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高校デビューに失敗して異世界デビュー  作者: バイブルさん
4章 ユグドラシルに導かれた者
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65話 千の苦しみの中の一の楽しみの価値

 では65話になります。よろしくお願いします。

 私は止まらぬ涙を拭く事もせずにひたすら走り続けた。兄様を置いて、ルナさん達に合流する為に言い付けを守るように走るが、兄様の全部言う通りにするつもりはなかったが、しかし、兄様はルナさん達と合流してもあの男、2代目勇者と相対しても勝てないと判断してたように思う。私から見ても常軌を逸した存在に見えた。

 正直、どうするのが正しい答えなのかは分からない。ただ、あの場にいて兄様を困らせてる選択肢を選ぶほど愚かでない。


 こんな時こそ、どうしたらいいのかというユグドラシルの宣託が欲しいところなのに、いくら心で問いかけても答えてくれる様子はない。兄様はユグドラシルの使者ではないのかと憤りかけた時に思い出す。そうだ、ユグドラシルは言ってたではないか。兄様はアローラを救う人物だと。

 ならば、まだ切り抜ける術があるはずである。


 私は泣いて、走る速度が落としている場合じゃないと袖で目元を拭う。目は赤くなっているだろうが涙を止める事に成功する。

 その可能性を上げるのはきっとルナさん達だと私は思う。

 

 一本道で迷う心配のない道を必死に走り続けた。




 私は徹と王女とあの通路(罠に落ちたとはあえて認めない)で逸れてから、飛び出したフロアをミザリーを抱えながら着地した。

 美紅もやっと降りれた事で落ち着けたようだが、目の前にいる貧相な顔した着てる服だけ上等という残念な頭の薄い役人風の男を見つめていた。


「なんで勇者がここにおるのだ。お前は結界の中にいるはず」

「どこかで見覚えがあると思ったら、王の間にいた人ですね。となると、貴方がモンスターを操ってエルフ国に攻撃していた張本人のようですね」


 美紅が目を細めて睨むとヒッと言って後ずさろうとするが何やら思い出したかのように剣を抜く。


「そうだ、お前は訓練でも戦う事ができない欠陥品だったな。恐れる必要などなかったわ!」


 イヤらしい顔をした男が美紅に斬りかかってくるが、美紅は溜息1つ吐いて剣を鞘から抜く。

 そして、2人は交差する。


「いつの話をしているのですか?ここにいる以上、昔のままというのは有り得ないと何故、頭が働かないのか」


 ボトリという音と共に男の肩から切り離された左手が落ちる。

 男はあまりの痛みで叫び続ける。


「死にたくなかったらモンスターを操っている道具を渡しなさい。渡せば命だけは助けてあげます」

「お前のような下賤な者に差し出す物など何もないわ!お前らはモンスターに喰われて死ね!!」


 男は脂汗を流しながら右手で懐を漁ると小さいオーブのような物を掲げるが美紅の後ろから飛んできた風の塊に貫かれて砕ける。


「操ってる道具の奪取、もしくば破壊・・で良かったよね?」


 私は美紅に確認を取る。

 美紅は私に頷いて答える。


「ええ、問題ありません。トオル君もそういってましたから」

「じゃ、ここでの目的も済んだから徹を捜しに行くの」


 私はお使い済んだから帰ろってぐらい軽い感じで言う。


 男は左肩を押さえながら、美紅に唾を飛ばしながら言ってくる。


「そっちの目的は済んだんだ。早く私の命を助けろ!」


 その男の声に振り返った美紅は不思議そうに返事する。


「道具を渡せば命は助けるとは言いましたが、渡さず、私達にモンスターをけしかけようとしたのを阻止する為に壊した場合は助けると言った覚えはありませんが?」


 そう言ってるとモンスターが集団で寄ってくる。最後の命令が機能しているのかもしれないと私達は身構えるが、私達を無視して男へと向かって行く。


「なんだ?お前ら、襲う相手が違うぞ、後ろにいる女共だ!こっちじゃない!!」


 どんどん群がられる男はモンスターの中心で断末魔の叫びを轟かせる。


「ああ、モンスターも操られている自覚があるから操ってた奴に恨みを覚えてたのかな?呪いみたいに失敗すると返ってくるみたいなの」


 自業自得と溜息を吐いて、ミザリーを抱える。背中で感じる大きな胸にやり場のない怒りに支配されるがグッと堪える。徹に会うまで胸など気にした事なかったのに、帰ったら徹を折檻してやるのっと誓う。


 私達は襲われている男を無視して下へと続く階段を降りて行った。



 そこから一本道だったようで迷いようがない道で安心しながら歩いていると前方から体重の軽い者が走る足音が聞こえてくる。

 私は美紅と顔を見合わせると王女の可能性を考えて、距離を詰める為に走りだす。しばらくすると王女の姿を確認するとどうやら蝙蝠のモンスターに追いかけられているようだが徹の姿がない。

 とりあえず、急ぎ、王女を助けて合流を果たす。そうと決まればと私は走りながらエアーブレットを使い、蝙蝠のモンスターを打ち抜く。

 そして無事、王女と合流を果たした。



 王女と合流を果たすとそこで聞いた内容を思わず聞き返してしまう。


「なんで、徹は私達に逃げろって言うの?」


 思わず、力の加減をミスして少し強めに肩を握ってしまったようで王女が顔を顰める。慌てて力を緩めると王女が説明してくれる。


「2代目勇者が魔神側に与したようで、3人で挑んでも勝てないと判断したようなのです。」


 私は絶句する。徹は私達の事を過小評価はしていない。自分の事は過小評価するのに、その徹が私と美紅が加勢しても勝てないと判断するぐらいに実力の差を感じているという事実に驚愕した。自分で言うのもなんだが、女神である自分に勝てる存在など片手で足りると思っていた。そんな自分と美紅と徹の3人でも勝てないと判断する相手など魔神以外にいないと今の今まで思っていた。


「兄様の考えでは2代目勇者は魔神の加護を得てるのではと見てるようです」


 信じられないという気持ちでいた先程の自分の考えを改めた。加護を得ているとなると話は別である。私は初代勇者が加護を得ている強さをよく知っていた。あれに近い実力があると考えれば、その可能性を否定できるものではない。

 魔神がどの程度の加護を与えたかにもよるが2代目勇者のポテンシャル次第では私達を圧倒するのも無理な話ではない。


 隣を見ると顔を青くした美紅が腕で自分を抱きしめ震えていた。

 向き合えない力を自由に扱い、しかも加護まで持っている2代目勇者を恐れているのであろう。向き合えない力の大きさは自分が一番知っているから。


 でも、そんな美紅だから見失わないで欲しい。


「しっかりするの。2代目勇者の恐ろしさを美紅が一番分かるはずでしょ?だったら今すべき事は震えている事じゃないの!そして、それに向き合って私達に逃げろっと言ってる馬鹿を思い出すの!」


 弾けるように顔を上げると私の顔を見る美紅。


「そうなの。美紅ほど理解が追いついてるかは分からない。でも、私達が3人で挑んで勝てないと思えるぐらいの実力に開きがあるという事を理解した上で私達が逃げる時間を稼ぐからと1人で向き合ってる馬鹿がこの先にいるの!」


 王女が走ってきた方向を指差す。揺れる美紅の瞳を覗き込んで私は問う。


「貴方はどうするの?美紅」


 唇を噛み締めた美紅は自分の頬を両手でパン!と良い音を響かせて私の目を力の戻った目で見つめ返して言う。


「どうやら、トオル君はまだお説教が足らなかったようです。まったく学習してません。今度は1日かけてたっぷりする必要があるので連れ戻しに行きましょう!」


 そんな美紅を見て、私は嬉しくって笑みが零れる。


 私達を見つめていた王女が確認するように聞く。


「良いのですか?多少の兄様の読みが違う恐れはありますが、行っても勝つ事は無理だとは思うのですがそれでも行くのですか?」


 無表情な王女が私達に語りかける。


「勿論、分かって行くの。ティテレーネ王女も行って徹を助けに行きたいのでしょ?でも徹に言われている事を守る意味で最終勧告してくれて有難う。そんな嫌な役をやらせた徹を折檻しに行くの!」


 無表情が崩れだしてる王女を抱きしめて、頭を撫でてあげる。すると声を上げずにポロポロと零れる涙が私の肩に優しくあたる。


 まったく、前にしっかり言ったはずなのに徹は分かってない。私達はたまたま集まっただけの集団ではないと言ったのにも関わらず、私達を蚊帳の外に置いて自分だけ危険に飛び込む。本当に馬鹿。


 もう私は、徹のいないアローラなどには興味はない。あの馬鹿を容認できない世界に価値があるのかと思っている。逃げるなら元いた世界まで逃げるだろうがそんな事はしたくない。徹と出会い、いっぱいの楽しいをしてきた。例え、これからどんな辛い事が待っていようと徹達と一緒なら千の苦しみの中の一の楽しいがあるなら私は笑っていける。


「さあ、美紅いくの!あの馬鹿の首根っこ捕まえに!」


 はいっと力強い返事を返す美紅。


 私達より弱い癖にいつも気付けば私達の前を走ってるあの馬鹿の背中を追いかけるために私はミザリーを抱え直して、2人に頷くと奥へと続く道へと走り始めた。

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