31話 禁忌の地へ
では、31話になります。よろしくお願いします。
急ピッチで準備を終えた俺達は仮眠を少し取るために自分の部屋に戻り寝た。元の世界で早起きとか目覚ましがあっても起きるべき時間に起きるのが困難だったのが嘘のように日が上がる前にパチっと目を覚ます。
体感的に3時間は寝てないと思う。しかし、充分だ。
俺のカンがルルの姉に残された時間が少ないと訴えていた。俺が見た容態と男の日記をルナに伝えたところ、俺のカンは的外れではなく、残された時間は少なく、ルナが解呪しようとすれば、姉の体は持たないだろうとのこと。呪いにかかった直後なら打てる手がなかった訳ではなかったようだが全てが今更の話である。
「ルナ、そろそろ時間だ。起きてくれ」
俺は優しく揺すると、いつもなら愚図るルナであるはずなのにおとなしく起きる。目ははっきりと覚めているようだが、どんよりとした雰囲気がある。初代勇者の事で意気込みすぎてるのかもしれない。
「普段もこんな簡単に目を覚ましてくれると助かるんだがね?」
「うっさいの!徹!」
少し顔を赤くはしてるがいつもの元気を取り戻したようだ。俺に気を使われた事も気付いたようで照れ臭いらしい。
そんな照れ隠しも受け流す俺に腹が立つらしく、着替えるから出て行けと枕を投げて追い出す。
「先に下で待ってるからな」
ルナに一言伝えて、荷物を持って扉を開けて出て行った。
下に降りていくと既にミランダと美紅がいた。
「おはよう、2人とも」
俺が挨拶するとおはようっと挨拶を返してくれる。
美紅は装備の微調整も終わったらしくフル装備で待っていた。よく見ると装備の下に着ている服が変わっている。
村人の服のような継接ぎが目立つ服を着ていた美紅だったが今は真っ赤なアンダーシャツに同じ色のズボンを履き、体のラインがはっきり分かるせいか、俺に見られてると気付いた美紅が少し恥ずかしそうにしていた。しかし、ミスリルの光沢のある装備によく合い、美紅の黒髪がアクセントになって見事な調和を生んでいた。
「少し派手にも思えなくはないが、とても似合ってるな。ミランダ、美紅の装備がどんなのになるか分かってたみたいなチョイスだな?」
「ふっふふ、美紅ちゃんの適正が理解できてたら、きっとこういう装備を勧めるだろうと思ったからよ」
たいしたことじゃないわっと言うミランダがそれが分かるのは普通じゃないと思うんだが。
でもね、ミランダが眉を寄せて困りましたと言った顔して呟くように言う。
「まだパジャマは間に合わなかったのよね」
あまりに抜けた内容で足の力が抜けた俺はふらついて顔を壁にぶつけてしまった。
ミランダは笑って、帰ってくるまでには作っておくわっとウィンクしてくる。
うん、分かってる。どうやら緊張してたのはルナだけじゃなくて俺もだったらしい。ミランダに気を使われたようだ。ありがとうと言うともう一度ウィンクをした。
美紅に近寄り、もう一度、上から下へと見て、キマってるな?っと言うと照れて俯いてしまった。
「美紅、仮眠を取る事はできたか?」
「大丈夫ですよ。トオル君は心配しすぎです」
クスクスと笑う美紅は少し嬉しそうだった。
2人で話をしていたらルナも準備ができたようで美紅の荷物も持って現れる。
「おはようなの、徹以外」
まだちょっと拗ねてるらしく、俺をハブる。
美紅に荷物を渡して、用意の礼を言われて気にしないでと笑い合う2人を見て女の子同士の仲良さが少々羨ましかったりした。
「じゃ、出発するか」
みんな揃ったからすぐに出ようとする俺をミランダが止める。
「待ちなさい、なんとなく、すぐ行動しそうな気がしたから用意しといて無駄にならなかったわね」
俺達に一人づつに大きな葉っぱ、でっかい笹の葉といったもので包んだ物をを渡していく。
「おにぎりよ、歩きながらでもいいからお腹に入れておきなさい」
よく見ると美紅のものだけ、美紅の顔ぐらいの大きさのものが入ってそうな大きさになっている。しかも2つはありそうだ。納得のボリュームだ。
「さすが、ミランダ、気が焦ってて忘れてたよ。ありがとう」
俺の言葉に返事せずに背中を押して、いってらっしゃい、とだけ言った。
俺達が言う言葉は決まっている。
「「「いってきます。ミランダ」」」
東門に向かう大通りを進むがやはり早い時間のせいか誰もいない、いや、そう思っていたら、俺達を待ち構えるように待っている1人がいた。ルルだ。
「本当に行ってくれるの?」
「当たり前だろ?お前もそう思って見送りにきてくれたんだろ?」
肩を竦めておどける俺を見て、
「いや、俺も一緒に・・・」
「来るなんて言うなよ?昨日も言っただろ?ねぇちゃんを見てやれ」
でも!と言い募ろうとしたルルの前にでたルナが心の奥底まで覗こうとしてるかのように瞳を見つめる。
「なるほど、だから、あなたは夢で徹の事を・・・」
ルナ1人が何やら納得したようだ。続けて、ルナは言う。
「あなたを導いた先にいた徹を信じるの。次にそういう事は起こらないでしょうけど、あなたが見て感じたものは気のせいじゃないの」
もう1度、徹を信じてあげてとルルに目線を合わせて両肩を掴んで微笑む。
下唇を噛んで、言いたい言葉を飲み込んだルルが、
「少しでも早く戻ってこい、トール!」
その言葉に俺はおうっと答えるとルルは北門の方向、ルルの家の方向へと走っていった。
ルルを見送って歩き出した俺達だったが、俺はさっきのルナの言葉が気になり聞くだけ聞いてみる事にする。
「さっき、ルルを見た時に何かを納得してたようだけどなんだったんだ?」
少し伏せ目気味で何やら考えてから、ルナは話出す。
「3神にはその時代に1人の使徒が生まれるように世界を作ったの。あの子は昨日話した女神の今代の使徒になるはずだった子なの」
もう3神はいないからほとんど一般人と変わらないらしい。
「でも、今回はあの子の精神状態が激しく揺れて、僅かに漂ってた女神の神気が神託という形であの子を徹へと導いたと思うの。次、同じような事があっても神託はこないでしょうけど」
物悲しそうに語る。
そこで疑問に思った美紅がルナに質問する。
「ルナさんにも使徒はいるんですか?」
歩いてた足を止めたルナは、山の向こうから太陽が昇ろうとしてる光が漏れだしてる辺りを見つめて、私にはいないのってポツリと呟いて、また歩き始める。
そんなルナの反応を受けてどうしたらいいか分からないらしくうろたえる美紅の頭をポンポンと叩いて、大丈夫、ルナも分かってるさと落ち着かせた。
それから俺達は碌に話をせずに神殿跡を目指して歩いた。空気が悪くなって話をしなかったのではなく、おにぎりを食べながら歩いていたから単純に口数が減っていただけである。
太陽が山から出てきた頃、俺達は神殿跡についた。
その時、ふと、初めて冒険ギルドの依頼で薬草採取した時に会った、お姉さんを思い出した。
「うーん、近いうちにあの山に君は向かうね」
「そこで同郷の人に出会いがあるはず。その出会いがあったら次の行き先を東にある街の近くの廃墟になってる神殿に向かうと君の運命を切り開く助力してくれるモノと出会う事になるって占いに出ているよ」
と言ってたと思う。
ここに何があると言うんだろう。
ルルの姉を命を奪うモノ、ルナが知らなければならないモノ、そして、俺が切り開く運命の助けをしてくれるモノ。
俺は何かに導かれるかのように行く先を見つめ、神殿に入って行った。
感想などありましたらよろしくお願いします。




