224話 手と手を繋いで
左手を見つめて、カラスに縫い止められ、俺の魔力で地面に押さえられている魔神をつまらなさそうに見つめるが、本当につまらない存在だと思ってしまったのは自分自身であった。
俺は本当にミラさんの言う言葉をまったく理解してなかったのだと痛感していた。
「トールさん、難しく考え過ぎてませんか?魔法とは言葉と被るところがあるのです。幾千幾万の言葉を費やしても、心に響かなくとも、たった一言が胸を打つ事があるのです。そう、例えば『大好き』と言う言葉に込められた言葉とかですね」
という事に気持ちの強さだけに気を奪われていた。その強さも大事な事ではあったのだが、それでは間違いであったのだ。もうほとんど答え、そのものだったのに俺は気付けなかった。
「魔法は、込める思いは最大限、使う力は最小限。目に映る物に騙されないで、どんなに強力なものであれ、どれだけ巨大な物であれ、同じように対抗するのは馬鹿のする事、自分が何をしたいのかを常に考える。基本こそ最強だとしりなさい。分かりますか?トールさん」
うん、今なら分かるよ。もう遅すぎるかもしれないけどね。魔法とはプロセスを経て発動するといった事を考えながら使うモノだと思い込んでいた。例えば、火をつけるには酸素と可燃物、火種の三要素が必要になる。逆に言うなら1つでもかけると火が点く事は叶わない事になる。そう、それが常識なのだ。だが、それを無視して発動させるものがミラさんが言う魔法なのである。イメージして、どんな理不尽なものでも生み出すのが魔法。そこにはどんな不可能も可能にする力、それを信じる自分次第のものであった。
何々だから、こうなるっと考える思考が邪魔していた。燃やしたいなら、燃やす。水だろうが氷だろうが燃えないと思わない。燃えるという強いイメージとそれを邪魔する現実を打ち砕く力こそ魔法。
だからこそ、シンプルになればなるほどいい。基本が最強とミラさんが言った理由だった。
しかし、俺の場合、プロセスとかは考えてなかった。それはどうしてかというと・・・
「まさか、自分の未完治の中二病が障害になってたとは思わなかったな」
俺は自嘲しながら、馬鹿馬鹿しい理由を口にした。ようするに、『ぼくが、かんがえた、さいきょうまほう』 という発想が邪魔していたのだ。混合魔法がまさにそれであった。ミラさんも混合魔法はそれはそれで凄いとは言ってたが余り良い顔はしてなかったと思い出す。
「和也、俺は本当に馬鹿野郎だったよ」
「やっと気付いたか、馬鹿野郎。もう負けるなんて思ってないよな?」
俺の隣に立つ、光り輝く透明な和也が見つめてくるのを受け止めて頷く。
「じゃ、勝負を決めるぞ。ルナマリアの弓を出せ。俺が引いてやる」
俺は、おうっと返事すると左手にあるルナのアクセサリーに念じると弓が生まれ、左手に握り締める。飛び上がると和也は俺の背後から弦を掴むとニヤリと笑って言ってくる。
「これがルナマリアの正しい弓の使い方だ!」
弦を放つと、弓ごと、矢のように風斬る音も聞こえない速度で飛び出す。飛び出した弓は矢となり、魔神の腹部に突き刺さると刺さった場所の物体が消滅する。
魔神は絶叫を上げて、毒を撒き散らせて攻撃してくるが、慌てず、打ち消していく。
振り返るとミラさんの手を取った和也の2人が俺に手を振っていた。
「トールさん、頑張って」
そう言うミラさんを連れて後ろに向いた和也が、表情を見せずに言ってくる。
「決めろよ、徹」
そう言うと2人は解けるように消える。
アオツキを片手に魔神に向き直すと俺はもがき苦しむこの好機を逃すかっと特攻をかける。
魔神もアオツキが自分を滅ぼすモノと感じとったのか必死の抵抗で障壁を張って耐える。
俺も全力を持って突き破ろうと頑張るが片手のせいか、押され始める。
「くそったれぇぇ!押し切れねぇ!!」
「そんな、情けねぇ、徹は見たくねぇーな?俺はカッコええ~徹が見てぇーのによぉ?」
ボサボサの長髪に不敵な笑みを浮かべ、腕組みをして踏ん反り返って、俺を見つめる男がいた。
「轟っ!!」
「そうそう、轟さんさぁ。しょーがねぇからよぉ。ちっとだけ力を貸してやらぁ」
そう言うと加速をつけて飛び蹴りをアオツキの柄の後ろに右足を叩きつけてくる。
その衝撃で障壁が音を立てて割れる。
「カッケー徹になってこいやぁ」
悪ガキのような笑みを見せて、轟も空気に解けるように消える。
俺は雄叫びを上げて、魔神を貫く為に突進を再開する。
魔神も激しい抵抗とばかりに魔力による圧力を強めてくるが、ここまでお膳立てされて弾かれてたまるかっと叫んで、アオツキを胸に突き立てる。突き立てたまでは良かったが弾かれて飛ばされると誰かに抱き止められる。
振り向いてみるとそこには笑顔のスーベラが俺を優しく抱き締めて、頬に優しく唇を寄せるとスーベラも消える。
俺は魔神を見ると俺ではなく反対側に目を向けているのに気付き、視線の先を追いかけると軍隊がやってくるのに気付く。そして、あそこにテリアにティティにネリーにガンツなどの皆が居る事を時空魔法で理解してしまう。
魔神は軍隊に向かって魔力弾を放とうとしてるのに気付くが、時空魔法を使うにも、飛んでいくにも、間に合わないっと思いつつも飛んで向かうが、無情にも魔神の魔力弾が放たれ、絶望に項垂れようとした時、軍隊の前に大きな巨人といった姿をしたパンイチのミランダがポージングして現れる。魔神の魔力弾を受け止めて、打ち消すと俺にウィンク1つすると空気に解けるように消えた。
ミランダが作ってくれたその隙を逃さず、軍隊の魔神の間に自分を挟むと叫ぶ。
「次で勝負を決めてやる!全力できやがれぇ!!!」
懐を漁ると轟から渡されたオーブを握り締めると、魔神に向かって投げる。すると、魔神がもがき苦しむのを見て、俺は目を瞑り、強く、強く思いを昇華させていく。
もがき苦しんだのも僅かな時間であったが、その僅かな時間が勝敗を左右した。
そんな俺に今までで一番の魔力弾を討ち出してくるが、俺は慌てず、無視して集中を続ける。
そんなもの、まったく恐れる理由などありはしない。俺の直感が訴えていた。最高の援軍がやってくると。
俺までもう少しといった所で目の前に生まれた光に魔力弾を抑えつけられる。
黒髪の少女は盾で魔力弾を凌ぎながら、振り返って俺に笑みを見せる。
俺もまた笑みを返すと、後ろから俺の肩に手を置く女性の手が現れる。青髪のサラサラっと舞わせ、子供ぽい笑顔で俺を見つめて頷いてくる。
「ああ、いこう。俺達はいつでも一緒だ。力を貸してくれ」
2人の少女の手に左手を重ねると、2人が笑顔で頷くのを見た俺は、囁くように唱える。
『エアーブレット』
唱えると俺は光に包まれて、意識を失った。
少し離れた所から魔神への最後の攻撃を見つめていたテリアは語る。
まるで無数の星が落ちてくるようだったと・・・
誰かに呼び掛けられて意識が覚醒するが目を開けるのが億劫だった為、そのままの状態で返事をする。
「俺を呼ぶのは誰だ?」
「私です。ヨルズです。まずはお疲れ様でした。徹のおかげで魔神は消滅しました。あの子もやっと解放されて救われたと思います。本当にありがとう」
俺はそうかっと答えたが、もう後の事はどうでも良かった。ルナとの約束を守れただけで俺は満足だった。
まだ俺の傍から離れないヨルズに疑問を覚えたが、眠い為、寝かせてくれっと言って、遠回しに向こうに行ってくれっと伝える。
「寝る前に1つだけ答えてください。私達も神と呼ばれる者。ここまでの偉業を成した英雄に何もしないという訳にはいかないのです。貴方の望みを聞かせてください」
何もないよっと答えるがヨルズは嘘ですっと断言してくる。
「貴方はルナさんに願いを口にしたはずです。それを私達に願えば良いのです」
そう言ってくるヨルズに挑発的な笑みを浮かべて言う。
「悪いな、それは俺の女神に伝えた願いだ。他に頼むような不義理はできないさ」
そう言う俺の言葉に、そうですかっと寂しげに呟き、踵を返すようにして離れる気配がするが、再び声をかけてくる。
「では、私達が貴方の了承を得ずに勝手にする事にします。願いを叶えるではなく、私達がしたい事を・・・」
俺は、おいおいっと思ったが眠たくてどうでも良くなり、意識を闇へと沈めていった。
「おやすみなさい、徹。貴方の願いを叶える者を手伝う事で少しでもお返ししますね」
徹から離れて行きながら口にする。
「協力するのだから、少しぐらい脚色するのは許されますよね?」
お転婆娘がするような笑みを見せると姿を消した。
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