72話 女は男が恥ずかしがる事をあえてさせる件
では72話になります。よろしくお願いします。
破壊された城から見える空を見て、心が洗われるような綺麗な青空を見つめると細かい事はどうでもよくなってくる。まだ昼前の時間だからお昼を用意して外でランチと洒落込むのもいいかもしれない。いや、ナイスアイディアではないだろうか?思い立ったら即行動だ!
「さあ、ルナ、美紅。お昼の用意してハイキングと洒落込もうぜ!」
「徹!それはナイスアイディアなの。すぐ行くの」
うんうん、ルナと俺の呼吸は抜群だ。美紅は付けられた猫耳を肉球の付いた手で隠しながらいいのかな?とばかりに俺と王を見ていた。
「楽しいハイキングに出発だ~」
「まあ、待て」
俺の肩を掴んで止める人がいる。振り返るとティティの親馬鹿こと、エルフ王であった。
エルフ王を笑顔で見つめ、語りかける。
「一緒に行きたいのですか?男率が上がるのは嬉しくないので今回は見送りしてください。では~」
「それだけ目が泳ぎまくってるのにセリフに詰まりもなく淀みもなく喋れるのは評価に値するが、逃がさないからな?」
沈黙する俺、隣ではルナが勢いでいけるかと思ったのに!と俺の気持ちを代弁してるが神としてお前はそれでいいのか?美紅はただでさえ小さな体を更に小さくしてこの後の裁きを待っているようだ。
そんな風に俺と王の膠着状態に陥るかと思った時、我が妹のティティが帰ってきた。
「あらあら、外から見た時も凄かったですが、ここは輪をかけて酷いですね」
たいして大変そうな雰囲気はなく、他人事のように言う。でも、俺と王は感じとっていた。アレは絶対、怒ってる。王と目を合わせた時、男臭い微笑を見せる、きっと俺も同じような顔をしてたはずである。お互い、軽く頷くと並んでティティの前と毅然と胸張り男らしく立ちはだかった。
「「この度は私達の監督不届きでした。何卒、今回の事、ご容赦願いたい」」
これ以上下げる方法がないという、俺の究極土下座をする。横を見ると王も同じ事をやっていて、王と俺の視線の交差した時、尊敬と友情が生まれた気がした。
「まず、お父様。前々から宰相を含み、一部の重鎮達の行動が目に余るからなんらかの処罰なりをするように上申してきたのに、内部の混乱が、などと言って見送っていたら、この有様。内部の混乱のほうがよっぽど良かったのではありませんか?」
王は苦虫を噛み締めたような顔をして、むむむ、と唸る。
最初、王の間に来た時の宰相とのやり取りを見て、王女としていくら嫌いだからと言って公の場であの態度は不自然に映っていたが、そういう裏事情があったのか。
「そんな弱気な対応しかされないから宰相の息のかかってない部下からの宰相側の行動を知らせてくれる人がいないのです。今回の表での宰相の暴走を早い段階で知れば止める事も美紅さんが殴り込みに来られた時に冷静な対応できたのではありませんか?お父様の事ですから、無礼者!とか言って話し合いにすらならずにこの有様になってるのでは?」
王は反論もできずにごめんなさいと謝っている。
おそるべし、ティティ、もう完全勝利と言っていいかもしれない。王は最初からティティに勝てると思ってないのが分かる。そうか、今回の外に出れたのもきっとこのようなやり取りがあったのであろう。ミザリーが言ってたのはこう言う事か。ティティさんハンパねぇーす。一生付いて行きますから優しくお願いします。神妙そうな顔をして俺は心の中で思った。
「お待たせしました。次は兄様達です。しっかり真面目に聞いてください」
そう言われると俺は既に正座していた。ルナも慌てて俺の隣に正座で座る。美紅はどことなく嬉しそうに猫装束を取ろうとするがティティは言ってくる。
「美紅さんのその可愛い格好はそのままで」
そう言われた美紅は絶望したような顔をしてルナと反対側の隣に正座する。
絶対、あれは美紅が恥ずかしがってると分かってて止めたな・・・やはり我が妹はドが付く人なのだろうか・・・
「今回の事は私達の国の不始末が原因で起こってしまった事でこちらが詫びねばならない事ですが・・・さすがにこれはやり過ぎです。そこで美紅さんは明日の夜までにその無駄に有り余った力で瓦礫を撤去してください。ルナさんは城壁ができるまで城の防衛力が落ちないように工夫をお願いします」
ティティの容赦ない言葉に2人は絶句する。
そして、俺を見るティティの目を見つめ返す事ができなかった。だって怖いんだもの・・・
「兄様は・・・数年後に体で返して貰いますので、健康に無事に生き延びてくださいね?」
ティティは数年後の俺に何をさせようというのかと激しい戦慄を感じずにはいられなかった。
3人して今のセリフに絶句・・・いや、良く見れば王も絶句している。最初に立ち直ったのはエルフ王、ティティの父だった。
「パパは絶対に許さないぞ!!これはそう簡単に折れさせようと思っても無理だからな!」
ああ、王はお父様よりパパって呼んで欲しいんだっと場違いな感想が俺の中で伝えられる。
鼻息荒い王をティティは鼻で笑い飛ばすような仕草をしてから答える。
「ええ、分かりました。後でゆっくりとお話しましょうね?お父様」
にこやかな笑顔で王に伝える。
「わ、分かった。後で時間を取る」
今のやりとりで既に結果は見えたようなものであるが、なんとなく王を見てると他人に思えなくなってきた俺は心の中で応援した。
ティティは手をパンパンと叩いて俺達を急かすように言う。
「時間は有限です。すぐ動きましょう。お父様は怪我人などの処置や、関係部署に動くように指示をやりましょう。愚図ったら折檻ですので頑張ってください。美紅さんは自分の後始末を頑張ってください。ルナさん、補強する案はありますか?」
「あるけど、しんどいし面倒だから他の・・・」
ルナが他の楽な方法がいいと言おうとしてたと思われる言葉を言わせる前にティティは言葉を被せてくる。
「では、その方法でお願いします」
アウ、と呻かされて完封されるルナ。
俺はそのやりとりを見てて本当にティティは10歳になってないのかと疑問に思う。実はロリババで300歳です!キラっ!って展開だったりして~と思って乾いた笑いをしているといつのまにか俺の前に来ていたティティは口の中がカラカラになるような笑顔を見せて、俺だけに聞こえる声で話しかける。
「何をいらない事を考えてますか!それより兄様は美紅さんの手伝いに行ってください。まだ美紅さんは不安定です。ただ一緒にいる事で安心するって事もありますから行ってください」
ああ、分かったと俺は答えた。しかし、やっぱりティティの年齢偽称疑惑はあるのでは?と考えてると、ん~兄様?と言われる。
「その任務受諾致しました。兄はすぐさま出発します」
俺は軍人か!と言われるぐらいにガチガチの対応でティティに敬礼する。
ティティは澄ました顔して、はい、いってらっしゃいと俺を送り出した。
美紅と合流して猫耳装束の一旦解除を許可した俺は敷地外に落ちてる瓦礫を谷底に落として良いと許可を貰い、2人して外に出てきた。
俺達は黙々と瓦礫を運んだり吹き飛ばしたりしていた。
不意に美紅が話しかけてくる。
「有難うございます。私を肯定してくれて・・・」
「結界の中で言っただろ?」
美紅は優しい笑顔をしつつ、意地悪な事を聞いてくる。
「なんて言ってくれましたか?もう一度お願いします」
「あんな恥ずかしい事、何度も言えるか!」
覚えてないんです。凄く不安になるからお願いしますとしつこい美紅に折れて渋々言ってやる。
「「俺がお前を全肯定してやるよ!そして、お前が出てきて良かったって思える未来を俺が切り開いてやる」」
え?っという顔する俺の顔を見つめてクスクス笑う美紅。
「忘れてくれと言っても忘れる気などないです。こんな暖かい言葉を貰ったの初めてなのですから。その後のセリフも覚えてます。「俺が傍にいて、お前の楽しいを見つけてやるって言ってるんだ!」って言って貰えて、とても嬉しかったです」
微笑まれて俺の真似までしてセリフを言う美紅に俺は完全敗北を喫した。恥ずかしすぎて立ってられないとばっかりに膝を着き両手で頭を抱える。
項垂れている俺の隣に来て体育座りをする美紅がまだ高い位置にある太陽のほうを見ながら言ってくる。
「トオル君はいつも有言実行してくれてます。私はトオル君と一緒にいていつも楽しいが一杯です」
「そりゃ、良かった。でも特別な事した覚えはないんだがな~」
そんな事を言うトオル君はやっぱり鈍いな~と私は思う。
トオル君はいつも傍にいてくれるような気持ちにさせてくれる。そして、離れていても必ず、辛い時は来てくれる。いつも若干、遅刻気味のギリギリな事が多いがトオル君なら、トオル君だったらと思わせてくれて、いつも力になってくれる。そして、トオル君の言葉は淀みを感じない。時々、冗談のような会話や言い訳してる時ですら、真直ぐなのだ。他の人なら勘ぐって疑心暗鬼になる事でもトオル君なら勘ぐっても最終的には笑って終われる。
だから私はトオル君は水のような人だと思っている。形があるようで形がなく、触れれば癒しを与え、身を浸せば優しく包んでくれる。その優しさに包まれて寝ていたいと思わされるような存在が私にとってのトオル君である。
そんなトオル君には私がどう映ってるのだろうと思う。今日、トオル君は家族と言ってくれた。とても嬉しかった。でも、と私の女の部分の心が貪欲に求める。「家族の私の立ち位置は隣ですか?」と聞きたいと思っていた女の部分が暴走して聞こうとした時、
「私がユグドラシルより凄いって見せつけてやるの!!」
ユグドラシルがある方向を睨みながら叫ぶルナさんの声が聞こえてきた。
私はトオル君と顔を見合わせると同時に噴き出す。
ルナさんの声で聞き逃したのはちょっと惜しく感じたが、でも、もう少しこのままの関係でいたいと気持ちに後押しされ、その想いを胸に秘める事にした。
でもいつか聞きたい。聞いたらトオル君は私の気持ちに応えてくれるだろうかと少し胸が痛くなった。
感想などありましたらよろしくお願いします。