1話 光の先にいたのは女神
本編開始です。
何一つない真っ白な空間があった。いや、よく見れば1点だけ真っ白ではないモノが存在した。そこのあったのは女性というより少女というのがしっくりくる長い髪が腰に届く深みのある青が身動きする度に流れる美しさに同性でも息を飲むだろう。顔を窺えば、美しいというより、可愛さ、愛嬌のある瞳が強く押し出されている。白いワンピースのようにも見えるが巫女が着ていそうな服にも見えるという判断に悩む姿を視線を上下させるとアレが完璧だったと世の男共に言わしめただろうが、本人は気にした事などない。そう今まではである。
ここは神が住まいし場所。そう彼女は神、女神であった。
少女は廻りを寂しそうに見渡す。以前は緑が溢れ、鳥達は唄い、動物達と戯れる、まさに天国と言って過言ではない世界だったが、それは遠い過去の事。今は真っ白な世界に自分だけが存在していた。そして、思い出す。もう後がない我が子らが住むアローラの事を。
「アローラに住む子よ、最後の勇者と協力して、魔神を倒すのです。もう次はないのです。もう勇者を召喚することは叶わない」
胸の前で両手を祈るように合わせて、神託をアローラに住む子らに届ける。今までも長い間、過去に召喚された勇者と協力してという神託はずっとしてきた。しかし、大抵の場合、勇者を封印の道具にして延命処置をするというのがここ最近の子らのやり方であった。
子らは勇者召喚は自分達の魔力だけで行っていると思っているようだが実は違う。今、少女がいる世界のモノを代償に勇者を呼びだしているのである。子らの魔力など種火でしかない。そのあたりの説明も神託として送ったが反応はまったくなかった。
そして、今代の勇者として召喚されたのが10年前、この世界に最後に残った小さな苗木を触媒にして召喚されたのが5歳の小さな女の子であった。
今まではそれなりの歳の者が多く、下手に力を付けると扱いにくいという酷い理由から即、封印という処置が取られてきたが、幼い子供で教育次第では都合のよい存在になるのではという打算から10年間育て、教育されていく。扱いやすさという狙いはうまく行きはしたが、戦う事を極端に恐れる性格が表に強く出て利用できないと烙印を押されると迷いもなく封印の触媒にされた。
少女は最初に行った神託を繰り返す。最後の勇者が封印されてからずっと同じ事を繰り返し続けた。本当にもう許された時間がないのである。もしかすると既に手遅れな可能性も否定できない。
どれだけ必死に少女が訴え続けても聞く気もみせない国の為政者、特に神を崇める神官達は誰を祈ってると叫びたい。祈るべき相手の神託を無視し続けるというのはどうなんだと。
神である少女はこの袋小路のような状態をなんとかしたいと願うがどうする事もできずに今に至る。人であれば神に祈るところなのだろうが、神である自分は何に祈ればいいのであろう。
「助けてよ・・・」
小さな口から漏れる久しぶりの肉声が誰かに助けを求める言葉である事に気付き、少女は涙した。
トンネルを抜けた先は光溢れる場所で目を細めつつ、光に目が慣れた頃、周りを見渡せば全面雪景色ならずの白一面の何もない世界。徹の車窓から・・・って自転車に窓ねぇーよ!
少し呆けた顔を今はしてるがきっと普通のフツメン!ここは譲らない、目つきがちょっとたれ目である事を除けば特に上げる点がないフツメン、なんだろう自分で言っててなんかダメージが・・・立つような短髪の頭を掻きながら周りを見渡す。
何もない真っ白かと思えば、少女が一人いることに気付いた。青い髪が美しい腰ぐらいまである、絹のようなという表現が正しいのか、ちょっと触らしてほしいと思ってしまった。
少女も突然現れた俺に驚いたらしく、俺と同じように呆けた顔をしてるはずなのに可愛い顔をしてる。これが顔の偏差値か!泣いてなんかないんだからな!
ワンピースに似た服を着ていて、でもなんとなく神殿とかの巫女が着てそうな服にも見えなくはないという服を珍しげに下から上と見ているとある一点で目が止まり、とても残念な気持ちと安心な気持ちが俺を支配した。俺はそれの至上主義者だから彼女にとって安全な男であり続けられる。可愛い少女だったから紳士的に振る舞えるか自信がなかったのだ。
気付くと少女の表情が変わっていた。マイナス方向に何故だ?
「突然、現れたと思ったら、最初は可愛いとか言われてちょっと嬉しかったりしましたけど?後半はペッタンコ、貧乳、残念胸とか言いたい放題言われないといけないんですの!」
オウ、ナンテコッタイ、イージーミスヲヤラカシタ。
実は俺、時々、思ってる事を口に出してしまう事がある。
失点は取り返さなければならない、そう例え自分の主義に絡んでなくとも女の子は大事にするものだ。
「安心してくれ、貧乳もステータスだ。胸がなんだ。君はとても可愛いよ」
客観的にこう言われて機嫌を取れるような言葉ではないがお互いの経験不足から成功してしまった。少女は会話慣れしてない田舎の少女のようにチョロく機嫌を持ち直した。
「まぁ、今回は許して上げますけど、本当に可愛いですか?」
ちょっと照れた顔が本当に可愛い事もあり、俺は素直に頷く。
自分でもうまくいって驚く事態だったので話の矛先を変える事にした。
「俺は徹、君は誰でここはどこなんだろう?」
あっ、口元に手で隠すようにするこの娘、本当に可愛いな胸さえあればお付き合いして欲しかった。
「私も色々、聞きたい事はありますが、私の名前はルナ。アローラの唯一絶対神です。この場所は神の住まう場所と言ったらいいのでしょうか?特に名前は存在しません」
アローラ?唯一絶対神?あの病気に発症してる患者なのだろうか?俺が去年ぐらいまで発病していた、あの忌まわしき病に・・・(徹はまだ完治しておりません。要経過観察です。)
「ちょっと待って、どっきりとかじゃない限り、ここが地球ではないのは百歩譲っていいとして、神の世界?そして君がアローラだっけ?そこの唯一絶対神って何?」
「どっきり、地球というのは分かりませんが、他はそのままの意味です。唯一絶対神と言ってますが単純にアローラには私しか神がいないし、増える事もないでしょう」
と、説明してきた。最後のほうを説明する時が悲しそうなのが気になり聞いてみた。
「ずっと一人きりでここにいたの?増える事はないってことは神は他にも存在してるってこと?」
ルナは、少し躊躇ったようだが、話す事にしたようだ。
「ここにも過去に私以外の神が3神いました。しかし、アローラに見切りを付け、この世界から去っていきました。見切りを付けられた世界に新たな神が来る事はありません。終焉が約束されたような場所に」
「終焉?アローラっていう世界は崩壊の危機なのか?」
正直、字面だけみると胡散臭さ爆発なのに、ルナが言うと胸に沁みこむように言葉が入ってくる。
「崩壊するかはまだ分かりません。ただ人はもちろん、生物が存在しない世界にはこのままだとなってしまいます」
「どうして、存在しない世界になるんだ?」
「魔神の封印が解けて復活と共に終焉へと歩き始めます」
なるほど、見えてきた。蘇る魔神、滅びる目前の世界を救う救世主こと俺。キタコレ、美人の巨乳の彼女のフラグが!!
「つまり、その危機を回避するために俺を召喚したんだな!ルナ。」
「いえ、それはないです。そんなことはできませんし、何故、あなたがここに来れたのかを聞きたいぐらいなのですから。後、呼び捨てを許可した覚えありませんけど・・・まあいいです」
顔の前で小さく手を振る。
可愛い子や美人が無表情になるとなんであんなに破壊力あるんだろ・・・
しかし、アレェェー漫画や映画みたいに俺、勇者、英雄みたいな流れじゃないの?このパターンでしょう!ルナが俺を見つめる目が慈悲の念が込められてる気がしなくない。僕、まだ、あの病気完治してなかったのかな?かな?(自覚症状が出てからが勝負です)
このまま、凹んでしまいそうなのでここに来る前に起こった事をルナに説明した。
「なるほど、自分の人生を左右するようなミッションをこなして、帰る段階の所でテンションが高いまま走り続けたら、光の塊に突っ込んで、この世界に出て今に至ると?」
考え込むように語るルナは想像できる持論を俺に伝えた。
「おそらく、徹の高まった精神とそこに漂ってきた神気が触発されて門が形成されて異世界転移することになったんじゃないかと思うの」
「それって誰の神気なの?ルナのか?」
ルナは首を横に振って答えた。
「私のじゃないの。そんなことできる力もないし、地球ってのも分からない。ただ、善き神が悪しき神か分からないけど神の力が絡まないとそんな事できるとは思えないのよ」
「えっと、今の話の流れで考えたくはないんだが、ルナ、俺を地球、元の世界に帰す事出来なかったりする?神様だからできるだろうって思ってて気楽に構えてたんだけどぅ?」
俺は返ってくる言葉に検討は付いてたが否定して欲しくて聞いてみた。
「ごめんなさい。あなたの言う通り、どうやったらいいかすら分からないの」
ルナを責めても仕方がないし、運が悪かっただけと割り切るしかないなと肩を竦めた。そっか、しょうがないなっとルナに伝える。
「本当にごめんなさいね、それとさっきから気になってたんだけどその籠に入ってる物は何?」
すっと近づいてきたルナが危険物こと、俺の参考書を掴む。慌てて取り返そうと先っちょを掴むことに成功した俺は力加減を間違った。
参考書は紙袋に入れられていた。力加減を間違って引っ張ると耐久度1の紙袋自然の摂理が如く破れ、参考書は落下する。立ち読み防止のためにビニールが巻かれてるので汚れる心配はないが、問題はそこではない。
「高校聖書、「今年の春から高校生、春奈15歳。たわわに実るEカップ」」
同じ日に3度も女の子に読み上げられると思ってなかった俺は致死レベルのダメージを被る。
ルナの瞳から光が消え、ビキニをきてる春奈(15歳)が持ち上げる胸を見続けている。なんか、道端で唾を吐き捨てそうな雰囲気が漂う。可愛いルナはそんな顔しちゃダメだと思うんだな、僕はそう思うんだな・・・ビクビク
いつまでも危険物を放置してる訳にはいかず、取り上げて自分のシャツの下に隠す。もう見えないはずなのに僕の胸を凝視し続け、親の敵の見つめる娘のようになっている。春奈ちゃんは悪くないと思うよ?巨乳は保護されて大事にされるものだと思うんだ。
ルナから殺気レベルの視線が向けられた気がした。僕の考えが読まれたか・・・もう余計な事は考えませんので許してほしい、土下座で良ければさせていただきます。
男らしく土下座を決行しようとした時、
「別に徹がどんな趣味を持っていようと関係ありませんけど~、でもそんな不純物はそうそうに処分されたほうがいいと思うの」
ジト目をしながらルナは言ってくる。俺は土下座を決行し
「適切な処置をしまして、確実に処分させて頂きたいと思います。」
いきなり土下座してそう言ってくる俺に驚いたようだが、そこから笑顔になるのに時間はかからなかった。クスッっと笑うと
「善きに計らうの。神との約束ね」
神との約束とか、今まででした約束で一番重そうなんですけど~俺の春奈ちゃんを処分とか本当に俺にできるのだろうか・・・
なんてことを考えてると目を細めたルナがこっちを見てる。
僕、ちゃんと約束守るよ?ほんとだよ?
そんな僕の思いが届いたのか、嘆息して鈴がなるような笑い声が漏れる。
そんなやりとりが後、ルナが聞いてくる。
「元の世界には戻せる方法は分かりませんから、これは選択肢から外すとして、この世界にいますか?アローラに行きますか?」
俺は難しく考えてもしょうがないと腹に決めてルナに告げる。
「アローラに行くわ、ルナ頼めるか?」
少し悲しそうな顔をしたルナは手を翳して自転車で飛び込んだ時のような光の塊を生みだすと光が落ち着くと門が現れた。
「これで行けるよ。この門の向こうはアローラに繋がってるの」
そう告げるルナは何か言いたい事を言いきれてない、言葉にすることができないようだ。そんな時、強者のダチが言ってた言葉を思い出す。
「女って生き物は全ては語らないのに全部理解して欲しいという願望が男より強いらしい。何か言いたそうにしてる時はそこを汲み取れるかが男の甲斐性が問われるって言う話だぜ?」
ダチよ、今から思うとその助言は中途半端だ、その読み取る術のヒントでもいいから教えておけよ。肝心な事が分からないではないか。
必死に考えた。でも、さっぱりだ、ダチよ、俺には男の甲斐性には遠い道程のようだ。
分からないから自分の欲求を優先させた。自分勝手な行動をし出す自分が笑えてきて笑みを零す。
「こい」
ルナに手を差し出す。女の子をこんな所で一人にしとくのは嫌だし、知らない土地に行くのに1人より2人が良いに決まってる。
ルナの眼をじっと見つめる。瞳が揺れているのが分かる。でも迷いながら、震えながら手を上げ始める。
俺は笑みを大きくなるのを自覚しつつ、もう一度、
「俺とこい」
そう言うとルナは俺の手を掴んでくれた。俺は嬉しかった。例え、終焉が始まる世界だろうとルナと行けば、ここより楽しい予感を俺は感じて、扉を開けて2人一緒に扉を抜けた。
俺の歴史の2ページ目は、女神と手を繋いで新しい世界にヒャッホイと書くことを心の中で決めた。
感想などありましたら、よろしくお願いします。