67話 王都帰還
では67話になります。よろしくお願いします。
私は見ている事しかできなかったが、凄いとしか言いようがなかった。兄様は強いとは思っていたがそれはあくまで一般的な話で強いで超人ではないと分かっていた。身近な超人はルナさんや美紅さんのような人であった。それは間違いではないが、それを超える存在を前にするとやはり敵わない。そう、それが普通なのだ。
だが、兄様は違う。ルナさんが1撃で沈められる攻撃を受けても立ち上がる。どんな絶対的不利を示されても美紅さんのように折れない。そして、どうする事もできないと思われた事態を細い、とても細い活路を生む。
今、泣いている美紅さんに抱き締められて回復魔法をかけられている兄様。
やはり、兄様は風。普段は優しい風を吹かし、そして、ここぞっという時は追い風を吹かせ逆転の目を生む。
私の横で気持ち良さそうに寝るミザリーを見て、普段なら抑えられる苛立ちが我慢できず、蹴ってしまう。いつも、偉そうに任せてくださいと豪語する割に役に立った事がない。確かに実力はあるほうなのだろうが、私付きになってからお小言以外の仕事をしていないように思う。
私に蹴られた衝撃のおかげか分からないがミザリーが飛び跳ねるように起きる。
「ここはどこだ?あっ!姫様、ご無事で何よりでした」
膝を着いて頭を下げてくる。
今、そんな事をする前に何故、現状を理解してやるべきことを捜そうとしないのか・・・状況を考えて非礼を詫びたかったら言葉と簡易的な礼だけで良いでしょうに。
溜息を吐きそうになるのを堪える。
「今は、私の事より、貴方はルナさんの容態を確認して大丈夫そうなら起こしてください。兄様が重体です。ルナさんの力が要ります」
私の指示を聞くと立ち上がりルナさんの許へと走って行く。
兄様の容態が気になった私は美紅さんのほうに歩いて行く。
見ると顔は真っ白で血の気がなさすぎで危なそうなのに兄様の表情はやりきった男の顔をされてました。
これが、ユグドラシルの使者に選ばれ、世界を救う男の顔なのかと震える。
兄様は決してこんなところで終わる方ではない。だから心配していない。必ず、立ち上がると私は信じている。
後ろではミザリーに起こされて飛び跳ねるようにして兄様に駆け寄るルナさんが慌てて回復魔法を使っていく。今回は時間はかかりそうだが回復魔法だけでなんとかなりそうな雰囲気が漂ってるのを見て、胸を撫で下ろす。やはり、心配してないというのは間違いでした。宣託の巫女としてはしてないだったようです。一個人の私は・・・
恥ずかしくて頭の中ですら言葉にできずに茹ってしまう。
とにかく、私の導きは決してこんなところで終わる人ではないという事で自分を納得させた。
「とりあえず、峠は越えたと思うの。でも、やっぱりゆっくり休める所で静養しないとどこで容態が転がるように悪くなるか分からないの」
しばらく回復魔法を使い続けてたルナさんが一旦止めたと思ったらそう言ってくる。
勿論、異論などある訳がない。
だが、愚か者が1名いる事を今回はっきり認識させられた。
「それだけしっかり回復魔法を使ったのですから大丈夫でしょう。それよりも一旦、姫様の疲れを抜く為にに休憩を取りましょう。」
そのミザリーの一言で2人の雰囲気が一気に悪くなる。もっと言えば、殺気を放っていた。
何故、私でも分かる殺気をこのミザリーは分からないのかと驚愕する。
私は急ぎ、ミザリーに近づき、飛び上がるようにして平手打ちをした。
突然、平手打ちされたミザリーは目を白黒させて、姫様?と不思議そうな顔をして叩かれた頬を抑えた。
「貴方は目が見えないのですか?そして、この状況を理解する頭はないのですか?何が重要で何が最善かも理解できない上に生存本能も欠落している傍付きの騎士など要りません。今を以て、貴方は私の傍付きから外します。好きに1人で城に戻るなり、騎士を辞めるなり好きにしなさい」
私からの急な解雇発言にミザリーは固まる。解凍されたミザリーは噛みつくようにして私に考え直して頂きたいと言ってくる。
「貴方は本当に気付いてなかったのですね。今、1番しなくてはならないのは兄様の安全の確保である事も理解できず、あの発言をした事により、あの2人に殺気を放たれても気付かない鈍感ぷり。それともあの2人を敵に廻しても圧倒できるつもりでいたのですか?もし、そうだったらごめんなさい。貴方はとても優秀な騎士ですよ?私は多分、貴方の行動を支持して兄様に何かあったら魔神の前にあの2人にエルフ国は滅ぼされると思いますがしっかり守ってくださいね?」
本当に殺気に気付いてなかったようで慌てて2人を見る。先に行動に出た私を見ていくらか抑えてくれているようだが、ミザリーを震え上がらせるには充分だったようである。
その時、聞けると思ってなかった声がする。
「ティティ、それぐらいで勘弁してやれ」
気を失っていた兄様が薄目を開けて掠れる声で私に話かけてきた。私達、3人は兄様を呼ぶ。
「凄い殺気がしたから無理矢理起こされた感じになって意識がもう飛びそうだ。途中からだったが話だけは聞いてた。ミザリーさんはこれからの人だ。間違いを少ししたぐらいで解雇はさすがにやりすぎだ。取り返しが付く間違いはいくらでもしてもいい。俺も生きてる。そういう意味では、俺はティティに兄と呼ぶのを禁止にして目の前に2度と来るなと言わないといけないのか?俺は逃げろと言ったよ?」
私は兄様の言葉を聞いて絶句する。あんな状態でも他人を気遣う優しさに震える。
そして、私にミザリーを許し易い状況まで作ってくれる。
「ミザリー、2度目はありません。兄様に感謝するように」
ミザリーは、平伏して感謝の意を表す。
「それでこそ、俺の可愛いティティだ。後、ルナ、美紅、心配かけたみたいですまん。心配してくれるのは嬉しいがあんな殺気を発するなよ。オチオチ寝てられない」
ルナさんが涙声混じりな声で、ごめんなのっと優しげに兄様を見つめて、美紅さんは黙って兄様の胸に顔を埋めていた。きっと泣いているのだろう。
「悪い、そろそろ起きてるの無理っぽい。後は頼めるか?」
「はい、ゆっくりお休みください。次、起きたらベットの上ですぐに食事を食べられるようにしておきます」
私は目尻に涙が盛り上がってる事を自覚しつつも、もう目を閉じてる兄様に見えないと思い、そのままにして話す。
「その涙を拭いて頭を撫でてやりたいができそ・・う・・もない・・・」
兄様はとうとう意識を保てず、意識を失うようにして寝てしまった。
見えてなかったはずなのに私が泣いていると気付いてくれる兄様が嬉しく感じ、そして気付かれたくなかったと甘えた感情が自分を支配していた。
目元を袖で拭うと気持ちを切り替える。
「ルナさん、兄様を運ぶのをお願いします。そして、美紅さん私達が進む道の露払いをお願いします」
美紅さんはミザリーに腰にある長剣を貸してくださいと言って受け取る。ルナさんは兄様を抱える。
私は落ちている、兄様の双剣、カラスとアオツキを抱える。抱える私を見てミザリーが私が持ちますと言ってくるが首を振る。
「私の導きの相棒です。持ちたいのですよ」
にっこりと私は笑い、兄様の双剣を抱え直す。
「ミザリーは攫われてきたエルフの女性を引率して貰いたいので頼めますか?」
ハッっと礼を取ると荷物を漁り、女性の体を覆えるようにして動けるか、確認する。磔にされてた女性以外はそれなりに歩けると分かり、歩けない女性はミザリーが抱えて進む事になった。
そんな私を眺めていた美紅さんが声をかけてくる。
「では、行きます。遅れずに着いて来てください」
頷く私達を確認すると早足で歩く美紅さんを追いかけて通路を進んだ。
進路を塞ぐモンスターは無駄に叫ばす暇も与えないとばかりに美紅さんに瞬殺されていった。
駆け抜けるようにして洞窟を脱出した私達はトト村に一旦向かい、女性を家族や知り合いに任せ、治療の心得のある村長が体を確認して綺麗に洗ってくれた。
すぐに馬車を用意して貰い、兄様の寝床をしっかりと作るとすぐに出発した。
替え馬をしながら強行軍したおかげか2日目の夜になる前に王都エルバーンに着いた。
これで安心できる場所で兄様を休ませられると私達は安堵の溜息が洩れた。
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