62話 いざ、行かん。湖の畔の洞窟
では62話になります。よろしくお願いします。
王都エルバーンを出て3日目の夕日が沈みかける頃にトト村に着くと美紅のお許しが出て、ルナが俺の筋肉痛を回復魔法で癒してくれた。
俺達は完全に夜になる前に寝泊まりするところを捜したかったので辺りを見渡す。
もう夜になろうとしてるせいか、村のせいか分からないが人が道を歩いていない。まるで人がいないのかっと言いたいが、建物からは人の気配がする。廃村とかではないのは間違いないが、なんとなく暗いイメージが付き纏う。
とりあえず、ここで立ってても何も得るモノはないから当初の目的の寝泊まりするとこを捜す為に歩き出す。
しばらく歩くと広場のような場所に出ると第一村人発見というか俺達を目指して歩いてくる。
そして、俺達の前に来ると土下座する第一村人。
「1度しか拝見させて頂いてませんが間違いありません、姫が直々に村の救援に駆けつけて頂けた事、村の代表としてお礼申し上げます」
俺達3人の視線がティティとミザリーに集中する。
ミザリーは首をブンブンと振ると胸もブルンブルンと振れて俺は眼福だったが進展はなしである。
礼を述べられているティティはさすが姫であった為か、表面上、いつも通りに見える。しかし、俺は気付いている。目が微妙に泳いでいると。
俺から事情を聞くのがいいのか悩んだがティティに任せる事にした。
ティティを見つめると俺の言いたい事を理解したようで土下座してる男に話しかける。
「申し訳ありません。何かがあって城へ嘆願状でも届けたと思われますが、私達がここを訪れたのは偶然です。今、ここにいるのも宿などを捜していただけなのですが、もしよろしければ、事情を説明していただけないでしょうか?」
あらかさまにガッカリした風ではあったが持ち直して、話しかけてくる。
「この村では宿などありません。私の家、あ、自己紹介が遅れた事をお詫びいたします。この村の村長をやっとります、デリデリと申します。宿などありませんので私の家で部屋をご提供させて頂きますのでいらっしゃってください。事情はその時にでも」
そういうと、こちらですと案内される。
俺達は顔見合わせるが選べる選択肢は多くないうえに、これを蹴る理由もないから着いて行く事にした。
村長宅に案内された俺達は、和を感じさせる囲炉裏がある部屋に案内された。
ティティにだけ藁で編まれたような敷物を用意されて座る。まあ姫だもんな。
綺麗なお姉さんが俺達に飲み物を配って行ってくれる。胸も大きくて言う事なしの包容力も感じる素晴らしさに鼻の下を伸ばしていると、村長に娘ですが2児の母親です、と説明され、俺は打ちのめされる。
そんな俺を見てルナはプークスクスと笑い、美紅は私は知りませんと言ってるような雰囲気でツーンとされて、ティティには鼻で笑われる。ミザリーに至っては汚物を見るような顔をされた。泣いていいよね?
俺達に飲み物が行き渡るのを待っていたらしい村長が俺達に話し出す。
「どこから話したら良いのでしょうか?まず、4日前に王都に向かった者の嘆願書をご覧になってきた訳ではないと言う事でよろしいのでしょうか?」
「ええ、私達はたまたま、ここから近い所で用があったから立ち寄っただけです。しかし、4日ほど前に出発されたとなると・・・」
俺達は顔見合わせる。ティティが言いにくいと判断したミザリーがその後の言葉を継ぐ。
「おそらく、その者が着いた日、王都はモンスターの大軍に襲われていた。国民にも少なくない犠牲が出た為、名乗り出ていても、しばらくは軍は動けないだろう」
「なんて悪いタイミングでアイツは・・・」
頭を抱える村長を見て、娘さんに目を向けると、私の弟なんです、と唇を噛みしめて説明してくれる。
「諦めないでください。その大軍は退けました。助かっている可能性もあります」
「そうですな、信じて待つとします。しかし、確か、国境沿いでもモンスターの大軍が出て軍の大半が出撃したと聞いてましたが、よく撃退できましたな」
村長がそう言うと、ティティは俺達をチラっと見ると話し出す。
「ここにいる3人のおかげです。特にこちらの男性は城に避難する民を守る為に城へと繋がる唯一の橋の前で命がけでモンスターの大軍を相手にして壊滅させ、オークキングとの一騎打ちで倒した猛者です」
俺をにこやかな笑顔で見つめて紹介するティティ。美紅に怒られて傷ついてると知っているのに、あえて突っ込んでくる我が妹はやはりSであった。
だが、第3者からすれば、姫にお褒めを受けた救世主なんだろう。目の前の2人からの尊敬の眼差しがとても痛い・・・
我に返った村長が再び、土下座をする。
「何か目的があってこちらに来られたという事を理解した上でも、お願いさせて頂きたい。この村で起こっている失踪事件の解決のお手伝いをしては頂けませんか?貴方のように強い人じゃないと出来ない事をして頂きたいのです」
村長の必死な訴えを受けて、ミザリーが姫に無礼だと怒鳴るが、村長はどうかどうかと頭を擦りつける。自分の息子の事も気になるだろうに、村人の事を優先させて、何もかもかなぐり捨ててでも嘆願する姿に男を感じた。国境沿いの村長ブロードさんとは大違いである。
ティティが縋るような目で俺を見る。ティティの目を見て頷く。そんな目で見なくても、お兄ちゃんは妹の為になら何枚でも一肌脱ぐよ?
前に出ているミザリーを下がらせると土下座をしている村長の肩に触れて話しかける。
「まずは事情を説明して頂けなければ何もできません。聞くからにはなんらかの手を打つとお約束しますので、落ち着いて話をしてください」
村長は笑いかけたティティに事情説明を始めた。
村長が語った内容はこうだ。
最近になって嫁入り前の娘がいなくなるようになったようだ。それ自体は珍しくはなく田舎に嫌気を差した若者が村から出ていく話は珍しくなかった為である。
しかし、それも1,2人であれば村人もヤレヤレといって終わっていただろうが、それが3人、4人と増えてくる。しかも嫁入り前の娘ばかりがいなくなっていく。さすがにおかしいと気付いた村の者達は村の有志を募って捜索を開始した。が、手かがりすら掴めない有様で終わる。
せめて、今いる娘だけも守ろうと家族が家に引き籠ったら、娘以外の惨殺死体が発見され、娘は消えていた。
そして、自分達の手に負えないと判断した村長は息子を王都へ向かわせる決意をして、今に至るようだ。
失踪はまだ続いているようで今日も1人いなくなったそうだ。
「そこでお願いしたいのは私達では捜索できなかった場所を調べて、そこが原因だった場合、解決して頂けないかという事なのです」
「その場所とは?」
村長が伝えた場所を聞いた俺は頭を抱えた。
ミドリ、お前なんか仕組んでない?と思わず愚痴らずにはいられなかった。実際のところ、相手が同じなんじゃないかなっとは思う。
俺を見つめてくるティティは受けていいかと俺にだけ聞こえる声で言われると頷く。
ミドリと村長に導かれるかのように湖の畔の洞窟に行く事になった。
村長宅で一晩泊らせて貰った俺達は早朝に湖の畔の洞窟へと向かう為に馬車に乗り込む。湖の畔まではいけるらしい。
出発して少しして俺は誰に言う訳でもないが呟く。
「只でさえ、大変な予感しかしないのに更に増えたな」
「申し訳ありません、我が国の事ばかりなのに兄様に背負わす事になって。」
辛そうに俯くティティに俺は慌ててフォローする。可愛い妹を苦しめる兄は最低である。
「面倒事が一纏めになったと思えば楽だって、分散してなかったのは良かったよ」
「纏めて、ドーンってやちゃえばいいの」
ルナがえへへと笑いながら言ってくる。
ティティは目の端に涙を溜めながら、有難うございますと言ってくる健気さに頭を撫でる。
「しかし、疑問も残ります。その潜伏している人物にそんな事ができるのでしょうか?トオル君から聞いた話だとモンスターを自由に操れる訳ではありませんから、こんな細かい事はできないはずです。しかも潜伏してるのに廻りに証拠をばらまくような事する意味が分かりません」
美紅がそう言ってくる。まったくの正論だと思う。相手がまともと前提すれば訳が分からないだが、天才の紙一重が相手だと想像するのも無理であろうと思う。
行ってみなければ分からないがとても嫌な予感がする。
「姫様、湖が見えてきました」
ミザリーが報告してくる。
洞窟で何があるのか、もしくばないのか、いや、ないということはないな。ミドリが言ってるからにはエコ帝国の馬鹿は少なくともいるはずだ。
俺達は馬車から降りる。ミザリーは馬車の馬のヒモを木に括りつけて簡易結界が発動する石を馬の近くに置いて魔物対策のつもりらしい。各自荷物を背負い準備が終わると俺を見てくる。
胸ポケットを弄って銀貨1枚取り出し、コイントスをする。落ちてくるコインを掴む。
表だったら・・・
掌を開こうとした時に気付いた。俺、どっちが表か知らないよ!
締まらないなって思いつつ、銀貨を元のポケットに戻す。
「お待たせ、行こうか」
みんなが頷くのを見て、俺達は洞窟へと向かって歩き出した。
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