26話 おっちゃんの誇り
26話になります。よろしくお願いします。
早朝、ぐっすり寝たからなのか目覚めがすっきりしてて、2度寝しようという気持ちも沸かずベットから出る。
隣のベットを見るとまだだらしない顔して寝ている女神ことルナが寝言を言っていた。
「どれから食べたらいいのか、それが問題なの」
口をムニュムニュさせながら呟いていた。
何やら名言が汚されているような気もするが世界が違うからきっと許されるだろう。
そして、ルナの向こう側で寝ていると思われる人物を探すように見たが姿が見えない。ベットはもぬけの殻でシーツは綺麗にしてあり、誰か寝てたの?聞きたくなるぐらいにしてあった。
昨日の俺の記憶だと美紅は俺より後に寝てるはずなんだが偶々早く目を覚ました俺より早くに起きてる?まさか出て行ったりしてないよなっとちょっと心配になった俺は食堂に降りて行った。
食堂に降りていくとミランダがテーブルを拭いているところだったようで振り返り、俺だと分かると笑顔を見せ、挨拶をしてきた。
「おはよう、トール、今日は早いのね。すぐにご飯にする?」
「いや、みんなと一緒でいいんだけど、美紅見てないか?」
と聞くと厨房から美紅が出てくる。
「はい?お呼びになられました?」
「ああ、良かった。偶々早く目を覚ましたら美紅がいなくなってたからどうしたかと思ったよ」
俺はほっと胸を撫で下ろした。そんな俺をきょとんとした顔で見つめたと思ったらクスっと笑われる。
「トオル君、小さい子供みたい」
地味にショックを俺は受けた。見た目年下に見える美紅に言われると特にショックであった。
「で、こんな早く起きて、厨房で何をしてたんだ?」
「ミランダさんの料理が美味しかったから作り方を時間がある時に習いたくて今朝からお願いしてお手伝いさせて貰ってました」
なんだと?ルナに爪の垢を煎じてやりたいようなセリフだ。分かってるか?これが女子力だ!涎を垂らしながら寝ている女神にこの思い届けっとばかりにルナのいる方向を見つめ続けた。あ、でも練習なんかされたら、試食係させられて俺死んじゃうかもしれないから今のままのルナが素敵かも。
「そうよ、トール。今日の朝食の1品は美紅ちゃんのお手製よ?楽しみにしとくのね」
「いえいえ、ミランダさんの料理を少しだけ手伝っただけです」
顔を真っ赤にさせて厨房に隠れてしまった。
そろそろ良い時間になってきたから顔洗ったらルナを起こしてくるかな。裏庭に向かって歩き出した。
愚図るルナをベットから引きづり降ろし、顔を洗わせて俺達3人は朝食にありつく事にした。
今日のメニューは、出汁巻き卵とホウレン草?のお浸しにお味噌汁とご飯の和食だ。マッチョの集い亭は、洋食を出すような店の作りで今更ながら、こうも和食全開の品が出てくると違和感が半端ないな。美味ければなんでもいいんだけどな。
しかし、この中に美紅が作った品があるらしいんだが、見て分かるレベルの違いはなく俺には分からないというもので、ルナが美味しいの~って楽しそうに食事してるのが羨ましい。俺も気楽に行きたいのだが、分かるのだ、美紅が俺を注目してるのが。これはどれが美紅が作ったものか見分けて、美味いって言うミッションらしい。
品数は4種。ご飯は省いて良いだろうし、残るは3つ。33%か・・・
テストとかで3択とか出たらラッキーとか言って、余裕よって調子のいい事を言ってたが今回はハズレる66%が恐ろしい。
考えるんだ、徹!美紅は城に軟禁されていたんだ。今まで料理なんてやった事はないはずだ。そう考えると出汁巻き卵なんて料理初心者にできるものじゃない、これは外していいはず。残る2つ、ホウレン草のお浸しと味噌汁。
美紅ならどっちを作ろうとするだろうか?脳が焼き切れるかもしれない勢いで高速回転させる。おそらく、いや・・・ん?美紅が話しかけてきた。
「トオル君も食べてみてください」
くっ!もうタイムリミットらしい。一か八かの直感だより。南無さん!!
「丁度いい加減だ。ほっとする味だ」
「良かったわね。美紅ちゃん、徹が美味しいって言ってくれてるわ」
「お口にあったようで良かったです。これからも頑張ります」
の、乗り越えたようだ33%を。正解は味噌汁だった。同じ国から来てるから作るならって思ったら、これしかって思ったものを信じて良かった。
頑張る子は素晴らしいと思うよ。でも次からは素直に食事を楽しみたい。
ミランダは笑いを噛み殺そうと必死になりつつ俺を見つめていた。美紅は誤魔化せたがミランダには筒抜けだったようだ。
食事が済み、俺は初めて美紅と食事した時に後で説明しようとした事を今してしまおうと決めた。後で他人の目の前で露呈したらショックが大きいと思われるし、やはり身内だけの時がいいと判断したのだ。
「美紅、少し言いづらい内容なんだが、美紅が食べる食事量、俺達と比べて気付いた事あるんじゃないか?」
視線を泳がしながら美紅は返事をしてくる。
「やっぱり多いですか?」
「ああ、初めて見た人は大抵びっくりするだろうな」
美紅の見た目が小柄の可愛い子であるからギャップが半端なく驚くだけならいいが引く奴もでてきそうである。そんな奴がいたら〆てしまいそうだがな。
「俺達や知ってる奴の前なら問題ないんだが、知らない奴が見て心ない事言ってくる奴もいないと言えないし、セーブする時はしたほうがいいかもしれないって言いたいだけなんだ」
「そうですね、分かりました。トオル君はどう思うんですか?」
なかなか破壊力がある上目遣いをしてくる美紅を見て、カップが2サイズ上だったら危なかった(何がでしょう?)と戦慄を感じつつ、答える事にする。
「俺は美味しそうに食べる女の子見てると楽しくなるから歓迎だ。ただルナみたいに腹減ったって五月蠅いのは勘弁してくれって思う事はある」
なんなの!って怒って俺の脇腹を横から突いてくるルナがいた。地味に突き刺さって痛い。
その様子を見てある程度不安が解消されたのが笑顔を見せてくれた。
「ありがとうございます。気を付けますね」
その様子を見て、美紅が酷く傷つく可能性は回避できただろうと胸を撫で下ろした。
「さて、食うものは食ったし、早速出かけましょうか。まずはおっちゃんのとこから行こうかな」
「そうそう、トール、行くなら伝言頼まれてくれない?例の代物入手完了ってそれだけ言えば分かるから」
「ん、分かった、伝えておくよ。じゃ、いってくるわ」
ミランダにいってらっしゃい、と見送られて俺達はマッチョの集い亭を後にした。
グルガンデ武具店に向かう最中に俺はボヤく。
「おっちゃんはいい人だけど店の場所には悪意を感じるレベルで入り組んだとこにあるから3度目なのに迷いそうだわ」
こっちだったよな?多分、あっちって具合でおっちゃんの店へと向かっていた。次、曲がったら店が見えてくるはず。
「徹は馬鹿なの。それぐらい覚えてられるのは普通なの。次の十字路を右で間違いないの!」
力強く力説したルナを横目に俺は左に曲がった。
「何してるの、徹、私は右って言ったよね?」
と五月蠅いルナをいなしながら、とある店の前で止まる。
振り返ってルナを見ると音を鳴らせてない口笛吹きながら、
「一周したら辿りつけるから間違ってないの」
気の長い話だと思いつつ、アローラも丸いんだなってくだらない事を考えながらルナを見ていたら、冷や汗をかきながら、明日はいい天気なのかなっと韜晦していた。
おっちゃんの店、グルガンデ武具店についた俺達は店の中に入って行った。
店の中に入ってもカウンターには誰も姿もなく、相変わらずの営業スタイルをしてるようだ。万引きとかないのかな?
「おっちゃんいる?相談があるから出てきてくれないかな?」
少しだけ大きめの声を出して、少し待つ事にする。
「トオル君、返事もないし聞こえてないとかじゃないんですか?」
「いや、これでいいはず、待ってればいいと思う」
美紅は首を傾げながら、とりあえず俺の言う通りに待つ事にしてくれたようだ。
しばらく待つが一向に出て来ないおっちゃんにいない、もしくば、本当に聞こえてない可能性が頭を過る。美紅がいいのですか?と言いたそうな顔を俺に向ける。少し、格好悪いけど、もう1回呼んでみるか?となど考えていたら、やっとのことでおっちゃんが登場した。
「すまん、いいとこだったからキリが付くとこまでやってもんで遅れたわい」
たいして悪かったと思ってないような顔で出てきたから間違ってるのは自分かと思わず思ってしまうではないか。相変わらず営業スキル0のようだ。
「そういう時は返事ぐらいしてくれよ」
「ああ、次から覚えてたらする。で、今日は何の用だ?」
多分、次も同じやり取りがありそうな感じはしたが用件を言う。
「美紅の装備を見繕いたくてきたんだ」
後ろにいる美紅をおっちゃんに紹介する。
美紅を見たおっちゃんは目を細めて見たと思ったら美紅に近寄り、手を取って掌を触り、そして美紅の眼を見つめて、溜息をついた。
「嬢ちゃん、うちに嬢ちゃんに相応しい武器は今はない。新人によく言うセリフではあるが、嬢ちゃんに言ってるのは逆の意味でだ。材料さえあれば相応しい武器防具を造ってみせる。が、しかし、今の嬢ちゃんに相応しい武器などを与えても相応しくなくなってしまう。その意味は嬢ちゃん、分かっておるのだろ?」
美紅の瞳を見つめつつ、こんこんと語って聞かせた。美紅は辛そうにコクンと頷いた。
「相応しくなるまでの繋ぎの武具なら今、用意できる。いつか、嬢ちゃんが本当の嬢ちゃんになった時に然る材料を持ってワシの所にきたら、嬢ちゃんの嬢ちゃんの為だけの武具をワシの鍛冶生命をかけてでも打ってみせる」
おっちゃんはもしかしたら美紅の正体に気付いたのかもしれない。しかし、あの熱いおっちゃんの瞳と言葉からして言いふらしたりするというのは想像できないから心配はなさそうだ。
「はい、その時はよろしくお願いします」
また、1人、美紅を認めてくれる人が現れたようだ。美紅は俺を見て嬉しそうに微笑んだ。
「悪い事ばかりじゃなく、いい事もあるんだ」
美紅の頭を撫でながら染み込ませるように聞かせた。今、美紅は自分の存在理由を探し求めているように思う。こういう事を1つ1つ積み重ねて、自信に繋がればいいなと俺は思っている。
「その繋ぎの装備なんだが、坊主、銀貨20枚用意できるか?」
「あ、今、そんな余裕ない。」
「フン、ツケといてやるから用意できたら払いに来い」
太っ腹なおっちゃんの好意に甘える事にする。
「調整を夕方までにしといてやるから取りにこい」
おっちゃんに了解と告げる。ミランダからの伝言を伝え忘れている事を思い出す。
「あ、そうだ、おっちゃん。ミランダの伝言を忘れてた。例の代物が手に入った、だそうだよ」
「おお、ついに手に入ったか!坊主達もミランダのとこで泊ってるんだったな?行くついでだ、夜の開店時間には店に行く時に調整済ませた武具を持って行ってやるわい」
何やら嬉しそうに更に太っ腹な事を言いだすおっちゃんに感謝を告げようとした時には店の奥に消えるところだった。相変わらずマイペースなおっちゃんである。
外に出るとまだ昼には早い時間で冒険ギルドに行って依頼を確認などを済ませてから昼飯にする事になりそうだ。あんまり遅いとルナが五月蠅いから手っ取り早く済ませるようにしよう。
俺達はギルドの方向に足を向けて出発した。
感想などありましたらよろしくお願いします。




