52話 美紅の逆鱗
普段、おとなしい人ほど怒らせると怖いものです。あなたも気を付けていきましょう。
では52話になります。よろしくお願いします。
先程まで人の営みを感じるような喧騒が聞こえていたが、少し前に騒がしくなったと思ったら誰もいなくなったかのように静けさに包まれている。
誰も住んでない建物を勝手に拝借して私は椅子に腰かけている。
「姫、もうモンスターを阻む結界は持ちません。今なら私が道を切り開いてみせます。直ぐにもここを発ちましょう」
私、専属の武、魔とも優れたとエルフ国でも指折りの女騎士のミザリーが私に言ってくる。
しかし、私は首を横に振る。
「いえ、ユグドラシルが見せて予知では、ここで出会う人物がいなければ我らの国は滅ぶと伝えてきてます。その為の私の身が危険に晒されるぐらいなんでもありません」
新緑色の髪を後ろで束ね、地面に着きそうな長さで、まだ女性としての成長は始ってない幼い体に育ちの良いところの子が冒険者の格好をしてます、といった格好をしてるせいもあり、少年と見間違う者もいるだろう。しかし、顔を見れば愛らしさから少年と思う者はいず、更に左右の瞳の色が違い、髪と同じ新緑色と金色のオッドアイが少女の神秘性を高めるかのように煌めいている。
私はティテレーネ。エルフ国の第1王女であるが国ではそっちの身分で紹介される事は少ない。ユグドラシルの宣託の巫女と呼ばれる事が多い。宣託の巫女と呼ばれる者には共通点があった。緑の髪をし、左右の瞳の色が違うというのが証拠と言われている。だから私は生まれた時から神の代弁者の如く祀られてきた。
確かにユグドラシルからの予知という形で宣託はある。だから、その予知を代弁するのはいい。それで誰かが幸せになるのであればと思っている。
しかし、宣託の巫女とレッテルが私と他の者との距離が開く原因になっているのが辛い。それは他人だけに関わらず、家族すらである。今、目の前にいるミザリーはその中でもマシなほうではあるが、それも職務に忠実さからきてるだけである。
そんな寂しさに包まれる日々を送っていると予知が降る。今までの予知は曖昧さがあったが今回の予知はより強くユグドラシルの意思を感じた。
エルフ国の滅亡へのカウントダウンを知らせる予知。そして、それを止める事のできるユグドラシルの使者が1カ月後にエコ帝国との国境沿いの村が地図から消えそうな出来事のなか出合うと予知してくる。そして、この先が私の心に刻まれた予知だ。
その使者は救うのは国だけに非ず。アローラを救い、そして、汝の心をも救うであろう。
ユグドラシルはその使者が私の導きだと伝えてきている。どうしても会わなければならない、いや、会いたい!
そして、今日がその1カ月後だ。
村の結界が軋むような音のようなものが聞こえる。モンスターの数が増えているのかもしれない。しかし、私の心は揺れない。ユグドラシルの予知で知らせた使者がきっと近くにきていると信じているから、耳元で騒ぐミザリーの言葉を聞き流し、その時を待ち続けた。
村へと戻るためにモンスターの群れに再び突入してる俺達だがカラスの一撃が使えない為か先程のような速度は出せないが村の入り口付近に到着する。
「徹、モンスターが増えて、結界の限界が早まってるの!」
「どれくらい持ちそうか分かるか?」
俺はルナに問いかける。
「持って2時間、でも1時間しか持たないと思ったほうがいいほど怪しいの。モンスターもどんどん増えてきてるみたいだから」
ゆっくり探索してる訳にはいかないようだ。ただ、気になってきただけにどこから手を付けたらいいものだろうか。
辺りを見渡すと、ゴシックロリータといった格好をした小柄な白髪の髪を腰まで降ろしてる可愛らしい女の子が広場の真ん中で見渡しているのが目に入る。
あんな子さっきいたか?と思ったがこんな状況で放置する気にもならず、嫌な予感はするが飲み込んで近づく事にした。
「君、こんなところにいたら危ないよ。すぐここの結界も破壊されてモンスターが流れ込んでくるよ?」
そう俺は声をかけると、ルナ達がその子に近づこうとした時に俺のうなじに静電気が走るような感覚に襲われたと思ったら無意識に2人を自分のほうに引き寄せた。
引き寄せる前にいた2人がいたところを剣が空ぶる。あのままいたら、こいつらなら避けそうな気もするが最悪の可能性もあった。
目の前の少女はどこから出したか分からないが真っ黒なカトラスのような剣を握っていた。
「あら、カンのいい、お兄さんですね。うまくいけば2人が戦線離脱になっていたのに」
俺は何も言わず、カラスを上段から叩きつけるように斬りつける。しかし、少女の剣に滑らされるようにして流される。あっさり流されて、驚くが手数で勝負と思い斬りつけるが全て流される。流される中、合間を挟むように斬りつけられる浅い傷が俺に作っていく。
「お兄さんのように直情的な方はやり易くて助かります。でも、お兄さんにとって私は相性最悪の相手のようで同情いたしますわ」
くっ、確かにやりにくい相手だと自分でも認める。ああも流されるとそのうちでっかいカウンターを食らいそうだ。
攻めあぐねてる俺の肩を叩く者がいた。美紅だ。
「トオル君、この子の相手は私に任せてください。調べたい事があるんでしょ?この子と戦う為に戻ってきた訳じゃないんですから」
そういうと俺の前に出る。
確かに目の前の女の子も気になるが俺のカンが訴えてるモノじゃない。
「すまん、任せていいか?俺は捜してくる」
「はい、トオル君がやるべき事をやってきてください」
顔だけ俺に向けて、にっこりと笑う。少しだけトラウマが疼くが頼りになる笑顔であった。
俺はルナと頷き合うと後は美紅に任せて村の奥へと走りだした。
「ああ、お兄さんいっちゃった。結構タイプだったんだけどな」
そういうとクスクスと笑う。
しかし、私は剣を抜く以外の反応を示さない。
「ああいう、お兄さんが絶望に包まれて泣いてるとこ見るのが私は大好きなの。さっさと貴方を倒して追いかけなきゃ」
私は剣を地面に叩きつける。
「黙れ」
「あら、貴方も直情的なタイプ?しかも武器からして一撃系みたいだけど、貴方もお兄さん同様、私との相性最悪ね」
目の前の女は楽しそうに笑う。それに引き換え、私の心はどんどん冷えていく。目の前の者からモノに代わるのに時間はかからなかった。
「お前にトオル君を語る資格はない。二度と口にするな」
「あら、私が愛しいお兄さんを語って・・・」
私は腕だけで振る剣で女を斬りつける。慌てて受け止めるが衝撃を受け損ねたのか後ろに飛ばされる。
「さっき私に相性がどうとか言ってたけど、どうなのかしら?昔、小さい頃に聞いた言葉に柔よく剛を制すという言葉があるんだけど、強い力に技で対抗して勝つとかいう意味らしいんだけど」
「ま、まさに私と貴方の関係じゃない。貴方は私に勝てないわ。あのお兄さんも・・・」
受け流し切れなかったせいか動揺気味の女が自分の優位性を訴えてくるがトオル君の事を言いだした直後、また腕だけの剣を女に振るう。先程より受け流し切れなかったのか、更に飛ばされる。
私は走らず、歩きながら近づきながら続きを話出す。
「私はあの言葉に疑問を感じてた。力だろうが技だろうが勝ったほうが強いんじゃないのかと、どんな素晴らしい技があろうともそれを超える力に潰されるのが真理じゃないかと私は思う」
逆も然りと私も言う。
「そんな事はないわ。どんな力も流されたらないのと同じ。技が優れたほうが勝つ!さあ、さっさと決着を着けてお兄さんを追いかけないといけないのだから」
女は自分を奮い立たせる為に吠える。
私は汚物を見るような目をして見つめる。
「そのセリフは私を倒してから言いなさい」
そう言って初めて剣を構えた美紅の瞳が妖しく紅くなっていく。
その様子を見てビクつく女。
無表情の美紅が女に斬りかかる為に飛び込む。斬りかかられる剣戟を受け流そうとするが押し潰されるようにしてやっと逃れる。
女はヒッと言いつつ恐怖に歪んだ顔をして美紅から距離を取ろうとするが美紅は逃げた距離分追い付いてみせて、紅く煌めく瞳で覗きこむようにして女に言う。
「貴方は私には勝てません。そしてトオル君にも勝てなかったでしょう」
「あんなクソみたいな男にまで負けるとか有り得ません!どうして貴方はあんな男の為にそこまで怒れるのです!」
結界の中、私に手を差し出して笑ってくれたトオル君。ドラゴンとの戦いで心を痛めながら戦ったトオル君の顔。今まで接してきた普段のトオル君の顔が私の心を占める。
「貴方みたいな人には一生分からないでしょう!」
初めて、腰が入った剣戟を上段から放つ。女は受け流そうと剣を構えるがそれを粉砕して真っ二つにする。
血糊を払い、剣を鞘に戻すと呟く。
「貴方がトオル君を語るだけで汚らわしい」
私はトオル君が走っていった方向を見つめ、あの背中を追いかけるために走りだした。
感想などありましたらよろしくお願いします。




