47話 道を見失いかける俺
では、47話になります。よろしくお願いします。
結界奥にあった場所の調査に半日費やした。コルシアンさんはまだ調べたそうにしていたが、持って帰れる情報量、物品に限界がある為、選別して名残惜しそうにしつつ、俺達は、外へと帰還した。
外に出ると御者はまだ待っていてくれて、俺達の無事を喜んでくれる。
もう、夕方になっており、今から出発するのは無理と判断して、もう一晩、ここで明かしてから出発する事にした。
そして、次の日の朝、俺達はクラウドへ向けて出発した。
特にトラブルらしいトラブルはなく、夕方にクラウドに到着し、コルシアンさんの屋敷に着いて馬車から降りた時にコルシアンさんに声をかけられる。
「トール君、色々、情報は集まったが形にするのに時間がかかりそうなんだよ。だが、きっと調べきって君に知らせると約束するよ」
「お願いします。俺は他の手かがりを探したいと思います。コルシアンさん、エクレシアンって言葉聞いた事ありませんか?多分、国の名前でおそらくエルフが絡む話だと思ってるんですが」
顎に手をやり、うーんと悩むが心当たりがないようだ。
「僕では力になれそうにないが、エルフの歴史を調べている学者には伝手はあるよ。良かったら、その言葉に心当たりないか尋ねておこうか?」
改めて、お願いしますと俺はコルシアンさんに頭を下げる。
俺達は別れの挨拶をして、マッチョの集い亭へと向かった。
その帰り道に美紅に質問される。
「トオル君、エクレシアンってなんですか?」
「さっきもコルシアンさんにも言ったけど、何とは分からないんだが、初代勇者のメッセージにエクレシアンの女王に会えと書いてたんだよ。初代勇者に翻弄されてるようで面白くはないんだけど、他に手かがりがない以上、踊るしかない」
そういうと、美紅の表情に陰りができる。初代勇者を罵っているのを見て同じ勇者として責められている気分になっているんだろう。
美紅の頭を撫でながら、俺は笑いながら言った。
「初代勇者と美紅を混同させてなんかないから気にするなよ」
美紅は持ち直したようではにかんだ笑顔を見せてくれる。
「エクレシアンの事はそれでいいとして、どうして、エルフが絡むと思ったの?」
今度はルナが聞いてくる。
「フレイの記憶を見た時に初代勇者とフレイ以外にエルフがいたんだ。フレイにする頼み事以外にそのエルフにも頼み事があると伝えていたから次の目的地になってるんじゃないのかなって思ってな」
「だったらシーナに聞けば何か手かがりあるんじゃないの?シーナはエルフだし。今度、冒険ギルドに言った時に聞いたらいいと思うの」
そういや、シーナさんはエルフだった事を思い出す。相変わらず、碌に顔を見てないからすっかり忘れていた。
打てる手は意外と身近にあるかもしれないと気付いた俺達はマッチョの集い亭へと急いだ。帰路で少々問題が発生(屋台で食べたいとごねるルナの説得)したが帰ってきた。
私は、厨房で仕込みが済んだ材料を取り出し、準備完了とばかりに頷いていると表から聞こえる元気な声に反応する。あの声はルナちゃんの声だ。あの3人が帰ってきたようだ。あのルナちゃんの声からすると何の問題もなかったようでホッとして、扉から入ってくる3人を笑顔で出迎える為に私は厨房からカウンターへと移動する。そして、扉が開く。
「おかえり」
「「「ただいま。」」」
無事な3人を見て本当に嬉しくて満面の笑顔になる間際にトールの様子がおかしい事に気付く。一見するといつも通りなのだが、何かに悩み、苦しんでいる。私にできる事はないだろうかと思いつつ、お腹が減ったと騒ぐルナちゃんに背中を押されて厨房に入った。
食事を出して、食べながら、ルナちゃんが上機嫌にトールがいかにカッコ良かったと語る。それ以外の事も楽しそうに美紅も混ぜて話していたがトールは相槌を打つぐらいしか反応を示さない。2人は食べると眠くなったようで先に休むと言って部屋に戻った。2人には悪いが良いタイミングでトールが1人になってくれた。早速、話しかけたかったが、がっつくのは冗談をする時だけ、今はゆっくりいく時と理解している私はトールの前にコーヒーを出した。
「トール、何を悩んでいるの?」
トールはコーヒーを見つめて、何も答えない。
聞いた話を類推するとおそらくトールは怖くなったのであろう。命の危機も味わったから怖いであれば、じゃ、戦いから引きなさいと言って終わりでいいのだが、トールが怖がっているのはそんな低い次元の話ではない。
初めて会った頃のトールであれば、いつも通りのトールで帰ってきたであろう。しかし、今のトールは守りたいモノが増えている。初代勇者が友の命すら代償にするのを見て、いつのその選択を強いられるかと恐怖しているのだ。それは状況が、初代勇者によって作られた道の上なのかは分からないがその時の事を考えると怖いのであろう。今、トールは進むべき道が分からなくなりつつあると私は見ている。
これに対する言葉であればいくらでも言える。しかし、いくら、今、私がどんなに熱く語ろうともトールには響かない。
今のトールに届かす事ができそうな人物に心当たりがある。
「トール、ザウスに美紅を会わせにいってらっしゃい」
「俺もおっさんには会わせようとは思ってたけど、今はやらなくちゃならない事が一杯あるんだ」
なんで、このタイミングなんだ?と呟くトールに私は、冷たく言う。
「どうやら忘れているようだから言うけど、右も左も分からない状態のトール達を世話してここに連れてきて頭を下げに来た男に礼に尋ねないだけではなく、美紅との1件も知っているのに放置する。それを忙しいからって払いのける恩知らずなのかしら?その忙しいと言ってられるのは誰のおかげ?」
トールがザウスに言った事情など既に嘘であるのは分かっているし、最初から信じてなかった。それはザウスも同じだっただろう。トールとて、言葉にされてないがばれているとは気付いているはずだ。
さすがに今の言葉は堪えたようで俯いた。その様子に胸に痛みが走るが必要な事と堪える。
「分かった、明日、おっさんに礼をするついでに会ってくる」
覇気がないトールはそのまま部屋と戻っていった。
その姿を見つめ視界から消えると私は溜息を吐いた。
次の日、朝食時に2人に今日、おっさんに会いに行く事を告げるとルナは久しぶりなのって喜びを示すが美紅は微妙な表情を見せた。まあ美紅には微妙な気持ちになるのは致し方がない。
俺はミランダにおっさんの好きな銘柄の酒を教えて貰い、それ買うと南門に向かう。こないだ、カーババードを狩りに行った時に通りかけた時はピーターと会わなかった為、美紅と遭遇してなかった。そして、俺達に気付くと、
「ふ、増えてる!」
と叫んで、俺を涙を流しながら睨む男がいた。俺も巨乳の仲間がいるのに2人目がいたら同じ顔をしたであろう。気持ちは分かるので広い心で受け止めて門を抜けて、おっさんが住んでいる山小屋へと向かった。
若干うろ覚えの道を進み、少し遅い昼の時間に着くとおっさんが山小屋の前で午後のお茶を楽しんでいたらしく、まったりしていた。
俺達が来た事に気付いた、おっさんが立ち上がると急に走りだし、俺達の前へやってくる。
「どうして、勇者がここにいるんじゃ!」
「その辺の説明もするから中に入れてくれないか?」
中に入って、お土産の酒を出すとおざなりにありがとうと言うと事情の説明を求められる。
俺は順序を良く、美紅を解放する為に結界に入ってからのところから話していく。
おっさんは始めは良かったとばかり嬉しそうに聞いていたが、最後の方になると沈痛な表情に変わっていった。
「まずは、勇者、いや、お嬢ちゃん。辛そうにしてた、お嬢ちゃんを助ける事ができなくて本当に済まなかった」
「いえ、あの状況では何もできなかったと思いますし、気にしないでください。それに何より、今は結構楽しくやっているんですから」
「そうか、でも何かあったらワシを使ってくれ。必ず力になる為に尽力する事を約束する」
なんとなく、2人の間で和解が成ったようで良かった。
おっさんは美紅から視線を切ると俺を睨みつけるように見る。
「小僧、少し話があるんじゃが、ちと、面を貸せ」
おっさんは立ち上がるとこっちじゃっと外へと誘導する。
戸惑いながら俺は立ち上がり、おっさんに着いて行く。俺に釣られるように2人も立ち上がるが、おっさんが、
「男同士の話があるんじゃ、悪いが少々、ここで待ってて貰えるかの?小僧はちょっと奥に行くから武器は持ってこい。ワシも持って行くから」
おっさんは入り口に立てかけていた長剣を掴むと外に出る。俺も武器を持つとおっさんを追いかけて外に出た。
おっさんに連れられて山の奥へ奥へと進む。その間も事情を求めようとしたり、いつ着くといった質問をするが適当に答えられる。仕方がないから黙って着いて行く事にした。
それからしばらくすると少し開けた場所に出る。
「ここらでいいじゃろ」
おっさんはそう言うと振り返り、俺を睨みつける。そして、ゆっくりと長剣を鞘から抜く。構えて俺に剣を向けるといつもと違う低い声で言ってくる。
「抜け、小僧」
俺はおっさんが何をしたいのか分からず、固まり続けた。
感想などありましたらよろしくお願いします。




