71話 円満解決と親馬鹿
では71話になります。よろしくお願いします。
突然現れた俺を見て、もう終わりとばかりに尻もちを着き観戦モードに入る女神、そして、俺を驚愕な表情で怯えるように後ろに下がる美紅。
まったくどっちもなんて顔をしてるんだ。特に美紅は深刻なレベルだ。
「先に言っとくが、俺は怒っているからな?」
ルナは怒られた子供のように首を竦めただけだが、美紅は酷い動揺して、顔をクシャとさせ、俺が現れたショックで止まっていた涙が再び盛り上がってきている。
「お前が管理をしっかりしないから私はこんな目にあっているんだ!分かっているのか?お前らは我らエルフ国を敵に廻す覚悟があるのか?ありもしないのに調子づくではない!猛獣の管理をしっかりしておけ!」
宰相は手を押さえて脂汗を流しながら狂犬のように叫んでくる。
俺は冷めた目をして宰相を見下す。
「ほう、お前が言ってる言葉はエルフ国の総意か?そうだと言うなら相手になるぞ。俺の大事な仲間を猛獣だって?ああ、なるほど。虫けらのお前からすれば真っ当な存在が猛獣に見えるんだな」
怒鳴りもせず、一定のトーンで喋る俺を見て、ルナと美紅は震える。俺が本気で怒っているのが分かるのであろう。それを見ていた王は今、更にヤバい状況に陥ろうとしてるのではないかと気付き始める。
「宰相やめろ!いつからお前がエルフ国の総意を述べられる立場になった。王である私も初耳の話を堂々と語るな。」
「何をおっしゃいます。この無法者が来る前にお話ししていたではないですか。私はユグドラシルの使者としてユグドラシルに会ったと。ユグドラシルの使者である私を無碍になさるのですか!」
脂汗が酷い事になってる宰相は目を血走らせながら叫ぶ。
王は娘が宣託の巫女じゃないとは思えない。あれは間違いなく本物だと思っているので宰相の言葉を受け入れを拒んでいた。
「やはりどうしても宣託の巫女が偽物とは思えない。その巫女である娘が示した使者が偽物ともな」
どうやら、こんなやり取りがルナ達が来るまでされていたのであろう。
俺は宰相の言葉を聞いて、笑いが込み上げてきた。
「宰相さん、つまり、あんたは使者でユグドラシルに会ったと言い張る訳ですよね?」
「言い張るではない。実際に会ってこの国を導けと言われた」
俺は堪え切る事ができずに爆笑する。そして、笑いが収まると宰相を見ると俺の行動にびっくりしているようだ。
「なるほど、国を導けか。えらく小さい事言うユグドラシルだよな。で、会ったんだろ?どんな姿だった?」
「姿なぞ、見たままの大きな樹ではないか」
俺はニヤリと笑う。
「墓穴を掘ったな。ユグドラシルはちゃんと人としての姿がある。俺は実際に会ってきたからな」
その言葉に絶句する宰相を横目に続ける。
「宰相さんよ、宣託の巫女の見分け方ってなんだ?お前さんの論理じゃなく今までの通説のほうでだ」
「フ、フン。ティテレーネ王女のような容姿と言わせたいのであろう!」
俺はそう言われて宰相にゆっくりと近づいていく。
「そうらしいな、でも何故、その容姿が宣託の巫女になるんだと思う?それは宣託の巫女とはユグドラシルの特徴が反映された姿なんだよ。だからユグドラシルに会った奴なら分かる」
まあ、俺が初めて会ったらしいけどなっと言う。
歯ぎしりする宰相の瞳を覗き込みトドメを刺す。
「まだ納得できないならユグドラシルの洞に一緒に入りに行こうか?あっさりと答えが出ると思うが?」
何も言い返せなくなり宰相は項垂れて負けを認める。
俺は王にあんたの娘は間違いなく宣託の巫女だよと告げると嬉しそうに顔を綻ばせた。
「さて、2人共お待たせ。ちょっと野暮用があったから先に済ませたよ。これで時間は気にしなくて良くなった」
二人に向き合う俺はきっといい笑顔をしていると思っているが、ルナは引いているし、美紅は怯えている。
「まあ、おおよその事はティティに聞いてきたからだいたいの事は分かっているさ。まあ、そこの小物がやらかした事に対処しようとしたり、頭にきたみたいだが、やりすぎだよな?」
俺は廻りを見渡す。もうすでに王の間だと分かるのは王が据わる玉座の存在のみと言って過言じゃないという有様で逆によくここまでやったと褒めるべきかと変な事を考えてたりする。
「まずはルナ、お前、ティティに提案の1つに強行突破を勧めただろ?お前がいれば逃げ回りながらでも様子見するのなんて簡単なのに、それを教えずに選択させるとか、お前も結構頭にきててワザとだろ?」
ルナはうっ、と唸ると顔から汗が滝のように流れる。
「でも、俺も鬼じゃない。頑張って被害を最小限にしようと頑張った。うん、ルナは頑張ったと俺は思うぞ?」
俺の言葉を聞いてパァーと表情に明るさを取り戻していくルナ。
うんうん、頷き、裁定を伝える。
「だから、10回な?」
「え?どういうことなの?10回って?」
目がこれほど泳げるんだと場違いな感心をしてしまう。
ちゃんとルナに言いたい事は通じてるぽいがどうしても認めたくないようだ。現実を直視するのを嫌がる座り込んでたルナに膝を着いて肩に手を乗せ優しく終止符を打つ。
「おやつ禁止令10回な?」
いやぁーーー!と高らかに叫ぶ女神は倒れ込み、シクシクと泣きながら、酷いのあんなに頑張ったのにとブツブツ、世の不条理を噛み締めていた。
それを見ていた王がマジか!と呟いている。あれだけの火の玉を直撃しても耐え凌いだ者がまさか、おやつを10回禁止されただけでそれ以上の衝撃を受けるとは思っていなかった。
前回は2回目で忘れた事にしたから、次は4回目で忘れた事にしてやるかと笑いながら思い、未だに震えている美紅に視線を向ける。
「さて、何か言っときたい事あるか?」
ゆっくりと近づく俺に後ずさりする美紅だが、壁に行きつき下がれなくなる。
首を横に振りながら必死に美紅は言ってくる。
「私は間違った事をしてません。出来る事をやっていただけです。きっとこれはトオル君の為になる。トオル君の敵は全て私が斬り捨てれば、障害のない道を走り抜けられるはずです」
論理も順序もちぐはぐな美紅らしくない会話を必死にしてくる。そんな美紅を俺は優しく見つめる。
俺の反応が芳しくないのを見て更に慌てる美紅は、俺の琴線に触れる言葉を口にする。
「そうすることで私の命に意味が生まれるのです。意味のない私の命に意味を持たせられるこれ以上の事はありません。それがなければ私なの生きている意味などないのですから!」
俺は美紅の頬を張る。張って痛いのは美紅のはずなのに俺の胸は張り裂けそうに痛かった。我慢できず俺は涙を流す。
泣く俺を見て、頬を押さえる事も忘れて見つめる。
「美紅の命はそんな安いモノじゃないんだ。誰かの、まして、俺の為に使う事が意義みたいな事を言わないでくれ。美紅の命は美紅の為に使うものだ。そして自分を道具のように言うのをやめてくれ」
「勇者としての力も振えず、本当にいつもここぞという時に何もできない私にどんな価値があるというのです」
消え入りそうな美紅の言葉だが、ちゃんと俺に届く。
俺はそっと美紅を抱きしめた。
「俺達は仲間であり、そして、家族だ。家族が一緒にいるのに意味なんか求めたりしないといけない?それに、美紅。お前のやり方はフレイのように俺に背負わせて逝くのと何が違うんだ?フレイはまだ初代勇者との約束があった。美紅が俺にそれをしたら、せっかく生き急ぐのを意識して止めるようになってきているのに止まれなくなるだろ?だから、いいんだ。今まで通り、少しづつ自分を見つめ続けて向き合えるようになっていけばいい。その時間は俺達が稼ぐ。だって俺達は家族なんだから」
いいんだ、と言いつつ、美紅の頭を撫でてやる。
美紅の堰き止められてた感情が噴き出すように幼子のように泣く。そして、脈絡のない美紅の普段、俺に思ってても言えなかったと思われる罵詈雑言が連発される。いつもすぐ突っ走るとか鈍感だとか普段はとってもだらしない、そして、女心の分からないスケベとか色々言っているようだがほとんどが涙声で判別できなかった。地味に俺の心を削ってくる単語がチラホラしているのは分かった。しかし、俺は思う。ティティもそうだったが、女の子は感情の堰が外れると罵詈雑言する決まりでもあるのかと俺は心で泣いた。
美紅が落ち着くまで抱き締めていたが泣きやむと自分から離れて行った。目を赤くしていたが単純に充血してるだけのようだ。
ご迷惑をおかけしましたと俺に顔を向けずに謝る。顔を合わせ辛いのだろう。
後ろを振り返るとルナが未だに生きていく楽しみがないのって呟きながら寝転がっていた。
「なんで美紅には罰がないのかと私は問いたいの」
おお、話の流れで忘れそうになっていた。正面を見ると冷や汗を流し逃げようとしてる美紅の姿があった。
「み~く~、逃げたら罪は重くなるけどいいのかな?いいのかな?」
俺がそういうと観念して近寄ってくる。
うんうん、と頷く俺はカバンをゴソゴソさせてあるモノを取り出す。これは2作目だが前の作品を超えるのではないかと俺は思っている。
「さて、今回も美紅には可愛くなって貰おうか?」
最悪の予想が当たったとばかりにビクっとして思わず逃げようとする美紅の手を掴む。俺は逃がさないとばかりに首を横に振る。
そして、カバンから最強のアイテムを取り出す。
猫耳バンドと肉球グローブ!!(ミランダ作)
嫌がる美紅に強制装着して、美紅を見つめる。俺は萌えを理解できてしまったかもしれない。コルシアンさんがいたら悶絶したのではないだろうか?
羞恥心が人一倍強い美紅には強烈な罰になる。
「それを明日の今の時間まで装着な?後、語尾はニャだからな?」
「そんなの長い時間は許してほしいです・・・ニャ」
俺は萌え死ぬという言葉を今日初めて体感として理解したと今日の心の日記に書く事を決めた。
ルナと美紅は見つめ合い、呟く。
「罰の交換を希望したい(ニャ)」
それをしたら罰の意味がないので勿論、俺は却下した。
その姿を遠目に見ていた王は余裕がある俺達を見て呆れていたがしかし、この王も大概であったのがこの後のセリフが物語る。
「うちの娘のほうがきっと似合うに決まっている」
この状況でも親馬鹿してられるこの王は大物であった。
感想などありましたらよろしくお願いします。




