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高校デビューに失敗して異世界デビュー  作者: バイブルさん
10章 手と手を繋いで ~キセキ~
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222話 徹が歩んだ道

 遂に完結までカウントが打てるとこまで来ました。バイブルの目算がまちがってなければ、この話を含めて4話で終わる予定です。ここまでお付き合い頂いた皆様、後、少しです。どうか最後までお付き合いをよろしくお願いします。

 休みの複数話とか12月始めの1週間の2話更新してなかったら、真面目に年越ししてましたね(;一_一)

「俺はここにいるぞっ!!!皆、聞こえているか?トールだ。もう少し、耐え、頑張ってくれ、皆の力に頼らせてくれ。俺が魔神をぶっ飛ばすその時まで。皆の想いは俺が預かる。絶対に成して見せる」


 徹のこのメッセージが瞬が言うようにアローラ全体に届く事になった。



 このメッセージを近くで受けた黒髪の少女は、迷いもなく、真っ直ぐに前を見据えている徹の姿がはっきり分かるような声音を聞いて、微笑みを洩らす。

 沙耶が放つ波長を追いかけてやってきたが、どうやら、転移したようで魔神のいる方向へ行ってしまったようだ。


「本当にあっちこっちへと引っかき回されます。最初に行こうとした勇者召喚の場所を目指したままにすれば良かったですね」


 途中で沙耶の波長を捉えられる事に気付いて方向転換したせいで、余計な廻り道をするハメになってしまった美紅は苦笑いを浮かべる。徹にはいつもこちらの予定を崩してくれる存在でいくら計画してもその通りにさせてくれない事が多い。しかも性質が悪い事に意図されてないところが怒れない厄介なところでもあった。だが、もう美紅ははっきりと断言する。


「そんな思い通りにならないトオル君が大好きになってしまったんです。いくらでも適応してみせます」


 馬の踵を返して、走り出す。必要ならいくらでも成長、いや、進化してみせると心に秘めた乙女が胸をときめかせながら愛するバカがいる下へと馬へとごめんねっと撫でながら全力で走らせた。



 クラウドの南門では、クマの様な体格で髭がドワーフのように生やした男が目の前にいるゴブリン達を一振りでなぎ払うと爆笑する。


「ガハハハッ、言いよるわい。大きい男になった坊主、いや、トールよ。出会った時の事を思い出すとこんな男になるとは想像もできんかったわい」


 その男の隣にいる門番のピーターは問いかける。


「そうですね。まさか通行税も払えず、生活もままならない状態でやってきて、ザウスさんの援助がなければ野垂れ死にしてたような奴だったのに・・・」


 ルナさんや美紅さんと一緒にいる事を妬んで、死ねばいいのにっと思ってた人があんな大舞台で皆の期待を背負う人物になるとはっとピーターは苦笑する。


 確かにっとザウスは思う。だが、初めて会った時、胡散臭さがあり、嘘を吐かれていると分かっているのに、どうしてもほっとけない存在に感じられて世捨て人のように山に籠った自分が手を普通に貸していた。当初は人寂しくなって助けたのだろうっと思っていたが、再び、現れた時、美紅を連れてきた事で違うっと感じた。徹はもしかしたら只者ではなく、こいつの可能性に当てられてザウスの背中を押したのかもしれないと感じた。

 現にミランダが一目見て気に入り、世話を買って出た事もそう感じる要因になっていた。その後もミランダはだいぶ徹に世話を焼いていた事は小耳に挟んでいた。

 そして、再び現れた時に言っていた選択をするという事は今のこれに繋がる選択をする事を迷っていたのかっとなんとなく思うと、知らないから言えたセリフだったなっと思い出し、苦笑する。


「おっさんに何が分かるって言うんだ!俺が今までしてきた選択とこれからする選択でルナや美紅、それ以外の俺の身近な人物を犠牲にする選択を迫られるかもしれないんだ、怖くて悪いのかよ!」


 と、徹が言ったセリフに分かると言ったが全然、重さが違うなっと思うっと少し恥ずかしくなってくる。

 だが、徹にとってその言葉は凄く励みになったと言う事はザウスは知らない。


「ほほう、トール君もそういう時期があったんだね。僕が会った頃は既に英雄としての資質が見え隠れし出している時期だったから、予想外とは思えないんだけどね」


 ピンクの作業着に帽子を逆に被ったクラウド1の奇人変人と謳われているコルシアンが後ろに気付けば現れていた。

 2人が驚く顔を見てもヘラっと笑うだけで、その事には一切触れずに話を続ける。


「トール君と最初の出会いの理由になった初代勇者の足跡の事で行った最終決戦地で、エンシェントドラゴンと一騎打ちをする後ろ姿を僕は見てるからね。ボロボロになりながらも、折れず、退かず、前進し続けたトール君の背中は英雄と呼ぶに相応しいものだったよ」


 気絶しても戦い続けて、全てが終わるまで立ち続けたのを僕は見たよっと言うコルシアンの言葉に2人は絶句する。


「それだけでも凄いけど、会う度に大きな存在になっていくのを見て、自分が見た英雄の背中は幻影ではなかったと思い、楽しかったな」


 本当に楽しそうに語るコルシアン。

 それを見ていたザウスは徹がいると思われる方向を見つめて声を洩らす。


「選択する恐怖と戦い、選び続けたんだな」


 そう言うとタイミングを合わせるかのように草むらからイノシシが飛び出してくるのを見て、ニヤリと笑い一撃で仕留める。


「ワシはお前と会えた事を誇りに思うぞっ!」


 ザウスは徹と出会い、再び剣を持ち、腕を磨き始めるキッカケを貰い、今、こうして人々を守れる騎士としての本懐を辞めた後で味わえる事を感謝する。


 男3人して北西を見つめ、笑みを漏らした。



 駐屯所の天幕で徹の言葉を聞いていた3カ国の首脳陣は、自分達の胸の内から湧き上がる気持ちと戦い続けていた。

 あの言葉に触発されて、討って出たいというのが本音が鎌首をもたげる誘惑と戦っていたのである。


「皆さん、その私達は・・・」


 やはりというべきか、最初に我慢ができずに声を上げ出したのはクリミア王女であった。

 その機先を削ぐように、ティテレーネ王女が机を拳で叩きつけ、身を乗り出す。


「その先の言葉を言ってどうなるというのですかっ!そんな事、言わずとも皆が求めている事だと分かりませんか?それでも口を閉ざしてる意味も分からない貴方ではないでしょう!!」


 激情を抑えきれなかったらしいティテレーネ王女の肩を隣にいるエルフ王が触れる事で我に返ったようで、謝罪をして椅子に座り直した。


 この場にいる者、全員、徹の下へと駆け付けたいという気持ちを抑えるのに必死であった。討って出る事で、後ろへの被害がどうなるかと思うと身動きが取れないと悩んでいたが、ガンツが笑い出す。


「正直のう、悩むだけ無駄な気がするんじゃが?トールは良くも悪くも周りの者に影響を及ぼしよる。だからのう、影響を受けるのはワシらだけじゃないと思うんじゃ」


 ニヤリと笑うガンツの言葉の真意が掴めないという顔をしている者ばかりだが、エルフ王だけはすぐに、なるほどっと納得したようで、本当に困ったとばかりに苦笑する。

 年長組だけが納得して、困惑の色を強めていると、外が騒がしい事に気付くと、押し込まれるように天幕に入ってくる兵士が報告してくる。


「失礼します。戦線に出ている兵士を除く、交代要員、非戦闘員のほぼ総員が天幕に詰め寄って、直訴にやってきております」


 ガンツは、やはりのぅっと髭を撫でながら笑う。同じように笑っているが明らかに諦めた笑いにしか見えないエルフ王もガンツの言葉に頷く。

 ユリネリー女王陛下は、この時点で2人が感づいている事に気付いたようで、アッと声を上げて口元を手で覆う。

 他の若い者は理解が追い付いてないようで、ティテレーネ王女が代表で兵士に問い返す。


「なんと直訴してきてるのですか?」

「トール様の下へ行かせてくださいと一点張りでございます。おそらく、あのメッセージを受けて、抑えられない衝動に突き動かされているのかと」


 ここには元々、意識が高い者、徹に揺り動かされた者達が多く集まっている。そんな者達があのメッセージを受けたのだ。動く事がギャンブルになると分かっていても賭けたくなるというのだろう。

 兵達の真意を聞いて、僅かの希望を込めて、年長組を見つめる。


 悩むエルフ王にガンツが視線を向けずに語る。


「ワシはな、ギャンブルは好かん。今まで一度もしてこなかったわい。だがの、今になって初めてギャンブルというもんをやってみたいと思っちょる。無責任だとは分かってるが、トールに賭けてみたいんじゃ」


 それでも苦悩するエルフ王を今度は見つめて口を開く。


「この決断は、トールに手を貸すか、貸さないかじゃない。トールと共にアローラを救うか、魔神に滅ぼされるかの決断じゃ、お主はどちらを選ぶんじゃ?」


 ガンツは大を救う為に小を切り捨てろっと言っていた。全てを護りたい気持ちはガンツとて持っている。だから、繋げる。


「だから、各地で奮闘する者達の事を信じてやろうではないか。ワシらはワシらで出来る事をやればええんじゃないかの?」


 ガンツの鍛冶でごつごつにした大きな手をエルフ王の肩に置く。そのガンツを射抜くように見つめたエルフ王は一度目を瞑ると立ち上がり、天幕を出ようと歩き出す。その後ろを当然のように付いていくガンツを見て、不安そうな他の者もついて出ていく。


 天幕の前で騒いでた者達は出てきたエルフ王を見るとピタリと騒ぐのを止めて、口を開くのを待っていた。


 辺りを一度見渡したエルフ王は、ゆっくりと話し出す。


「お前達の想いは聞いた。だが、分かっているのか?我らが潰れたら、背後の民達を護る壁が無くなることを?それを理解したうえで、ここにいるというのか?」


 睨むように見るエルフ王の視線にも物怖じせずに見つめ返す兵士ばかりで、迷いが感じられなかった。

 そんな空気の中、1人の少女が声を上げる。


「エルフ王っ、もう皆そんな事は覚悟の上なのよっ。何より、前線で戦っているからこそ分かるっ。トールが失敗したら、その時点で全てが終わるって。今、行かずして何時いけばいいのっ?」


 エルフ王は、テリア殿っと呟き、短く黙考すると意思をはっきりと決めた為政者の目をした男が高らかに叫ぶ。


「これより、総力戦に討って出る。戦の準備をしろ、狼煙をあげろっ!」


 少しでも戦える者も出る事を許可するっと叫ぶとその声に怒涛の兵士の叫び声が響き渡るが、すぐに収まり、各自、自分がすべきことをする為に散開して、動き出した。


 天幕に戻った首脳陣は一旦、腰を落ち着ける。

 盛大な溜息を零すエルフ王は項垂れながら言ってくる。


「これで失敗したら私はもっとも無能の王と言われるのでしょうな」

「何をいっとる?失敗したら世界が滅ぶから誰にも言われんわい。成功したら英断した王として褒め称えられるという美味しい役割じゃないかの?」


 いやらしく笑うガンツを見つめて、更に項垂れるエルフ王。

 その様子を見ていた一緒に入ってきたテリアが呆れながら言う。


「そういう発想するあたりがトールの友達って感じがヒシヒシするわねっ」


 そう言うテリアの言葉にその場で笑いが起きる。

 エルフ王も立ち直ったようで皆を見渡し、我らも動きましょうっと言って、自分から席を立つと天幕から出ていく。

 それに釣られるようにして皆も出ていくのを見送るように見ていたテリアは拳を胸に当てて目を瞑って語りかける。


「ルナ、私達も頑張ってるよっ。あっそうだ、美紅も頑張って起こしてみようっ!」


 そう言うと美紅の天幕へ向かう。


 着いて、天幕に入ると呆れて溜息が洩れる。


「行くなら一声かけるか、置手紙ぐらいしてよね・・・トールの悪いところに影響され始めてるよ?」


 誰もいない天幕で腕を組んでヤレヤレっと肩を竦めた。

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