221話 俺はここにいる
思ったより早く書けました。でも少し眠いっす・・・
誰かに呼ばれているような気がすると午睡を楽しむような転寝してるような感覚の状態で複数の者達が呼び掛けられているようで、寝ようとする意識を揺り動かそうとされる。
「起きなさい、徹。貴方はまだ成さなければならない事があるでしょう。貴方を愛して、貴方を信じて逝った女神を無駄死にさせるつもりですか?」
その言葉を聞いた瞬間、体に漲る激しい怒りが駆け巡る。そんな馬鹿な事は許されないと自分への向けた思いが暴走するようにして、一気に眠気が覚め、意識は覚醒する。目を開けるとどこか懐かしい真っ白な世界。アローラに来てから何度か真っ白な世界には行ったが、確信を持って言える。ここはルナがいた世界だと。
振り返ると俺の自転車が転がってるのを見て、自分の感覚は間違ってなかったと感じた。
不意に後ろに気配が生まれたように感じて振り返ると4人の女性が立っていた。
「やっと、起きたわね。徹」
4人の1人、着物を攻めた着こなしをするノルンが最初に口を開く。ホッとして漏れる苦笑いが隠せてないといった顔をして俺を見つめていた。
その隣のリルなど、さっきまでマジ泣きしていたようで涙の後が見え、目を赤くしながら嗚咽混じりに言ってくる。
「わ、私は心配してないけど、皆、心配してたわっ。・・・ご、ごめん、嘘。私も心配でどうしたらいいか分からなかったっ」
再び、泣き始めたらしいリルを歩み寄ってくるミドリが抱き締めて上げながら、俺に黙って微笑んだ。
そんななか、俺に一歩前寄って、ヨルズが話しかけてきた。
「目を覚ましてくれて何よりです。徹」
「ああ、色々心配かけたようだ。悪い。で、なんで俺はここにいるんだ?ヨルズ達が連れてきてくれたのか?」
そう言う俺の言葉をヨルズは首を横に振る。
「いいえ、この世界にこれるものは、ここの住人の神のみです。今、私達も姿は幻のように実態はありません。声を届ける事しかできません」
ヨルズにそう言われた、思わず納得して流しそうになったが、今の説明を聞いた事で疑問が生まれる。
「ちょっと待ってくれ。俺がアローラに初めてきた場所は、ここなんだが?」
その言葉にヨルズは少し拗ねたような表情を一瞬すると苦笑いに変化させる。
後ろでリルを抱き締めてあげているミドリが変わりとばかりに説明してくれる。
「徹の召喚場所は、アローラにいる女神の誰かの場所へっと指定したのですよ。勿論、来て欲しいと願う女神の場所へとね」
「それで誰の下に徹が来ると言って、私達4人が喧嘩なって、神同士と戦いに発展しかけたのよねぇ~」
まあ、それは尊い男神が1人袋叩きになることで回避されたんだけどっと呟き、ヨルズを見つめるノルン。
ヨルズはコホンっと咳払いをして、何もなかったような顔をして話を続けてくる。
「徹がその願いを無意識だったのは分かりますが、選んだのですよ。そう導かれるがままにね。ルナさんが願った助けて欲しいという思いに。まさに運命と言って良いでしょう」
今度は隠す気がないようで拗ねた表情のままのヨルズに怯んでしまう。ヨルズはその表情のまま続きの言葉を繋げる。
「それに、徹はどうやら、導かれた運命はルナさん1人ではなかったようです。分かりますか?美紅さんのことです。貴方の中にいる歴代勇者達には疑われているようですが、私達は何もしていません。アローラに来る者達が時代のずれの事には気付いてますね?本当にランダムなのです。それが召喚前日に出会い、アローラ、元の世界共に10年という同じ年数の経過を持って出会う可能性は神ですら想像を超える、いえ、考えもしない話だったのです」
俺の胸に暖かいモノが宿る。
男だからか運命的な出会いとか、あんまり考えてた事がなかった。言われてみれば、ルナに最初に出会った時、意外にもあっさり目の前の状況を受け入れていた自分がいたと思う。本来ならもっとパニックになってもいいし、ルナの言葉を疑っていて普通だったと思う。
美紅にしてもそうだった。出会いが印象的だったとはいえ、1日しか会った事がない少女の事を10年後も覚えていた事が証明するように思う。結界の中で美紅に再会した時も、それほど、びっくりしてなかった。すぐに同一人物と認めていたと思う。1日しか会ってない女の子、まして、10年の歳月がどう変化させたか分からない美紅に迷わず、手を差し出した。それが当然だと思ってやっていた。
俺はその運命を紡ぐ糸を繋ぐように手を差し出してきたのだろう。その細く糸のような道を経て、俺達は出会った。
拳を握って、それを見つめ笑みを浮かべる俺を見て、4人の女神は苦笑を浮かべる。
「俺は、2人に出会えた事を誇りに思う。それが運命かどうかは知らねぇけどさ。でも、そんな存在を1人逝かせてしまったがな」
「確かにね・・・でも、まだその想いは徹を護っているのよ?」
俺の言葉にそう言ってくるノルンに俺はどう言う事だと問い返す。
「さっき、ばば・・・ヨルズが言ったでしょ?この世界に来れるのは、ここの住人の神のみだと、連れてこれるのも、その神しかいないのよ?魔神に吹っ飛ばされて意識のない徹を放置したらモンスターの餌食だったでしょうね」
俺は護られていたのかっと魔神の攻撃でボロボロになっているシャツを握り締めて、泣きそうになるのを鼻の頭に来るツーンとした感覚を抑え込むようにして耐える。危うく、誓いを破るとこだったと笑い飛ばす。
「だったら、その期待に応えないとな。どうやって帰るんだ?」
ー主よ、我を使ってくれ。主の強き思いを刃にして、必ずやアローラへと繋ぐ道を作ってみせるー
「ありがたい。頼むぞ、カラス」
ーさぁ、思うのだ。アローラでの出来事を、出会いを。主が成すべき事をー
アローラに来てから出会った人々が脳裏に過る。アローラに降り立った山でザウスのおっさんに最初に会ってから色んな人と触れあってきた。エルフ国ではティティを始め、沢山の人に触れあい、ドワーフ国ではガンツとザバダックとの悲しい別れをこの目に焼き付けた。獣人国では美紅を救おうとしたら、獣人国も助ける事になり、ネリーと出会った。色んな場所を駆け巡った。その駆け巡る背中を護ってくれたミランダ。振り返ると少し拗ねたような表情でいつも俺を見つめるテリアがいて、俺の傍、俺の両隣には、微笑む2人がいた。その2人の想いと願いを俺は叶える。
俺は、俺は・・・!
「俺は、負の連鎖の因果を断ち切る者になるっ!!」
思いのままに、俺はカラスに手をかけると高い音をさせて鞘走りをさせ、カラスを抜き放ち、何もない空間を切り裂く。振り抜いた格好で目の前を凝視すると空間に裂け目が生まれ、外の景色が見える。
俺は振り返り、4人の女神に微笑みかける。
「いってくるわ」
「いってらっしゃい、貴方の輝きが闇を撃ち払う事を祈っています」
本当に祈るようにするヨルズ達が俺を見送ってくれる。
ありがとうっと俺は言うと振り返らず、裂け目を通って、アローラに向かった。
アローラに戻ってくると、光の塊が俺の胸に飛び込んでくるが、それは危ないものじゃないと分かっていたので素直に受け入れた。
「徹さん心配したよ。気付いたら弾きだされてしまったどうなるかと思ったけど合流できて本当に良かった」
受け入れるとすぐに顔を出す瞬。
「それは悪い事したな。早速だが、今の現状はどうなってるんだ?」
「僕はここから離れないようにしてたから分かってる事は少ないんだけど、沙耶さんが駐屯所に行ってたようだからそっちのほうは分かると思う」
「うむ、駐屯所では黒い狼の介入により、モンスターを押し返し始めた。そこに追い打ちのようにクラウドの冒険者達が現れた事で一気に押し返す事に成功したので、500名ほどの混合軍で進軍しているが、途中でモンスターの数が増えて、停滞してしまっている状況だな」
俺は助けに行く為に場所を聞くが沙耶さんは首を横に振って言ってくる。
「今、徹がすべきことはそれではないはずだ。何より、お前の力になりたくて来た者がお前に助けられたら、立つ瀬ないぞ?私なら腹を斬る!」
過激な事を言う沙耶さんではあるが一理はあると認めないといけなかった。
そんな俺の様子を見ていた瞬が言ってくる。
「助けに行くのが駄目でも激励ぐらいはいいはずだよ。思いを込めた声を拡散させる能力を持つ勇者がいるんだ。それを使えば、この辺りにいる者達に届くはずだよ」
俺は瞬の言葉に頷くとなんとなく空へと上がる。瞬がいいよっと言う言葉を聞いて、大きく息を吸い込み、腹に力を入れる。
「俺はここにいるぞっ!!!皆、聞こえているか?トールだ。もう少し、耐え、頑張ってくれ、皆の力に頼らせてくれ。俺が魔神をぶっ飛ばすその時まで。皆の想いは俺が預かる。絶対に成して見せる」
叫ぶ、俺を驚いた表情で見つめる瞬が言ってくる。
「凄いよ!徹さん。この辺りだけでなくアローラ全域に届いたよ」
どうやら、やらかしたようだが、気持ちを吐きだした事で覚悟が決まり、良い笑顔で見つめる。じゃ、もう失敗できねぇなっと笑い飛ばす。
俺は魔神が居る方向を見つめ、転移を発動させた。
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