223話 覚醒する徹
お知らせです。最後まで書き切りました。この話を入れて3話で終了です。最終話は12/24の18時に更新しますのでよろしくお願いします。
後、明日はバイブルが仕事の為、更新時間は平日仕様になります。
転移して、魔神の下へと戻ってきた俺は、和也達に、遅くなったスマンっと言おうと振り返ると2人の様子を見て、絶句する。
「呑気に寝過ぎだ。馬鹿野郎」
無数のモンスターの死体に囲まれるようにして、どこまでが返り血か自分の血分からないぐらいに血まみれで両手剣を杖替わりにして立っていた。
その後ろでは苦痛に顔を歪ませながらもこちらに笑みを見せるミラさんが座りこんで・・・いや、足が噛み切られたようで両足が既に無くなっていたがそれでも魔神を拘束する為に魔法を行使し続けていた。
「お、俺の心が弱かったばかりに・・・2人が・・・」
「言うな!それにどうせ俺達は加護の力がないんだ。死に行く定めから逃れられない。少し早まったに過ぎない」
それでも言い募ろうとする俺に待ったをかけるようにミラさんが声をかけてくる。
「トールさん。私達の目的を忘れないでください。私達は生き永らえたい訳じゃない。何の為に500年という時をこの瞬間を迎える為に待ち続けたのかを。待ちに待った長い時間の先で出会った、貴方、トールさんと出会い、終わらせて貰う為なのです。これは必要な事だったと飲み込んでください」
聞き訳の悪い弟を叱る姉のような表情をしたかと思ったら、泣きそうな顔で笑みを浮かべて、そんな辛い選択をさせる私達を許してねっと一滴の涙を零す。
「もう俺達には時間がない。後はお前に任せきりになる。こうなってくるとワビ湖に隠してた物が無くなったのが痛いな・・・」
それを聞いて、今の今まで忘れていた事を思い出し、懐から慌てて取り出す。白っぽい光を放つ小さな球を・・・
和也はそれを凝視して、バツ悪そうに俺が轟から渡されたんだけどっと呟くとふらつきながら近づいてくると力が入ってない拳で殴られる。痛くないはずなのに途轍もなく痛く感じた。
「本気で馬鹿野郎だなっ!なんでもっと早く言わない!!」
「すまん、轟を倒した時に渡されたんだが、テンパって頭になかったんだ」
全力で詫びる俺を嘆息する和也にミラさんが言ってくる。
「トールさんもあの状況だったのですから、それについては私達にも責任があると認めてた事でしょう?」
そういうミラさんの言葉に舌打ちする和也だったが、俺を睨むようにして口を開く。
「2度説明する時間はない。よく聞けよ?その球は俺が魔神と戦って結界に封印する時に魔神から切り離した理性だ。あのまま結界に閉じ込められたら消えてしまうのは目に見えたし、苦しいだけだ。それを魔神に投げ込めば、一瞬だけ理性が戻るはず。とは言っても本当に一瞬で、少し動きを止めるぐらいの効果しないだろう。使いどころを間違うなよ?」
説明する和也は息切れが酷くなる。残る加護で自分を維持するのが難しくなってきてるのか、足元のミラさんの顔にも苦痛が広がる。
「次に打ち合わせではなかった話だ。目の前にいる魔神は俺が戦った時の魔神とは格が違う。おそらく、轟とトランウィザードが動いて、魔神に毒を送り、神格を上げたようだ。良く見ろ。お前が滅ぼしたはずの右手があるだろう?神格が上がった時に回復したようだ」
見上げると確かに右手が存在していた。
「そんな相手をお前1人に任せるのは心苦しいが、やって貰わないといけない。いけるか?」
そんな聞き方されて、できないって言う奴は男じゃない。俺は、力強く頷き、任せろっと伝える。
俺の返事を聞いた和也は頷くと言ってくる。
「俺達も魂が続く限り、魔神の動きは阻害してみせる。俺達の合図があるまで上空で待機して力を練り上げてろ」
今度は失敗するな、という和也の言葉に頷くと俺は上空へと飛んでいった。
上空に飛んでいく徹を見送った和也はミラに近寄り、後ろから包むように抱き締める。抱き締めてくる和也の腕に頬を寄せるようにして目を瞑るミラ。
「お前がこんな事を言われて困るのは分かっているが言わせてくれ。悪いな、最後まで付き合わせて」
「いいんですよ。それが私が望んだ結果なのですから」
和也は頬を寄せるミラの反対側の頬に自分の頬を当てるようにして語る。
「なぁ、ミラ。これから言う事はルナマリアにも秘密にしておいて欲しい事なんだが聞いてくれるか?」
「あら、嬉しい。どんな事ですか?」
勿論、内緒にしておきますっと微笑む。
「俺はな、ミラ、ミーステリラの事も好きだったんだ」
ミラはクスっと笑う。
「知ってましたよ。でも言葉にしてくれて有難うございます」
微笑むミラと苦笑する和也が光輝き出す。
和也は空を見つめて、遠い目をする。
「長い、長い時間だった。さあ、終わろう。俺達の友、フレイも先に逝って待っている」
はいっと呟くミラを強く抱き締める和也は全ての力を解放させる。迸る光が魔神を包む柱と化した。
それを離れた上空で見ていた俺はその光の柱が合図だと理解した。練っていた魔力を一気に解放する。俺はもう二度と間違わないっと意思を込めて。
「右手に火を!左手にも火を!合わせて、炎魔法『不死鳥』!!」
カラス、アオツキに炎を纏う。そして、自分自身も纏うが制御を失敗した訳でない。これが完成形である。着ていたデンガルグのおっちゃんに作って貰った肩のない鎧が燃えて地面に落ちていく。布以外、身に付けている物以外は燃えてしまうようで、今まで有難うっと落ちていく幾多の危機から守ってくれた鎧を見送る。
「いくぞっ!!!」
そう叫ぶと俺は魔神目掛けて突進する。前回のように悲鳴を上げられるが、もう腹が決まっている俺の動きを止める事は叶わず、斬りかかる。だが、魔神は光の柱に動きを阻害されるようで動きが鈍くガードも攻撃もまともにできず、俺は避け、魔神は斬られたい放題という形になるが、正直、たいして攻撃が通っているように思えなかった俺は、更に踏み込んでしまう。
「これならどうだぁ!!」
俺は魔神の右肩口から切り離す事に成功する。よっしゃーっと叫び、生まれた心の隙間を突くようにして、魔神の肩口から溢れる血のように出ていた毒と思われるものが形作る刃が俺に斬りかかる。
慌てた俺は左に回避行動に出るがかわし切れなかった俺は右を見ると魔神のように右肩より先が無くなって、地面へと俺の右手とカラスを落ちていくのを見つめて現実が帰ってくると絶叫する。
「くそぉぉぉ!!!油断したら駄目だと分かってたはずなのに・・・」
炎魔法を使って、肩口を焼いて血の流れを抑える。回復魔法を使うほど時間の余裕は作れないから仕方がなかったが、激痛に苛まされる。
左手にあるアオツキを握り締めながら脂汗を流し俺は叫ぶ。
「俺はまだ、戦える。絶対にお前に勝ってみせる!!」
「無茶を言わないでください。そんな有様では1人で勝てる訳ないでしょう!!」
その言葉を受けて、俺は下を見つめるとカラスの下に向かっている美紅の姿を見つける。
カラスの下に辿り着くとカラスを両手持ちで握ると魔神に向き合うのを見て、叫ぶ。
「止めろ!お前は戦えるような体じゃないはずだ!」
「トオル君の右手よりは戦えます。私がトオル君の右手になります。カラスさん、私は貴方の主じゃない。でも、今、この時だけ、私に力を貸してください!!」
ー承知っ!全力を持って力を貸そうー
カラスを逆さに持ち、魔神目掛けて飛び上がる。美紅はどうやらカラスで魔神を地面に突き刺そうとしているようだ。すると、魔神を拘束していた和也達の力が尽きたのか光の柱が消えるのに気付いて俺は叫ぶ。
「美紅、引けぇ!もう魔神を抑えるモノがないんだぁ!」
「尚更、引けませんっ!!」
更に勢いをつけて魔神に向かって下降していく美紅を追いかけるように飛ぶ。
解放された魔神が美紅に目掛けて膨大な魔力弾を放つとそれに包まれる美紅であったが、雄叫びを上げつつ、勢いを落とさずカラスを魔神の左肩付近に突き刺し、地面に縫い止めると放ち続けていた魔力弾に弾かれて、美紅に向かっていた俺のほうに飛んでくるのを抱き止めようとするが片手では上手くいかずに地面に2人して落下してしまう。
美紅は俺の血なのか美紅の血か分からなくなるぐらい血まみれになっていた。
「なんて、無茶を!」
「無茶しないと勝てない相手ですし、それをトオル君にだけは言われたくはありませんね」
激しい痛みに苛まされているはずなのに一切見せずに微笑む美紅。何故なら、左胸の心臓付近を貫通する攻撃を受けている。もう風前の灯火なのは誰の目でも明らかであった。
泣かないと決めていたのに、俺の目から涙が溢れる。
「魔神を倒すまで泣かないとルナに誓ったはずなのに!」
「大丈夫ですよ。私は何も見てませんから」
気を使わないといけない俺が気を使われている事に怒りを覚える。ルナもそうだったが、どうして、女の子はこういう時ほど強く、俺は弱いのだろうっと悔しくて堪らない。
「ねぇ、トオル君。正直に答えてください。ルナさんから告白されましたよね?」
一瞬答えに詰まるが、美紅の目を見ると自然に素直に頷いた。
「やっぱりそうですか。同盟規約違反をされたルナさんには罰を与えないといけませんね」
そう微笑む美紅の顔は血の気がどんどん失われ、生きてるのが不思議に見えるほど衰弱しているのが分かる。息絶え絶えといった有様であったが必死に言葉を繋いでくる。
「ルナさんだけズルイので、聞いてください。私は、私もトオル君が大好きでした」
俺は左手でなんとか美紅を抱き締めると絞り出すように呟く。
「すまん、こんな甲斐性がない男で・・・」
「そんな事言わないでください。誰がそう言ったとしても私にとっては最高の人でした。あの境内で会えた時から今までの事でトオル君と繋がりを持てた事が私の誇りなのですから」
微笑む美紅に微笑み返す事もできない俺のどこがっと歯を食い縛る。
そんな最中、魔神が俺達に魔力弾を打ち放ってくるのを俺は、美紅を降ろすと左手を振り払う。
「黙ってろ!今は美紅と話をしてるところだ!!」
魔力弾は弾かれ、俺の叫びに込められた魔力に魔神は地面に陥没させるように更に地面に縫い止められる。
「ふっふふ、やっぱりトオル君は凄いです。トオル君、後はお願いします。ルナさんが、あ、愛した、この・・・世界を守って・・・っ」
俺に伸ばそうとしていた手が地面に落ちるのを言葉もなく見つめる。
美紅に近寄って、クリナーをかけて血で汚れた体を綺麗して、髪を梳いてやる。
空気を読まない魔神は再び魔力弾、先程の倍はあろうかという攻撃をしてくるが、俺はくだらないものを見るような目で見つめると呟く。
「クリーナー」
そう呟いて左手を水平に斬るようにして振るだけで魔力弾そのものが消え去る。
俺は左手を見つめて口を開く。
「なるほど、これが魔法の真髄なのか。こんな簡単な事だったのか」
俺の言葉は虚しさに込められて、目の前にいる魔神以外に届く事はなかった。
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