33話 どうでもいい事とほっとけない事
では33話になります。よろしくお願いします。
「俺の春奈を返せーーー!!!」
私は、まるで親の敵か恋人を殺した殺人犯を睨むような顔して叫ぶ徹を見ながらどこかで聞いた覚えのある名前だと思っていた。
「春奈って誰なんですか?もしかしてトオル君と一緒に他の人も召喚されてたのですか?」
混乱の中にいる美紅はそんな事を私に聞いてくる。
「そんなのいないの。徹だけしかきてない・・・」
そこまで言った時、私の中で紙袋、水着、女の子といったキーワードが沸いてきて繋がりだす。
高校聖書、「今年の春から高校生、春奈15歳。たわわに実るEカップ」
「ああああ!!徹!!まだ持ってたの!?」
私の絶叫が響き渡る。捨てるって約束したのに!!
ちぃ!思わず感情的になって叫んでしまった。アレを奪われる訳にはいかない。だってまだ見てないんだもの!ルナ達がいないまったりタイムに幸せに包まれながら見ようと思ってたのだ。俺の憩いが・・・
「インプ、返すんだ!俺は世界を代償にしても取り戻すぞ!」
「いやいや、ないから間違いなく、これは君にとって命よりは軽いモノっては分かってるから」
御託はいらない、俺はショートソードに手をかける。抜こうとした時にルナが溜息吐きながら俺を止める。
「私がインプから取り戻すから静かにしてるの」
「契約だから返したりしないよ?」
馬鹿だなって呟かれるがルナは反応しない。
「確認なの。貴方の契約は契約者から奪う事であって貴方の物にするのが目的じゃないでしょ?」
「その通りだけど、君に渡してアイツに戻されたら契約違反だよ?」
どうなるんだ?どうやって俺に戻してくれる気なんだルナ。
分かってるとばかりに頷くルナを見てちょっと不安になってくる。
「とりあえず、中を見せて貰ってもいいよね?」
「それぐらい別にいいけど」
「それじゃ、私も見せて貰いたいです」
ちょ、待った!それは不味いだろ。
「待て、俺も見てないのに先に見るってどうなんだ?それになんかお前らに見られるのすげー嫌なんだが!」
女友達が前の世界ではいなかったが、もし、いたらベットの下を捜される現場に立ち会う瞬間とはこんな気分なのかもしれないが知りたくはなかった。
俺が必死に止めるが無駄に終わり、開封されて2人の瞳に写される。その写された瞳がどんどん生気を失っていくのが離れた位置の俺にも分かった。核ミサイルのスイッチに指を添えながら死んだ目で生きていく楽しみないっしよって呟く人を見たらきっとこんな気持ちになるって言いたくなった。
刺激しちゃダメ!絶対!!
もうこれの一言だ。今週の標語にしておきたいぐらいだ。
「2人とも、とりあえず落ち着くんだ」
少しづつ、にじり寄る。
「じゃ、契約を履行するの」
ルナは美紅を見つめ、美紅は黙って頷く。
インプから春奈を奪うと美紅に向かって投げる。何やら集中していた美紅がカッっと擬音が聞えそうなほど目を見開くと右手に炎が生まれる。
俺は何かを考える前に飛び出す。もちろん、春奈を助けるために間に合えとばかりに手を伸ばす。
「地獄の業火よ、燃やし尽くして灰すら残すな!インフェルノ!!」
春奈にまっすぐ美紅が放った炎が貫く。俺の目の前で貫かれた春奈はこの世から塵も残さず消えた。
俺はただ、消えた春奈のあった場所を抱きしめるように胸に寄せて、泣いた。
「契約的には問題はないんだけど、君ら鬼だね」
インプに言われたら終わりだと突っ込める者はこの場にいなかった。
未だに泣いている俺にルナと美紅は左右別々の肩を叩いてくる。
「必要な犠牲だったの。徹も正規の方法じゃないとって力説してたし、立派だったの、徹」
俺が知る限り、最高の笑顔したルナが俺を慰めて?くる。
「トオル君、辛いと思うけど、立ち上がって!まだ私達はやらない事があるのを忘れないで!」
深刻そうなセリフ言ってるけど、とってもスッキリした顔してるからね?美紅。
「で、いいのかな?初代勇者が残した剣を抜けるようにして?」
やや、ウンザリした顔したインプが俺達に言ってくる。
せめて、元だけでも・・・いや、きっとマイナスだ!魔神を一撃で倒せる武器でも吊り合わねぇ!
俺は好きにしてくれっと言いたかったが抜けるようにしたら、襲いかかってきそうな、あの力の塊を思い出して、思い留まる。失ったものは辛いが俺は何をここに何しにきたか思い出せ。
泣きそうなルルの顔が俺の頭に過る。任せておけと言ったろ?
「ルナ、美紅、言いたい事は山のようにあるが、全部、後回しだ。やるぞ!」
俺がそう言うと、
「徹が悪いの。あんなもの持っているから・・・」
「ああいうのはいけないと思うんです。だから・・・」
少しは罪悪感があったようで目線を切りながら少しづつこっちを見ようとして2人は言葉を失う。
「俺達はここに何をしにきた。些事にいつまでも拘るなら邪魔だ。動揺して時間を無駄にしたのは俺もそうだが、これ以上、無駄にするなら出て行ってくれ。俺1人でもやる。ルルの姉に残された時間はもうないんだ」
俺に言われて、今、置かれてる状況を思い出した2人は唇を噛みしめ、俯いてしまう。
声を張り上げて、2人を呼ぶ。弾かれたように俺を見る。
「でも、俺は弱い。力を貸してくれないか?俺にはお前達が必要なんだ」
俺は照れ臭かったが必死に笑いかけた。
一瞬、呆けた顔をしたかと思ったら、何やら腹を決めた顔をして、
「私の拳を徹に」
「私の剣をトオル君に」
「「信じる事の為に。」」
あれぇぇ?分かった、頑張ろうってぐらいの話になると思って言ったつもりだったのに騎士の叙任式みたいなノリになってない?
俺な胸の内を知られる訳にはいかない。とりあえず、頷いて必死にうろたえたい気持ちを押し殺してインプに言う。
「抜けるようにしてくれ」
時間がないっというは本当だし、言った言葉に嘘をついた覚えもないと自分に言い聞かせて、2本の剣をいつでも抜けるように手を添える。
「本当に君は面白いね。分かった、いくよ」
また、何を言ってるか分からない詠唱始める。
そうすると神に成り損ねたと言われる力の奔流が俺の中に入ってこようとする。本能的に察する。コイツは俺を乗っ取ろうとしている。意識が混濁して切り離された。
俺の様子がおかしい事に気付いた。2人がインプに詰め寄る。
「どういうことなの、剣を抜けるようにしたら徹を襲うならまだ分かるけど、アレは間違いなく徹に成り変わろうとしてるの」
「人間だった時の本能?元に戻りたいという気持ちが同じ性別の人間を乗っ取って成り変わろうとしてるのさ」
「なんで剣を抜くとこういった危険があるのを伏せたのです!」
言い募る2人をケタケタと笑いながら答える。
「僕は言ったよ?「僕が答えなかった場所は答える気がないと思ってね。」と言ったら彼は了承してたじゃないか?」
殴りかかろうとするルナを無視するように続きを話出す。
「それに、こういう風に話を持っていって伏せて抜かせるというは初代勇者との最後の契約でもあるんだ。乗っ取られるような人物なら使わせるに値しないと言ってたよ。今、彼の中での戦いを君達にも見せてあげるよ。人の本質ってのは醜いって思い知ると思うけどね」
ルナはギリギリで踏み止まる。
2人は徹を見つめる。今できるのはきっと乗り越えて帰ってくると信じるだけである。
俺は姿なき男と向き合っていた。見えないのにそう確信できる。ここはそういう場所だと俺はどんな根拠か分からないが理解していた。
「お前はアローラに来たくて来た訳じゃない。本当は疑ってるんだろ?美紅の代替品としてルナがお前を召喚してるって?言ってたじゃないか、ルナには使徒がいないとお前をそう扱ってるんだぜ?帰りたいんだろ?元の世界へ?」
確かに帰りたい。ルナにそれを言うとアイツはきっと傷つくと思って口に出さずに今まできた。しかし、そうなのか?ルナが俺を召喚したのか?
「美紅だってそうさ、アイツは戦いから逃げたいから、お前の後ろにいて戦いを回避する為の盾にしてるんだぜ?お前がヤバいと思ったらいつでも逃げる気満々さ、あのウジウジしてる美紅を見てて、お前もイラつた事あるんだろ?我慢する必要なんかないさ」
美紅は俺を盾にしようとしているのか?俺を囮にして逃げる気だったのか?震えながら剣を構える美紅を見て俺はイラついていたのか?
「ミランダにしてもそうだ、アイツは一切、お前に正体を明かさない、名前なんて偽名だって気付いてるだろ?お前らを裏切るタイミング計ってるってるだって、いつが一番売り時かってな」
確かにミランダって名前が本当な訳がない。ミランダは裏切ろうとしているのか?
「お前に依頼してきたルルだったか?あいつもおかしいだろ?単純にお前に合う符号を上げて、タダ働きさせようと演技してたんだぜ?チョロすぎだろ?お前は?」
確かに俺に噛み合う話は多かったな。
「フッフフ、アッハハハハ!マヌケすぎるな俺ってやつは」
「そうだろ?だから辛い思いするぐらいなら、お前の内で眠ってろよ、後は俺が上手い事やっといてやるから」
男からニヤリとしてそうなイメージが伝わる。
「何言ってるんだ、お前は?俺がマヌケって言ったのは一瞬でも疑った自分にだぜ?」
「な、あれだけ説明してやっただろ?お前は騙されてるんだ」
狼狽した男のイメージが伝わる。
「ミランダの正体?偽名?それがなんだ、そんなのは霞むぐらいのモンスターだぜ?気にしてられないさ。ルルが利用?そりゃするだろうさ、しなきゃ唯一の肉親がいなくなる、でもよ、それなら利用する相手は選ぶだろうさ、受けてくれそうでも達成できるかどうか分からないEランクだぜ?」
「くっ、ならルナと美紅はどうなんだ?あいつらの疑いを払拭する方法なんてないだろ」
俺は2人の顔を思い出してクスっと笑う。
「払拭?正直、お前が言ってる事が事実でも虚偽でもどっちでもいいさ。俺にとってどうでもいい問題さ。ただ言えるのは、あの2人馬鹿なんだよ。さっきよ、叱ったけど、一緒に頑張ろうぜ?って流れに持っていこうとしたら、あいつら、自分達の武器は俺の信じる事の為に振うとか言いだすんだぜ?本当のお馬鹿さんだ。俺が一緒にいないと悪い奴らに騙されるわ、ありゃ、ほっとけないんだ」
「そ、そんな事言ってたら、あいつらに後ろから刺されて死ぬだけだぞ?」
何の迷いもない顔で笑い、
「その時は笑いながら、俺って馬鹿だなって死んでやるよ」
徹を見守っていた、2人は徹の言葉を一字一句でも聞き逃すまいと声も漏らさず涙を流し続けていた。
「乗り越えた!初代勇者の試練を乗り越える人間が存在してたなんて!」
インプは興奮を隠し切れずに震える。人間が抱える闇は全ての等しくある大きさなんて関係ない、どれだけ抗えるかの違いでしかない。あの初代勇者ですら乗り越えられなく逝ったというのにあの人間は乗り越えた。この凄さを伝えたいのに伝えてはいけない契約、インプは自分の自我が生まれて初めて契約を疎ましく思った。
徹の体から力の奔流が飛び出す。飛び出した力の奔流は天井を抜け、神殿から出て行ったようだ。
俺はあのよく分からない空間から元の部屋に戻ってきた。力の奔流がこの場にいなくなっている。でも分かる、アイツは外に逃げる気だ。
「追いかけるぞ!行くぞ!」
「「はいっ!」」
なんで泣いてるんだ?とは思って理由を聞きたいと過るが今はその時ではないと思い、俺は扉から飛び出して外へと全力で走りだした。
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