25話 身の振り方
では25話になります。よろしくお願いします。
不貞腐れた少年が肘を付きながらブツブツ言いながら夕飯を食べていた。普段ならそこのマッチョな店主は注意するところなのだが、笑うのを堪えているようで何も注意してこない。少年を挟むように座る、とある残念な共通項があるとは言え、間違いなく美少女がいるのにも関わらず、少年の顔は不貞腐れたままである。
両端に座る美少女の右に座る青髪の少女は鼻歌を歌いそうなぐらいに嬉しそうに食事をしつつ、返事もされないのに何が楽しいのか少年に話かけている。
左に座る少女は黒髪の小柄な、お人形のように整った顔をしている。小柄だからかなり歳が下に見れられるが実は不貞腐れた少年と同じ年である。甲斐甲斐しく何かと世話を今は焼いているが、マッチョな店主に信じられないぐらいの食欲を見せて驚かせたが、今の少年にはどちらも反応を示さなかった。
「トール、そろそろ、機嫌直して頂戴よ。やり方がスマートじゃなかったのは認めるけど、早い段階で解決しとくべき問題だったのも事実なんだから」
少年、そうそれは俺、徹の事だ。
マッチョの店長ことミランダがウィンクしつつ、懐柔を試みる。どっちかというと俺から見ると怪獣現るだが。
「そうなの。徹は胸を張っていい事してるの。私は感動してるの」
にゅふふ、と新しい笑い方をしたルナは馬鹿にしてる様子はなく単純に嬉しそうだ。こんな目にあうぐらいなら馬鹿にされたほうがマシである。
左に目線を向けると目線がばっちり美紅と合ってしまい、一瞬で真っ赤にした顔を隠すためか、俯く。髪の切れ目から見える耳が真っ赤なのは隠せてないが・・・やり辛い。
仕方がない、吐いた唾は元に戻せない。目の前の夕食を掻っ込むように3人に嵌められた色々なものと一緒にご飯と共に飲み込んだ。
店のピーク時が過ぎたあたりを見計らって、美紅の事で相談する事にする。
「美紅の身分証明にも今後の生活基盤の為にも冒険者ギルドに入るのが一番だと思うんだが、大丈夫だろうか?色々と」
念の為、ボカし気味にミランダに相談してみる。
「大丈夫というか、美紅の立場からするとむしろ冒険者ギルドにしか生活していく術がないと言ったほうがいいかもしれないわ。こんなこと言いたくはないけど、それこそ、体を売るか悪党に成り下がる選択肢を選ばない限り」
溜息混じりに申し訳なさそうに美紅をチラっと見てから俺を見る。
「どうしてだ?なかなか難しい話だと思うが、好きな人見つけてひっそりと暮らすって手もあるだろう?」
無理ね、と首を振りながら俺の可能性を切って捨てる。
「仮にトールとルナが魔神を完全消滅させたとしましょう。魔神がいなくなっても美紅という力が残るわ。それを取り込もうと考えるか排除を考えるかは今の段階では分からないけど、どちらかのアクションをするのはまず間違いないと思うの。その中、国、いえ世界に追われる生活を好きな人にさせてまで逃げようと思えるかって話になるんだけど、これもやっぱり悪党に成りきれるかってとこに絡むでしょうね」
ふむ、でも何故冒険ギルドにしかないのだろうか?って俺の疑問をミランダにぶつけたら答えてくれた。
「ギルドのランクAになると国は要請はできても強制できない立場になるわ。ギルドは国の介入を許さず、自立した組織だから無理矢理介入してきて、それを許すとギルドの存在が揺るぐのよ。ここまではどのギルドでも言える事なのだけど、冒険者ギルド以外のギルドは加入条件というか、しっかりとした身分証明も必要なの。裏取りもしっかりして調べられるから美紅には無理なのだけど、冒険者ギルドはその辺が緩いのよね、だから冒険ギルドでランクAにして国に介入しづらくするのが一番よ」
いくら国でも冒険者ギルドだけ叩こうとしてもギルドの横の繋がりが強いから手が出せないらしい。
美紅を見ると俯いて、
「私は怖くて戦えなかったから・・・」
ギルドで仕事する事に不安があるようだ。ルナから聞いていた美紅の話からするとそう判断するのが自然に感じたが、俺は違うと思っている。近くに誰もいない事をさっと見渡してから美紅に語りかけた。
「俺は帝国の奴らと違って、美紅1人で戦わそうなんて考えてないぞ?確かに美紅は勇者としての力があるから俺は敵わないかもしれない。でもそうじゃないよな?強いヤツだから全部できるってわけじゃない、いや、やる必要がないんだ。美紅が怖いって言うなら俺が隣で一緒にいて怖さに立ち向かえるようになるまで傍にいてやる。だから俺とアローラで生きていこう」
美紅は私もいるの~って俺の後ろでアピールするルナを見てクスって笑うと
「ご迷惑かけると思いますがよろしくお願いします」
「迷惑はかけていいんだ。俺達は仲間なんだから」
酸欠になるんじゃないのかってぐらい顔を赤くさせた美紅は頷いた。
美紅の頭を優しく撫でて、よろしくなっと伝えた。
何やら限界を越えたようで目を回した美紅がカウンターに突っ伏した。
「トール、聞き方間違ったら告白みたいになってるから今後はもう少し言い回し考えたほうがいいわよ」
ミランダは本当に楽しそうに笑いながら俺をからかう。
そう言われ、背中に嫌な汗をかく。
いかん、俺は熱くなると黒歴史のページを量産するようだ。本気で気を付けよう。
話の方向転換をせねばと考えた俺は美紅を揺すって起こして、ミランダに話しかける。
「ミランダ、頼ってばっかりで悪いんだが、ルナの時のように美紅にも服を見繕ってくれないか?」
「いいわよ。喜んでやるわ。ルナちゃんも美紅ちゃんも素材がいいから腕がなるわ。ついでに2人のパジャマもつくちゃう」
美紅は急にテンションの上がったミランダにビクっとしたようだが、
「え?ルナさんが着てる服ってミランダさんが作ったのですか?」
「そうなの。とっても着心地もいいし、デザインも気に言ってるの?」
そう言われて、照れて有頂天になりかけのミランダが褒めていいのよ?っと俺に上目使い(マッチョの長身のミランダは頑張った)をしてきたが俺は見なかった事にした。
「まあ、ミランダのセンスはいいと俺も思うし、引き受けてくれて助かるよ。さすがに今回はせめて材料費だけでも請求して欲しいな」
「分かったわ。作った後で伝えるわね」
後は冒険者としての装備だな。それはグルガンデ武具店に顔出して頼んでみよう。
「だいたい決まったし、今日は早めに寝るよ。2泊だったとは言え、野宿してて、ベットが恋しいからな」
「ゆっくりしてらっしゃい。はい、これが部屋の鍵よ」
ミランダから鍵を受け取って新しい部屋に向かった。
「明日は美紅の装備を見繕ってから冒険ギルドで登録に行って、仕事をするかは依頼状況見てからにしようか?」
「うん、またグルガンデのドワーフさんのとこに行くの?」
「ああ、新規開拓っての魅力的な響きはあるが、なんとなくあそこ以上なとこを見つけるのは無理な気がしてる。それに俺達の装備もあそこで揃えたんだから美紅も同じとこがいいじゃないか」
その通りなの、さすが徹!と言われて、俺の鼻も3cm伸びた。(願望)
「ありがとう、ありがとうございます」
何かが決壊したように声も殺して美紅が泣き始めた。
急な出来事でオロオロするしかできない俺だったがルナが美紅を抱きしめて、ルナは俺を見つめて、動かした口が「任せてなの」と言ってるように見えたので俺は部屋から出て、カウンターに戻る事にした。
「どうしたの?徹。早く寝るんじゃなかったの?」
「いや、部屋に居辛い状況になりまして」
クスって笑ったミランダは俺にコーヒーを出してくれた。
俺はコーヒーの苦みが苦手だ。だから、いつもミルクたっぷり、砂糖たっぷりだ。だけど、今日はなんとなくそのまま、ブラックで飲んでみた。
「やっぱり、苦いな」
ミランダはそうね、とだけ言って厨房に消えていった。
偉そうな事を結構言ったがまだまだ俺はガキンチョだなって自覚させられてる。口だけで何も成せてない。じゃ、何をしたらガキンチョじゃなくなるのかも分からない。ただ、ガキンチョだからできませんでしたってだけは言いたくない。難しいな、体は大人になりつつあるが心の成長が追い付いてない。
俺はまた一口、コーヒーを飲む。やっぱり苦い。これが美味しいと思える日がくるのだろうかと思いつつ、俺は砂糖に手を伸ばした。
感想などありましたらよろしくお願いします。




