45話 ドラゴンと俺のラストダンス
では45話になります。よろしくお願いします。
ドラゴンにご指名を受けた俺は堂々とした態度で前に出る。
「押すな、ルナ。ああ、コルシアンさんもなんで押してるんだ?マジで勘弁して!」
最後の頼みの綱とばかりに美紅に視線を向けると、頑張ってくださいと手を振っている。ここには俺の味方はいないのか!
トドメとばかりにコルシアンさんに蹴られて俺はドラゴンの前に躍り出た。
ドラゴンの正面に出るハメになった俺はビビりながら観察する。鱗が赤く、鼻から昇る蒸気を見て、いわゆる、レッドドラゴンとかファイアドラゴンっていう分類のようだと推察する。歯が剥き出しになっているのはデフォルトだと信じたくなるほど怖い顔をしてる。それは財布出せっと言われたらきっと素直に出すだろうというほどの迫力をヒシヒシと感じていた。
しかし、そんな顔をしてるのに瞳はどことなく空虚で寂しげに映る。
「どことなく初代と似てるような感じはするが顔は明らかに勝負の舞台にすら乗れておらんな」
まあ、なんて失礼なドラゴンだ!これでもフツメンと信じているんだ!それを揺るがすような事は是非言わないで頂きたいものである。これのおかげかドラゴンに怯んでた心に活力が戻る。
「ご指名の理由を聞いていいのかな?」
「ほっほう、先程まで竦み上がってたと思っておったが我が思うより胆力はあったようだな」
フツメンを貶された怒りの波動が強くしたとはさすがに言えなかった。
「ふっ、まあよい。初代勇者との約定で、その二刀を持つ者を500年待っておった。お前がここにきた理由は知らんがこの先に行く為と判断で間違ってないか?」
俺は、ああ、と答えて頷く。
「ならば、我と戦って力を示せ。どうせ、この奥の結界は我を殺すか、我が開こうとせねば開く術などない。お前がその二刀を使いこなしていたら話は変わったかもしれんが今のお前では使いこなすのは、それは現状ありえないことだから無理だがな」
余程、我を倒すほうが簡単であろうなっとクッククっと笑う。
このドラゴンは何を知っているのであろう。俺を挑発してるのは分かる。つい短気になって倒せばっと思わせるように誘導されている気がする。
「どうして、俺を感情的にさせようとしてるんだ?」
俺の一言に沈黙するドラゴン。更に俺は被せる。
「お前に取って初代勇者はどういう存在だった?」
その一言を聞いたドラゴンは口から煙を吐き出すとその煙で自分を包む。晴れた先には赤い長髪のちょい悪系の美丈夫が現れる。
「友だ、我の生涯唯一のな。だから、お前がその二刀を使いこなせないなら許しはしない」
俺は首を振る。俺が聞きたかったのはそこじゃない。ドラゴンの目をこの距離に来て見てからずっと気になっていた。
「お前は俺が力を示したら本当にお前の力で結界を解除するつもりがあったのか?初代勇者の剣で死ぬ気じゃないのか?」
「はぁ、お前は本当に初代勇者を見てる気分になると思ってたら内面が似てるのかもしれんな。無駄にカンがいい。もう、その剣を使いこなしてるかどうかなんてどうでも良くなるな。しかし、アイツとの約定だけは果たさせて貰う」
辛すぎる。このドラゴンは自分が終わる日を夢見て、ここで生き永らえてきたのか。例え必要だったとしても初代勇者は何をしたかったと言うのであろう。こんな悲しい結末を俺に突きつける為にしたとしたら一生恨んでも許せる事ではない。なんとか、助ける方法がないかと必死に頭を捻る。
そんな俺を見て苦笑を浮かべるドラゴン。
「お前は優しいな、いや、甘いと言ってもいいかもしれん。お前が超えていかなければならん道はそんな楽な道ではないぞ?ふむ、そう言うことか、アイツめ酷い事をする。確かに必要な事ではあるとは思うが、だが我が使命は理解したぞ」
天井、いや、もっと高い所を見るような目をしたドラゴンが悟ったような顔をして呟く。
その呟きを聞いた俺は嫌な予感に襲われる。
「待て!いや、待ってくれ!!」
「本当にアイツに話しかけられているような気分になってくる。そういう気付いて欲しくないとこまで気付いてしまう、そのカンの良さを大事にな」
ドラゴンは掌を叩いてパンと鳴らす。俺は自分の危険信号に従い、ルナ達を呼ぶ。
「2人とも、冗談してる場合じゃない。急ぎ来てくれ」
後ろを振り返ると拳を血まみれにしながら空中を殴り続けて肩で息してるルナが目に入る。美紅も似たような有様だ。何かを叫んでいるようだが、こっちには届かない。
「お前がこっち側に来た時にあいつらを締めださせて貰ったが、あの2人の必死さを見て分かると思うが簡易といえ結界で我以上のものはいないと豪語してた結界を割ろうとしてたので強化、修復させて貰った。これで我が死ぬまで解除不可能だ。後ろの結界もな」
例え、それしか解く方法がなくても俺はこいつとは戦わない。戦いたくない。
「本当に甘いな、アイツはそういう所は割り切れてたぞ?なんだろうな、その甘さがお前の良さに思えてくる。これからもお前は苦悩して進むのだろうな。しかし、周りがお前をほっとかない未来が見えるようだよ。そんな、お前に酷い事する我を許せとは言わん。しかし、汲んでくれ」
悲しそうでいて、自責の念に包まれた目をした、ドラゴンが自分の腹に手を突き立てる。そして引き抜くと贓物を握りしめていた。
「肝を抜いた。もう我はほっといても逝くだろう。頼む、我が友と我の500年を無駄にさせないでくれ。お前の未来を少しでいい見せてくれ」
肝を明後日の方向に投げる。
俺は静かにカラスとアオツキを抜く。目の前のドラゴンが命を賭した頼み事を断る術を俺は思いつかなかった。
「馬鹿野郎」
「スマン、感謝する。我の名はフレイドーラ、フレイと呼んでくれ。アイツ以外で呼ぶのを許したのはお前が最初で最後だ。お前の名は?」
溢れる涙を抑える事できないがドラゴン、いやフレイを睨むように見つめて、ちゃんと発音して徹と名乗る。
「徹か、良い名だ」
そういうとフレイがぐらつく。
「時間が押しておるようだ。さあ、始めよう」
フレイは来いっと身構えて俺を迎え撃つ態勢になる。
「バカヤロウ!バカヤロウ、バカヤロウ、バカヤロウ、バカヤロウ・・・・」
俺は俯いて息が切れるまで叫び続けて、息を吸った時、フレイを睨みつけて飛び出す。溢れる涙を止める術もなく俺は走る。
それを身構えて見ているフレイは申し訳なさそうでいて少し嬉しそうな顔をして魔力を練り上げていた。
そして、俺達は肉薄し、激突する。
カラスでフレイの首を狩り取るかのように斬りかかる、がしかし、魔力を帯びた腕によって払いのけられる。見た目は人間になっているが本当はドラゴン、それぐらいのことはできて当たり前なのだろう。
ガードされて攻撃が貫けないならガードを潜り抜けたらいいとばかりに俺は急所を無差別に乱打させる。
「甘い、殺気が急所に集まり過ぎててどこを狙ってるか丸分かりだ!」
無差別にやってるつもりだったが向こうには筒抜けだったようで、弾かれ体勢が崩れたところを蹴られ吹っ飛ばされる。
打ち抜かれた部分が激しく痛む。なかなか立つ事ができない。
いや、立つんだ。今、立たないで目の前の友と認めてくれた者にどんな顔していられるというのだ。震える体を気力だけで立ち上がる。
「そうだ、お前の全部を我に見せてくれ」
フレイは今度はこっちの番とばかりに突っ込んでくる。
俺は急ぎ、身体強化を全力でかけ直し、フレイの突進を避ける。しかし、避けたと思った先にフレイはおらず、俺の後ろから声がする。
「我はこっちだ!徹!」
フレイは俺の首をめがけて回し蹴りを入れてくる。咄嗟に左手でカバーに成功するが、俺の耳元で嫌な音がする。折れたと俺は気付く。アオツキを握ってられなくなり地面に落ちる。激しい痛みに襲われるが折れているのだから当たり前だと気力で抑え込む。
カラス1本で構えてフレイを睨みつける。
「いいぞ、徹。まだ我も戦える」
再び、2人は肉薄し接近戦をする。
我は嬉しい。友と認めた相手と死力を尽くして戦える事を、そしてすまない、全てを徹に背負わせてしまう事を。
戦いだしてから尽きる事がないのかというぐらい涙を流し続ける友の姿に胸が痛い。この痛みに比べたら、肝を抜いた時の痛みなど痒み程度にしか感じないであろう。
再び、我は徹の背後を取る。同じように回し蹴りを入れようと視線の切れ目のほんの一瞬で徹の姿を見失う。すると背後から斬撃による痛みが走り、前にたたら踏む。後ろから純粋な殺意を受けて、恐怖からの防衛本能で背後に魔力波を全力で打つ。しかし、手ごたえがなく、横手から突然、先程の殺気が生まれたと思ったら我は徹に斬り飛ばされていた。
今、斬られた事により、我の命ももう終わりに近づいている事をはっきり認識した。もう時間がないのか、もっと徹と戦いたかったが・・・
ガードされると分かってはいたが徹に広範囲の魔力波を打って吹っ飛ばして距離を取る。
「徹、これが最後だ。乗り切って見せろ」
それに合わせたかのように徹が飛び込んでくる。
間に合えとばかりに高速詠唱して魔力を練る。
「これが最後の我のブレスだ」
残りの生命力も持っていけとばかりに真っ白な炎が徹に襲いかかる。そして、直撃したと実感する。倒れそうな体を必死に繋ぎとめる。徹がどうなったか見る必要がある。ここで終わる男なのかと。
爆炎が収まった先に1人の影が見える。カラスを構えた徹の姿が見えた。多少の火傷はあるようだが無事な徹がいた。
我が見込んだ男は素晴らしい。我の最後のブレスを受け切った。アイツに言うと怒るかもしれんが、徹はお前を超える男かもしれんと思うと弱々しい笑顔が浮かぶ。
さあ、その素晴らしき男にトドメを差して貰うという最後の仕事を誇らしげに腕を広げ待つ。しかし、待っても徹はこない。我は正面にいる徹を見る。
未だに涙は止まらず泣き続けている。そこで我は気付く。
「意識を失っているのか」
いつからだろう、いつからとかではない、徹は我の思いに応えるべく意識を失っても向かってきてくれた。更に我の見立てを飛び越えていったか。
ふらつく足にムチ打って我は徹へと近づく。
「徹、素晴らしき未来を見せて貰った。我と全力で戦ってくれた事、感謝する。我らの業を背負わす我らを許してくれ。許せと言わないと言ったのにやはり、お前に嫌われ憎まれたまま逝くのは辛いと思ってしまった。だから、我は願う、お前の行く先に幸あらん事を」
構えたまま意識を失っている徹のカラスの刃を握ると自分の心臓がある場所へと導き貫き、泣く徹を抱きしめる。
「お前と会う為の500年は無駄ではなかったぞ」
ドラゴン、フレイドーラは光の粒子となり消える。そして役目を終えたとばかりにカラスは徹の手を離れ、静かな空間に高い音を響かせて落ちる。
そして、徹は仰向けに静かに倒れて行ったが未だ涙は止まらないままであった。
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