37話 今の俺と乙女の悩み
では37話になります。よろしくお願いします。
俺は「至る底辺」に教育指導を施した後、周りを見渡す。
ルナと美紅はいつも通りな自然体で俺を見てるがシーナさんは震えて立ってるのがやっとのあり様だが、笑う気にはならない。傍にいる男の事務員は腰を抜かして倒れてるし、酷いのだと漏らしてるようだ。
確かに、初代勇者の武器を手に入れて使いこなす為にルナと美紅に扱かれ鍛えてきた。今、思いだすだけでも震えがくる。あいつら元のスペックが高いから一般人の俺の限界を余裕で超える条件を求めてくる。
一例を挙げるとこんな感じだった。
俺とルナは高さ5m弱、川幅3mあろうかという滝の上にいた。
「俺にここから飛び込めと?」
「まさか、そんな事言わないの。飛び込んでも泳ぎが上手くなるぐらいなの」
ほっと息を吐きたいがルナの後ろにある倒木とルナが持ってる縄がとっても気になってここから早く去りたい。
ルナはにっこり笑って、
「どんな条件でもコントロールできるようになる為の訓練なの。おまけで根性も付くかも知れないの」
逃げようとする俺を捕まえると、神業、本当に無駄に才能発揮して倒木に縄を使って縛り上げる。
「る、ルナ、冗談だよな?」
「頑張るの。徹ならきっとできると信じてるの」
イヤァーーーーと俺の悲鳴が山彦帰ってこいとばかりに響き渡る中、ルナは倒木ごと川へ投げ込んだ。
とか、
盾を外した美紅がバスターソードを両手持ちした状態で構えて俺を見ながら声をかけてくる。
「トオル君はカンが良くて上手くかわしますが、いつでもかわせる状況とは限りません。後ろに守りたい者がいたりする時にかわしますか?トオル君はきっとかわさない。だから攻撃をいなす術を身に付けて貰います」
「美紅、すごく有難いんだが、お前の構えを見てて凄い不安なんだが、これからお前の攻撃をいなせって言うんじゃないんだよな?」
美紅はにっこりと笑う。俺もつられるようにぎごちなく笑った。
「大丈夫です。トオル君なら乗り越えられると信じてますから」
違う、違う、俺が欲しかった言葉はそれじゃない!
抜き足、差し足で俺は逃亡を試みようとしてみるが美紅が目の前に回り込んでくる。
「さあ、行きますよ!トオル君の可能性を見せてください!」
俺まだ武器構えてませんが?って突っ込みもする間もなく美紅に吹っ飛ばされて、トオル花火として第2の人生をスタート切った。
あいつらの俺に対する期待値が半端ないんです。ちょっと俺には才能がないだけで、頑張ってるんですよ?頑張ってるけど、お前らと違ってそんなに早く成長できんだけよ!
本当に地獄の1カ月だった。だいぶ、こなせるようにはなったがBランクが雑魚に思える弱さ、ギルドの見立てが間違ってないならではあるが、特訓の成果が出て何よりだ。何も意味なかったとかだったら俺はアローラが滅ぶまで引き籠った自信あるね。
まあ、魔法のほうではあいつ等の度肝を抜けて楽しかったがな。
などと考えてた時間がそれなりになったせいか、ルナと美紅が戻ってこない俺を不思議に思ったらしく、首を傾げながら呼んでくる。
俺は2人の元に戻って、あいつらを指を指して、
「あれが一般人、1か月前からしてたことがいかにやばかったか分かるか?」
2人がツツーと目線を反らして、息を合わせたかのように目力つけて俺に話しかける。
「トオル君ならできると信じてました!」
「今、生きているから結果オーライなの!」
無駄なチームワークが上がってる事をアピールしてくる2人を見て、俺はやかましいわ!と言って2人の頭を叩く。
さて、けじめを付けてくるかな。
「さて、ギルド様の実力査定の結果どうでした?」
唯一、立ってたシーナさんに声かける。
良く見ると頬に朱が入り涙目になってる?泣きそうになってるの?さすがにちょっと圧力かけすぎたかもっと内心冷や汗を掻いていた。
「ほ、本当に申し訳ありませんでした。実力を見誤りお疑いした事、お詫びいたします。そこの「至る頂き」Bランクパーティを代表に騒ぎ立てた者達にはギルドから適切なペナルティを与えるとお約束しますので、今回の事はこれで矛を収めて貰えませんか?」
俺はシーナさんに近づき、ビクっとされる事に微妙に傷つきながら二の腕をポンポンと叩いて、耳元でシーナさんだけに聞こえるように、
「シーナさんに恨みがあってやったことじゃないんで、そんなに怯えないでくれると助かるかな。シーナさんとはこれからもいつものように仲良くしてもらえると嬉しい」
さっきのビクつきより大きな反応を見せたシーナさんを見て顔を見ると涙が盛り上がってるのを見て、俺、余計に怖がられた?って凹んだ。
「まあ、お互い、冷静じゃない部分あるから、この続きの話は、後でまた顔出すからその時にしましょう」
シーナさんから離れた俺は周りに聞こえるように伝える。
すると、倒れたまま動けない底辺のAが喋り出す。
「なんでBランクの俺達がペナルティなんだ、ふざけるなよ!お前が守ろうとしたその女達がどうなるか楽しみにしとけ」
捨て台詞のつもりだったのだろうけど、そういうのは逃げれる時にするものだろ?と思いつつ俺は再びAの傍に歩いて行く。俺が近寄ってくるのを見てビクつくが首より下が碌に動かないため何もできない。
Aの顎を掴むとしゃがんだ俺の目線に無理矢理合わせる。
「お前が楽しもうとした女達だけどな?俺より強いぞ?俺がお前らと戦ったのは俺のほうが怪我が少なく倒せるだろうという優しさだったんだぜ?」
嘘だろっと呟くA。本気の本気の大マジ。
「でもな?いくら強くても特に女だ。どこに付け入る隙があるか分からねぇ。あいつら以外でも俺の知り合いに牙を剥いてみろ。骨も残さず燃やし尽くしてやる」
俺はそういうと背中から炎の翼が生まれる。それがどんどん長くなって、底辺を包むように囲む。
「ぎゃぁーーー、おかあちゃーん!」
発狂寸前といったAにその声を掻き消すように大きな声を被せる。
「忘れるな、俺の知り合いと目の前の三人の女に何かしたら命はないと!!」
そう怒鳴るとAは白眼を剥き、失禁して気絶した。
炎の翼を掻き消すと、
「さて、一旦、お暇しますね、シーナさん。後でまた来るんで準備のほうよろしくお願いします」
にっこり笑って、こっそり後始末を押し付けて2人を連れて冒険ギルドから出ていった。
冒険ギルドから出た辺りで私は徹に聞いてみた。
「さっきシーナにだけに何を言ってたの?」
「え?ああ、アレな。なんかメッチャ怯えられてる感じがしたから、シーナさんに恨みはないし、これからも仲良くして欲しいと言ったら泣かれそうになって凹んだってだけだよ」
徹は溜息混じりに項垂れる。
ルナと美紅が顔を見合わせて、戦慄する。強力なライバルの産声が聞こえる気がする。徹のその後のセリフにやられてる可能性も捨てきれない、要経過観察の必要がありそうだと美紅と目で語り合う。
しかし、あの徹を見る前にその危険があるという事を失念してたのは油断だった。ルルの時もあの徹を見てやられたようだから、普段の徹から想像が難しいからもてないと思ってしまっていた。どっちも本質は同じ人物であることを都合良く考えてたせいである。
見えにくいとこに徹の良さはある。正面の徹に目を奪われると気付けないがその裏にいる徹の存在に気付いてしまえば、自然にそっちのほうに目を奪われる。裏側に見える徹はちょっと不器用なとても真直ぐな男だ。とても好感を持てると言っていい。それに気付いてしまうと正面の徹も魅力に変わってしまう。愛嬌にとって代わる。
「じゃ、ちょっと早いかもしれないけど、ミランダに紹介された人に会いに行こうか?」
私達の乙女な悩みに苦しんでる事などまったく気付きもしない呑気な顔して聞いてくる。
美紅が徹を抓るとイタっと言って美紅に抗議しようとして私から目線を切ったところを狙い脇腹を拳で抉る。
徹は呻きながら地面に両膝ついて、俺が何をしたっと掠れた声で文句を言ってくる。少しは私達の苦しみを味わうといいの。
初代勇者の足跡の手かがりの光は見えるのに私達の乙女のつける足跡の方向はまだ光は見えなかった。
感想お待ちにしております。




