69話 ルナVS美紅!
では69話になります。よろしくお願いします。
私と美紅はお互いお見合いをするように見つめ合い、身動きが取れないまま時間だけが過ぎていく。
私は美紅に怪我をさせるだけでも嫌だし、徹が現れるまで凌げればきっと好転すると信じてるからこの状態が維持されるのは私にとって最良ではないが悪くはない。
しかし、美紅は違う。
私を排除しないと王や宰相を斬る事ができない。私と本気でやり合うにも得物が心許なさすぎる。せめて、2代目勇者との戦いで壊れた武器が手元にあれば、全力が気持ちの上で出せない私と渡りあえて隙を付けば本当に排除できたであろう。あのミザリーから借り受けた武器では2割の力でも武器が当たる前に破壊されるだろう。
「多分、私が今の剣を使った攻撃ではルナさんに有効打を入れれないのは気付かれてますよね。しかし、それでも私は目的を遂げる術があります。もう1度言います。引いてはくれませんか?私はトオル君に怒られる事はしたくないのです」
「だから、言ってるの!今やろうとしてる事ですら徹に怒られるって最悪、顔も見たくないって言われる覚悟があってやろうとしてるの?」
否定も肯定もせず、美紅に響くと思う言葉だけをぶつける。
やはり徹の事になると表情が動く。今の言葉を想像して絶望を感じているようだ。
「トオル君はそんな事言いません。いつも誰かの為に体を張って頑張ってる彼を嘲笑うが如く、自分の欲を満足させる為に陥れようとする奴など消してしまえばいいのです」
美紅は腕から流れる血を必死に止め、脂汗を流す宰相に睨む。
「そんなトオル君に3度も助けられた・・・私はもう3度目はないっと誓ったはずなのに、また助けられました。でも今度こそは死んだように眠るトオル君を私が助けてみせます!」
3度?と私は疑問に思う。今回で2度目だと思っていた私は悩みそうになったが今はそれどころではない。
美紅も自分のやっている事が褒められた事ではないと自覚はしているが徹に何もできず、返す事もできない現状と2代目勇者との戦い、いや、相手にもされなかった事実が美紅を追い詰めているのであろう。
そんな美紅を見つめ、私は思う。
きっと徹はこれを見ると悲しむだろうと。
私は美紅に向けて拳を握りしめ、構える。
「私こそ、もう1度言うの。もう止めるの。美紅がやろうとしてる事は徹が悲しむ事なの。美紅も分かってるでしょ?そこで脂汗流す生きてる価値もないような男でも無闇に殺さず、適切な方法で罰する事をきっと望むはずなの」
美紅は俯いて、煩いと呟くと言ってくる。
「私が出来る事は勇者としての力を振い、トオル君の進むべき道の障害物をどける事だけです。それ以外の事はできないし価値もないんです!」
「馬鹿言わないの!美紅が作った料理を美味しそうに食べて、美味しかったって微笑んでた徹は嘘なの?美紅にお説教されて半泣きになりながら土下座していた徹は美紅の事をなんとも思ってない人だったらあんな事しないし、傍にいたりしないの。むしろ、徹は美紅の勇者としての力なんてなんとも思ってないの!」
美紅は顔をクシャっとさせると唇を噛み締め、泣きそうなるのを堪えるように再び俯く。
「もういいです。ルナさんを退けて、私の目的を遂げて自分が正しかったと証明してみせます」
顔を上げた美紅の瞳は紅く染まっていた。
私はその瞳を見て、やっぱり私の言葉じゃ止まってくれなかったと悲しんだ。徹だったらきっと美紅を思い留まらせる事ができただろうにと。
そして、私達は初めて訓練以外での真剣勝負をする。剣と拳が交差する。
美紅が斬りかかってくるのを余裕をもって避け、隙を見て腕や足を集中的に狙い、力と機動力を奪うべく入れていくが全て当てられない上、美紅は私より確実に打たれ強い。正直どの程度効果あるか疑わしいが今の私にはこれしかない。
美紅が後方に飛ぶのを見て、お互い距離を取った。
「やはり、全力が出せない以上、剣でルナさんをどうこうできませんね」
「当たり前なの。1割程度しか実力が発揮できない美紅に遅れを取るほど弱くはないの」
私の後ろにいる王が驚愕していた。
「1割程度でこれなのか・・・」
廻りを見渡すと既に王の間の原型はほぼなかった。後で王女に怒られる事を思うと汗が一滴零れる。城はほぼ半壊といった有様である。
それよりも恐ろしいのが徹である。これを見た徹がなんて言うか・・・以前に美紅とケンカになって出入り禁止になった店がある事を知られた時にされた「おやつ5回禁止令」を思い出すだけで震える。既に2回目で泣きながら許しを請う自分がいた事を私は忘れない。きっと今回は5回なんて軽いモノじゃ許してくれない気がする。まさか、6回?いや、7回とは信じたくない・・・場の緊張感を無視した私にとっての死活問題に頭を悩ませる。
うん、もう、美紅にちょっとヤツアタリしても神である私が許すと思うの。
「美紅、もうそろそろ終わらせるの。これ以上酷くなると私は何を楽しみに生きればいいか分からなくなるの」
私の言っている意味が分からなかったようで美紅は首を傾げたが気を取り直して言ってくる。
「いえ、そうはいかせません。今のルナさんのウィークポイントを突かせて頂きます」
持ってた剣を手放す。
そんな行動に出た美紅を見て私は硬直する。
「剣で無理だから私と同じで拳で来る気なの?それはいくらなんでも舐めすぎなの!」
「まさか、そんな愚かではありません。こうするのです」
美紅が手を掲げると炎の魔法が襲いかかる。あれは徹の大事にしてた本を燃やしたインフェルノだ。
だが、私は慌てず、風魔法のエアーシールドをを発動させて弾く。
「無駄なの。魔力は間違いなく私のほうが強いの」
そんな事は美紅も知っていたはずである。魔法とは覚えやすいという属性に偏りが出たりはするが優劣はない。水が火に強いような現実ではあるが魔法ではそれは適用されない。純粋な魔力が勝ったほうが強い。
「ええ、今のは確認しただけで効果あるとは思ってません。確かにルナさんは私の魔法より優れてます。ですが・・・」
小さな火の玉を天井に放ってぶつける。ぶつけられると天井が砕けて、私達に飛来してくる。慌てて、飛来してくる石などをエアーシールドを生み、弾く。
私は美紅を見つめ、まさかと呟く。
「はい、私はルナさんを倒すのが目的ではありません。後ろの2人の排除できればいいのです。ルナさんは自分に来る攻撃と廻りをカバーを同時にやって私に勝てるほど余裕があるでしょうか?」
ヤバいと思った私は美紅に近接戦闘を挑む為に踏み込むが、それを読んでいた美紅は自分の廻りに無数の小さな火の玉を生み出す。
「早めに諦めて、引いてくださいね。私はルナさんに傷を負わすのはできればしたくないので」
無数の火の玉が襲いかかってくるのを見てエアーシールドを生み出しながら私は徹に早く来てっと願った。
後ろにある城から激しい音が響き渡る中、私は兄様に必死に呼びかけをしていた。あの音からするともう城はダメかもしれないと思うが振り返ると現実が襲ってくるから見ないようにしている。
先程からの呼び掛けで、多少は反応をしてくれるようになったが起きる気配はまったくしない。水をかけたり、頬を張ったりしたが効果なしである。
隣でごそごそするミザリーに気付き問いかける。
「何かあったのですか?」
「いえ、すいません、鎧から胸が出そうになってたもので」
今のセリフが漏れた時、兄様に動きがあった。呟いたのだ。「オッパイ」っと・・・
私は凄まじく嫌な予感に囚われてたが確認も兼ねて兄様の耳元で呟く。
「あっ!ミザリーのビキニアーマーから胸が零れ落ちそう」
兄様は、再び「オッパイ」っと呟き、何かを探すように手を彷徨わせる。
私は悩む。多分、兄様が求めるモノを与えたら起きる気がするが、小さきとも女である私として容認していいものか悩む。しかし、後ろからする音が私に決意させる。
「ミザリーこちらにきてください」
私が何をしようとしてるのか理解しているようで引きつった顔をして近づいてくる。私は心を鬼にして頼む。
「兄様に触られてください」
分かってはいたが改めて言われて思わず、えー!と言って私に振り返る。兄様から視線を切ったミザリーの膝裏に彷徨ってた兄様の手があたる。そう、いわゆる膝カックンさせられたミザリーはバランスを崩したミザリーが手を振ってバランスを取り戻そうとしたが失敗して兄様に向かって倒れた。
兄様は持ってる男だったようでミザリーの豊かな胸に顔を挟まれていた。私は感情が凍ったのを自覚するとその光景を見て思った。窒息しちゃえばいいのにと。
先程までほとんど動かなかった兄様はミザリーを抱きしめながら立ち上がる。そして叫ぶ。
「ここは、まるでオッパイの桃源郷や!!!」
私はこの時、妹を止めようかと真剣に悩んだ。
感想などありましたらよろしくお願いします。




