29話 導かれた先にいた俺
まずはすいません、切りどころが分からなくて過去最長の文章になってます。読み辛いかとは思いますが最後までお付き合いよろしくです。
29話になります。よろしくお願いします。
死線を潜った前回の依頼で俺は負傷した。俺の負傷箇所は不肖のマイ・サンだった為、回復魔法を唱えようとした美紅は何を想像したのか聞かないが限界突破したようで詠唱途中で気絶する騒ぎがあった。
嫌がるルナにプリンを譲渡する事で納得させ、男としての死亡を回避する事に成功したがまだ使った事ないのに使えなくなったら俺は命を絶ってたかもしれない。男としての威厳は2人に対して既に死亡してるかもしれないがそこは考えないようにしたい。
ヘロヘロになった俺はやっと思いで冒険ギルドに着いてみれば、俺の顔を見たシーナさんは、やっぱり?と言って爆笑するわ。周りの冒険者達も事情を知った後、シーナさんと同じ反応する人と同情して肩を叩いていく人の2通りに分かれて対応された。笑ってるやつめ、俺が同じ目にあわせてやろうかしら?あぶね!まだ後遺症があるのか、微妙にオネェに成りかけてた。
まあ、そうは言っても同じ目にあわせようとしても痛みが理解できて、やった瞬間に痛くないはずの自分まで痛い気分になるから躊躇してできないだろうがな。男なら大抵の人は同じだろう。
依頼の結果は苦労した分に見合うか分からないが結構な金額になった。美紅の装備代金を払うのに困らない。美紅が持ってた長剣はぼろくなってたとはいえ、今回の戦闘1回だけで折れたようだ。魔法戦士だからか、一撃が強くて刃が持たないのかもしれない。
今回の収入で一番だったのは美紅が俺を助けようとして勢いであれ、戦えたのは大きな前進と言えたのではないのかなって思っている。
冒険ギルドを出たとこで2人に振り返って、
「今日は疲れたから俺は戻るけど2人はどうする?」
「まだ夕飯どころか夕方にもなってないから、ちょっと市場を眺めて、散歩してくるの」
確かにまだ夕方と呼ぶ時間にはもう少しあるだろう。
少し考え込んだ美紅だったが市場とかに興味があったのかルナに同調した。
「だから、徹、お小遣い頂戴!」
実は金の管理は俺がしていた。不思議じゃない。ルナなんかに任せてたらすぐに散財しそうだしな。この歳で主夫になってる俺が悲しい。
確かに余裕も出てきたし、自分の為だけのお金を持つ必要もある。2人の金銭感覚を知る機会にもなるから、とりあえず渡してみよう。
「分かった、分かった。1人銀貨1枚な」
「さすが徹は分かってるの~愛してるの~」
「有難うございます。大事に使いますね」
ルナの愛は時価、銀貨1枚で買えるそうです。どうせなら特売セールの籠で売っとけよ。俺の希望は美紅だけだと思いつつ、ほとんど条件反射になりつつある美紅の頭を撫でる。
「俺に頼みにくい買い物もあるだろうし、それに使ってくれ」
俺達は冒険ギルドの前で別れる事にした。肉と卵はミランダに渡す為に俺が預かってマッチョの集い亭に帰る事になった。
ただでさえヘロヘロだった俺は荷物が増えた事で疲労が割増料金上乗せ追い詰められていた。
「冒険ギルドからミランダの宿が近くて良かった、本当に」
ベットに転がる事だけを夢見てマッチョの集い亭の扉を開ける。
「あら、おかえり。トールにお客よ」
誰だ?おっちゃんが来るには早い時間だが、おっちゃんぐらいしか心当たりがないんだが?
周りを見渡すと特に誰もいなくて、強いて言うなら小さな子供がいるだけである。勿論、見覚えもなく、見た目だけなら美紅よりも年下に見える。まさか、この子じゃないだろう。
「俺に客って何?」
そう言いつつ、カーババードのお土産をミランダに渡しつつ聞く。
あら、このお肉美味しいのよねって言いながら受け取ってくれる。
「トールに依頼したい事があるそうよ。あの端のテーブルに座った子よ」
「まさかとは思ったけど、あの子か?見覚えないんだが、ミランダは知ってる子なのか?」
「知らない子よ、昼前からずっと待ってるから話だけでも聞いてあげて」
荷物をカウンターに置かせて貰って、少年?に近づいていった。近づいて見てみると中世的な美少年になるのが保障されたような子で服装から見ても男と判断して良さそうであるが、やはり見覚えがない。あったら顔の偏差値で一度ぐらい呪った事請け合いである。
「お前は誰なんだ?」
「名前を聞く時は自分からだろ?」
声変わりがまだなのか高めな声とやや吊り上がった目に力を入れて俺に言い返してくる少年。
「俺が誰ってお前が俺を待ってたんじゃないのか?俺がトールって知らずにここにいたって話になるんだがおかしくないか?」
俺を待ってたという人物なのになんで俺を知らないんだ?
少年は俺の顔をジロジロ見つつ、確認するように聞いてくる。
「お前が受付嬢の胸に執心して、命を天秤にかけてまで触るのに必死な冒険者のトールか?」
「俺は確かにトールだが、そんな事実はない」
「そのトールよ。一部の冒険者の間じゃ、クラウドの勇者として語られる男が目の前にいるわ。」
え?俺ってそんな事、噂されてんの?特に男の冒険者に声かけられないのって俺が実はもてて、嫉妬されてたとかじゃなく、同類と見られるのを阻止する為とかだったりしたの?
地味にショックを受けている俺ではあったが、負けない、俺はオッパイを諦めてやったりしない。うん、確かに微妙に勇者ぽいセリフに聞こえなくもないな、オッパイがなければ。
自己完結して立ち直った俺は少年に向き合う。
「お互い初対面でいいんだよな?」
そう言うと、ああ、と答える生意気な少年。
「で、お前はどこの誰さんで俺に何の用なんだ?」
少年は気に障った風なしかめ面したのを見て、ああ、自分もこの年頃の時にこんな言われ方したら悪気はないと思ってても自尊心傷つけられたような気分になった事を思い出して、聞き方ミスったなと思い、頭を掻いた。
「俺はルル、俺のねぇちゃんを助けてくれ」
「はぁ?助けてくれってのは切実な悩みなんだろうけど、俺は今日やっとEランクになったばかりの冒険者だぞ?あえて俺に頼む意味も理解できないし、依頼ならギルドに通して出したほうが適正のある人物を紹介してもらえるんじゃないのか?」
ルルは俺にそう言われても動じる風でもなく変わらず、俺を睨むように見つめる。
「ああ、普通ならトールが言うようにするのがいいんだろうけど、こうする以外というか他の手がないんだ。とりあえず、ねぇちゃんに会ってくれないか?事情は家に着くまでに説明するから」
正直、無視してベットに転がりたいという気持ちが強かったがそう言わせて貰える空気ではなかったので渋々、了承して着いて行く事にする。
「ミランダ、ちょっと出てくるからルナ達によろしく言っておいて」
ミランダは分かったわと、俺に言うと、いってらっしゃいと送り出してくれる。せっかく帰ってきたのに早速出ていかないといけない事にゲンナリしつつ、マッチョの集い亭を出た。
先に出てたルルは俺が出てくるのを見て、横に並ぶと家は北門の端にあるからと言うと俺に事情を話しだした。
「俺のねぇちゃん、たった一人の家族が呪い、悪魔憑きとか言われる状態になって、ほっとくと衰弱して死んでしまう状態にあるんだ」
そんなの俺にどうしろって言うんだ。
「多分、トールも畑違いだと思ったんだと思う。実際に司祭や回復魔法などに頼って手を打って貰おうとしたんだけど、全て、失敗に終わったんだ。ただの失敗なら他の高位の人に頼る方法もあったんだけど、解除に対する防衛なのか拒絶反応なのか分からないんだけど、その場にいた冒険者達を撃退してしまったんだ。ねぇちゃんは戦える人じゃなかったのに俺から見てもあの時のねぇちゃんは異常だった。司祭や回復魔法使える人は貴重だ、そんな危険な依頼を尻ごみするのに時間は掛からなかった」
ルナなら解除できたりするのかな?アレでも神だし。
「そんな大変な思いをして得たモノはどんなに高位の回復魔法でも意味がないだろうということ。呪いの根元になってるものをどうにかしないと助かる事はないという知りたくもない事実だけだったよ」
「尚更、そんな状況で俺に依頼したいってのが分からんぞ?」
当然だろう。魔法といってもおかしい生活魔法が使えるぐらいで特別な能力はない。
俯いて黙ってしまったルルは、顔を上げたと思ったら、ここが俺の家だよっと言って扉を開ける。話してる内に着いたようだ。
中に入ると本来なら温かみがある良い雰囲気のある部屋を見て、ルルの姉の人柄が見えてくるようだ。だが、今、呪いを受けているせいで本来の空気を乱してる為か、物寂しさを感じる。
ルルに連れられるまま、寝室に案内されると1人の女性が寝ているのが目に入る。女性は元々、色白だったようだが今は病的なまでに白くなっており生きてるのかと疑うが、大きな胸が上下するのを見るところまだ無事のようである。いつもならその胸を見てときめいたりするんだが、今は憤りしか感じない。
「そういえば、呪いにかかった理由とか聞いてなかったな」
なるべく、感情が表に出ないように気にしながらルルに質問する。
「もう確認する方法がないから絶対じゃないんだけど、ねぇちゃんに惚れてた男が求婚してきたんだが断ったところ、逆恨みした男が自分の命を対価に悪魔と契約したらしい。らしいというのは対価で命が取られたようで死んでしまったし、今の話もその男の日記に書いてあったという話を聞いて、読んだままで調べる方法がないから」
ルルが俺にその男の日記を渡す。軽く読むがなんとも身勝手な思いを綴っている。吐き気がするな。
確かに、ルルの姉は美人でスタイルも良さそうでもてるだろう。ろくでもない男に目を付けられたということか。
「そんな状況で何故、俺に?その手の知識は皆無だぞ?」
ルルは唇を噛みしめると、信じられない話だとは思うが最後まで聞いてほしいと嘆願してきた。
「夢を見たんだ。その夢で言葉というかイメージで俺に伝えてくるんだ。南の山からやってきた少年、少女を連れてクラウドにやってくる。黒髪の少年、冒険ギルドで少しスケベで有名になっている。その少年がある場所に行くとねぇちゃんの呪いの元凶に出会うであろう。どんな高名な人物でも少年の代わりが務まるものいないっと」
かなり、俺に適合する部分がある夢である。スケベなとこだけは否定したい。俺は自分に素直なだけだと。
しかし、これは偶然なのだろうか?
「俺は調べた。冒険ギルドにいって最近入った少年で黒髪でスケベ人はいないかと、みんな口を揃えて、トールと言った。ミランダに聞いた、あんたが南の山からやってきたと、もう俺にはアンタしか頼る相手がいないんだ!」
ギルドのメンバーには一度話し合いを設けたいとは思うが、今はルルの依頼をどうするかだが、ルルの姉を見る。生きてるとは思えないほどの白い顔して呼吸しているぐらいしか生きてると実感ができない。
「俺が出来る事ならなんでもする。死ねというならいつでも命を捧げる覚悟もある。だから、だから、俺のたった1人の家族のねぇちゃんを助けておくれよ」
俺がルルの姉を見ていた事で迷ってると思ったのか必死に言い募り、俺の服を掴み泣き崩れる。俺も酷い事をするもんだ。
ルルに視線を合わしつつ、頭を撫でながら笑いかける。
「そんな悲しい事言うなよ。お前が死んでしまったら、お前のねぇちゃんは助かっても泣くぞ?そして、こういうさ、私の命を使ってルルを生き返らせてとな。こうなると誰も幸せになんかなれやしないさ」
「でも、俺には払える物なんかないんだ、今までのやつらに払ってしまって何も・・・」
俺はルルの姉の前に立って、話しかけるように宣言する。
「お前のルルは俺が救ってやる!そのついでにお前も助けてやるから元気になったら食事を振る舞ってくれよ」
もう1度、ルルに目線を合わせて安心させるために意識して大きな笑顔を見せて、
「あの場所ってのはどこなんだ?」
ルルは真っ赤な顔して詰まりながら答える。
「ひ、東の森の奥にある、神殿の廃墟にって」
「そうか、今日中に準備済ませて、明日の朝一に出発する」
俺は扉から出る時にルルに笑いかけて、
「俺に任せおけって、ねぇちゃんの面倒をしっかり見てるんだぞ?」
俺はルルの家を後にする。日はだいぶ落ちて夕方も終わろうとしている。宿にはルナ達が戻ってきているだろう。俺だけの力じゃ足りない。力を貸して貰おう。マッチョの集い亭へと急いだ。
徹が去って扉が閉まった後、夕日が差し込む部屋でルルはペタリと座りこむ。今までの冒険者、聖職者だろうができるできないに関わらず、いくら毟る事ができるかだけを考えていたように思う。リスクと利益だけを天秤にかけて選択するのは生きる上で必要な事だ。そういう意味ではトールの取った行動は馬鹿としか言えないものである。幼いルルですらそれは分かる。
しかし、手詰まりでどうする事もできなかった。助けを求めたくても支払える物など何もない絶望の中で見た夢、そうアレはただの自分の願望だったのかもしれない。それにただ符号があっただけなのかもしれないのに、トールは何も求めずに笑いかけてくれた。
そして、扉から出ていくトールの笑い顔を見た時に感じた胸の甘い疼きを覚えた。アレはなんだったんだろう。
ルルはホロホロと泣き続けた。
私達は市場を回って帰ってくると徹はいなくて、ミランダには出かけたと伝えられる。徹が置きっぱなしにしてたカバンをブツブツ言いながら部屋へ運んで今、カウンターで足をブラブラさせながら徹が帰ってくるのを待っている。食事はみんなで食べるのが楽しい。美紅も同じ思いなのか。お茶を飲みながら静かに待っている。
若干痺れが切れてきた頃、扉が開く。
「徹、今までどこにいたの、お腹が・・・」
私は最後まで言い切る事ができなかった。
そこにいたのは徹ではあったがいつもの呑気で抜けた顔をしてない。魔神と対面してる時に私に笑いかけてくれた時に感じた目をしていた。
「トオル君、何かあったんですか?」
あの顔を見た事がない美紅は戸惑っているようだが心配しながら聞くと徹はああ、とだけ答えて私達を見渡すと急に頭を下げる。
「俺に力を貸してくれ」
美紅は事情を知りたそうにして右往左往しているが私の答えは決まっている。
今の徹に私の解答に否などないのだから。
ミランダが、フフっと笑い、言葉にしたものを聞いて私も同意したい。
「トールったら、この短い時間で男の顔になって戻ってくるなんて」
ずっこいの徹、そんな顔にさせるのが自分以外にいた事にちょっと嫉妬する気持ちとそんな男の傍にいれる幸せを感じていた。
感想などをお待ちしております。




