30話 勇者の可能性
美紅があの結界から出ようと思った理由の1つの答えが今回語られます。勿論、理由は他にもあるようですが、怖がってた戦いにも挑む理由にも絡んできます。
では、30話になります。よろしくお願いします。
俺はルルにされた依頼の内容を2人に話す事にする。
2人はたいした確認もせず、了承してくれた。本当にいい奴らである。
「今日中に準備して明日の朝一に出発したいと思ってる。こないだの山に行った時の荷物があるからなんとか間に合わせの準備ができると思う」
厨房のほうにいるミランダに声をかける。
「悪いんだけど、今から食糧集めるの難しいんで備蓄の食糧を分けて貰う訳にはいかないかな?」
「遠慮せずに持って行きなさい」
本当にミランダは男前である。あれでオネェじゃなければと切実に思う。
後はおっちゃんが来るのを待って装備を受け取るだけだな。
とりあえず、食事をしつつ、おっちゃんを待つ事にした俺達は明日の予定を話し合う。
「まずはさっきも言ったが朝一に出発して東の森の奥にあるという神殿の廃墟を目指す」
「待ちなさい、トール。あなたが行こうとしてるのは間違いなく東にある神殿の廃墟なのね?」
先程まで暖かく俺達を見守ってたミランダが話に介入してくる。
やや、ミランダの気迫に押され気味ではあったが肯定する。
「止めても無理だろうけど、トールが行こうとしてる場所は初代勇者が死んだと言われているアローラ人にとって禁忌の場所よ」
ルナをチラっと見るが俺と一緒に驚いている。よく考えたらルナって神のクセに地理に疎いよな。最初に来た時もクラウドに来た時もとても新鮮そうにしてたしな。
しかし、そんな曰く付きの場所なら2人を連れて行くのを躊躇するな。
「俺もそんな場所とは知らなかったが、何だったら2人はこな・・・」
「トオル君、その続きは言わないで、私は必ず行くから。第一、私はアローラ人じゃないので関係なんかないんですよ」
美紅は絶対に引きませんという意気込みを伝えたいのか手の甲をこっち見せるように両手握り拳を揺すって意思を示す。ルナもそうだが頑固になったりする時、幼児化するよな、女の子ってそういうもんなの?強者のダチがニヤリと笑ってサムズアップしているイメージが過る。俺はいつか帰れたらアイツを殴りに行こう。本人は悪くないのに勢いで思ってみた。後悔も反省もない。
ルナを見ると少し辛そうに何かを思い出すようにしていた。
「ルナ、無理して行かなくてもいいんだぞ?依頼といっても俺の我儘で報酬らしい報酬はないんだから」
「ううん、徹、私も行く理由ができたの。私は初代勇者が逝った場所にいかないとダメなの」
遠い目をしたルナが俺の言葉に返事をする。
「聞いていい理由か?」
俺の言葉に少し目を閉じたルナは静かに語りかける。
「初代勇者は、過去にいた3神のうちの女神に愛された。文字通り、1人の男性として女神は力の限り、初代勇者を加護し援助してきたの。初代勇者もそんな女神を1人の女性として扱い、2人はとても幸せそうだった。初代勇者が魔神を3分割に成功し、封印した時、2人は結ばれると誰もが思ったの。でも、突然、初代勇者が変死を遂げた。女神は悲しみに飲み込まれそうになるのだけど、初代勇者が愛したアローラを守る為に心を殺して守る為にがむしゃらに打てる手を打っていった。丁度、勇者を封印の媒体に使える緊急処置が施されたのは、女神の悲しみをごまかす為だったとは思うのだけど、勇者からすれば許せるものではないのでしょうね」
そこまで聞いた美紅はなんといったらいいか分からない顔する。おそらくルナが言うように許せない気持ちもあるんだろうが女としての気持ちも理解できるといったところなんだろう。
「そして、ある日、女神は姿を消したの。もう何も信じられないという言葉を残して、アローラから出て行ってしまったの。私はその理由を知らなければならないの。だから止めても行くの」
その話を聞いてたミランダは目を剥いて驚いていた。まあ今の話を聞いてルナが普通じゃないのは気付くだろう。切れるミランダだからほぼ答えに辿りついてると思われる。
俺はミランダと呼びかける。
ミランダは息を一つ吐き、
「言ったでしょ?私は貴方達を応援すると。私は言った言葉を曲げたりしないわ」
1本の筋と通った大人ってこういうものなのかと思い、オネェのとこ以外は俺の目指す背中なのかもしれない。ミランダに会わせてくれた、おっさんにも感謝である。元気にしてるだろうか?
それからしばらくして、グルガンデのおっちゃんが美紅の武具を持ってやってきた。
「やってきたぞ、嬢ちゃん、着けて見せろ」
何を持ってきたとかの説明もせずに手渡すと着させる。
渡されたのはハーフプレートに肘までぐらいまである盾と片手剣にしては少し大きく見える剣はバスターソードか?どっちでも使えるようにした剣に見える。その為か剣の厚みも普通の片手剣の倍あるように見えた。ブーツも丈夫そうな皮のものであるようだが何の皮かさっぱり分からない。
「あら、これってミスリル使ってない?」
カウンターから出てきたミランダが美紅の装備を見ておっちゃんに聞く。
「やはり分かるか。本当は鉄か鋼でやろうかと思ったんだが、興が乗ってミスリルで表面加工やってしまったわい」
「ちょ!おっちゃん、そんなの銀貨20枚じゃ収まらないでしょ?」
馬鹿を見るような顔したおっちゃんがその質問に答える。
「職人が勝手にやった部分に金を取るのは3流以下の詐欺じゃ、覚えておけよ?小僧」
2度目はねぇ!って具合に睨まれる。
「装備も間に合ったって良かった。明日の朝一で出発できるな」
「まだ微調整も済んでないのに渡すと思ってるのか?馬鹿もん」
にべもなく切り捨てられる俺。
「困るんだ、本当は気持ち的にはすぐに出発したいぐらいなんだ」
「職人が中途半端のものを渡す訳にはいかねぇって言ってんだ!」
おっちゃんの言い分は男である俺には痛いほど分かるが今回だけは折れて欲しいと交渉しようとした時、
「私からもお願いします。調整に私も付き合いますから明日の朝までに間に合わせてくれませんか?」
「なんで、嬢ちゃんがそこまでするんだ?仲間って理由なら聞く気はないぞ?」
俺の行動を止めて間に入ったのは美紅であった。そんな美紅を見ておっちゃんは睨みつける。
一瞬怯んだ様子を見せた美紅だったが踏み止まり話始める。
「トオル君は私にとって可能性なのです。いえ、少なくとも私はそう思っています。そんなトオル君が私達に頭を下げて頼みこんできたんです。私はそれを手伝い、見届けたいのです。私の可能性を」
「確かに見所はあるとワシも思うが嬢ちゃんがそこまでするほどなのか?まだ可能性でしかないその小僧に?」
クスっと笑うとおっちゃんに今まで見た事のない自信に溢れた美紅が挑み返す。
「では、是非、トオル君よりの可能性を紹介してください」
ぐっ、と呻くおっちゃんがジロっと俺を睨む。おっちゃんにやってもらう建前もあるんだろうけど、なんか本気で言ってる部分がある気がする。美紅の信頼が重い・・・俺は美紅の期待に応える男あり続けられるのだろうか?
「ふぅ、ワシの負けじゃ、小僧、嬢ちゃんを借りていくぞ。ミランダ、例のやつは今度にするわい」
ミランダは分かったわっとおっちゃんに答える。
俺は慌てて、美紅におっちゃんに払う代金、銀貨20枚を渡す。
「結界の中で感じたトオル君の可能性を嘘にしないでくださいね」
俺が渡そうとしてる手を包むようにして受け取ると俺に微笑んだ美紅はおっちゃんについて店を出て行った。
男って生き物はここぞって時は女の子に振り回される生き物なのかもしれない。そういう意味ではおっちゃんも俺も同じらしい。
「じゃ、ルナ、俺達は準備を済ませよう。美紅の準備は任せていいか?俺はミランダに食糧を分けて貰ってくる」
「分かったの。こっちは任せてなの」
時間は有限で今回は準備にかける時間が足りないぐらいだ。美紅に啖呵切らせて、生まれた時間を俺は無駄にする事はできない。
早速準備する為に俺はミランダに連れられて厨房に入って行った。
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