58話 無双される野郎達。勿論、俺も。
では58話になります。よろしくお願いします。
しかし、まさかエコ帝国ではなくエルフ国で美紅の正体がばれるとは思ってもなかった俺達はエルフ国の王と重鎮達になんて言えばいいか分からず、沈黙を守る形になって、向こうも聞くべきが悩んでるようでこう着状態に陥ってしまっている。
その中で不動な人物がいた。我が妹のティティである。
「お父様、悩むぐらいならお聞きになられたらよろしいかと。兄様も聞いたらきっと答えてくれます」
「そ、そうだな。聞く事にしよう。それとお前が言ってた意味は兄としてなのか、びっくりさせないでくれ」
王が別件ぽい話に胸を撫で下ろしてるようだが何なんだろう?
ティティは、え?っという顔をしたと思ったら澄ました顔して王に答える。
「いえ、成人するまでの呼び方です。成人したら、ア・・・」
「ええい、その先は言わせはせん、言わせはせんよ!!」
王の必死さに俺達3人は茫然とするが廻りの重鎮は苦笑している。きっと日常でよく見かける光景なのだろう。
王は仕切り直しのつもりか、コホンと咳を一つして、無駄にキリっとさせてくる。先程のティティに翻弄されてた姿が鮮烈なせいでピエロに見えたが気付かないフリをしてあげるのが優しさかもしれない。
「すまない、取り乱したようだ。最初に確認だ。トールといったな?後ろにいる黒髪の少女は本当に勇者なのか?」
隠しようもなさそうだし、意地になって隠そうとして無駄に信用失くすのもバカバカしい。素直に答える。
「はい、勇者で美紅と言います。証明する術はありませんが本当です」
そう、俺が言う。
俺の後を継いで、美紅が改めて名乗って前に出てお辞儀して、また元の位置に戻る。
「一応の確認だったから証明は必要はないし、我が国の者が勇者を封印の儀で見てるはずだから正直疑っておらんよ。だが、美紅と言ったか?お前に聞きたい。トールがそれなりに強いのは私も見て知っているが勇者である美紅と比べたら、かなり見劣りするはずだ。なのに、お前はトールの後ろに控える?悪だくみをする為にトールを利用する人物には見えない。説明して貰っても良いだろうか?」
一回下がった美紅が前に出て一礼して話し出す。
「私がまず、結界の中ではなく外にいる理由から言わせて頂きます。簡潔にあの場に封じられてた魔神の欠片をトオル君達が倒したからです。私はトオル君に会うまで突撃ウサギと戦う事すらできませんでした。だから魔神が怖かったのです。勝てるか分からない相手は勿論、勝てる相手ですら怖がり、だから私は封印の材料にされたのです」
何かを思い出すように美紅は目を閉じて、続きを語る。
「そんな結界の中で朽ちていくのだろうと思ってた時に現れたのがトオル君達です。魔神の欠片を倒して私を連れ出してくれました。今のトオル君は強くなってキング種とも戦って勝てる強さを得ましたが、当時のトオル君はオーガにもおそらく勝てないぐらいに無力でした。普通ならオーガにも勝てないのに欠片といえど魔神に挑むなんて自殺するのと同義と思う方が多いと思います」
そこで一旦止める美紅。
廻りを見渡す。頷く人達がちらほらいる。
「しかし、トオル君は引きませんでした。実力の違いが理解できなかった訳ではありません。しかし、魔神を正面から挑み、怯まず戦い続けました。本人はひたすら挑発して避け続けただけといいます。この中で当たれば確実に死ぬ一撃を目で追えない速度で襲ってくる相手を挑発し、避け続けられると言う方がいたら、名乗り上げてください。私にはできません、特にその時の私は敵意を向けられる事すら恐怖してました」
騎士連中が一斉に視線を足元へと逃がす。できないのだろう。俺もそんな大層な事を考えてやった訳じゃない。そうするしかなかっただけである。
「心の強さに比べたら武や魔の強さなんて協力し合えばなんとでもなります。私は心の強さが素晴らしいトオル君に可能性を感じて着いて行こう決意しました」
美紅は言いたい事を言い切った良い顔して元の位置に戻る。
廻りの俺の見る目がガラっと変わったのを感じて居心地悪さを感じた俺は言う。
「美紅の俺に対する評価は過剰なとこがあるので程々に聞いておいてくださいね?」
そう言う俺の後ろで、心外です、私が過剰ではなく、トオル君が自分の事を過小評価してるだけですと怒る。
ティティが澄まし顔で王に言う。
「良かったですね、お父様。1つの事を聞いただけで同時にいつくかの疑問を答えて貰えて?」
王はティティにグゥの音も言わせて貰えないようだ。同じ男としてちょっと可愛そうに思えてきた。
ちょっとフォローをしようと口を開きかけるとティティにニッコリと笑われ、目で余計な事は言わなくて良いのですと言われた気分になり沈黙させられる。
女は小さくても女って前に言ってる人いたけど、本当にそうみたいだ・・・
「まだ質問したい方はおられますか?まあ、聞けば聞くほど自信を失くす事になるかと思いますが?周りの方を追い詰めるようで申し訳ありませんが私から美紅さんに質問が1つ」
美紅と同じように廻りを見渡す。
「美紅さんは兄様となら魔神に勝てると思ってらっしゃるのですか?」
「勿論です。私が信じた可能性ですから」
美紅は迷いのない笑顔で答えるのを見てティティも微笑む。
どうして、俺の廻りには俺を過大評価する人が集まるのだろうか・・・
勿論、魔神をどうにかする気満々ですけど、身近にあるプレッシャーって凄いのよ?
「後1つ付け加えときます。王である、お父様には伝えましたが、兄様、トール様は私がユグドラシルから宣託で知らされた、ユグドラシルの使者とここで明言させて頂きます」
先程の美紅の説明では静かに驚愕してた感じに見えたが、ティティの落とした爆弾はその場で騒然とする破壊力だったようで、みんな驚きすぎて収集つくのか?という有様になってしまっている。
俺の後ろにいるルナがボソっと言う。
「エルフにとってユグドラシルは神のように扱われているのに、私の扱いとだいぶ差があるの・・・」
俺はなんてフォローしていいか分からないので聞こえてないフリをするが、聞こえてるんでしょ?と呟きながら俺の服を引っ張るルナが怖い。
ティティが静かにと呟くだけで、その場の騒ぎが収まる。ティティさんハンパねぇっす。
「ユグドラシルの使者である、兄様にはこれから宣託の間に入って貰います」
「お待ちください。宣託の巫女である王女を疑う訳ではありませんがあそこに入れる者は特別な者だけです。無闇やたらに入れようとして良い場所ではありませんぞ!」
なんとなく見た目から宰相といった感じな人がティティに物言いをつける。
「ええ、その通りです。選ばれた者しか入る事ができません。そして、選ぶのは私達ではなくユグドラシルです。選ばれてない者が入ろうとしたらどうなるかは、こっそり度々チャレンジしてる宰相、あなたはよくご存知でしょうに?」
口元を手で隠して笑ってるのを見せないようにしてるようだが、目まで笑ってるから誤魔化し切れてないし、なんとなく隠す気もない気がする。多分、勝手に入ろうと普段からする宰相がきっと嫌いなのだろう。
その事を知られてると思ってなかったらしい宰相は顔を青くさせて後ろに下がる。
本当に勝手に入ろうとするのはまずいらしい。価値観がイマイチ分かりにくいが、神社の中で神主さんしか入ってはいけない所に勝手に入るのと同等かそれ以上に不味いのかもしれない。宗教的な戒めという意味か実利か分からないが。
宰相をやり込めた、ティティは俺には天使かという笑顔を向け、手を差し伸べる。
「では、兄様。宣託の間にご案内しますので着いて来てください。多分、ルナさん達も入れると思いますので一応ついて来て頂けますか?」
俺はティティに誘われるままついて行こうとした時、俺に絡みつく視線を向けてくる者が2名いた。
1名は先程、ティティにやり込められた宰相で、嫉妬、憎悪、敵意といったマイナスの気持ち悪い感じがする視線を浴びせかけられる。他のエルフからは特に強い感情をぶつけられない。
あの宰相は何か危ないと俺のカンも言う。注意だけはしておこうと心に秘める。
特に何も気付いてない顔をして俺は入ってきた扉と違う扉にティティに案内されて出ていった。
ちなみにもう1人は、娘はやらんぞ!と呟く王の視線だった。
悲しき男親の呟きを聞いて、切なさMAXになったのは言う必要はないだろう。
ティティに案内されて着いた場所は大樹の幹の部分しか視認できない大きさのモノがあった。
これだけ大きかったら外から見た時にでっかい大樹が見えたと思うのだが来る時には気付かなかった。
そんな事を考えて上を見上げてるとティティがクスって笑って教えてくれる。
「必死に上を見上げてもどんなに視力があっても見える事はありませんよ?そういうものと思って貰ったほうが混乱しないと思います。だから、外から何も見えなかったでしょ?」
そう説明してくれるティティの言葉をルナが補足してくれる。
「途中から違う次元に繋がってるから見えないのは当然なの」
俺と美紅は2人を感心して見る。特にルナから次元とか言葉が出てくると思わなかった。いつものルナを見てると不思議パワーとか言いそうだからな。
「では、兄様。あそこに見える大樹の洞から入って頂けますか?そこからユグドラシルに会いに行けます」
指さされた場所を見ると人が1人通れそうな洞がある。
俺は言われるがまま、洞に近づく。何かに呼ばれている感覚がある。
後ろを振り返って、先に入ると言うと3人に頷かれる。
俺はここで何を聞き、何を見るのだろうとドキドキしながら入っていった。
感想などありましたらよろしくお願いします。




