32話 俺の魂
では32話です。よろしくお願いします。
神殿の廃墟にやってきた俺達だが、ルナの話だとこの神殿は初代勇者を愛した女神を祀った場所らしい。そんな場所で初代勇者は謎の変死を遂げた。一体何があったっていうのだろう。ある意味、初代勇者にとって一番安全な場所だったと思われるのに。
中に入ると礼拝堂だっと思われる奥に3mほどありそうな神像がかろうじて原型を留めて安置されていた。それを見上げてルナは呟く。
「あなたは、何を知ってしまったのですか?」
神像を見るとなんとなくルナにも似ているようにも見える。ふと、感想が沸き上がる。
「なんかルナの姉みたいな人だな」
俺がそういうとルナは少し泣きそうな顔して神像を見上げて、うんっと答えた。
とりあえず、このまま神像だけ眺めていただけでは時間を無為に過ごすだけだから礼拝堂から調べて行く事にする。各自、捜し始める。
ルナは魔法的な印みたいものや流れがないかを探し始める。美紅は地下がないか、床を叩きながら確かめているようだ。床を叩く音を聞いて、美紅に殴られるような事態は絶対に避けようと心に決めた。
俺はなんとなく神像が気になって見ていると、ルナに近い顔した神像にとても大きな違和感を感じる。胸がでかいのだ。明らかに盛りすぎである。ルナと家族というならきっと絶壁なはず、お仕置きだ!
ルナは俺が考えた事を察知したのか行動をたまたま目撃したのか、やろうとしてる事を止めようと声をかけてくる。
「何をしようとしてるの、徹!止めて離れるの!」
そうやって止めようと近づいてくるが、遅い!
ピーチクがあるのは、この辺りだ。両手の人差し指を片方づつ押す。
「徹の馬鹿!スケベ!!」
「トオル君、それはダメだと思う・・・」
勢いでやちゃった感がある。反省だけはすることして、謝ろうと手を離して振り返ろうとしたら、神像の後ろの壁が開いて行く。
俺達の間に痛いほどの沈黙が降りる。どう収集したらいいのだろうか。誰か助けてくれ。
「こんなの徹じゃないとやらないと思うの。馬鹿」
はい、僕が馬鹿でした。笑いも取れないこの空気が痛い。
半ばヤケクソな気分で俺はその開いた壁の奥へと歩いて行った。
奥に行くとルナが急に立ち止まる。
「凄い魔力ともう一つはこれは初代勇者の魔力の波動に似た力が」
というルナはとあるドアの前で止まる。
ルナを下がらせて、俺がゆっくりドアを開く。中を覗くと中央の魔法陣のような真ん中にショートソードぐらいの長さの剣とナイフより長くてショートソードより短いという微妙な片刃の剣が交差するように突き刺さっていて力の奔流がその剣を包むように目で見える形で渦巻いていた。
ルナ達に中の状況を説明して、ゆっくりと警戒しながら入るという事に決まり、俺が先頭になり、入って行った。
中に入るとルナが声を震わせて言う。
「間違いないの、これは初代勇者の魔力なの。どうして・・・」
「その通りさ、どうしてか知りたいのか?」
突然、後ろから俺達以外の声がする。
弾かれるように俺達3人は後ろを向く。そこには赤ん坊ぐらいの大きさの蝙蝠の羽根が生えたような紫の気色悪い肌の色したモノがいた。
「下級悪魔のインプなの」
「そうさ、その通り。3人とも身構えるの止めてよね。インプは魔法使わないなら人間の子供にも殺されかねないぐらい弱いんだ。この距離なら魔法使おうとしたら素手で僕は殺されるよ」
ルナが正体を俺達に伝え、インプも認めた。
「じゃ、なんの用なんだ?」
警戒だけは解かないように質問する。
「ここにきた奴らに質問してその答えに満足したら契約を結んで初代勇者が最後に残したあの剣を抜けるようにするってのが初代勇者との契約なのさ」
「おかしいの、初代勇者の武器は美紅が使ってる武器より大きな両手用の大剣だったはずなの!」
「始めは初代勇者を愛した女神かと思ったが、違ってお前さんが誰か分かってるのにそんなすぐばれる嘘は言わないよ。それに言ったろ?契約なんだ。結んだ以上順守するさ」
そう言われたルナは黙る。
相手はとりあえず戦闘をしようとしてる訳じゃなさそうだから色々聞き出そう。
「さっきの話だと契約の話の前に質問をするような事言ってたが、先に質問を色々したい事があるからさせてもらってもいいか?」
「そっちが殺気だったままだと話も進まないだろうし、話せる事ならいいよ。その代わり、3つだけにしといてね」
「分かった。ただ、言わない事は言えないのか知らないのかははっきり言ってくれ」
クスクス笑いつつ、了解と言ってきた。
まず何から聞くべきかと考えたが発端となっている初代勇者の話がいいかと思い聞く。
「まずは、初代勇者は何故突然変死をした?この場に初代勇者の魔力があるとこからここで逝ったんだろうが、祀ってた女神のお膝元と言える場所で把握できてなかったのはおかしいだろ?」
「まさか、今のが1つとかいうの?ずるいね。そっちがそうくるなら。僕が答えなかった場所は答える気がないと思ってね」
しぶしぶ俺は頷く。
「確かに初代勇者が逝ったのはこの場所だよ。死体は僕が外に出した。何故かは秘密。なんで女神が分からなかったのは初代勇者が隠したからさ」
最後の一言を本当に楽しそうに答える。
ルナがどうしてと聞こうとしてるのに気付いた俺は止める。
「どうして邪魔するの!徹!」
「ダメだ。ルナ、それを聞いたら2つ目になる。向こうはそれを引っかける為に振ったんだ。そして、答えられないって言うつもりだ」
俺達のやり取りを楽しそうに見つめるインプ。見た目に騙されたらあっという間に思考誘導と質問タイムを終了されてしまう。
「2つ目だ。譲るつもりがあった初代勇者のその2本の剣をこんな見つけるのが困難な場所に隠した」
「1つは女神の目を盗む為だった事ではあるんだけど、1番は初代勇者の魔力を取り込んだ協力者をここから出さない為にと無意味に封印を破らさないためだよ。そこ剣の周りの奔流がその協力者の名残さ、初代勇者の魔力を使って神を気取ろうとしたつもりだったようだけど、今じゃ、ただ、願いを聞き、搾取するシステムになちゃってる。当面は押さえつけられてる勇者の封印を破るつもりみたいだけどね。アレに意思らしき意思はないよ。ただそういうモノに成り下がっている」
おそらく、アレがルルの姉の呪いの元になってるものだろう。
色々ピースは集まってきてるが仮説を立てるために必要な後1つ欲しい情報を聞く事にする。
「初代勇者は魔神との戦いで何を知った?」
今まで無邪気な顔で笑っていたインプがニヤァっと厭らしい笑いをしてきた。
「君、本当にいいとこ突くね。答えは答えられないだよ」
くっ、その危惧はあったがやはり答えないか。しかし、この場合の答えられないは意味がある。そこがキーの1つと言っているようなものである。
「ただ、これも契約の一部だから答えると初代勇者の足跡を追えば分かる。これは今の質問をしてきたやつへの初代勇者からの伝言さ。さて、これで約束は果たした。次はこっちからだ」
何を言ってくるつもりだ。初代勇者は何を考えていたんだ。
「あの剣を抜いて、神に成り損ねたモノと戦うか?それとも、このまま帰るか。抜くなら抜けるようにする為の代償を求めるよ?」
ここにきたのは3つ理由がある。ルルの姉を助ける。初代勇者の秘密を調べる。そして俺の運命を切り開く助けをするという占いの結果か。
お姉さんを信じるなら、あの剣がきっとそうなんだろう。他の2つも同じ選択を迫られるのは分かっている。
俺は代償が何かと聞くと嬉しそうに答える。
「自分の命の次に大事なモノを貰うよ。これは形あるものじゃないと契約にならないし持ってない人できないからその辺は理解してね」
「俺はその契約するのに条件満たしてるか?」
「ちょっと魔法使うけど調べる為だから攻撃しないでね?」
ああ、と答える。
俺の返事を聞いた後、なんて言ってるか分からないが魔法を詠唱してるようだ。
ルナと美紅がそんな契約しちゃ危ないって俺を止めようしてくる。
「ルナ、美紅、これは必要って俺は思う。腹ただしいって俺も思うが正規の方法以外でやろうとしたら全部ご破算になるって俺のカンが言ってるんだ」
分かってくれっというと2人は渋々引き下がってくれた。
「うん、君だけが契約する条件満たしてるよ。やるかい?きっと命取られるぐらいの苦しみを味わう事になるけど?」
「ああ、やる。むしろ俺だけ条件満たしてて良かった。やってくれ」
2人は辛そうにこっち見つめているが言っても引き下がらないと諦めてくれてるようだ。
俺は自然体で立ち、目を瞑った。
「じゃ、いくよ?」
俺の中を何かが駆け抜けるような感覚が過ぎた後、なんといったらいいか分からないが喪失感に襲われる。
目を開けた俺は体をペタペタ触る。体の一部を持って行かれたとかではないようだ。体を触ってる最中にある物がない事に気付いた。
背筋に寒いものが走る。俺の記憶だと腰の所にあったはずである。カバンをひっくり返すがない。
「あ、アレを奪ったのか?」
震える声でインプに確認する。
「うん、君の腰のとこにあったやつさ。なんでこんなものが君にとってそこまで大事か分からないけどね」
「奪ったのか、奪ったのか、この俺から奪ったのか!」
俺がここまで狼狽したとこを見た事がない2人は俺に駆け寄ってきて、
「大丈夫ですか?今からでも契約破棄して奪い返しましょう」
「だから、ダメだって言ったの!!」
半泣きになった俺が魂からの慟哭を響かせる。
「俺の春奈を返せーーー!!!」
ルナと美紅は目が点になった。
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