61話 向き合うべきモノ
では、61話になります。よろしくお願いします。
ティティが王をねじ伏せて(怖くて、本当の理由は聞いていないので徹の思いこみです)一緒に洞窟まで行く俺達は特に問題も起きず、穏やかな馬車による旅路だった。
当面の目的地の村を目指している。その村の名前がトト村と言うらしい。その村から洞窟まで1時間という時間で着けるらしいのでそこを拠点として最悪、複数回のチャレンジしてみようかと思う。
馬車の旅は順調ではあったが旅が始まる前からチラホラおかしいと感じてはいたが、そこまで酷くなかったので気にしてなかったが、旅が始まり考え込むようになったと思ったら、時折、辛そうな顔をしていた。
そのおかしい人物は美紅である。その日の夕食の味付けを失敗するなど普段の美紅らしくないミスが目立ち始める。一晩経てば少しは落ち着くかと思えば、昨日より酷くなり、今も馬車の隅で沈痛そう顔をしている。
ルナやティティが話しかけたりしてるが建前上、笑ったりしているが傍で見てるほうが痛々しすぎて胸が痛い。
ギブアップしたルナとティティが俺に行けと目で訴える。同姓のお前達に出来ない事を俺に求めるとかどうよ!と強気にいけ・・・たらいいなっと思う今日この頃。
俺も心配してたので、美紅に近寄り、隣にドカっと音をさせる乱暴な座り方をする。
そんな座り方をする俺を見て何か用があるのだろうかという顔をして見るが何も言わない俺から視線を切る。
結構、深刻な事態かもしれない。そんな乱暴な座り方すれば、お小言が1つあって不思議ではないのに何も言ってこない。
本当のところ俺は美紅が何に頭を悩ましてるか実は心当たりがあった。程々であれば悩んで解決を自分でできればいいと思って見守ってきたがこのまま放置すれば結界にいた時の美紅に逆戻りな予感がする。
「なぁ、美紅。自分が勇者じゃないってのは意外とショックか?」
美紅のほうを見ずに美紅に聞こえるぐらいの小さい声で言うとビクっとさせる。怯えさせるような感じになってしまっているが、俺の見立てはそれほど外れてはないらしい。
「正確には勇者として向き合おうとしてたのにユグドラシルに否定されて、どこを見つめればいいか分からなくなってしまったとこだろ?俺はさ」
そう言うと俺は美紅の方に顔を向けると俺に縋りつきそうな少し紅くなった目をした美紅が俺を見つめていた。
俺は決して目を反らさない。
「美紅が勇者と向き合おうとしてたのを知った時からちょっと違うなって思ってたんだ。ただ、今まではそれと向き合う事でも同じかと思ってたけど、否定された事でグラついた。やっぱり違ったんだよ。美紅が向き合わないとダメなモノってのはさ。美紅はなんだと思う?」
そう俺に言われると瞳が揺れる美紅は唇を噛む。
「分かりません。トオル君には分かると言うのですか!」
先程、ルナ達に見せていた仮面が外れ、素の美紅の感情が表に出てくる。強い視線を俺にぶつけてくるが目を反らさない。
「正解かどうか知らないけど俺は思うんだ。美紅が向き合うべき存在は美紅自身だと」
俺の言葉に美紅の表情が凍りつく。
「勇者とか肩書と向き合うとさ、上っ面だけになちゃうと思うんだ。本当に大事なのは肩書の後ろにあるもの。つまり自分自身じゃないのかと思う。そこと向き合えればブレる事はないさ」
震える手で俺の服を掴むと目の端に涙を浮かべて聞いてくる。
「私に価値なんてあるんでしょうか?」
「当たり前だろ?あるに決まってるじゃないか。誰かがないって言ったらブン殴りにいってやるよ。例え、それを言うのが美紅でも俺は許さないぞ?美紅は美紅だよ」
有難うございますと俺の襟元を掴んで泣き崩れる。
俺にとって美紅は背と胸が小柄な可愛らしい子で頑張る姿と小さい胸が魅力的な女の子だ。
俺がうんうん、頷いているとさっきまで泣いていた美紅が据わった目で俺を睨んで掴んでいた襟元を持ち上げるようにして俺を立たせる。美紅の後ろのほうではルナとティティが頭を抱えている?何事?
-主よ、思ってた事を口にしてたようだ。主よ、死ぬなよ・・・-
最後の部分、最近聞いた覚えがあるけどニュアンスがかなり違うような気がする。とっても呆れられてる感じと諦められてる感じがヒシヒシとする。
「人の胸を小柄とか可愛らしいとか言いたい放題ですね?」
サァーと血の気が引くのを感じる。アローラにきてからの3度目のやらかしたがきました!しかも、こんなタイミングでか!
「美紅ちゃん?話せばきっと分かり合えると思うの」
寂しがりのウサギさんだと自分に言い聞かせて、美紅を見つめる。きっと効果あるはず!
「私は話し合いたいと思いません。最後に言いたい事があればどうぞ?」
必殺の寂しいウサギさん作戦を一太刀で切り捨てる。
俺は毅然とした顔で美紅を睨みつける。
「生きていたい!!」
目の両端からぶわっと溢れる涙。プライド?そんな言葉あるんですか?今の俺には必要なモノではありません。
「トオル君は運がいいと思いますからきっと・・・大丈夫?」
「お願いせめて言い切って!」
俺の言葉に反応せずに右拳を振りかぶって、にっこりと笑いかける。
「お星になってきてください!」
スローモーションで迫る美紅の拳を見つめつつ、昼間だから星なんか見えないってよっとくだらない事を考えて、美紅の拳が俺の顔にめり込まされ、吹っ飛ばされる。
見上げる空が高い事。空の青さを見つめる。
「綺麗だな・・・」
-あるーじーーーーー!!-
俺を心配してくれるのはカラス。お前だけだよ、と呟いて俺の意識はブラックアウトした。
「ぶは!夢か!恐ろしい夢を見た」
左頬が焼けるように痛いがきっと幻痛。だって夢だったはずだから。
-おお!主よ、目を覚ましたか!一時は死んだかと思ったぞ-
カラスの一言で否定したい過去を現実として認識させられる。
認めたくない真実を直視し、渋々、カラスに尋ねる。
(みんなは?それとどれくらい時間経った?)
-そのまま、去っていったぞ。あの小さき姫が道沿いにくれば迷いませんとか言っていたから全力で走れば1時間あれば追い付くと思うぞ。気絶してたのは20分ほどだー
俺は溜息を吐き、みんなを追いかける為に身体強化を程々(・・)にかけて走り始める。1時間も全力疾走とか死ねるからね?
それから2時間ぐらい過ぎ、お昼も終わるぐらいに出発の準備をしている美紅達を発見する。
やっと追い付いた俺はみんなの傍に近づく。
「やっと追い付いた・・・疲れた」
「自業自得です。反省してください」
まだ顰め面の美紅はプリプリと怒ってくる。ルナとティティは苦笑している。ミザリーに至っては俺を空気扱いである。
そして、出発という時に馬車に乗り込もうとすると美紅に剣を突きつけられる。
「夕飯まで訓練です。私が魔法で狙い撃ちますから頑張って馬車に着いて来てください」
「無茶言うなよ!着いて行ける訳ないだろ?」
やってられるかと、剣を避けて乗り込もうとする。
美紅は無表情なのに目が紅く煌めかせる。正直に言おう、マジで怖い。
「強制参加です。着いて来れなかったら・・・明日もやります」
美紅主催の俺だけの舞踏大会の開催された。
程々(・・)の身体強化じゃ殺されると感じるのに時間はいらなかったと言っておこう。
絶対、美紅だけは怒らせないようにして生きていくと心に刻み、俺は涙を迸らせた。
その日の夜の事をカラスは後日語った時、こう言う。
ー見た目で生きてると思えず、生命探知を使ってかろうじて生きていると分かるレベルだったー
生きてるって素晴らしい。
次の日は一日中、筋肉痛で苦しんでたが誰も回復魔法を使ってくれなかった為、もがき続ける。
そして、日が落ちる頃に俺達はトト村に到着した。
感想などありましたらよろしくお願いします。




