38話 変態紳士
では38話になります。よろしくお願いします。
人は言う。初代勇者の研究第一人者と。そして、また別の人は言う、クラウドNO1の奇人変人と。
その名をコルシアンという。
それがミランダに紹介してもらった相手だった。そして、俺達はその人物に会う為にコルシアンが住む、クラウドでは数少ない貴族街にやってきた。
なんとなく貴族街に入る時に門兵とかいてチェック受けそうなイメージがあったが何もなくというか門兵すらいなかった。比較的、クラウドには階級の高い貴族がいない事が理由なんだろうか?
地図に示された場所に到着して建物を眺めて俺は2人に言い聞かすように呟く。
「噂を聞く限り、とても危険人物な気がするから気を引き締めたほうがいいかもな、主に精神的に」
ミランダは面白い人よって俺に地図を渡す時に言っていたが逆にそれが不安を誘う要因になっている。ミランダの面白い=変態、という公式は意外に間違ってない気がするのだ。(ここだけの話、徹もミランダに面白いと思われたりするが本人だけ知りません)
「そうでしょうか?とっても良い趣味した、お庭を維持されてる方だから噂が間違ってるのではないでしょうか?」
美紅はうっとりと庭を眺め、とても気に入ってるようだ。
特にルナは庭に心惹かれはしないようだが、美紅の評価よりな意見のようだ。
「そう警戒する必要はないじゃないかなって思うの」
甘い、甘すぎだ、俺のカンが言ってる。この3人の内、誰かが悲鳴を上げると訴えてきてる。もし、俺が悲鳴上げるとしたらマッチョが出てくるんだろうなっと遠い目をしてしまった。
いつまでも庭にいてもしょうがないので中に入る為に扉前にやってきた。ドアノッカーがあったので使って待ってみるとドアが開く。
「はい、どちら様でしょうか?」
20歳になったかどうかのちょっと冷たい感じはするが美女がメイド服を纏って出てきた。俺は鼻の下が伸びるのを気付き、引き締める。
「すいません、マッチョの集い亭のミランダからの紹介で窺ったトールと申します。こちらの家主のコルシアンさんにお会いしたく突然の来訪させて頂きました」
これが紹介状です、とメイドさんに渡す。それを渡すと少々確認して参りますのでお待ちくださいと言ってドアを閉じる。
しばらく待つとまだドアが開く。今度は大きく開いて、メイドさんが中に誘う。
「どうぞ、旦那様がお会いになられるようです。応接室にご案内します」
俺達を先導して応接室へと案内され、ある扉の前に立つとドアを開いて中に入ると、
「旦那様はすぐに来られると思いますので座ってお待ちください」
メイドさんは一礼するとドアを閉じて出ていった。
「さすがミランダさんの紹介状ですね。あっさり会って頂ける事になりました」
周りを見渡しながら楽しそうに美紅は言ってくる。俺も周りを見渡すと庭でも思った事だが少女漫画に出てきそうな造りが意識されている感じがするんだよな。そこになんとなく違和感がある。これはブラフだと。
それから、それほど時間を待たずにトントンと軽い音がこっちに近づいてくるのに気付いた。するとこの部屋の前で音が止まったと思ったらドアが開きそこにいたのはピンクの作業着のような格好した、野球帽のような帽子を後ろ向き被り、眼鏡を付けた30歳ぐらいのまごうことなき変態がそこにいた。色さえ無視すれば、元の世界で「エアコン取り付けにきました~」って言われたら御苦労さまですって上げてしまいそうな格好だ。
固まっている俺達を意も解さずといった感じに直立した状態で小刻みにジャンプしながら俺達の前に来ると椅子に座って、おもむろに話出す。
「私がコルシアン、家名は貴族同士しか意味がないからいらないよね?気楽にコルシアンと呼んでおくれよ」
「あ、すいません、紹介状にも書かれてたかもしれませんが、私がミランダに紹介をお願いしたトールです。よろしくお願いします」
最初に硬直が解けた俺が挨拶をした。
続いて、ルナが自己紹介して、美紅に移って紹介しようとした時にコルシアンは動いた。
「マーベラス、君は素晴らしい!その愛らしい顔、幼い体躯、最高だ!俺の嫁認定だ!!」
さきほどまで魚の死んだ目のようだったのに生き生きし出す。
ビクっと震えた美紅は怯えた目をして俺に縋りつき
「小さい事が良い事ではありません。むしろ困ってます」
「何を言う。小さいからいいんです!」
ダメだこりゃ、外見だけじゃなく内面もダメぽい。ルナも脱力して眺めている。美紅に至ってはどうしたらいいのってばかりに俺に視線を送るが正直、俺の手に余る。
「コルシアンさん、まあまあ、落ち着いて・・・」
「大丈夫ですよ。旦那様は言うだけで何も強要してきませんから聞き流しても権力などを振り翳したりはしませんから」
いつの間に入ってきたのか分からなかったがメイドさんが俺達に紅茶を配膳しながら言ってくる。
「嫁認定とか言ってますが私が知ってる限りでもそろそろ3ケタじゃないですかね?言ってて楽しんでるだけなんで害はありませんよ」
「嫁というのは愛でるものなのだよ」
つまり手遅れな人なんだ。害がないから誰も治そうしないから・・・
「さて、私としては新しい嫁が現れただけでもこの場を設けた意味は充分なのだが、そうではないのだろう?用件を聞こうか?ミランダの手紙にも何も書かれてなかったのでね」
そう言って、眼鏡の位置を直す。
ここにきた目的を飛んでいたが変態に修正されたのは癪だが用件を言う。
「コルシアンさんは初代勇者の第一人者と伺ってます。私は勇者が魔神を封印してからの行動、足跡を知りたくて、今日伺いました」
「確かにそう言われているね。だが、今、君が聞いてきた内容は謎とされてるとこなのだよ。第一歩から躓いて次のステップに行けてない。君、初代勇者が没してから何年経ってるか知ってるかい?」
やばい、この世界の人間なら知ってるのかもしれないがどうする?
「確か、500年ちょっとじゃなかったと思うの」
ルナが代わりに答えてくれた。
「そう、その通り、今、一番有力なのは540年前というのが定説だが、それだけの時間が流れても最初の1歩が踏み出せてないのだよ。どこを調べたらいいかは分かっているのに関わらずだ」
「何故なのですか?それだけの時間があれば調べる事はできたと思うんですが?」
コルシアンは腕を組み、少し考え込むようにすると話出す。
「ここから言う事はオフレコで頼むよ。クラウドの北にある山に勇者の封印の地があるのは知ってるかね?」
内心、冷や汗を掻きながら、はい、知っていますがそれが?と聞き返すと
「実はあの山で初代勇者と魔神が戦って魔神を3つに分断した場所なのだよ」
だから、後の勇者を使った封印は初代の術式を利用して封印するためにあそこでするようになったらしい。
ちなみにこの事は貴族の間では割と普通に知られている事の為、クラウドに貴族が少ないという一因になっているとコルシアンが付け加えた。
「その戦いの地がその山のクラウドと反対側にある洞窟にあるのだよ。その最深部手前で何やら魔神封印とは別に隔離されてるようだと潜った冒険者の報告はあるのだが、行った事がないから分からないのだよ。行けばなんとかなりそうと思える程度には私の研究は進んでるつもりなのだが、さすが、魔神との最終決戦の地だった場所だけあって、モンスターが強くて私を連れていける勇気あるものがいないのだよ。何かあったら自己責任という誓約書を書いてもいいと言ってるのに関わらず受けてくれないので研究は停滞して困ってる」
この人、ほとんど一息で言い切ったぞ。
そして、俺の顔をチロっと擬音がしそうな見方を何度かして続きを話を再開した。
「ミランダの紹介状を読む限り、人格に問題なく、見立て通りだとしたら君達はAランクパーティを相手にしても勝ってしまいそうな猛者らしいじゃないか?どうだい?私を深遠の狭間、決戦の地に連れて行ってはくれないか?準備費用はこっちが持つし、得た情報は全部開示する。今回の事が成功したら今後君達とは協力者として仲良くしていきたいと思う。どうだろ?WIN WINの関係だと思うのだが?」
勿論、誓約書は書くから君達に責任を求めたりはしないよと言ってくる。
かなり美味しい条件だ。普通なら疑うところだがミランダが後押ししてくれている。俺の見立てでもコルシアンは変態だが歪んだ人物じゃないと思う。後は俺のカンがGOサインを出している。
「よろしく、お願いします。コルシアンさん」
「こちらこそ、よろしく頼むよ。これからは仲間になろうというんだ。使い慣れない敬語とさん付けはいらないよ」
立ち上がった俺達は握手をした。やっぱり慣れてないのはバレバレだったか。
「では、善は急げという。3日後の早朝に私の屋敷に尋ねてくれたまえ。それまでに準備は済ませておく。それまでが各自の準備期間ということでいいかな?」
衣食住はこちらに任せておきたまえと言う、コルシアンは頼りになる。
「はい、それでお願いします。では、3日後に会いましょう」
頷きながら返事を返した。
そんな様子を見ていたメイドさんが俺に抱きついて来て
「助かります。研究が進まなくてグチグチしてて布団干すのも一苦労するぐらい邪魔になってたんです。これで少し落ち着くと思います。」
美人が笑うと破壊力あるなって鼻の下伸ばしながらされるがままにされていた。ルナと美紅の視線の冷たさなんて気にならない。
トントンと飛びながら出ていくコルシアンがドアの前で止まって後ろ振り返って、
「あ、ちなみにそのメイド、オスだから?」
そのまま、出ていくコルシアン。後ろで笑いを堪える2人。
俺のカンで悲鳴を上げると訴えてた人物は俺自身だったようだ。
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