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高校デビューに失敗して異世界デビュー  作者: バイブルさん
5章 槌が奏でる狂想曲(カプリッチオ)
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76話 再会の約束なんかいらない

 予定は明日か明後日じゃなかったって?予定は未定なのですよ

「うぉぉ!!!俺の新品の息子が訳ありB級商品になっちゃうぅぅ!!!」


 俺は手でマイ・サンを押さえながらカナ文字のフのような体勢になりながらピョンピョンと飛び跳ねる。遠くへ行ったゴールデンボール帰ってこいとばかりに片手を握り拳にして腰を叩く。


 視線が下がってる俺と同じぐらいの高さの視線とぶつかる。


「よぉ、トール、元気で何より」


 最近、看板娘として評判高いルルが大きなカバンを背負って俺を睨んでいた。出会った当初のような粗野な男の子のような雰囲気が醸し出されていた。


「今、メッサ死にそうになってるけど、一応は生きてる」


 皮肉を混ぜて言ってみると、ああん?っと言われ、俺は毅然と目を反らした。お願いですから足を踏みながら下から俺の顔を覗きこむような事をしないでください。


「最近、女の子らしくなって可愛くなったと思ってたのにいない間に逆戻りか?」


 うるせぇ!というと俺の弁慶を蹴り上げ、後ろを向く。

 脛を押さえて蹲って俺は言う。


「やっぱり気のせいだったのか・・・」


 今のルルを正面から見ればそんなセリフはきっとでなかっただろう。


 ルナはヤレヤレと肩を竦めると、ルルに聞く。


「どうして、ここにきたの?」

「ダングレストって冒険者がミランダにトール達が帰ってきたがこっちにこれないだろうから何か差し入れしてやってくれって言ってきたんだ。直接、ミランダが行くと怪しまれるって事で俺が持ってきた」


 背負ってたカバンを降ろして俺に渡してくる。


「一番下に入ってるのは弁当で明日の夜までに食べるように言ってた。それ以外のものは早めに食べるように言ってたぜ」


 それは有難い。ルナ達も嬉しそうにしている。時間を見るとそろそろ夕食の時間になりそうだったから美味しく頂こう。


「わざわざ、持って来てくれて有難う。ミランダにも礼を言っておいてくれ」


 俺はルルの頭を撫でながら笑いかけると、俺の手を払いのける。


「子供扱いして頭を撫でるな、バカヤロー!」


 顔を真っ赤にして怒鳴るとノシノシと音が鳴りそうな歩き方をして商談室を出ていった。

 呆気に取られる俺を見てなのか、ルルを見てなのかは分からないが女性陣3人がクスクスと笑い続ける。

 俺は気恥かしくて頭をガリガリと掻いた。


「とりあえず、グルガンデのおっちゃんに会う手筈が整うまで動けないんだ。久しぶりのミランダの飯でも食べようぜ?」


 ルナは賛成と両手を上げて喜ぶ。美紅はシーナさんに一緒に食べましょうと勧め、じゃ、お言葉に甘えて、と言って一緒に食事をする事になった。


 食事をしながら、ルナ達はエルフ国で俺がどんな馬鹿やったとか説教をこれだけやったがまったく効果がないと嘆いたり、楽しそうに騒ぎながら食事をしていた。女3人集まれば姦しいというが本当のようである。そのせいか、こんなに騒がしい同じ部屋にいるのにボッチ飯になってるのは何故だろうかとホロリと涙が零れたかもしれない。



 それから食事が済み、しばらく時間が経ち、窓から見える景色が夜に支配された頃、ドアをノックする音がする。

 そのノックに反応したシーナさんが、私が出ますと言ってドアを開きに行く。ドアの向こうで2,3応答したと思ったら、振り返り言ってくる。


「グルガンデ武具店の主人と会う手筈ができました。裏口に馬車を用意していますので、案内する職員と一緒に向かってください」


 俺達は立ち上がり、シーナさんに礼を言うと部屋を出ていこうとすると、後ろからシーナさんが俺に声をかけてくる。


「待っています。必ず、帰ってきてくださいね」


 俺は ああ、と笑いながら拳をあげた。



 扉から出ていった3人を見送った私は、こっそり溜息をついた。トールさんはエルフ国の王女を魅了したのは2人から聞いた時は驚きはしたがそれほど衝撃はなかった。それよりも衝撃的なモノを出会った時に気付いてしまったから。


 先祖返りといっていいのか分からないが時折生まれる強い個体が生まれる事がある。どうやら私はその例になってしまったようで、他のエルフと比べて優秀であった。しかし、私の村は排他的で異物を嫌う風習があった為、私には居心地が悪い場所であった為、私は成人すると村を出て、クラウドへやってきた。


 前振りが長くなったが、とにかく私は普通のエルフと違う所がある。そのせいか、トールさんの首の右側にうっすらとだがキスマークが見える。それが現実のものじゃないのはすぐに何故か気付いた。そして、あれがユグドラシルの祝福であると直感的に理解し、確信した。

 どうやら、神すらも魅了するトールさんは私の導きだけでは収まらない器のようだ。しかし、私は決めていた。トールさんが戻ってくれば、あの人の宿り木になると、どんな形でもいいから、あの人を支えられる自分になろうと。

 だから、帰ってきてください。貴方は既に多くの人の希望を背負い、追いかけられる人になっており、それはこれからも増え続けていくのだから。


 神を魅了したのがユグドラシルだけではない事をシーナは知らない。しかし、知ったとしても驚かずに笑みを深めただけであろう。



 俺達はこっそり馬車に乗り込むと御者をしてくれる職員が、では、出しますと言って馬車を発車させた。

 馬車を走らせ始めると職員が苦笑して言ってくる。


「グルガンデの主人は頑固な方で苦労致しました。初めは、鍛冶が忙しいから帰れの1点張りで話を聞いて貰えませんでしたが、トールさんの名前を出したら、逆に話せとしつこいぐらい聞かれ、会う段取りを取りたいのですがというと、そう言う事はさっさと言え!と怒鳴られ、すぐ連れて来いと怒られましたよ」


 相変わらずな、おっちゃんのようで俺達は苦笑いを浮かべる。本当に商売する気がある人なのか疑う対人スキルである。


 しばらく、馬車に揺られ職員から着きましたと言われる。降りると馬車はこの後、お使いくださいと言って置いて行ってくれるようだ。馬車を手配するか、歩きかと思っていたから助かる。


 俺達はグルガンデ武具店に入ると店内の真ん中で仁王立ちしてるおっちゃんと遭遇した。


「おう、エルフ国では大変だったらしいな。で、ワシに何の用じゃ」


 挨拶をしようとしてた俺の思惑を無視してストレートに用件スタートさせる、おっちゃんに痺れる。


「実は2つ頼み事があるんだ」


 美紅を一睨み、実際は睨んでるつもりはないんだろうが俺から見るとそう見える。


「ふん!まあ1つは言わんでも分かるがもう1つはなんじゃ」

「俺達、エクレシアンの鍵ってやつを見るだけか手に入れないと駄目なのか分からないがそれを追いかける為にドワーフ国にいかないと駄目なんだ。その事で向こうで話を聞いてくれそうな人を紹介してくれないかと思って来たんだが」


 ふむっと唸ると腕を組んで考え込む。おっちゃんはそのまま奥に行って何やら捜してる音が聞こえてくる。

 そして、戻ってくると、槌を俺に投げてくる。それを受け取るとおっちゃんは言ってくる。


「それを持って、デンガルグからの紹介だと言って、鍛冶ギルドに行けばヤツに会えると思うが、なかなか、話を聞こうとせんやつだが、アイツ以上にエクレシアンの鍵について力になれる奴はおらんじゃろう」


 ヤツって誰?と聞くが行けば分かると説明する気がないようだ。

 しかし、店の名前を自分の名前の逆読みにするとか適当さを感じるな。


「さて、嬢ちゃん、あの武器を持ってないところを見ると少しは向き合えたのか?」


 おっちゃんは美紅を見つめ聞くが美紅の様子を見て溜息を吐く。


「ふん、どうやら、思わず力を制御できず、力を振って壊したようじゃな」


 美紅はすいませんと謝る。再び、奥に引っ込んで前回の武器と良く似た剣を持って帰ってくる。美紅に渡すと抜いて見ろといい。抜くと刀身が薄らと紅さがあるのが分かる。


「武器としての性能は前回のモノと大差はねぇ、しかし、丈夫さだけなら前の武器よりいいものじゃ」


 すまんな、今はこれぐらいしか用意してやれん、と頭を下げられる。

 おっちゃんに頭を下げられてアワアワと慌てる美紅の援護をするように俺がおっちゃんに言う。


「むしろ、こっちが頭を下げるような話なのに逆に下げられるってのは違うだろ?」

「本当にお前は馬鹿野郎じゃな、鍛冶師として、使い手の助けになる武器を作るのは当たり前、使い手の十全を引き出せるのが1人前の鍛冶師なんじゃ、確かに嬢ちゃんの力は規格外ではあるが、その嬢ちゃんの力に耐えれない武器しか用意できないワシは頭を下げるに相応しい状況じゃ」


 そういうと、フンというと奥に戻っていく。また何かあるのかと思うと何事もなかったかのように槌を打ち付ける音が作業場から聞こえてくる。

 相変わらずのマイペースに苦笑いが漏れる。



 俺達はグルガンデ武具店を出て、馬車に乗り込むと東門に向かい、その先にあるドワーフ国を目指すために出発した。


 そして、エコ帝国とドワーフ国の国境を越えたあたりで夜を明かし、朝になると出発して、お昼になろうかというタイミングで美紅に御者変わりますと言われ、ミランダの弁当を食べるように言われる。幌に入るとルナは食後のお昼休みと言わんばかりにマヌケな顔をして眠りこけていた。ルナを避けて、弁当を取って一番後ろに行き、外を眺めながら食事を取ろうとする。弁当を見ると俺の名前がかかれている。きっと各自の好みに合わせて作ってくれたのであろう。


 包みを外すと弁当の蓋の上に紙がある事に気付いた。俺はそれを取って開くとどうやらミランダからの手紙のようだ。



 トールへ


 今、これを読んでいる時は既にクラウドを出ていると思います。貴方がエルフ国でやった事を廻りのみんなが騒ぎ、囃したててましたが、私は心配しかできませんでした。勿論、その後、無事であると聞いて安心はしましたが、余り無茶はしないようにしましょう。

 貴方の傍にはルナちゃん達がいます。必要なら助けを求め、可能な限り無茶をしないようにしなさい。貴方が無茶をすればするほど、2人にも危険が及ぶ可能性が上がる事を肝に命じて行動する事。


 でも、トールはよく頑張りました。貴方は沢山の命を救った私の自慢の家族です。だから無事に次も必ず帰ってきてください。


 後、ルナちゃん達を余り困らせないように、それから、お腹を出して風邪などにならないように気をつけるのよ?いつもトールはだらしないんだから。


 では、気を付けて、いってらっしゃい


               ミランダより



「お前は俺のかーちゃんか!」


 俺は外を見つめ、突っ込む。

 馬車が大きく揺れ、俺から一滴の水が落ちる。


「まったく自分がオスである事をいい加減認識して欲しいもんだ」


 クラウドのある方向を見つめ呟く。


 「またな・・・」

 感想などありましたらよろしくお願いします。

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