4話 騎士から山おっさんにクラスチェンジ
では、4話です。よろしくお願いします。
無精ひげを生やした、おっさんがヒロインが泣いている傍で葛藤する物語の主人公に、「男ってのは女の涙を何人止められるかが男の価値が問われる。」と、語って物語の主人公に苦笑いしながら伝えるのを見て、いつか、俺も実践する時のイメトレに勤しんだ。イメトレの中ではロリからお姉様まで網羅する人数をこなしてきた。俺ならやれるという自信に充ち溢れていた。
そして、今日、男の価値を上げるチャンスが到来した。
さあ、始めよう。俺という物語を語ろう。
ゴメン、無理。
だってね、世界中の人にハブられた女神の涙を止めるイメトレなんて想定すらしてなかったって!何より、そんな世界規模な問題に俺が何ができる?
なんというか、さっきの話の流れからすると勇者と魔神のことについてルナは神託をアローラに配信してたぽいけど、おそらく誰も聞いてなかったというか聞く気がなくて耳栓をしてたのに等しいようだ。
うん、ルナに介入するには俺の戦闘力では無理と判断して、おっさんに理由と内容を聞いてみよう。
「なぁ、おっさん。そんなもん付けてまで神託を聞きたくないもんなの?どんな内容なんだ?」
「なんだ?変な事聞くんじゃな。このペンダントがなければ24時間エンドレスで流れる神託聞きたいと思うのか?小僧も聞いた事・・・ん?ペンダント着けてないようだが、平気なのか?」
24時間エンドレスで聞かされてたら、安眠妨害にストレスでおかしくなるよな。なんとか、聞こえなくなるように試行錯誤するのは必然だよな、やらかしてるよ、ルナさんよ。
さて、ペンダントについてはどうしよう?正直に話すと色々、話さないとダメな内容が増えてくるし、異世界人ってばれたら、どういう扱いされるか分からんからないし、目の前に女神もいますよ~って言える訳もないから、当初通りゴマかしていこう。
「神託って聞いた事ないぞ?俺いた島でそんな話聞いた事ないし、ペンダントなんか着けてる人なんて少数の女の子ぐらいだったぞ」
俺のいたところは島国と言われていたから完全な嘘は言ってない。嘘というはほんのちょっとの本当を混ぜると騙しやすいって言うからな。
島って言っておいたら、大陸と違って神託が届かない辺境みたいな場所があるのか?ちょっと思わせれば、こっちのもんである。
「神託が届かない地域があるなんて聞いた事がないが・・・じゃが、ペンダントを着けてないなら今、神託が聞こえてるのじゃろ?」
「聞こえてないぞ。おっさんは聞こえてるのか?」
「ペンダント外せば、当然聞こえるはずじゃ」
そういうとおっさんはペンダントをテーブルに置いた。
「ん、おかしい。神託が聞こえん。なぜじゃろ」
おっさんは腕組みしてウムムと悩みだす。
聞こえないのは当然である。なぜならば俺の隣で涙ぐみながら膝の上でグーにして俯いてる方が神託を届けているのである。
まさか、おっさんも神託を送ってる女神が目の前で鼻をグスグス鳴らしながら俯いてるとは思うまい。ナイス擬態だ、ルナ!うん、分かってる。突っ込まないでね。
「で、おっさん、神託はどんな内容なんだ?」
悩んで分かりそうにないというは棚上げにしたようで、組んでた腕を解いて話してくれた。
「まあ、簡単に言うとじゃ、勇者を魔神の封印の触媒にせずに力を合わせて魔神を討伐せよ、と言った事を延々と聞かされたのじゃ。正直、神は洗脳を狙ってるんじゃないのかっていう意見があるぐらい聞かされるんじゃ」
ルナさーん、アウトです、完全にアウトです。
もうね、神託を防ぐ手段がなかったらアローラ人にとって魔神と同じように危険物扱いになりかねないって。本人はそんなつもりはなかったのは想像できる。だって、そんな策略とか狙ってできるような賢い存在って信じられないしな。
封印の触媒が勇者か、それって人身御供だよな。触媒って言われている勇者と力を合わせて討伐しろって言うぐらいだから、きっと強いんだろう。触媒にされる存在が勇者と呼ばれるってなんか皮肉を感じる。説明はできないけど嫌な予感がする。
「勇者ってどんな人がなるんだ?」
「どんな人というか、異世界から召喚された人物が勇者と呼ばれるんじゃ」
俺は、雷に打たれたかのような思いをした。俺も召喚されたようなもの、異世界からきたことは同じだ。召喚されたってことは本人の意思できた訳じゃないはずだ。それを人身御供にされている。
「異世界から召喚された人が封印の触媒にされることに納得してなっているのか!なってる訳ないよな、自分の世界でもない上、見ず知らずの人のために犠牲になるのを進んでなる人なんていないよな!」
おっさんとルナの肩をビクっとさせる。
アローラの事をアローラ人が犠牲になって、平和が維持される世界というのも容認するべき内容ではない。それがまして違う世界からきた者を犠牲にして守られるモノが平和って呼ばれるものじゃない。
おっさんは、俺から目を反らして、歯を食いしばり答える。
「歴代の勇者がどういう思惑があったり事情があったかは分からんが、少なくとも今代の勇者は触媒にされるということを知っていたようには見えなかった。」
「おっさんはそれで正しいと思ってるのかよ!」
おっさんを見つめる俺を見ながら鍋を食べてた時の残りのエールを一気飲みする。
「正しいか、間違ってるかなんて分かりゃしねぇよ。そうしないと世界滅ぶということ以外はな。初代勇者は魔神討伐にアローラの強者と共に向かったが、存在を3つに分けて封印するのが精一杯だった。それも紙一重の勝負だったと伝えられてる。負ければもちろん、世界の終焉だ。封印の触媒に用いれば50年は魔神の脅威に怯える必要はない」
「だからといって、それでいいって言えるのかよ」
「だから、分かりゃしねぇって言ってるだろう。ただな・・・」
エールを手酌して、また一気飲みする。
「今代の勇者の少女が封印の儀式の光に包まれていく時の顔が忘れられんのじゃ。勇者といえば強者の代名詞とも言えるに関わらず、本来の騎士が守るべき弱者を思い出すような小柄な少女だった。近衛騎士である、ワシはそんな絶望に包まれる表情をしてるものを助ける事も手を差し出す事もできんかった」
懺悔する信者のように顔を伏せて次の言葉を捻りだす。
「勇者、いや少女の顔を思い出す度に騎士として剣を握る事ができんようになって騎士をやめてここにいる。そこの窓を見てみろ」
そう言われて、窓の外を見る。月が二つさっき確認した窓だった。
「あの月がかかってる山があるじゃろ、あそこに勇者が触媒として封印の地に使われた場所じゃ」
俯いてたルナが窓の外を見つめていた。それを見て、何故か分かった。いや、分かって当然かもしれない。
この世界、アローラについて初めての目的が生まれた。
「すまねぇ、おっさんが悪い訳じゃないのに責めるような事を言って」
「いや、神託も聞いた事もなく、島で生活してた小僧には納得しづらい事だろうしの。ワシも今回の事を体験するまで疑問にも感じなかったぐらいじゃ」
少しすっきりした感じのする、おっさんがいた。もしかしたら、この話をしたのが俺達が初めてなのかもしれない。おっさんも苦しんでいた、現在進行形でだ。今まで生きてきて常識のように感じてた事がヒビ割れを感じた出来事だっただろうし。
俺達の目的地は決まった。アローラにきたらイノちゃんに追いかけられるわ、クマ(おっさん)に会うわで何をするかと考えてなかった。行って何をするかなんてもちろん考えなんてない。どうするのが正しいとかも分からない。行ってから考える。
「おっさん、封印の場所に行くのにどれくらいかかる?」
「行くのか?だが・・・いや、言う必要はないじゃろ、それよりも川に落ちた時に荷物は流されたんじゃないのか?」
あ、そういえば、今日の飯にも困るような身の上だった事を思い出す。誰かのためとか以前に自分の面倒もみれない情けない状態である。
イノちゃんの肉とか売ったらどれくらいになるんだろう。いい値段ついても旅をする資金には心許ないだろう。なんらかの稼ぐ手段を探して旅の資金を集めないとな。
「肉を売ったらどれくらいで売れるだろ?後、旅の資金稼ぎにお勧めの仕事ないかな?」
「そうじゃな、山を降りたとこにある町で、肉は叩き売りしても銀貨1枚にはなるじゃろう。下手な場所で売ると騙される可能性あるから冒険者ギルドで売って、ついでにそこでギルドに登録して旅の資金稼ぎすればいいしの。ギルドに登録すると身分証明が楽になるから町の出入りが楽になるぞ」
ちなみに銅貨、銀貨、金貨といった順番に価値が上がって100単位で代わるらしい。銅貨5枚ほどで食堂でランチメニューが食えるというので1銅貨が100円ぐらいの感覚でよさそうだ。この結果から導かれる、とある事実が判明した。おっさんとした肉の取引は、やはり損してたようだ。チキショウ、あのおっさんいつか痛い目にあわせてやる。
「明日になったら、町まで連れて行ってやるから、今日は早く寝とけ。嬢ちゃんはそこのソファを使っていいぞ。小僧は特別に個室を貸してやろう」
ついてこいって言う、おっさんに言われて付いていく。
「徹だけ個室ってずるいと思うの」
落ち込みから復活したのか、頬を膨らませてプンプンっていう擬音が聞えそうな顔してルナが付いてくる。
ルナさんや、男には個室じゃないと困る事が多いのだよ。ふっふふ。
ここじゃと言いつつ扉を開けた。
2畳ほどの広さで山小屋に相応しいものが陳列される、これが風情というのでしょうか。あちらをご覧になってください。なんとまあ、薪を割るために使うと思われる斧が立てかけてあります。獲物を仕留めるために使うのでしょうか、槍や弓が壁に引っかけられているはありませんか。ってか物置だよな?ここって個室を羨ましがってたルナに譲ってやろう。後ろを振り返るとさっきまでブツブツ言ってたルナが玄関の扉を開けて中に入っていく姿があった。逃げやがったあの女神。
「小僧、明日は早いから早め寝ておけよ」
毛布を俺に放ると物置から出て行った。
起きててもする事もないから、おとなしく寝るとしよう。
初めて異世界で町と人々に会えるのを楽しみしよう。おっさんは人認定しない方向で考えながら眠りについた。
この調子だと次は2,3日で書けるかもしれません。間に合ったら投稿します。
感想などありましたら、よろしくお願いします。