68話 偽物容疑と美紅の暴走
では68話になります。よろしくお願いします。
「もう一度言ってみなさい!」
王女が怒気を隠さずに城の城門の所で待ち受けていた集団に噛みつくように怒鳴る。
私達は徹を乗せて馬車で強行軍でやっとの思いで王都まで戻ってきた。徹はあれから眠りぱなしでこれで徹をゆっくり休ませてあげられると喜びながら城へと向かうと王女の説明では、宰相直属らしき100名は超えてそうな部隊に出迎えられる。
ここまでなら、まあ、宰相の見栄なのか計算の為に周りに見せているのだろうでいいのであるが、王女の身柄引き渡しと私達の入城拒否だけではなく徹の引き渡しを要求される。
勿論、そんな要求は飲めないと言う事で王女が交渉の場に出ているが王女の怒気から分かるだろうが、向こうは同じ要求を繰り返すだけで王女の要望、質問説明をまったく相手にしない。ついに違う事を言ったと思えば、バカバカしい話を胸を張るように言ってきた。
「先程も申し上げましたが、宰相様こそユグドラシルに選ばれし使者です。それを偽る、トールという冒険者の捕獲と偽物の宣託の巫女であるティテレーネ王女の連行が我らの任務です」
王女は怒りのあまりに声が出なくなっているようだが、私は目の前の人物が只の馬鹿にしか見えずに呆れてしまっていた。
部隊の代表として交渉役に出てきてるぐらいだからこの部隊の隊長とかだったりするんだろうが、脂ぎった肌に若いのに薄い頭、出過ぎた腹に話すだけで汗が止まらない始末、明らかに戦える体をしてない。見た目だけでなく実力もないのは見ただけで分かるほど足捌きから既に素人以前の走る事も苦手なのが分かる。魔力も一般以下しかないから魔法で秀でた者ではない。間違いなく扱いやすさから選ばれた存在だろう。最悪、死んでもいい存在として送られていると分かるが本人は気付いてないだろう。
私は王女の肩を叩くと耳元で話しかける。
「目の前の男は道化だから真面目に話をするだけ無駄なの。一旦引いて様子を見るか、強行突破してサクっと宰相を締め上げるか、王様に直談判しかないと思うの。どっちにする?」
私にそう言われて悩む王女。
「一旦引いて様子を見たいのですが、様子を見れる状況を作れるとは思えません。しょうがありませんから、強行突破でお願いしたいと思いますが・・・あまり物を壊さないで欲しいのですが・・・」
「ん、分かったなの。まあ、物に関しては努力するなの」
私自身、正直上手くやれるとは思ってない。美紅を見ると怒りの為に無表情になっている。アレは頼んでもきっと聞いてくれない顔をしている。少し、怒り過ぎな気がする。
美紅に、なるべく壊さないように行くのっと言うが、
「今の私の前に立ち塞がるモノは全て壊します。物だろう者であろうと」
ミザリーから拝借したままの長剣に手を添え、ヤル気満々になっていた。
入れ込み過ぎな美紅が心配であったが、馬鹿が事態を進めてしまう。
「もう王女とは言え、これ以上、御託を聞いてはおれません。王女とあそこで寝てる騙りの小僧を捉えるのだ」
ドヤ顔をした隊長は部隊を動かそうとする。
それを見た私は阻止するべく拳を握るが、私が動く前に既に美紅が動いていた。
隊長の後ろの部隊を睨むと剣を一閃させる。おそらく私以外見えてはいないだろうが美紅が作ったカマイタチが部隊の中央に向かって飛ぶ。中心地で爆発が起き、石が土がそして人が舞う。土煙が晴れると立ってる者はいなかった。私の見立てだと死人はいなさそうだが、ほっといたら死ぬ人も出るかもしれないという被害のようだ。
そして、美紅は腰を抜かした隊長に剣を突きつける。
「誰が騙りの小僧ですか?」
あれは本当にヤバい、美紅は徹風に言うならマジギレしている。
隊長は廻りを見渡し、助けを求める。
「誰か、狼藉者が現れた!私を助けろ!」
無表情の美紅は隊長の左足太腿を剣で刺す。
悲鳴を上げる隊長の声が聞こえてないかのように剣を捻る。
「私の質問聞こえてましたか?誰が騙りの小僧ですか?」
再び同じ質問をする。
あのまま放置すると殺してしまいそうな美紅を見て、美紅の為に止める。
「そんな小物、どうこうしても意味ないの。そんなやつでも無駄に殺したと知ったら徹はきっと怒るの」
私がそういうと美紅の瞳に怯えが走る。
やはりなの、と思わず私は呟く。
美紅は徹に結界から救出されて、徹を生きる指針にして今まできたように思う。その徹を助けるつもりで2代目勇者に挑むが相手にされず、殺されようとした時に自分より実力が劣るはずの徹に助けられてしまう。今までですら生きる指針にしていたような人物から神格化してしまったのではないかと私は見ている。
ルナは知らぬ事ではあるがアローラに来る前にも徹に救われている事から拍車がかかっている事は分からなかった。
私は振り返って、眠る徹を見る。
早く起きて欲しいの。私では美紅の暴走を止められないかもしれない。いつもの美紅に戻るキッカケは徹じゃないと・・・
でも、今は私が美紅を最悪の状況にさせないようにしないと心で呟く。
「では、諸悪の根源の宰相か王に会いに行きましょう」
そう言うと美紅は剣を鞘に戻さず抜き身のまま、城の中へと歩いて行く。
「ティテレーネ王女、徹を頼むの。美紅が暴走しそうになってるから、徹に呼びかけ続けて!きっと暴走した美紅を止められるのは徹だけなの。それまで、私ができるだけの事をしてくるの」
王女が頷くのを見ると私は美紅を追いかけた。
城に入ると職務に忠実と言えば聞こえがいいが宰相の息がかかったものが私達を捉えようとやってくる。そんな輩が100いようが200いようが美紅の足を止める事すらできない。一振りで壊滅状態になっているがかろうじて今回も死人は出ていない。
美紅の中でまだギリギリのリミッターが効いているようだと私は判断する。しかし、それもいつまで持つのか分からないギリギリだ。
「美紅、落ち着くの。こんな強引にいかなくても私達なら普通に通れるし、あいつ等を無視した状態で通り抜けれるぐらいに余裕があるはずなの」
私は必死に美紅を説得しようとするが聞き入れる気がないようで相手にされない。
王の間の扉前に到着する。
ここまで来る間に宰相の部下だけではなく普通の騎士達が立ち塞がったが全て美紅の一撃で戦線離脱にさせられている。
美紅は扉の前に立つと重厚そうな扉を剣で一閃する。斬られた扉は派手な音を鳴らせて倒れる。
中に入ると宰相と話をしてたと思われる王がいた。
「何事だ、この王の間と知って抜き身の剣を持って現れるとはどんな無知者だ」
今の美紅相手に啖呵を切る。
「城に着くと手厚い歓迎を受けたので返礼に伺ったのですよ。最初で最後の質問になるかもしれませんのでしっかりとお答えください。表の件は王もご存じで?」
「エルフの王、変なプライドとかで意地を張らずに素直に答えるの。本当に不味い事になるの」
私は美紅の様子を見つつ、王へフォローを入れる。
宰相が叫ぶ。
「王よ、この不埒者の言葉に耳を傾けるのではありません。我らのエルフの沽券に係わります」
そういうと美紅が剣を軽く振って宰相の左手首を斬り飛ばす。宰相は悲鳴を上げてのた打ち回る。
「貴方には聞いてない。貴方の言い分は聞く事はない。王の返事の後で首を刎ねてあげる」
で、ご返事は?と王に返事を催促する。
王は生唾を飲み込むと迷わず言い切る。
「無礼者に答える答えなどない!」
そう答えるのを聞くと私は王へと馬鹿っと叫ぶと同時に王の前に飛び出し、前面を手刀で切り裂く。美紅が放ったカマイタチを分断する事に成功するが王の後ろの壁が破壊され何も無くなっていた。
「今の美紅に建前なんて通じないの。あれほど警告したのに何故、素直に言わないの!」
王は後ろの光景を見て震えている。
「本当は何も知らなかったのでしょ?」
私の言葉に王は頭が取れるのではないかというぐらいに頷く。
王の前に立ち塞がる私を見て不思議そうな顔している。
「何故、ルナさんは邪魔をなさるのですか?トオル君の敵は速やかに駆除しないと?」
「落ち着くの。王は何も知らなかったけど王として脅されて答えるのは沽券に係わるから意地を張っただけなの」
私の言葉を聞くと首を横に振る。
「トオル君の敵になる恐れのあるものは全て駆除します。ルナさんを倒してしまうと間違いなくトオル君に怒られてしまいます。だからおとなしく引き下がってください」
「駄目なの、徹はきっとこの状況を見たら怒るよ?だから思い留まって美紅!」
美紅は溜息を吐くと初めてではないだろうか?剣を構える。いつもは自然体で剣を持ってるという形だったのに・・・これって本気でこようとしてない?
「こうなったらルナさんは戦闘不能にしてから敵を斬る事にします」
やっぱりぃーーーっと心で絶叫する私。
早く、徹、起きてやってきて、じゃないと私・・・よりも先に城がなくなりそうな気がするの!と心で叫んだ。
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