73話 英雄になりたかった男
突然ですが、連続投稿にさせて頂きます。
理由は活動報告で
「くそぉ!あんな屑どもに私の野望を阻止されるなんてなんて屈辱だ」
ティテレーネ王女が現れる直前にあの場から逃げ出した私は子飼いの回復魔法を使える部下に治療させながら逆転の目を考える。しかし、妙案が浮かばない。
出だしから失敗から始まり、ティテレーネ王女が城を2度目出て行ったのが好機と判断して強引に自分がユグドラシルの使者であると仕立てあげようとしたがあの親馬鹿は娘をしっかり信じていた為、私の取り巻きの数という脅迫にも屈しなかった。
そして、美紅というあの忌々しいユグドラシルの使者と言われる小僧の仲間で勇者の娘の行動により、王を頷かせる時間を失う。
最初の出だしは本来、私の仕込みで王都を襲撃させる予定であった。ある者からドラゴンを1匹使役できるというアイテムを買い取った。それを操り王都を襲わせて、私主導で撃退して地位を高めるというのが私が立ててた策略だった。
そこで追い風のように国境沿いでモンスターパニックが起き、大半の軍を出動する事態になった。勿論、私の子飼いは手元に残すようにした。自分の都合の良い展開が起きて、ユグドラシルの使者というのあながちの間違いではないのではと酔った事もあった。
さあ、この好機を逃さず、王都をドラゴンに襲わせて救国の英雄になる時と息巻いていると王都も国境のモンスターパニックのような状況が先に起きてしまう。出鼻を挫かれた私は、パニックに陥り、代案を思いつくのに時間がかかってしまう。
そして、代案が決まり、ドラゴンを使役した私がモンスターを撃退し、国を守った英雄という路線に切り替える事にするが、またここでも私の思惑は崩される。ユグドラシルの使者と呼ばれる少年によって阻まれる事になる。
城へと続く道、唯一の橋を背に国民が避難する時間を稼ぐ為にたった1人で目の前を埋めつくさんとするモンスター相手に怯まない少年がいた。怯えて恐慌状態に陥りそうになった国民を一喝入れるだけで平静に戻す。そして、どれだけ攻撃を食らっても倒れず、血を流しても止まらず、モンスターを屠っていくあの少年はまごうことなく私が憧れた背中を示していた。
やはり数の優劣が戦況を押し切ろうとした時、国民達の声援を受けた少年は奥の手を使う。見渡す限りいたモンスターを一撃の下、一掃したかに見えた。
しかし、他のモンスターを盾がわりに守りに入ったオークキングが無事であった。さすがの少年も先程の一撃で精も根も尽きたらしく、オークキングにいいように殴られ続ける。もう駄目かというその時だ、最後の炎の煌めきをイメージさせるように今までで一番の動きでオークキングを瞬殺する。
それを見ていた私は思い出したかのように息をする。気付けば見入っていた。手を握りしめて、掌は汗が滲む。心躍っていた事実を受け入れるのが嫌な私は視線を切って、次、打てる手を考える。そして、行動に移した。
その結果が腕を失い、この国での立ち位置を失う情けない状況に追い詰められた。もう、これだけは認めよう。あのトールと名乗る少年に私は酷く嫉妬し、憎んでいると。
もう、どうなろうといい、なるようになると私は開き直り、ドラゴンを使役する球を使い、王都へ来いと念じた。
俺達はそれぞれの作業を進めて夜になった事で夕食を頂き、疲れた体を休めるようにベットで横になったいた。
俺と美紅の作業は半分以上進み、明日の昼ぐらいまでには終わると思われる進行状態で好調だったが、ユグドラシルに対抗意識を燃やしたルナは精も根も尽きたと言わんとした顔しながら、やり切ったらしい。後は最後の起動だけと良い顔してない胸を張っていた。夕食を掻っ込むように食べるとその場で寝てしまった。いつもより多く食べたように思う。よっぽど疲れたのであろうがそれでも人並み程度の食事量なのが少し笑える。食いしん坊なイメージがあるのにと思う。
本来なら俺の正面で食堂で調達してきた大量の食事を淡々と食べていく美紅がそのイメージなのだがまったくの正反対で健啖家だ。マッチョの集い亭では遠慮せず食べているが他の人がいる所ではこうやって食べる物を持ちこんで食べるのが普通になってきてる。後、分かった事だが、別にそこまで食べなくても持つようだが食べれる時は食べたい衝動が止まらないらしい。
食べた栄養はどこにいってるのだろうと常々思っている。まったく成長の兆しが見えないスタイルを見て溜息を零そうとした時、死の匂いがした・・・
廻りを目だけで見るが特に変わった事はないっと思ったら先程までパクパク食べてた美紅の動きが止まってる。
本能がこのままではヤバいと告げる。俺は迷わず、ベットに仰向けに寝て、四肢を折り曲げて、犬がやる服従のポーズを取る。言っているんだ、これしか俺の命の無事な可能性がないと!
すると死の気配が遠くなる。俺は賭けに勝ったと安堵した瞬間を狙ったように美紅の腕を振るのを横目で見えた。
尻に感じる鋭い、そう鋭い痛みが走る!
「ノォーーマイ、ケツ!!」
自分でも意味不明な事を言ってると思うが凄まじく痛い。自分の尻を見ると串が刺さっている。先程、美紅が食べてた物が刺さってた物のはずである。
痛みに耐えながら抜く。クゥ、メッチャ痛い。生活魔法の治癒を使い、自然治癒を強化する。男なのに穴が2つになちゃった・・・え?違うよ?や○い穴の作成方法とかじゃないし、そもそも、それは腐女子の都市伝説ですよ?
「うーん、煩いの。オチオチ寝てられないの」
「トオル君のお尻に串が刺さっただけです」
今日のメニューが魚から肉になりましたぐらいの気楽さで答える美紅。
寝惚け気味なルナは、うーん、と子供みたいに唸る。
「そんなくだらない事で騒がないの」
ポテっと音をさせて再び寝るルナ。
「え?待って、そんなくだらない事とかってどういう事?真面目に痛いし、この2人は俺にたいする優しさが極端に足りてない時があると思うよ?そう、今がまさにそう!」
と、叫んで言えたらいいなって思う今日この頃。睡眠を邪魔したルナと何やら怒ってらっしゃる美紅に喧嘩売る度胸・・・どこかのセールで売ってないかしら・・・
定番の泣き寝入りをする俺であった。
それから、しばらく静かな時間が過ぎ、そろそろ寝るかという時間になった時、外が騒がしい事に気付く。そして遅れながら俺達も何やら大きなモノがやってくるのを感じた。
寝ているルナに呼び掛けると愚図らず起きる。もしかしたら目を覚ましていたのかもしれない。
「なんか大きいモノがきてる感じがするな」
俺はそう言いつつ服を着替え、装備を着けていく。
背中越しで着替えている2人がいるが勿論振り返らない。
着替え終わった2人から声がかかり、準備の済んだ2人がいた。
「なんでしょう?それなりに強そうな感じはしますが」
「多分、ドラゴンなの。それもエンシェント級のドラゴンだと思うの」
俺は絶句する。どれくらいのものなのかと確認する。
「フレイと比べてどうなんだ?」
「あのドラゴンもエンシェント級だけど最上級と最下級ぐらいの差はあるの。徹が知ってるドラゴンと比べたら赤子のようなものなの」
手負いのフレイですら強かった。いくらフレイより弱いとしても油断していい相手ではないはず。気を引き締める俺を見て2人が顔を見合わせ、言ってくる。
「気負うほどの相手じゃないの。今回は前のように徹だけで挑ませないから確実に勝ちにいくの」
「もう、見てるだけは嫌ですよ。トオル君」
いや、俺だけで挑もうとした覚えないんですがっと言いたいが2人の目を見ると沈黙させられる。純粋に心配してくれてるのが分かるから。
すると、扉を叩く音がする。扉越しに声をかけてくる兵士。
「申し訳ありませんご就寝中であるかと思いますが、ドラゴンが現れました。どうか、お力をお貸しくださいと姫様からの伝言です」
俺は扉を開けて兵士を見る。俺達が完全武装なのに驚いてるようでテンパってらっしゃる。
「王女は今、何を?」
「王と共に指揮をされております。姫様は宰相代行という形です」
背筋を伸ばせるだけ伸ばしましたという感じで受け答えされる。
苦笑が漏れそうになるが飲み込む。
「とりあえず、ドラゴンが見えるとこまで案内してくれ。その道すがら質問をするから」
ハッ!というと小走りしながら先導する。
行く道すがら、ドラゴン以外のモンスターはいないのかということと、今までもドラゴンは近隣に現れたり、城を襲ったりした事があるのかと聞く。
全ての質問を兵士は全て、ありませんの一言で答えた。
表に出ると兵士があちらですと指を差す。
ドラゴンはどこかの部屋に取りついているのを見て聞く。
「あそこには誰が?」
「宰相様のお部屋です」
そう兵士が答えると同時に叫び声、いや、断末魔というべきかもしれない声が響く。
部屋に頭を突っ込んでいたドラゴンは人の上半身を出した状態で咥えたまま顔を出す。
とりあえず俺は兵士に下がるように言う。渋る兵士にいるとやりにくいとキツイ事を言う事でやっと下がらせる。
兵士が下がるのを見てたかのように黒いドラゴンは人を咥えたままやってくる。近くにくると予想はしていたモノを咥えていた。
昼間から姿が見えなくなっていた宰相その人だった。
ドラゴンは咥えてた宰相をぺっと吐き出す。
吐き出された宰相の下半身はなく、血が噴き出す。俺はルナを振り返って見るが首を横に振られる。宰相の口が開いて俺を見て何かを言ってるので俺は今際の際の言葉を聞いてやる事にする。
「私は、お前が羨ましい。子供の頃から憧れ続けてきた。私は宰相などになりたかったのではない。英雄になりたかったのだよ」
そういうと息絶えた。
「愚かなり、人間は身の丈合わない事をする生き物だ。そんな矮小な存在が夢を見る。嘆かわしいな」
口に残っていたのであろう、宰相の下半身を吐き出す。
確かに、この宰相がやった事は許される事ではないが、こんな馬鹿なドラゴンに言いたい放題にさせる義理もない。
「そうだな、俺も昨日までは人間はそういうモノが多いとは思ったよ。でも今日からは人間だけじゃなく、馬鹿なドラゴンもいると認識するようにするわ」
あえて、挑発を意図して言葉を紡いでる最中は視線を切り、終えたと同時に見つめ、鼻で笑う。やっすいプライドを持ってそうだからきっと乗ってくると踏んでいた。
「ほう、そういえば、そこの愚か者はお前を殺せと言っていたな。たまには聞いてやるのもいいだろう。命を賭した願い、捨て置くのも不憫だしな」
言葉と裏腹にヤル気満々である。
突っ込んでくるドラゴンに身構えるとルナが無防備に前に出る。
俺が危ないっと言うがルナは笑っている。
「大丈夫なの。ちゃんと見てるの」
掌を叩くように合わせて良い音をさせる。そして合掌をしたまま、目前まで迫ったドラゴンを睨み、ハッ!と叫ぶ。
ドラゴンは何かにぶつかったようにズリズリ落ちてくる。コントのガラスにぶつかった芸人のようだ。
いつの間にか、ドラゴンの下の位置に移動していた美紅がインフェルノを打ち上げる。激しい炎に包まれながら絶叫と共に上空に吹き飛ばされる。
「さあ、トオル君、トドメです!」
トドメって言われてもアレって生きてるの?と思い、上空を見つめるとわずかに痙攣するようにかろうじて生きているようだ。あの状態なら地面に落ちたらお亡くなりになりそうだが、啖呵切っただけで終わるのも格好悪いので美紅の優しさに感謝してトドメを刺すべく飛び上がって首を刎ねて楽にしてやった。
ルナ達と一緒にやったからというのもあるがルナが言うようにフレイと比べたら可愛そうなほどギリギリのエンシェント級のようだ。
-当然だ、主。我のベースになってるドラゴンなのだからー
珍しくカラスから話しかけてくる。やはりフレイを褒めると自分も褒められた気分になるのであろう。カラスを鞘に戻すとポンポンと叩いておいた。
「ここはもう他の方にお任せしても良さそうですね。ハァ、ついでに片付けないといけない瓦礫が増えましたね・・・」
俺も美紅が見つめる先を見て、うんざりする。昼までとか言ってたけど夜までかかりそうである。
「とりあえず、明日も忙しそうだがら戻って寝るの!」
「そういや、さっきのドラゴンの動きを止めたアレってなんだ?」
俺はルナを見つめて聞く。
よくぞ聞いてくれましたと言った顔したルナが語る。
「結界なの。今、見た通りあのドラゴンぐらいならビクともしないの。」
まさか、城壁が直るまでの繋ぎに用意した防壁なのか?絶対、城壁より確実に丈夫な気がする。
やり過ぎだろ!と言おうかと思ったが強固なのは良い事だろうし、ティティの国が安全になる事は悪くないかと考え直して、俺達の出番は終了とばかりに部屋に戻っていく。
明日も忙しくなりそうでうんざりしつつ部屋に戻った俺達は寝る事にした。
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