶を飲みながらまったりして見ていた。
さて、どうしたものだろうか。鍛冶ギルドを捜すのは難しくはないがエクレシアンの鍵がドワーフにとってどれぐらいの価値があるのか分からんしな。場合によったら問答無用で御用とかないよな?
賽は既に投げられている。前に進むしかないんだから開き直っていくしかないか。
楽しそうにデザートを食べる2人を眺めつつ、時間が過ぎるのを待った。
店を出る時に鍛冶ギルドの場所を聞いて到着した場所を見て俺は呟く。
「ギルドなんだよな?どうみても作業場にしか見えないんだが・・・」
ルナ達の顔を見ても困った顔をしてるだけである。
近くで作業をしてるドワーフを捕まえて聞いてみる。
「すいません、こちらは鍛冶ギルドですか?」
「ああ?それ以外に何に見えるんだ?」
それ以外にしか見えないから困ってるんだよ!っと言いたい気持ちを飲み込む。
「そうですか。受付はどちらになりますか?」
「受付は俺だ、で、何の用だ?」
目の前で剣を打ってた人が受付してるとかどんなけ仕事中心なんだ。
「デンガルグさんの紹介で会いたい方がいるのですが・・・」
「デンガルグだと!!!」
そう目の前のドワーフが叫ぶと先程まで槌の音が鳴り響いてたのがピタリと止まる。槌の音が止まったと思ったら、ドタドタという音が凄い勢いで俺達の周囲に集まってくる。
気付けば俺達の廻りはドワーフに囲まれてしまう。
「えーと、どういうことか説明願えますか?」
「それはこっちのセリフだ。デンガルグの知り合いであるのを証明できるのか」
目の前のドワーフは探るように言ってくるので思い付くのはアレしかないと思いカバンから槌を出す。
それを見たドワーフ達は全員揃って平伏した。
デンガルグのおっちゃん、あんた何者なの?
感想などありましたらよろしくお願いします。




