22話 謝罪
22話です。よろしくお願いします。
ルナと美紅がお見合いするように見つめ合い、硬直状態に陥ってからどれくらいの時間が流れたか分からないが正直どうにかしたいと思うには充分な時間が流れた。
光の柱から出てきた美紅とルナが目線を合わせた時に名乗り合ってからずっと沈黙を守り続けている。
まあ、ルナにしたら今の状況に追い込まれた一因になっていたから美紅に対する罪悪感から声をかけにくい状態で動けなくなってると思われるし、理解もできる。
それに引き換え、美紅はルナが女神と知っているなら対応に困るというのは分かるのだが、もしかして2人はこれが初対面じゃないのだろうか?単純に美紅はコミニケーションを取るのが下手そうだから相手のルナの様子を見て困ってるだけかもしれない。
ほっておいて、この場所に留まるのは時間の無駄と感じ、介入しづらい雰囲気を無視して2人に話しかける。
「2人はもしかして面識あるのか?」
ルナも美紅もお互いに否定して首を振る。
「ルナ、話し辛いなら俺が言ってやってもいいが、隠したままってのは美紅には不味いと思うぞ?」
美紅は俺の顔を見た後、ルナを見つめる。
ルナは俯いたまま、首を横に振る。
「自分でちゃんと言うの。ありがとう、徹」
「ああ、頑張れ」
そういうと俺は2人から少し距離を取った。2人で話したほうがいいと思うしな。
「さっきも名乗ったけど、私はルナ。女神です」
そう名乗った時、美紅の顔に怯えが走ったのを俺は見逃さなかったが、どうやらルナも気付いたようだ。
「そうです。エコの皇帝が主導する召喚に力を貸し、あなたをこの世界に呼び込む手伝いをした女神です」
辛そうな顔したルナが言葉を続ける。
「私はアローラに住む子供達をなんとか助けたかった。勿論、今も思っていますが、あなたの人生を奪い、子供達がした事を申し訳なく思っております」
その子供達に無視され、利用されるだけ利用されたルナも俺から見れば被害者だ。子、親の心知らずとはよく言ったものである。母さん、元気にしてるだろうかと久しぶりに思い出した。
「それで、使えない私に見切りを付けて、次はトオル君をアローラに呼んだんですか?」
先程の怯えが嘘のように強い眼差しを向ける。美紅の瞳の紅さが増した。
思わず黙り込むルナ。おいおい、そこで黙ったら認めるようなもんだろ。
「そこは俺がどういう形でアローラにきたか、自分で説明するよ」
どうやって来たかという事をルナにした説明と同じ事を美紅に伝える。そして確認の為、美紅がアローラに来た時と同じか聞くと
「私の時と違う形できたみたい。私の時は足元に光で描かれたような術式が浮かびあがり連れて来られた。気付いたら帝国の地下祭壇でいたから違うみたい。」
疑った事が少しバツが悪く感じているようで俯きながら説明した。
「まあ、気にするな。美紅の立場からすると疑って当然だし、両方の事情をそれなりに知ってる俺から言わせて貰えると、どっちも被害者と言えなくもないんだ。まあ、美紅のは色んな人から被害受けすぎではあるがな」
苦笑しつつ、撫でやすい位置にあった美紅の頭を撫でる。
野良猫が突然撫でられて慌てて逃げるように俺から距離を取って、頭を押さえながらアワワっと言っている。小柄なせいか小動物を連想させる存在である。
「召喚の事は追々知っていくとして、魔神はどうしたんですか?ここに欠片がいたはずなんですが、魔神の存在を感じないないですけど、どういう事なんですか?」
慌ててるのか捲し立てるように質問してくる。
「ああ、魔神ならルナが倒した」
「ええ!!倒した!?」
「違うの、最後の一撃が私だっただけで徹がいなかったら間違いなく負けてたのは私の方なの」
まあ、俺では魔神にトドメを差す方法がなかったからやっぱりルナが倒したで合ってると思うが、アワアワ、オロオロしてる2人を見て余計な事を言うのは止めとく事にした。あの2人、意外と似てるとこがあるのかもと思うと笑みがこぼれるが同時にルナのように迷惑が俺にフリーパスなとこだけは切実に似てないといいなと真顔で思ってしまった。
「まあ、色々聞きたい事、言いたい事があるだろうが、とりあえずここから出て街でゆっくりしてからにしないか?正直、ベットが恋しいぐらい疲れた。さすがに1晩は野宿しないとダメだろうが、少しでも早く戻りたい」
今度は脅かさないようにゆっくりと頭に手を置いて、
「何をともあれ、これからよろしくな?美紅」
「はい、よろしくお願いします」
頬を染めつつ、嬉しそうに返事をした。
外に出てみると夕方が近い時間になっていたようだ。とても長い時間戦ってたイメージはしたが実際は3,4時間だったようだ。落ち着いて考えれば、魔力全開で戦っていたのだから、むしろそれだけの時間、魔力がよく持ったと言えるのかもしれない。
すぐ、そこで休みたいという気持ちもなくはなかったが、さっきまで魔神がいた傍で休むのも落ち着かないし、昨晩休んだ沢の場所まで降りる事にした。
沢に着いた俺達は腹が減ったとアピールするルナの腹の虫を鎮めるために食事の用意を始めた。メニューは昨日と同じウサギの肉の塩だけで味付けした焼き肉である。中途半端に多く残りそうなぐらいの肉があったが全部焼いてしまう事にした。そして、それがこの世の神秘に出会うキッカケになるとはその時は知らなかった。
「よし、第1陣ができたぞ、先に2人食べ始めてくれていいぞ」
すぐに飛びかかるように食べだす、ルナのいつも通りだ。それを横目に美紅が肉に手を伸ばし、小さい口でパクリと咥えるのを確認して、第2陣の肉を焼く為に火の状況を確認しつつ、肉を焙り始めた。
第2陣が焼き上がって後ろを振り返ると肉が全部無くなっていた。肉を追加して
「さすがに今日はよく動いたから腹がだいぶ減ってたみたいだな、ルナ。たらふく食えよ」
「えっと、そうじゃなくて・・・」
俺は分かってるという意味を込めて笑みを浮かべた。そして、残りの肉を焼き始めた。
それからまた時間が過ぎて、最後の肉が焼けたので持ってくると肉は既になく、ルナは美紅を驚愕の表情で見ていた。
「食べたらダメとは言わんが、普段以上に食べすぎると腹を壊すぞ?ルナ?」
「ち、違うの、徹、食べたのは・・・」
視線を俺から美紅に向ける。俺もそれに釣られて見ると美紅の足元で積まれている骨の数を思わず2度数えるぐらい山になっている。ルナの足元には2つある。確かに普段のルナからするとちょっと頑張った量だろう。
「まさか、ルナ、残りは全部、美紅が?」
ガックンガックンさせながら頷くルナ。
「美紅、腹は大丈夫か?」
「大丈夫です。今出た分ぐらいは普通に大丈夫です」
にっこり笑う美紅がいた。とりあえず最後の肉を美紅の前に差し出す。
嬉しそうに微笑んで小さい口でパクリと一定のペースで食べ続ける。無理して食べてるように見えない。
「徹、徹、多分なんだけど、彼女、帝国で軟禁されていたから、普通の人がどれくらい食べるかきっと知らないんじゃないかなって思うの」
俺の耳にそっと囁くように説明する。普通はともかく、あの量を食べて平気なのだろうか?
ルナと顔を突き合わせて話をしていて、美紅を見ると肉は全て平らげていた。
美紅はあの後、果物をデザートにして、リンゴ3つ食べて、食べすぎて太るからこれくらいで、と照れた顔して食事を終了した。
まだ余裕あるの?って言うのが俺とルナの意見である。あれだけのものがどこに消えたというのだろうか?これが勇者のチートか!ルナを見ると俺の思いが口に多少出てたようで、首を振って、そんなのないのって汗を流しつつ、俺に説明した。
明日早くに出発してクラウドに向かう事にして、俺達は魔よけの香を焚いて俺達は寝る事にした。美紅に欠けてそうな常識、特に食事に関しては街についたらなるべく早く教えたほうがいいかもしれない。帰り道のウサギはサーチアンドデストロイで決まりである。
ちなみに、俺の夕食は保存食を水でふやかして食べた。味はしなかったが腹だけは膨れた。決して俺は涙目になりながら寝たという事実はなかった。
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