43話 初代勇者の足跡の秘密を求めて
43話になります。よろしくお願いします。
クリミア王女をモスに送り届けた俺達は、夕焼けが綺麗な時間帯にマッチョの集い亭の前に到着した。
「なかなかハードだったけど無事帰ってこれて良かった」
「そんな事より、お腹が減ったの~」
ただいまっと言いつつ、ルナは扉を開けて入っていく。
「そ、そんな事って・・・」
「まあまあ、とりあえず入って休みましょう」
苦笑しながら俺を気遣ってくれる美紅は本当に良い子。ルナと同じように挨拶して先に入っていく。
俺も愚図ってもしょうがないから入る事にする。
「ただいま、ミラ・・・」
「おかえり、トール!昨日帰ってこなかったから心配してたのよ!」
扉を開けた直後に黒い影が俺を襲う。疲れ、そして油断してた俺はあっさり拘束される。
「ぎゃーーー、無駄に暑い、気持ち悪い」
「何つれない事言ってるの!私はとっても心配したんだから」
俺に頬ずりするミランダ、もう夕方なせいか、髭が伸び出してるようで、ジョリジョリと俺の頬を撫でる。新しいトラウマの扉が生まれちゃう!!
徹、モテモテなのっと楽しそうなルナ、笑いを堪える美紅がいる俺達のつかの間の暖かい日常に帰ってきた。
でも一部変更を求める!暖かいじゃなくて暑い上に気持ち悪い部分の是正を求める!
多少、問題はあるが帰ってきたという実感がしてきたのは間違いなかった。
「そう、大変だったのね。でもやり遂げたトールは頑張ったわよ」
昨日のギルド長に会った辺りからの話をミランダに報告って訳ではないが話していた。
「ミランダには迷惑かけてばっかであれだけど、今後の出来事でクリミア王女の事で何か小耳に挟むような事があったら教えてくれないか?」
「いいわよ、それぐらい気にしないで」
優しいのね、トールと笑うミランダに頬を掻きながらアフターサービスだと強がっておいた。
そんな事を話してたら、ルルが来てたようで、ルナ達と話をしてたようだ。時折、俺を睨むルルの視線を向けるのがちょっと怖かった。
話が終わったのか、俺に近づいてくるルルが話しかけてくる。
「おかえり、トール。腹は減ったか?」
ガンと俺の脛を蹴る。ブーツのおかげかルルが非力なのか判断つかないが、振動が来るだけで痛くはなかったが・・・
「あ、ああ、夕食にしてくれると助かるかな?」
「分かった、用意するから待ってろ」
ガンと再び俺の脛を蹴る。新しい遊びなのか?
「えっと、なんでさっきから返事する度に蹴るのかな?」
「知るか!この女たらし!!」
最後の1発だと言わんばかりに振りかぶった蹴りを俺の脛を狙ってぶつける。さすがに今の1発はブーツで吸収できなかったようで、俺はその場で蹲った。
「俺が何をしたって言うんだ。彼女もいない可愛そうな俺が・・・」
色んな意味で涙目な俺を見て、クスクス笑うミランダが言った。
「それも男の甲斐性よ?頑張ってね」
食事を取りながら、ルナに相談する。
「そういや、俺達も最低限の防具いるよな?今更な気もするんだが」
俺の背後で仁王立ちしてるルルが原因で思い出したなんて口が裂けても言えません。
「うーん、徹も私も基本避けるスタイルだから動き阻害されると思ってたから買ってなかったけど、阻害しない程度の急所を守る防具はあってもいいかもしれないの」
多少なりともルナも思うところがあるようだ。
「じゃ、明日、ギルドで報酬受け取ったらグルガンデ武具店に行くか」
俺は明日の予定を伝えるが2人から反対意見が出ないのでそれで決定した。
ここのところ、ゆっくりする暇がなかったせいか、俺達は食事が済むとすぐに眠くなってしまい床に着く事にした。
早朝、俺達は冒険者ギルドの受付にてシーナさんと会っていた。
「お疲れ様でした。これが報酬になります」
金貨10枚を渡される。さすが王族、あの距離でこの金額か。でも刺客を相手込みだったら適正なのかな?
「ギルド長からこの依頼を無事済ませたら3人のランクをBにするように言われているのでカードをお預かりします」
またいつかのように違う職員に預かったカードを渡す。
「続いて、先日のBランクの以下のペナルティが決まりましたのでお知らせしておきます」
内容は、Bランク「至る頂き」のDランクへの降格と二つ名の「至る頂き」を名乗る事を禁止。退院後1カ月の奉仕活動。これらの事を守れないのであれば更に罰則もしくば賞金首として指名手配を辞さないと伝えたようだ。他に「至る頂き」に便乗して騒いだ、冒険者達には罰金、奉仕活動をランクが高いほど罰則を重くする事でペナルティとしたらしい。
「と言う事に決まりましたので、向こうから逆恨みで襲ってきた場合はともかく、ないと思いますがトールさん側からの報復はないようにお願いします。」
「結構しっかり罰則与えたんですね。だいぶ揉めたんじゃないですか?」
俺は素直な意見を言ってみる。
「確かに、最初はかなりの方がクレームを挙げておられましたが、ギルド長が、「お前らが納得する程度の罰則でアイツが納得しなかったら、お前らどうなると思うよ?ギルドが間に入ってお前らを守ってるつもりだったんだが・・・お前らが納得できる罰則ってどこだ?そこで納得してくれとお前らが言ってたと言ってやるが?」と言われると誰も口を開かないでこっちで用意した誓約書にサインしていきました」
むぅ、Bランクのあいつらを倒した事で一部の冒険者に恐怖の対象と見られたようだな。そんな事で距離置かれたらショックなんだけどな。まあ仕方がないと割切る事にする。しかし、どうも恐怖の対象に見てるのは冒険者だけじゃなくてギルドの男の職員にも少なからずいるようだ。一部の女性職員にジッと見つめる人がいるような気もするが気のせいだろう。
「話は変わるのですが、訓練所で見せた、あの炎の翼は何なんですか?」
と言いつつ、更新の済んだカードを俺達に返す。
「ああ、あれって信じられないと思うけど生活魔法なの」
俺の代わりにルナが呆れ気味でシーナさんに答える。
シーナさんは驚きを隠せず、ルナに問いかける。
「生活魔法でそんな事できるって聞いた事ありませんよ!」
「私も聞いた事ないの。でも、徹が使ってるのは生活魔法。シーナはエルフだから落ち着いて徹が使ってるところを見れば分かるはず」
論より証拠なの、と言ったルナがシーナさんに訓練所空いてる?聞くとシーナさんは頷き、俺達は訓練所に向かう。
向かう道すがらルナはシーナさんにさっきの話の続きを話す。
「シーナも知ってるとは思うけど、生活魔法は無属性なの。そのせいかどんな属性の魔法の類似品ができる。でも、イメージに依存するせいか、どうしても簡単なことしかできないの。でもそれができたのが徹のおかしいところ」
そう言われたシーナさんが考え込んでしまった。そんな事してたら、訓練所についた。
「徹、使って見せてあげて」
まあ、見せるぐらいはいいんだけど、先日みたいに泣かれたりしないだろうかという心配だけしている。さすがに敵対するつもりはないと思って貰えてると信じる事にした。
俺は精神集中して、背中から魔力が噴き出すイメージと共に感情の迸りを乗せるように翼を生み出す。最後に炎をイメージする。
すると噴き出すように背中に炎の翼が生まれる。
「本当に無属性の魔法です」
驚きながらルナの言葉が本当だったと認める。
こんな事できるのに時々、徹は魔法を教えろって五月蠅いの、必要ないだろうにって思うと愚痴るルナ。美紅は相変わらず綺麗な翼ですとうっとりしていた。
他にも水などの生活魔法で壁をバターを切り裂くように切ったり貫通させるのを披露したトールを見た私は改めて戦慄を感じた。
この3人は気付いてないのか?生活魔法でこんな事ができるという異常性を。
昔、私は、歴代の大魔導師と呼ばれた者の話を流し読みした事がある。その中でもトップ3に入る大魔導師達の逸話でこんなのがあったように思う。生活魔法をかろうじて、攻撃魔法と呼べるレベルに使う事ができたと。大魔導師がである。しかし、今、目の前の人物は下手な攻撃魔法など霞むような事をやっている。
これはしっかり調べて危惧通りだったら説明する必要がありそうだ。歴代最強の大魔導師の卵が目の前にいるのかもしれないのだから。
シーナさんに有難うございましたと言われて、訓練所で別れた俺達はグルガンデ武具店に向かう事にした。
店に到着すると珍しい事にカウンターで座っているおっちゃんがいた。
「おっちゃんが店のほうにいるのって珍しいな?」
「ふん、五月蠅い小僧だ。今日、入荷する金属を待っておるのだ」
どうやら珍しい金属が手に入るようで待ち切れずにここで待っているようだ。
そんな、おっちゃんに苦笑しつつ、俺とルナの防具の相談をすると、
「ふぅ、いつ相談しにくるかと待っていたのに1カ月以上待つ事になるとは思ってなかったぞ」
おっちゃんは、カウンターから離れて奥に入っていった。
白いインナーのようなモノと胸部と背中だけを守る、肩がフリーになっている鎧、なんとなくルナが履いているブーツの革に似てる気がする。
「このインナーは嬢ちゃんに、この鎧は小僧に用意しとった」
これの説明をおっちゃんに求めた。
「まず、そのインナーは竜の髭を繊維状にして編んだ服じゃ、対刃性に優れ、火にも耐性がある。余談だが、水で流すだけで簡単に血の汚れも落ちるいいものだ。次は小僧の鎧だがあれは地竜の革で作った鎧だ。肩を阻害するものがないから避ける主体の小僧向きだろうと思って用意しとった」
今度こそマジもんのドラゴンらしい。それでも下位らしいが。
なんか防具なしから一気にランクアップしすぎな気もするが良いモノのようだから気にしない方向でいこう。
「ありがとう。良さそうだ。これを貰うよ、いくらかな?」
「ふん、金貨5枚だ」
はい、金貨5枚あるか確認してねっと言って渡すが何も確認せずに金貨を仕舞う。
「確認しなくていいのかよ?」
「ワシは自分の人を見る目を疑っておらん。しかし、金貨をあっさり払えるほどになってきたか。そろそろ、小僧って呼ぶのを止める日も近いかもしれんの」
と、言いつつ、俺に鎧を着させて具合を確認している。おっちゃんは納得したようで、どうだっと聞いてくる。
「バッチリだよ。いつも思うけど職人ってみんなこんな事を普通にするのか?」
「できて普通が一人前の職人だ、馬鹿モノ」
いつも通りなおっちゃんに戻ってほっとした。さすがにさっきの一人前かなって言われてるような感じが恥ずかしかった。
なんて事を話をしてると誰かが入ってくる。
「金属の納品にきました~」
「おお、やっと来たか!あ、お前らは邪魔だからさっさと帰れ」
目をキラキラさせた、おっちゃんに店を追い出される。
「あのおじ様、本当に嬉しそうにしてましたね」
苦笑しながら笑う美紅が可愛いモノを見てる女の子の顔をしていたのが印象的だった。
それから、俺達は明日に必要そうなものを買う為に市場をうろついた。
そして、次の日の早朝、俺達はコルシアンの屋敷に向かうともうすでにコルシアンはスタンバっていた。もうかなり前から待ってたんでは?って思えるほど落ち着かない様子で俺達を見つけるとドタドタと音がしそうな走りで寄ってくる。
「待ってたよ。さあ、歴史の扉を開きに行こうではないか!」
相変わらず、ピンクの作業着姿を見て、俺は思わず言ってしまった。
「さすがにいつもと同じ格好はどうかと思うんですが・・・」
「何を言うのだね、これは外着、野外用の一番の気合いが入る服なんだよ?」
俺がどこがなんですか?と問いかけると、ここが一番のポイントだ!と言って背中を向ける。
「 萌 」
と背中に書かれていた。もう何も言うまい。
俺達はコルシアンに急かされるようにして馬車に乗り込み、コルシアンが雇ったと思われる御者に出発させて、北門の先の初代勇者と魔神の最終決戦へと向かった。
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